• 更新日 : 2023年12月27日

産前・産後休業を取る時のポイント – いつから取れる?計算方法を解説

産前・産後休業を取る時のポイント - いつから取れる?計算方法を解説

出産は、人生における大変大きなイベントです。そのため、その準備のために休業制度が設けられています。当記事では、産前休業・産後休業について解説します。「いつから取れるのか」「期間はどの程度なのか」など、疑問をお持ちの方はぜひ参考にしてください。

産前・産後休業とは?

産前産後休業とは、出産の準備や産後の回復を目的とした公的な休業制度です。労働基準法に、その期間などが定められています。

産前休業について

産前休業制度では、6週間以内の出産を予定する女性が休業を請求した場合には、就業させてはならないとしています。そのため、女性から請求がない場合には、出産日まで就業させても問題ありません。

産後休業について

産後休業制度においては、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならないと定めています。産前休業制度と異なり、女性からの請求の有無を問わず、一律に就業が禁止されることに注意が必要です。

参考:労働基準法 第65条 | e-Gov法令検索

育児休業との違い

産前産後休業と似た制度として、育児休業が存在します。育児休業は、1歳に満たない子どもを養育する労働者が対象の制度で、性別を問いません。また、根拠となる法律も労働基準法ではなく、育児・介護休業法となります。男性版産休とも呼ばれる「出生時育児休業」も、育児・介護休業法を根拠とした育児休業の制度です。

産前・産後休業の対象となる条件

産前産後休業は、全ての女性労働者を対象とした制度です。そのため、正社員や契約社員、パート・アルバイトなどの雇用形態を問わず、対象となります。

育児休業では、労使協定の締結により、対象者の範囲に一定の制限を設けることも可能です。しかし、産前産後休業ではそのような措置は認められていません。産前産後休業の規定に違反した場合には、6か月以下の懲役または、30万円以下の罰金が科される恐れもあるため、注意しましょう。

産前・産後休業はいつから取れる?

産前休業は、出産予定日の6週間前から取得可能です。ただし、多胎妊娠の場合には14週間前から取得可能となります。

産後休業は、出産日翌日から8週間が休業期間ですが、こちらは多胎妊娠の場合であっても変わりません。また、産前休業は請求がなければ適用されない制度のため、会社へ申請することが必要です。しかし、産後休業の期間は請求や申請の有無を問うことなく、一律で就業が禁止されます。

産前・産後休業の場合、給料や給付金はどうなる?計算方法

会社は、産前産後休業期間中の給与を支払う必要はありません。そのため、期間中は原則として無給となりますが、会社の自由意思で給与を支払うことも可能です。

産前産後休業期間中は、原則として給与は支払われませんが、「出産手当金」と呼ばれる給付金を受けることができる場合もあります。

出産手当金は、健康保険の加入者が出産した場合に、出産日以前42日(多胎妊娠98日)から出産日後56日までの仕事を行わなかった期間について、給付金が支給される制度です。会社で仕事を行わない限り、家庭内で炊事や洗濯などの家事労働を行っていても支給されます。また、支給期間中に公休日があっても、仕事を行わないのであれば、支給されます。

出産手当金は、1日につき、「出産手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額」 の3分の2が支給されます。長くわかりづらいかも知れませんが、おおむね日給の3分の2程度の額が支給されると考えれば良いでしょう。1日分の支給額を式にすると、以下のようになります。

支給開始日以前12か月間の各標準報酬月額を平均した額÷30×2/3

 

また、出産手当金は報酬と調整されるため、給与を受け取れる場合には支給されません。ただし、給与の額が出産手当金よりも低い場合には、差額支給を受けることが可能です。

産前・産後に関連する制度

産後の回復や育児時間の確保などを図るため、産前産後の期間に関しては様々な制度が設けられています。いずれも重要な制度なため、しっかりと把握してください。

母性健康管理措置

男女雇用機会均等法では、「母性健康管理措置」が定められています。措置の種類と内容は以下の通りです。

  • 保健指導または健康診査を受けるための時間の確保

    女性労働者が、保健指導や健康診査を受診するための時間の確保を事業主に求めています。

  • 指導事項を守ることができるようにするための措置

    女性労働者が医師等から指導を受けた場合に、指導事項を遵守できるようにするための措置(勤務時間短縮など)の実施が必要です。

  • 妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止

    産前産後休業や、母性健康管理措置による措置を受けたことなどを理由とする不利益取扱い(解雇や降格など)を禁じています。

  • 紛争の解決

    母性健康管理措置が講じられずに、事業主と労働者間で紛争が起こった場合、調停などの紛争解決援助の申出を行うことが可能です。

参考:働く女性の母性健康管理措置、母性保護規定について|厚生労働省

育児時間

生後満1年に達しない子ども(実子だけでなく、養子も含む)を育てる女性労働者は、休憩時間を除き、1日に2回各々最低30分の育児時間を請求できます。男性には与える必要がなく、休憩時間と異なり労働時間の中途でなくても構いません。また、1日の労働時間が4時間以内であれば、1日に1回の育児時間の付与で足ります。育児時間中の給与の支払いについては、会社が自由に決定可能です。

各種労働時間の適用制限

労働基準法では、妊産婦(妊娠中および産後1年を経過しない女性)が請求した場合には、次のようにしなければならないと定めています。

①変形労働時間制適用の対象外とする

1か月単位の変形労働時間制や、1年単位の変形労働時間制、1週間単位の変形労働時間制を採用している場合であっても、1日や1週間の法定労働時間を超える労働をさせてはいけません。なお、フレックスタイム制は労働時間の調整が可能であり、妊産婦の柔軟な働き方に資する制度のため、制限対象とはなっていません。

②時間外・休日労働の禁止

請求があった場合には、災害や公務のために臨時の必要があったとしても、時間外労働や休日労働を行わせてはなりません。36協定の締結および届出がある場合であっても同様です。

③深夜業の禁止

請求があった場合には、業務上の必要があったとしても午後10時から翌午前5時までの深夜帯に労働させてはなりません。

上記の妊産婦を対象とした規定の他にも、妊娠中の女性が請求した場合は、軽易な業務へ転換させる必要があります。ただし、軽易な業務が存在しない場合であれば、新たに創設してまで転換を行う必要はありません。なお、管理監督者などの法41条該当者や、高度プロフェッショナル制度の対象者である場合には、①と②の規定が適用されません。これらの者は、③のみが適用対象となります。

解雇制限

労働基準法では、産前産後の休業期間中およびその後の30日間は、解雇してはならないと定めています。また、業務上の負傷による療養休業期間中にも解雇は制限されます。これは、産前産後期間同様に、解雇すれば労働者の生活が脅かされることが明白なため、労働者保護の観点から加えられた制限です。ただし、産前6週間以内の期間中であっても、休業を請求せず就業している場合には、解雇制限は適用されません。

産前・産後休業における注意点

産前産後休業には、いくつかの注意点があります。しっかりと理解し、トラブルの発生を予防しましょう。

出産予定日が伸びてしまった場合

休業の対象となる産前6週間は、出産予定日を基準として計算されます。しかし、実際に予定通り産まれる場合ばかりではありません。このような場合には、実際の出産日までが産前休業期間として扱われます。そのため、仮に5日伸びたとしても休業期間の最初の5日が欠勤となるようなことはありません。この扱いは、出産手当金においても変わることはなく、実際の出産日が予定より遅れた場合は、その期間分も手当金が支給されます。

一方、産後8週間の計算は、実際の出産日が基準です。そのため、出産予定日より実際の出産日が遅れた場合には、実際の出産日を基準として8週間を計算します。産後休業に関しては、予定日と実際の出産日のずれを問わず、必ず8週間になるわけです。

産後休業を早く切り上げ、復職したい場合

これまで何度も述べてきた通り、産後8週間は請求の有無を問わず一律で就業が禁止されます。ただし、これには例外があり、産後6週間を経過した女性による請求で、医師により支障がないと判断された業務であれば、就業は可能です。つまり、産後6週間が女性労働者の請求や、医師の判断を問わない絶対的就業禁止期間となります。

産前・産後休業の正しい理解を

少子高齢化の進展により、労働力人口の減少傾向が続く日本においては、出生率の上昇を図ることが官民問わず急務となっています。そのためには、女性が安心して出産できる環境を整備することが重要です。

全ての女性労働者を対象とする産前産後休業制度は、環境整備の中核に位置する制度といえます。当記事を参考に産前産後休業制度を正しく理解し、女性労働者が安心して働ける環境整備を進めてください。


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