- 更新日 : 2024年12月13日
休職中に退職に追い込むことは違法?法的な観点から解説
休職中の従業員に対して、上司が退職勧奨することは退職の強要とみなされる場合があり、言動によっては、パワハラに該当し違法となります。
本記事では、休職中の従業員を退職に追い込む行為が違法と判断される場合など、法的な観点から解説します。休職者への退職勧奨の適切な流れや注意すべき点についても触れているので参考にしてください。
目次
休職中の従業員を退職に追い込む(退職勧奨)ことは違法?
休職中の従業員を退職に追い込む行為は、退職勧奨です。退職勧奨の対応が不適切であれば、退職強要などの違法行為とみなされる場合があります。休職中の従業員は、会社の上司より弱い立場となるため、退職強要と思われないような対応が必要です。
退職勧奨には一定の配慮が必要
上司が休職中の従業員に対して退職勧奨をすること自体に違法性はありません。ただし、会社でも立場的に有利な上司からの退職勧奨には、一定の配慮が必要です。
休職中の従業員を退職に追い込む行為は、「退職を強要された」と解釈さえると「退職強要」とみなされる可能性があります。このようなことが発生しないよう、退職の強要ではなく、休職中の従業員の立場になって対応しなければなりません。会社側の立場を背景にした上司からの退職の勧奨は、一方的ではなく合理的な理由を示し、従業員が納得できる対応であることが重要です。
場合によっては損害賠償問題に発展する可能性もあり
退職勧奨は、場合によって損害賠償問題にまで発展する可能性があります。休職中の従業員がうつ病などの精神疾患が原因という場合は、精神的に不安定な状態が考えられます。そのような精神状態で退職勧奨をした場合、受け止め方次第では病状の悪化につながるでしょう。
例えば、休職中の従業員の病状の悪化が原因で自殺をした場合は、会社の対応に対して損害賠償を求められるかもしれません。そのような理由からも退職勧奨には配慮が不可欠です。
休職中の従業員を解雇することは違法?
休職中の従業員を解雇することは、違法になる可能性があります。休職は、労務の提供が困難になった従業員が療養し、復職の可否や退職の判断を行うための猶予期間です。その猶予期間を無視した解雇は、復帰不可能と判断するには時期尚早であり、違法とみなされる可能性が高いでしょう。
休職期間中の解雇は労働契約法に触れる場合がある
休職期間中の従業員に解雇通告することは、労働契約法に抵触する可能性があります。解雇は、従業員の意思に関係なく一方的に雇用契約を終了する処理のことです。労働契約法第16条では、次のような状況で従業員を解雇した場合は解雇権の濫用として無効になるとしています。
- 客観的に判断して合理的な理由が欠けている解雇
- 社会通念上相当と認められない解雇
休職期間の様子を復職可能と判断した場合の対応
会社は、休職中の従業員に対して休職期間中の状況を踏まえて復職可能と判断した場合、次の対応が必要です。
- 主治医による復職診断書の提出
- 医師や部署管理責任者、家族などを含めた復帰支援プログラムの作成
- 産業医による復職面談で復帰可能か確認
- 職場復帰に対して関係部署に理解を促し準備すること
休職者が復帰可能と判断した場合は、医師や職場の関係者も含めて復職に向けたサポートや準備などの対応が求められます。
休職中の従業員に退職勧奨をする際の適切な流れ
休職中の従業員に退職勧奨をする場合は、退職の強要とみなされないよう適切な手順を踏む必要があります。退職勧奨を適切に進める場合は、会社側の「退職させたい理由」と休職者側の「言い分や状況」を提示することが重要です。
退職勧奨の具体的な理由を決定
退職勧奨は、会社全体の方針として「なぜ、その従業員を退職させたいのか」という理由を明確にする必要があります。退職勧奨の具体的な理由は、会社全体の意向です。会社の判断で理由を決める場合は、休職中の従業員を主観的ではなく客観的な視点で評価をしなくてはなりません。
- 問題となる部分
- 問題と判断した理由
- 退職しないことで考えられる影響
これらを明確にして休職中の従業員との面談を行いましょう。
対象の従業員と面談
退職勧奨による従業員との面談では、前項で示した退職勧奨の具体的な理由を正しくメモしておく必要があります。従業員に対して退職を求める場では、事実と異なる情報や誤解を与える発言は、会社側の責任を問われる原因となるので注意が必要です。
休職中の従業員は、退職後の身の振り方で悩んでいる可能性があります。そのような状態では、退職勧奨をする理由を正しく伝えられなければ、反論を受けるなどトラブルにもつながるでしょう。そのため、退職勧奨を決定した理由は、メモに記し正しく伝えることが重要です。
従業員の言い分や状況を聴取したうえで退職の要求
休職中の従業員と面談する際は、従業員の言い分や現在の状況を聴取したうえで退職の要求をします。面談する環境は、プライバシーが確保され、従業員が心理的圧迫を感じない場所を選定しましょう。職場で行う場合は従業員に配慮した場所で行いましょう。
面談の流れは、次の順序で進めましょう。
- 会社側で決定した退職要求理由を具体的に伝える
- 従業員の言い分や現在の状況(回復状況、心境、今後の意向など)を聴取する
- 退職を要求する
会社としての退職の意向を決定していても、従業員の言い分や状況について聞き取ることが必要です。そのうえで退職の検討を提案する流れになります。
従業員と退職時期の検討期間を確認
面談では、従業員と退職の時期を確認することを忘れずに行いましょう。会社側が一方的に退職時期を指摘した場合は、退職の強要と判断されればトラブルの原因にもなります。
休職中の従業員は、退職勧奨に即時同意するとは限りません。退職勧奨の要求を想定していなかった場合は、今後のことを考える時間が必要な場合もあります。
また、面談担当者は「この場で返事が欲しい」と回答を迫るような行為は避けましょう。面談担当者の言動から退職強要とみなされた場合、退職要求が無効となる可能性があります。そのため、退職を要求した従業員には、回答に対して検討期間を設けることが必要です。
退職条件の明示
退職を要求した際は、退職条件についても伝えておくことが重要です。退職条件には、金銭面や退職時の処遇が含まれます。例えば、退職時の金銭面では、退職日までの期間と有給休暇の残日数で調整することなどが考えられます。
さらに、退職時の扱いを会社都合とする場合には、その条件を満たす必要があることを事前に説明したうえで、理解を得ること必要です。
合意内容を書面で作成
休職中の従業員が退職勧奨に応じた場合は、合意内容を書面で作成することが重要です。退職勧奨は、1回の面談でスムーズに完結できるとは限りません。特に、口頭だけでやり取りしてしまうと後日トラブルに発展する可能性があります。
従業員にとって予期せぬ退職勧奨の場合は、その場の対応から一転二転する場合もあります。面談後に「言った言わない」でトラブルに発展しないためにも合意内容を書面で作成しましょう。
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休職中の従業員に退職勧奨をする際に注意すべきこと
休職中の従業員には、退職勧奨をする際にいくつか注意すべきことがあります。会社側で就業規則の中に退職関連の規定を定めても、退職勧奨ができない場合があるでしょう。特に傷病などで休職中の従業員は、立場的にも弱いため、不当解雇や権利濫用などと指摘される恐れがあります。ここでは注意点について詳しく触れていきましょう。
不当解雇トラブルに発展しないよう注意する
休職中の従業員への退職勧奨は、慎重に行わないと不当解雇トラブルに発展します。退職勧奨は、あくまでも相手に任意退職を求める行為です。要求したその場で退職まで追い込む目的の行為ではありません。
退職勧奨は、任意の判断となるため、回答期限を設定し、期限までに回答を求めることが重要です。この段階で無理に退職まで追い込むことだけは避けましょう。
退職勧奨目的の配置転換は権利濫用になる
場合によっては、突然退職を要求しても素直に応じてもらえません。そのような状況、退職勧奨目的の配置転換を使う場合もあります。例えば、仕事がきつい部署か遠隔地への転勤などです。
評判の良くない部署への配置転換を行う場合、退職勧奨を目的とした配置転換を疑われるので、権利濫用とみなされる可能性が高くなります。このようなトラブルが発生しないよう、退職勧奨として配置転換をすることは、避けましょう。
退職勧奨を多人数で繰り返し要求することは避ける
休職中の従業員に退職勧奨をする際は、なるべくマンツーマンか、人事担当者を合わせて2名で対応することが望ましいです。
もし、退職勧奨を多人数で繰り返し要求した場合は、従業員にとっても精神的なダメージにつながります。さらに、退職に応じるまで長時間拘束するような対応をした場合は、違法な退職勧奨とみなされるでしょう。可能であれば、退職勧奨は少人数で部外者に邪魔されない場所などを選び、円満に解決することが必要です。
休職・復職を繰り返す従業員への対応法
休職中の従業員の中には、休職や復職を繰り返す人もいます。うつ病などの精神疾患で休職した場合は、心の病気のため見た目は普通でも完全に治っていない場合があるでしょう。
そのような休職者を復帰させた場合は、再発のリスクが考えられます。再発した結果、再度休職する従業員への対応について解説しましょう。
休職や復職についての就業規則を見直す
休職や復職を繰り返す従業員は、特別な配慮と対応が必要となります。そのため、現状で該当する従業員がいない場合でも、休職と復職についての規定を就業規則に追記しましょう。
業務外の傷病による休職は、最長で1年6カ月の傷病手当金の給付が受けられます。精神疾患で休職している従業員が復職後に再発した場合、同一の傷病による再度の休職の場合、その初回の支給開始日から通算して1年6カ月を超えない範囲で傷病手当金を受給できます。
ただし、会社側としては労働者が労務提供義務に対して十分に行えない状況にも該当します。事前に就業規則で示しておけば、繰り返す休職と復職に対して、普通解雇の行使が認められる可能性があります。
復職の前に医師の復職診断を仰ぐ
傷病で休職する従業員は、復職の前に医師の復職を仰ぐことが必要です。企業の労務担当者は、休職者の復職面談において、すぐに復職の可否を判断が難しい場合には、医師に復職の適否を委ねる必要があります。
リハビリ出勤制度の設置
復職後に再度休職する可能性がある従業員には、リハビリ出勤制度が役立ちます。リハビリ出勤制度は、法的に設置する義務はありません。会社ごとに必要であれば導入する復職に活用する方法の一つです。
リハビリ出勤制度を導入する場合は、従業員との間で十分な取り決めが必要となります。以下の通り、詳細をまとめました。
リハビリ出勤を休職期間中に実施する場合 |
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リハビリ出勤を復職後に導入する場合 |
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リハビリ出勤の取り決めは、休職中の生活保障として受け取る傷病手当金によるものです。
出典元:全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」
休職期間満了で退職する際の手続きの注意点
休職中の従業員が休職期間満了で退職する場合は、次の手続きが必要になるでしょう。
社会保険給付について案内する
休職期間満了で退職する場合は、社会保険給付の案内が必要です。すでに休職中の生活保障制度として説明している傷病手当金は、支給開始から1年6カ月を経過していなければ退職後も支給を受けられます。その際、注意点は次のとおりです。
- 休職期間中に復職による出勤期間がある場合はその部分を除き通算で1年6カ月以内
- 傷病手当金で受け取れる額はおおむね給与の3分の2ほど
- 同一の疾病であること
また、社会保険給付ではケガや病状の程度によって障害年金が給付されます。障害年金は、休職の原因となったケガや病気が国で定める基準より重い場合に受けられる制度です。ケガや病気となり医療機関を利用したときの状況が会社在職中であれば、厚生年金から支給されます。
雇用保険の手続きはスムーズに行う
休職期間が満了して退職する場合は、先述の社会保険給付の一つになる失業給付が受給できます。失業給付とは、雇用保険加入者が申請できる最長で360日間受け取れる生活保障制度です。受給額は退職時の給与額の50%から80%程度(※60歳~64歳は45~80%)となっています。
休職期間を満了して退職した労働者は、次の雇用先との契約がなければ無職の状態です。そのため、失業給付は雇用保険から支給される生活保障として手続きをスムーズに行う必要があります。
復職が可能かどうかを判断する
休職期間が満了した従業員が退職を申し出ていた場合は、復職が可能かどうかも判断しましょう。復職が可能な場合とは、最初の休職であって休職前の職場状況に変化があるときなどです。職場の人員配置の変更は、心機一転となることもあります。復職を検討していない場合は、再度復職が可能かどうか判断しなくてはなりません。
退職理由が自己都合か会社都合かを明確にする
従業員の退職時には、自己都合退職か会社都合退職かを明確にすることが重要です。退職理由は、退職後の雇用保険制度を利用する際に影響します。
- 自己都合退職の場合:待期期間(7日間)終了後から3カ月間の給付制限がある(※)
- 会社都合退職の場合:待期期間(7日間)終了後から給付
(※)2020年10月1日より5年間のうち2回まで給付制限が2カ月間となる
このように、自己都合と会社都合では給付までの待期期間が異なるため、明確に伝えておく必要があります。
退職か解雇を適切に通知する
休職期間満了を迎えた従業員には、退職か解雇を適切に通知する必要があります。この退職か解雇という表現自体には、問題はありません。ただし、適切に処理を進めないと後のトラブルに発展する可能性もあるでしょう。
退職時の対応では、事後のトラブルを防ぐため、退職か解雇かを明記し事由も添えたうえで適切な通知が必要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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