• 更新日 : 2025年1月17日

未払い残業代とは?時効や請求の仕方、請求された際の対応を解説

未払い残業代とは、企業が従業員に支払うべき残業代を支払っていない状態を指します。

未払い残業代が発生すると、従業員からの請求、労働基準監督署の調査、訴訟などに発展する可能性があり、企業経営に大きな影響を与えます。

そこで本記事では、未払い残業代の定義、時効、請求方法、企業が請求された際の対応、未払い残業代が発生する原因と防止策などを解説するので、ぜひ最後までご覧ください。

本記事を読めば、未払い残業代のリスクや、適切な対応策を理解できるでしょう。

未払い残業代とは?

未払い残業代とは、企業が従業員に対して、法律で定められた時間外労働に対する割増賃金を適切に支払っていない状態を指します。

具体的には、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて労働させた場合に、割増賃金の支払いが必要です。

未払い残業代が発生すると、労働基準監督署からの指導や是正勧告を受けるだけでなく、従業員から未払い残業代の請求訴訟を起こされる可能性があります。

訴訟になった場合、未払い分の残業代に加えて、遅延損害金や付加金の支払いも命じられる場合があり、企業の経済的負担は大きくなります。

また、企業イメージの低下にも繋がり、人材採用にも悪影響を及ぼす可能性があるでしょう。

未払い残業代に時効はある?

未払い残業代には時効が存在します。

以前までは未払い残業代の請求権は2年間で時効を迎えていましたが、2020年4月1日施行の改正民法により、時効期間は5年に延長されました。

ただし、急な変更に伴う反発を防ぐため、当分の間は経過措置として3年間の時効が適用されます。

時効期間を過ぎると、従業員は未払い残業代を請求する権利を失います。

そのため、従業員が未払い残業代を請求する場合は、対象となる期間を正確に把握し、早めに行動しましょう。

企業側としても、従業員からの請求が時効期間内であれば支払い義務が生じるため、日々の勤怠管理を徹底し、未払いが発生しない仕組みを整える必要があります。

従業員が未払い残業代を請求するには?

従業員が未払い残業代を請求する方法には、以下のようなものがあります。

  • 会社との交渉
  • 労働組合を通じた請求
  • 労働基準監督署や弁護士への相談

どの方法を選ぶかは、個々の状況や会社の対応によって異なるため、各方法について詳しく解説します。

未払い残業代を請求する準備

未払い残業代を請求するにあたって、必要な準備があります。

準備不足のまま請求を進めてしまうと、請求が認められなかったり、交渉が難航したりする可能性があります。

まず、タイムカード、給与明細、業務日報、メールのやり取りといった証拠となる資料を集めましょう。

これらの資料は、残業時間や給与の支払い状況を客観的に証明する重要な証拠となります。

また、労働時間や残業代の計算方法を理解しておきましょう。

労働基準法に基づいて未払い残業代を正しく計算すれば、請求額の根拠を明確にできます。

これらの準備をしっかりと行えば、未払い残業代の請求をスムーズに進められます。

会社と交渉か書面で通知する

未払い残業代を請求する最初の段階として、まずは会社と交渉を行うか、書面で通知するという方法があります。

会社との交渉は、比較的穏便に問題を解決する方法です。

一方、書面での通知では、内容証明郵便を利用することで、会社に確実に通知したという事実を証明できます。

書面には、未払い残業代の金額や計算の根拠などを明確に記載する必要があります。

交渉と書面通知のどちらを選ぶかは、会社の対応や関係性などを考慮して判断しましょう。

いずれの方法を選ぶにしても、証拠となる資料をしっかりと準備しておくことが大切です。

労働組合を通じて請求する

労働組合に加入している場合は、労働組合を通じて未払い残業代を請求するという方法もあります。

労働組合は、労働者の権利を守るための組織であり、会社との交渉力を持っています。

労働組合を通じて請求すれば、個人で交渉するよりも有利に進められる可能性が高いです。

また、労働組合は、労働法に関する知識や交渉のノウハウを持っているため、適切なアドバイスを受けられます。

労働組合を通じて請求する場合は、事前に労働組合に相談し、手続き方法や必要な書類などを確認しておきましょう。

労働基準監督署や弁護士に相談

会社との交渉が決裂した場合や、労働組合に加入していない場合は、労働基準監督署や弁護士に相談しましょう。

労働基準監督署は、労働基準法違反を取り締まる行政機関であり、企業に対して指導や是正勧告を行えます。

弁護士は法律の専門家であり、法的なアドバイスや代理人としての交渉、訴訟手続きなどを行います。

ただし、労働基準監督署への相談は無料で行えますが、弁護士に依頼する場合は費用が発生する点には注意が必要です。

労働基準監督署または弁護士に相談するかは、個々の状況や未払い残業代の金額などを考慮して判断しましょう。

会社が未払い残業代を請求されたら?

会社が従業員から未払い残業代を請求された場合、適切な対応が求められます。

対応を誤ると、企業イメージの低下や訴訟リスクの増大に繋がる可能性があります。

未払い残業代を請求されたら、従業員の主張を確認し、自社の勤怠記録や給与明細と照らし合わせて事実関係を把握しましょう。

その後、法的な観点から反論の余地があるかを検討し、最終的に未払い残業代を支払うか、訴訟手続きに移行するかを判断します。

次項で、未払い残業代を請求された場合の具体的な対応について解説します。

従業員の主張を確認

未払い残業代を請求された場合、まずは従業員の主張を確認しましょう。

従業員がどのような根拠に基づいて残業代を請求しているのか、具体的な残業時間や未払いとなっている金額などを詳細に聞き取ります。

具体的には、従業員が持参した証拠資料(タイムカードのコピー、業務日報、メールなど)を確認し、主張内容と照らし合わせます。

口頭での説明だけでなく、書面でまとめて提出してもらうとよいでしょう。

従業員の主張をしっかりと把握すれば、その後の対応方法を適切に判断できます。

勤怠記録や給与明細で残業代を計算

従業員の主張を確認したら、次に自社の勤怠記録や給与明細に基づいて、実際に残業代を計算しましょう。

従業員の主張が事実かどうかを検証するためです。

具体的には、タイムカードや出退勤記録などの記録と給与明細を照らし合わせ、未払いとなっている残業時間と金額を算出します。

なお、残業代を算出する際は、法定労働時間や割増賃金の計算方法など、労働基準法に基づき正しい計算を行いましょう。

法定時間外労働や深夜労働などによる割増賃金については、下記の通りです。

種類詳細割増率
時間外手当・残業手当法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えたとき25%
時間外労働が限度時間(1ヶ月45時間、1年360時間)を超えたとき25%
時間外労働が1ヶ月60時間を超えたとき50%
休日手当法定休日(週1日)に勤務させたとき35%
深夜手当22時〜5時までの間に勤務させたとき25%

参考:厚生労働省|しっかりマスター 割増賃金編

もし勤怠記録が不十分な場合は、従業員の証言や他の客観的な証拠(メールの送受信記録など)を参考にしましょう。

反論の余地があるか検討

勤怠記録や給与明細に基づいて残業代を計算した後、法的な観点から反論の余地があるかどうかを検討しましょう。

従業員の請求が全て正当とは限りません。

具体的には、従業員の主張する残業時間が、喫煙による頻繁な離席等、業務外の時間が含まれていなかったのかなどを精査します。

また、該当の従業員が管理監督者であった場合や、固定残業代制を採用していた場合など、残業代の支払いが不要となるケースも考慮しましょう。

反論の余地があるのか判断が難しい場合は、弁護士などの専門家に相談し、法的なアドバイスを受けるのもおすすめです。

未払い残業代を支払うか判断

反論の余地を検討した後、最終的に未払い残業代を支払うかどうかを判断します。

従業員の請求が正当であると判断した場合は、速やかに未払い残業代を支払い、問題の早期解決を図りましょう。

従業員の請求に合理的な根拠がない場合や、金額が不当な場合は、未払い残業代を支払わない選択もあります。

しかし、支払わない選択をすると従業員に訴訟を起こされる可能性があります。訴訟になった場合、時間や費用がかかるだけでなく、企業イメージの低下にも繋がるでしょう。

そのため、弁護士と相談し、訴訟のリスクを十分に理解したうえで慎重に判断することが重要です。

未払い残業代のリスク

未払い残業代を放置すると、単に未払い分の残業代を支払うだけでなく、遅延損害金や付加金の支払いも命じられる可能性に注意が必要です。

具体的には、未払い残業代に対しては、年3%の割合で遅延損害金の支払いが必要です。さらに、退職後の遅延損害金は年14.6%と大幅に上乗せされます。

また、裁判所が企業の対応を悪質と判断した場合、未払い額と同額の付加金の支払いを命じられるケースもあります。

他にも、労働基準監督署からの指導や是正勧告、企業イメージの低下、従業員のモチベーション低下など、さまざまなリスクを考慮しなければなりません。

そのため、未払い残業代がある場合や発覚した場合は、速やかに支払いましょう。

未払い残業代を支払った場合の税金はいつ払う?

未払い残業代を支払った場合、その金額に対して所得税が課税されます。

未払い残業代を支払った場合の所得税は、通常の給与と同様に、支払った月の給与に合算して源泉徴収し、翌月10日までに納付する必要があります。

つまり、未払い残業代を支払ったタイミングで税金を納めるのではなく、その後の給与支払い時に他の給与とまとめて税金を徴収し納付するという流れです。

たとえば、10月に未払い残業代を支払った場合、その金額は10月の給与に合算され、所得税が計算されます。

そのため、未払い残業代を支払った際の所得税は、11月10日までに税務署に納付します。

この処理は、通常の給与計算と同様に行われるため、特別な手続きは必要ありません。

ただし、未払い残業代の金額が大きい場合は、源泉徴収する税額も大きくなるため資金繰りには注意が必要です。

未払い残業代が発生する原因

未払い残業代が発生する原因は、下記の通りです。

  • 会社側が残業時間を把握していない
  • 手書きで残業時間を申告する
  • 意図的に残業時間を記録しない
  • 許可を得ない残業をサービス残業として扱う

次項で、それぞれの原因について詳しく解説します。

会社側が残業時間を把握していない

未払い残業代が発生する原因の1つとして、会社側が従業員の残業時間を正確に把握していないという状況が挙げられます。

これは、勤怠管理体制が整っていない中小企業やベンチャー企業などでよく見られるケースです。

具体的には、タイムカードがない、手書きの出勤簿で管理している、管理職が部下の労働時間を把握していないなどの状況が考えられます。

このような状況では、実際に従業員がどれだけ残業しているのかが不明確になり、結果として未払い残業代が発生する可能性が高まります。

勤怠管理システムの導入や、管理職への教育を行うことで、この問題を改善できるでしょう。

手書きで残業時間を申告する

手書きで残業時間を申告する場合、未払い残業代が発生するリスクが高まります。

手書きの場合、記入ミスや改ざんのリスクがあり、客観的な証拠としては不十分です。

具体的には、従業員が実際よりも少ない時間を申告したり、後から時間を修正したりする可能性があります。

また、会社側が記録を紛失したり、集計ミスを起こしたりする可能性もあります。

このような状況を防ぐためには、記録が残る勤怠管理システムを導入するのがおすすめです。

タイムカードやICカード、PCのログイン・ログオフ時間などで管理すれば、正確な労働時間を記録でき、未払い残業代のリスクを減らせます。

意図的に残業時間を記録しない

会社側が意図的に残業時間を記録しない場合、未払い残業代が発生する可能性が高いです。

これは、違法行為であり、悪質なケースです。

具体的には、管理職が部下に対して残業時間を記録しないように指示したり、タイムカードの打刻をさせないなどの行為が考えられます。

このような行為は労働基準法違反となり、刑事罰の対象となる可能性もあります。

また、従業員からの訴訟リスクも高まり、企業イメージの低下にも繋がるため、法令遵守の意識を徹底して従業員の残業時間を正確に記録しましょう。

許可を得ない残業をサービス残業として扱う

許可を得ていない残業をサービス残業として扱う場合も、未払い残業代が発生する可能性があります。

会社が残業を許可していないからといって、残業代を支払わなくてもよいというわけではありません。

具体的には、業務量が多く時間内に終わらないため、従業員が自主的に残業している場合などが考えられます。

この場合でも、実質的に業務を行っている以上、会社は残業代を支払う義務があります。

このような状況を防ぐためには、業務量を調整し、必要に応じて残業を許可する体制を整える必要があるでしょう。

また、従業員に対して、許可を得ずに残業しないように周知徹底することも重要です。

未払い残業代の発生を防ぐために

未払い残業代の発生を防ぐための対策は、下記の通りです。

  • 残業をしない雰囲気づくり
  • 変形労働時間制度の導入
  • 勤怠管理システムで労働時間を管理する
  • 会計ソフトで給与計算を行う

次項で、それぞれの対策について詳しく解説します。

残業をしない雰囲気づくり

未払い残業代を防ぐためには、そもそも残業をしない雰囲気を作ることが重要です。

無駄な残業を減らし、業務効率を高めれば、生産性向上にも繋がります。

具体的には、定時退社を推奨する、会議時間を短縮する、業務の進捗管理を徹底するなどの取り組みがおすすめです。

また、管理職が率先して定時退社すれば、部下も帰りやすい雰囲気を作れます。

このような取り組みを通じて、残業が当たり前という意識を改め、効率的な働き方を推進していきましょう。

変形労働時間制度の導入

変形労働時間制度を導入することで、未払い残業代の発生を防ぎやすくなります。

変形労働時間制度とは、業務の繁閑に応じて労働時間を調整できる制度です。

具体的には、繁忙期に多く働き、閑散期に少なく働くなど、月単位や年単位で労働時間を調整できます。

変形労働時間制度により、法定労働時間を超過する日があっても、他の日で調整することで、結果的に法定労働時間内に収められます。

ただし、導入には労使協定の締結や就業規則の変更など、一定の手続きが必要です。

勤怠管理システムで労働時間を管理する

勤怠管理システムを導入すれば、手書きのタイムカードや出勤簿に比べて、従業員の労働時間を正確に管理でき、未払い残業代のリスクを軽減できます。

具体的には、タイムカード、ICカード、PCのログイン・ログオフ時間などで労働時間を記録するシステムが一般的です。

これらのシステムは、自動的に残業時間を計算する機能や、アラート機能などを備えている場合もあります。

そのため、管理者の負担を軽減し、正確な労働時間管理ができるようになるでしょう。

会計ソフトで給与計算を行う

会計ソフトを活用すれば、手計算に比べて計算ミスや入力ミスが減るので、給与計算が正確にでき、未払い残業代の発生を防げます。

具体的には、労働時間データと連携し、自動的に残業代を計算したり、各種手当や控除を考慮した計算を行ったりできます。

また、法改正にも対応しているため、常に最新の法令に基づいて給与計算を行うことが可能です。

そのため、法令違反のリスクを減らし、正確な給与計算が行えます。

未払い残業代を防ぎ、労働環境を改善するために

未払い残業代は、企業にとって法的リスクを高めるだけでなく、従業員のモチベーション低下や企業イメージの悪化にも繋がります。

そのため、企業全体で労働時間管理の適正化に取り組み、法令遵守の意識を徹底する必要があります。

具体的には、残業をしない雰囲気づくり、変形労働時間制度の導入、勤怠管理システムの活用、正確な給与計算を行うための会計ソフトの導入などがおすすめです。

これらの対策を実施すれば、未払い残業代のリスクを最小限に抑え、従業員が安心して働ける環境を整備できます。

健全な労働環境は、従業員の満足度を高め、企業の持続的な成長を支える基盤となります。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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