- 更新日 : 2024年11月1日
労働時間とは?含まれる範囲や上限、計算方法を解説
会社で雇用される従業員には、原則として働くべき時間が定められています。その時間は勤務先や従業員ごとに異なりますが、正確に把握すべきであることに変わりはありません。
当記事では、労働時間について網羅的に解説します。正しく労働時間を理解し、従業員との間で発生するトラブルを未然に防止してください。
目次
労働時間とは
労働時間とは、使用者である会社や個人事業主が、雇用する従業員を指揮命令下に置く時間と定義されています。また、労働時間には、法定労働時間や所定労働時間、勤務時間などの種類があるため、区別したうえで理解しなければなりません。
法定労働時間
労働時間を無制限に認めると、働き過ぎによる健康障害等が起きる可能性もあります。そこで、労働基準法では、1日と1週における一定の時間数を法定の労働時間の上限として設定しています。この労働時間が「法定労働時間」です。
所定労働時間
「所定労働時間」とは、会社と従業員の間で取り決めた労働時間を指します。原則としてどの従業員であっても異ならない法定労働時間と違い、所定労働時間は従業員ごとに異なる場合があります。なお、所定労働時間は法定労働時間の範囲内であれば、自由に決定可能です。
勤務時間との違い
「勤務時間」とは、就業規則や労働契約において定められた業務を開始する時間から、終了するまでの時間を指します。たとえば、8時始業17時終業の会社の場合であれば、8時から17時までの9時間が勤務時間です。この勤務時間から休憩時間を差し引いた時間が労働時間となります。
労働時間に含まれるもの
会社に滞在する時間であっても、全てが労働時間として認められるわけではありません。また、休暇中であっても労働時間となる場合もあります。労働時間に含まれる時間を見ていきましょう。
会社の指示による研修時間
スキルアップなどのために研修へ参加する従業員も少なくありません。しかし、研修時間を労働時間に含めるためには、その研修への参加が会社の指示によるものであることが必要です。従業員の自発的な参加であれば、労働時間とはなりません。
始業前の朝礼
連絡や訓示などのために、始業前に朝礼の時間を設けている会社も存在します。朝礼時間は、参加が義務付けられている場合であれば、労働時間として扱われます。一方、参加が任意であれば、研修同様に労働時間とはなりません。
深夜労働の合間に設けられた仮眠
深夜労働を行う際には、合間に仮眠を取ることもあります。このような仮眠時間であって、労働から解放されているとはいえないものであれば、その時間は労働時間となります。たとえば、仮眠は認められているが、何か指示があれば即座に対応が求められるような場合です。このような場合には、労働から解放されているとはいえず、労働時間として扱わなければなりません。
有給休暇
有給休暇中の従業員は、労働をしているわけではないため、実労働時間(休憩時間を除き、実際に労働した時間)には含まれません。しかし、所定労働時間には含まれているため、賃金が発生します。有給休暇は所定労働時間には含まれますが、法定労働時間には含まれないため、時間外労働時間の計算においては注意が必要です。
業務上必要な健康診断
健康診断の中でも、放射線業務や高気圧業務等の特定の有害業務に従事する従業員を対象とした「特殊健康診断」など、業務上必要な健康診断に要する時間は、労働時間となります。一方で、定期健康診断などの一般健康診断は業務時間内に行う必要はないため、労働時間としては扱われません。
労働時間に含まれないもの
労働時間に含まれる時間を把握するだけでなく、含まれない時間も併せて理解することが必要です。労働時間に含まれない時間を、ひとつずつ見ていきましょう。
自主的な持ち帰り仕事
終業時刻までに業務が終わらず、自宅に仕事を持ち帰った場合には、それが黙示を含めた会社の指示であれば労働時間となります。しかし、あえて持ち帰って行う必要性はないにも関わらず、自発的に持ち帰った仕事であれば、労働時間とはなりません。そのような時間は、会社の指揮命令下に置かれているとは考えられないからです。
通勤時間
通勤時間は、要する時間の長短や手段を問わず、原則として労働時間とはなりません。通勤自体は、業務を行ううえで必須であるといえますが、会社の指揮命令下に置かれた時間とはいえないからです。ただし、通勤中であっても会社から指示を受け、随時対応しなければならないような場合には、労働時間となります。
自宅待機
感染症の蔓延などを理由として、従業員に自宅待機が必要となる場合もあります。このような自宅待機の時間は、自宅での自由な行動が保障されている限り、会社の指揮命令下にあるとはいい難い状態です。そのため、自宅待機は原則として労働時間とはなりません。
労働時間における休憩時間の最低ライン
労働時間は、勤務時間から休憩時間を差し引いた時間です。この休憩時間には、労働時間に応じて最低限付与すべき時間が定められています。
1日の労働時間が6時間以下の場合
1日の労働時間が、6時間以下の場合であれば、休憩時間を付与する必要はありません。パートタイムやアルバイトであれば、休憩の対象とならない場合も多いでしょう。また、6時間「以下」であるため、6時間丁度を含むことに注意が必要です。
1日の労働時間が6時間超8時間以下の場合
1日の労働時間が6時間を超えて、8時間以下である場合には、会社は従業員に対して、最低でも45分間の休憩時間を付与しなければなりません。また、休憩時間は労働時間の途中に与えることが必要です。始業時刻や終業時刻に接着するような形での付与では、休憩時間といえません。
1日の労働時間が8時間超の場合
1日の労働時間が8時間を超える場合には、会社は最低でも1時間の休憩時間を付与することが必要です。8時間を超える場合であれば、その時間が何時間であっても1時間の休憩時間を付与すれば足ります。また、8時間を「超える」場合であるため、8時間丁度であれば、45分の休憩時間の付与で済むことに注意が必要です。
労働時間の上限
労働時間には、法定労働時間をはじめ、様々な上限が設けられています。それぞれの上限について解説します。
法定労働時間は1日8時間・週40時間まで
労働基準法第32条では、1日につき8時間、1週につき40時間を法定労働時間として、定めています。後述する36協定を締結し届け出た場合などを除き、原則としてこの時間を超えて労働させることはできません。
農業従事者や管理監督者、機密の事務を取り扱う者など、労働基準法第41条の規定に該当する者(法41条該当者)は、法定労働時間を超えて労働することが可能です。また、高度の専門的知識等を必要とする成果型労働に従事する者(高度プロフェッショナル制度対象者)も同様に法定労働時間の規制は及びません。
36協定を結んだ場合、原則月45時間・年360時間まで
「36(サブロク)協定」と呼ばれる労使協定を締結し、所轄労働基準監督署長に届け出た場合には、法定労働時間を超えた労働が可能です。時間外労働(法定外残業)を行うためには、必ず、この36協定の締結と届出が必要となります。ただし、法定労働時間内の残業(法定内残業)の場合であれば、36協定の締結は不要です。
36協定を締結し、届け出た場合であっても、労働時間が無制限に延長できるわけではありません。1か月において45時間、1年において360時間が延長可能な時間となります。なお、満18歳に満たない年少者の場合には、36協定を締結したとしても法定労働時間を超える労働は、原則として認められません。
特別条項付きの36協定があれば、条件の元で年間720時間まで
突発的なクレーム対応や、納期のひっ迫、機器のトラブル対応などのために、原則である月45時間、年間360時間内の時間外労働では処理できない場合もあります。このような場合には、「特別条項付き36協定」を締結することで、以下の時間まで労働時間を延長可能です。なお、その場合であっても、延長可能なのは1年に6か月までとなります。
- 年間720時間以内(時間外労働のみの時間)
- 単月100時間未満(時間外および休日労働時間の合算)
- 2か月~6か月の複数月平均80時間以内(時間外および休日労働時間の合算)
上記の時間まで延長可能なのは、通常予見することが不可能な業務量の大幅な増加が見込まれる場合に限られます。単純な業務繁忙などでは認められないため、注意が必要です。
また、自動車運転業務等の特定業務の場合には、上記とは別の上限規制が課せられているため、対象事業に従事している場合には注意しましょう。たとえば、自動車運転の業務は、特別条項付き36協定締結時の年間上限が960時間となっています。
労働時間の計算例
時間外労働を行わず、法定労働時間の範囲内で働いた場合には、始業時刻と終業時刻から勤務時間を計算し、そこから休憩時間を差し引くことで労働時間が計算可能です。具体的な事例を見てみましょう。
所定労働時間:8時間
始業時刻:9時
終業時刻:18時
休憩時間:12時~13時(1時間)
始業時刻が9時で終業時刻が18時であるため、勤務時間は9時間となります。そこから休憩時間1時間を差し引いた8時間がこの事例における労働時間です。時間外労働がない場合であれば、1日における所定労働時間と実際の労働時間は同じです。
上記と同様の条件で、18時から19時まで1時間の時間外労働を行った場合、所定労働時間に時間外労働時間の1時間を加えた9時間が実際の労働時間となります。なお、時間外労働の時間は、実際の労働時間から法定労働時間を差し引くことで計算可能です。正確に把握し、25%以上(月60時間超の部分は50%以上)の割増賃金を支払わなければなりません。
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労働時間を計算する際の注意点
労働時間を正確に計算するためには、注意点を守る必要があります。注意点ごとに見ていきましょう。
原則として1分単位で計算する
労働時間は、1分単位で集計することが必要です。15分単位や30分単位で処理する「丸め」は原則として許されません。ただし、労働時間の端数を切り上げることは、従業員にとって有利となるため、認められています。たとえば、6時間30分の労働時間を7時間に切り上げることは認められますが、6時間に切り捨てることは認められないということです。
時間外労働や、休日労働、深夜労働の場合には例外的な処理が許されています。1か月におけるこれらの合計時間に、1時間未満の端数がある場合、30分未満の端数は切り捨て、それ以上の時間を1時間に切り上げることが可能です。あくまでも時間外労働時間等に限定された処理であり、通常の労働時間は、原則通り1分単位で把握し、計算することが求められます。
遅刻・早退・欠勤は労働時間から差引く
遅刻や早退、欠勤をした場合には、その分の時間を労働時間から差し引く必要があります。ただし、差し引くことが許されるのは、実際に遅刻等をした時間数だけです。たとえば、所定労働時間8時間で1時間の遅刻があった場合に、通常の終業時刻で業務を終了すれば、7時間が労働時間となります。この場合に2時間を引いて6時間としたり、3時間を引いて5時間としたりするような処理は認められません。
仮に実際の時間以上に差し引く処理をした場合には、実際の労働時間と計算された労働時間の間でずれが生じてしまうでしょう。そのような計算に基づいて賃金を計算してしまえば、本来支払うべき賃金が支払われていない状態となってしまいます。このような必要以上の控除は、労働基準法第24条が定める「賃金全額払いの原則」違反となり、同法第120条により、30万円以下の罰金が科せられる恐れもあります。
労働時間を正しく把握しよう
労働時間が正しく把握できていなければ、正確な賃金計算も望めません。賃金は、従業員の生活に直結する重要な労働条件であり、賃金トラブルは労使関係を大きく悪化させます。正しく賃金を支払わない会社では、働く従業員のモチベーションも上がりようがありません。最悪の場合には、離職にもつながってしまうでしょう。そのような事態を避けるためにも、当記事の解説を参考に労働時間を正しく理解し、正確な把握に努めてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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