• 作成日 : 2022年1月14日

懲戒解雇されたら給料はもらえない?

懲戒解雇されたら給料はもらえない?

懲戒解雇は、従業員が企業秩序を乱す行為を行ったことへの制裁であるため、原因は従業員本人にあります。とは言え、通告後、自宅待機中の給料や解雇予告手当はもらえないのでしょうか。また、即日解雇される場合はあるのでしょうか。そのほかにも、会社から損害賠償請求された場合に給料との相殺はできるのか。そもそも、不当解雇ではないのかなど、もしも懲戒解雇された場合に知っておくべきことは多くあります。今回は、懲戒処分に関する疑問にお答えしていきます。

懲戒解雇されたら給料はもらえない?

懲戒解雇と給料の関係については、切り分けて考える必要があります。なぜなら給料(賃金)は、労働契約に基づき、労働の対価として使用者が支払い義務を負っているからです。

ところで、懲戒処分は、使用者から従業員に対する意思表示によって、一方的に労働契約を解除するという法律行為であるため、その意思表示が従業員に到達した時点で効力は発生します。

労働基準法第20条により、懲戒解雇の場合も原則として30日前に解雇予告が必要で、その場合は予告した日に懲戒解雇の効力が生じることになります。

例えば、次のようなケースを想定します。

  • 給料支払日:25日
  • 締切日:当月20日
  • 5月1日に解雇予告を通告

この場合、解雇の効力が発生するのは5月31日です(解雇予告日は予告日数に参入しません)。

したがって、5月31日までは従業員としての身分があることから、出勤することや、年次有給休暇を取得することもでき、給料は発生します。5月分(4月21日~5月20日)だけでなく、6月分(5月21日~5月31日)も使用者は支払い義務があります。

しかしながら、懲戒解雇は懲戒処分のなかでも最も重く、使用者との信頼関係はすでになくなっていると考えられます。業務上の横領など、懲戒処分の原因となった従業員の行為に実際に問題があり、使用者側に損害が生じている場合、懲戒処分にした従業員に給料を払わないのは当然とする使用者もいます。

従業員本人も自責の念から反論できないケースもありますが、これが違法であることは言うまでもありません。

参考:労働基準法|e-Gov法令検索

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場合によっては解雇予告手当が支払われる

解雇予告について、使用者は事前の予告期間に代えて、30日分以上の平均賃金の支払いとすることもできます。これを「解雇予告手当」と言います。計算基礎となる平均賃金は、解雇予告通告の直近3カ月間に従業員に支払われた賃金総額を、その間の総日数で除した1日当たりの単価です。

即時解雇の場合であれば、次のような計算になります。

解雇予告手当=平均賃金×30日分

また、予告期間が30日に満たない場合は、不足する日数に対応する解雇予告手当の支払い義務があります。

例えば、次のようなケースを想定しましょう。

  • 5月20日に解雇予告を通告
  • 5月31日付けで解雇

予告期間が11日しかないため、不足する19日分以上の解雇予告手当の支払いが必要になります。

解雇予告手当=平均賃金×19日分以上(不足予告日数19日)

なお、即時解雇は懲戒解雇する場合に、従業員に重大な帰責性があるときでなければ認められません。認定には、「従業員の責に帰すべき事由」を理由とする即時解雇について、労働基準監督署に解雇予告制度の除外認定を申請することが求められます。

認定を受ければ、解雇予告手当を支払わずに即時解雇ができます。

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懲戒解雇で給料が支払われない場合の対処法

懲戒解雇の場合、使用者が給料を支払ってくれない場合もあります。これが違法であることはすでに述べた通りです。懲戒解雇は簡単にできるものではありません。使用者側の一方的な労働契約の解除ですから、複数の要件を満たしていなければ不当解雇となります。

では、不当解雇で給料が支払われない場合、どう対処すればよいのでしょうか。

「不当解雇」の可能性を確認

「不当解雇」とは、労働契約法第16条に定める「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」解雇のことを意味し、解雇権の濫用として無効とされます。この規定は、かつて「解雇権濫用法理」とされていたものが、明文化されたものです。

しかし、条文が抽象的な表現にとどまっているため、実際には個別の事例ごとに判断しなければなりません。

懲戒処分による即日解雇等が解雇権の濫用ではなく、正当な解雇と認められるには、判例では、法16条の「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であること」に加え、次のような要件をすべて満たす必要があるとしています。

  1. 就業規則等に懲戒解雇ができることと、懲戒解雇事由が記載されていること
  2. 従業員が就業規則等に定めた懲戒事由に該当することを行ったこと
  3. 懲戒解雇処分の手続きに相当性があり履行されていること

こうした要件を満たさず、不当解雇とされたものとしては、社内での偶発的な暴行に当たる行為を理由とする懲戒解雇を無効とした事例があります(K社事件、東京地裁平成29年5月19日判決)。

ところで、先に懲戒解雇と給料の関係については、切り分けて考える必要があると述べました。懲戒解雇は、要件が厳格なため、使用者側が簡単にできるものではありません。また、仮に正当な解雇であるとしても、解雇の効力が発生するまでに生じた給与を支払わないことは、労働基準法違反になります。

労働基準法の順守を監督する労働基準監督署に申告(通報)すれば、会社への指導や是正勧告で対応してくれるでしょう。

しかし、不当解雇に該当するかの判断は、権限外であり、個別労働紛争として紛争調整委員会(都道府県)や、労働紛争解決センター(社会保険労務士会)を介しての話し合いによる解決を図るのがよいかと思われます。

話し合いの余地がない、あるいは裁判を視野に入れているのであれば、日本司法支援センター(法テラス)や弁護士に相談することをおすすめします。

参考:労働基準法|e-Gov法令検索

損害賠償が給与によって相殺されていないかを確認

業務上の横領等による懲戒解雇の場合、使用者から損害賠償請求を受けることがあります。使用者によっては、未払いとなっている給与と相殺するケースもあるようですが、これは労働基準法違反です。

労働基準法では、賃金の全額払いの原則が定められています(労働基準法24条1項本文)。使用者は、賃金は全額を支払わなければならず、賃金からの控除は原則として許されません。

ただし、使用者の有する損害賠償請求権と、従業員の賃金請求権を相殺することについて、従業員が自由な意思に基づいて同意した場合は、全額払い原則に反するものではないというのが判例の考え方です。

参考:労働基準法|e-Gov法令検索

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懲戒解雇において注意しておくこと

懲戒解雇された場合、個別労働紛争として話し合いで解決する方法のほか、裁判による方法があることを述べました。不当解雇として従業員が裁判を起こした場合、勝訴すればどのようになるのでしょうか。そのほか、知っておくべき注意点について解説します。

損害賠償が発生するケースがある

懲戒解雇が前述の要件を満たしていない場合、その解雇は無効となります。仮に話し合いがこじれ、従業員が訴訟を起こした場合、長期化することが考えられます。

結果的に半年後に従業員が勝訴し、不当解雇とする判決が出たとすると、その間、社員としての地位がありながら給与が未払いになっていたことになります。この場合、使用者は、従業員がアルバイト等で得ていた中間収入を控除した金額の給与を支払わなければなりません。

さらに、従業員に精神的損害が発生し、民法の不法行為の要件を満たしていれば、損害賠償請求(慰謝料)を請求することが可能です。不当解雇による慰謝料の相場は、一般的な事案で20万円から50万円程度です。必ずしも高額ではないのは、未払い賃金の支払いによって従業員側の精神的苦痛は慰謝されているというのが理由です。

懲戒解雇通達後の自宅待機等における給料

懲戒解雇の通告が出され、即時解雇ではない場合、仕事の引き継ぎのため、使用者が解雇の効力が発生するまで勤務を求めることがあります。こうした場合には、使用者が給与を支払わないということはないでしょう。

しかし、解雇通告後に自宅待機を命じるケースもあります。この場合、従業員は仕事をしていないわけですが、給与はどうなるのでしょうか。

法的には、自宅待機を命じたということは原則として一種の職務命令とされ、従業員が自宅待機すれば、指揮命令にしたがって自宅待機という労務を提供したことになります。したがって、使用者は自宅待機中の給与の支払い義務があります。

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懲戒解雇されたときの給料について正しく理解しておこう!

懲戒解雇された場合の給与の扱いに関し、解雇予告手当の支給の有無、不当解雇の要件、会社から損害賠償請求された場合に給料との相殺はできるのかなど、派生するさまざまな問題について解説してきました。

懲戒解雇は、懲戒処分で最も重い処分であり、経済的な生活基盤を奪うものです。従業員の立場としては、不当解雇の場合も含めて、法的な知識を持っておくことが大切です。

よくある質問

懲戒解雇された場合、給料は支払われますか?

使用者には支払い義務があります。詳しくはこちらをご覧ください。

懲戒解雇通達後に、自宅待機などの期間があった場合、その期間の給料はどうなりますか?

使用者には支払い義務があります。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

執筆:坪 義生(社会保険労務士)

じんじ労務経営研究所代表(社会保険労務士登録)、労働保険事務組合 鎌ヶ谷経営労務管理協会会長、清和大学法学部非常勤講師、「月刊人事マネジメント」(㈱ビジネスパブリッシング)取材記者。社会保険診療報酬支払基金、衆議院議員秘書、㈱矢野経済研究所、等を経て、91年、じんじ労務経営研究所を開設。同年より、企業のトップ・人事担当者を中心に人事制度を取材・執筆するほか、中小企業の労働社会保険業務、自治体管理職研修の講師など広範に活動。著書に『社会保険・労働保険の実務 疑問解決マニュアル』(三修社)、『管理者のための労務管理のしくみと実務マニュアル』(三修社)、『リーダー部課長のための最新ビジネス法律常識ハンドブック』(日本実業出版社、共著)などがある。

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