- 更新日 : 2026年7月3日
人事戦略の立て方を5ステップ!立案の目的や成功ポイントも紹介
経営戦略を起点に、採用・育成・定着の施策を一貫して設計することが出発点になります。
- 経営戦略から逆算して必要な人材像を定義する
- 理想と現状のギャップをKPIで数値化して測る
- 策定後も効果を検証し施策を継続的に見直す
PEST分析やSWOT分析などのフレームワークを使うと、現状分析の精度を高められます。
人事戦略は、経営戦略を実現するために、採用・育成・定着などの人事施策を一貫して設計する考え方です。
しかし、経営方針と人事施策が連動していなければ、採用のミスマッチや人材不足、離職率の上昇、人件費の増加などにつながるおそれがあります。
本記事では、企業の経営者や人事・労務担当者に向けて、人事戦略の立て方を5ステップで解説します。さらに、人事戦略に使えるフレームワークや成功させるポイントも紹介します。
人事戦略とは?
人事戦略とは、経営戦略を実現するため、人事施策を計画的に進める方針です。採用から定着までを個別に扱わず、事業目標から逆算して設計する必要があります。
人事部門の役割は、給与計算や勤怠管理だけではありません。必要な人材像を定め、採用後に活躍できる環境を整え、活用や定着を狙うことも目的のうちです。
人材戦略・戦略人事との違い
「人事戦略」「人材戦略」「戦略人事」は似た言葉ですが、対象と役割が異なります。主な違いは、以下のとおりです。
| 用語 | 意味 | 人事戦略との違い |
|---|---|---|
| 人事戦略 | 採用・育成・配置・評価・報酬・労務管理など、人事領域全体を経営目標に合わせて設計する方針 | 人材だけでなく、人事制度や労務管理も含めて扱う |
| 人材戦略 | 事業に必要な人材を採用・育成・配置・定着させるための方針 | 人事戦略の中でも、人材の確保や活用に重点を置く |
| 戦略人事 | 人事部門が経営戦略の実現に主体的に関与し、人事施策を推進する考え方 | 戦略そのものではなく、人事部門の役割や立ち位置を示す |
人事戦略は、採用や育成、人員配置など、人事領域全体の方針を指します。一方、人材戦略は必要な人材の確保や活用に重点を置いた方針です。そして戦略人事とは、人事部門が経営戦略に深く関与し、事業成果に直結する施策を推進する考え方を表します。
人事戦略が必要とされる背景
人事戦略が求められる背景には、人材確保の難化と、働き方の多様化があります。DXの進展により必要なスキルも変わり、従来の採用や研修だけでは対応できません。
人員を増やしても、育成や定着の仕組みがなければ、早期離職を招くでしょう。反対に、人員不足の放置は、長時間労働や休職のリスクを高めます。
経営目標の達成には、「採用する→育てる→活かす→定着させる」という流れが必要です。環境変化に合わせて組織を見直すためにも、人事施策を経営課題と結びつけて検討しましょう。
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人事戦略を立てる目的
人事戦略の目的は、人材に関する施策を、経営目標の達成へと結びつけることです。採用や研修を個別に行うだけでは、施策と成果の関係が不明確になりかねません。しかし、経営戦略を起点に人事施策を実行することで、投資すべき領域と優先順位が明確になります。
経営戦略の実現
人事戦略の主な目的は、経営戦略を人材面からサポートすることです。必要な人材像や制度は、経営戦略の方向性によって変わるため、都度採用・育成の方針を変える必要があります。
たとえば、新規事業を拡大する企業には、企画力やデジタルスキルをもつ人材が必要です。一方、既存事業の利益率を高める企業では、業務改善を主導できる管理職や現場リーダーが求められます。
現在の事業において必要な成果を出すために、どのような人材が必要か、定義するのが人事戦略の第一歩です。
採用・育成・定着の強化
人事戦略を立てると、採用から定着までを一貫して整備できます。採用で求める人物像やスキルを明確化し、育成で入社後に伸ばす能力や研修内容を設計することが、活躍する人材の定着につながるでしょう。
従業員の定着を促すには、評価制度の改善も必要です。たとえば、新規開拓を担う営業職を採用しても、評価制度が既存顧客対応だけを重視していれば成果は出ません。採用時の期待と入社後の評価がずれると、従業員の不満や離職につながります。
人件費・労務リスクの最適化
人事戦略は、人件費と労務リスクの管理にも役立つ方針です。人員計画がないまま採用を続けると、人件費は膨らむでしょう。一方で、人員不足を放置すれば、残業や休職が増えかねません。
組織の成長と労務管理を両立するには、以下の項目を見直す必要があります。
- 必要人員
- 配置
- 報酬
- 労働時間
- 評価制度
人事戦略の立て方5ステップ
人事戦略は、経営戦略から改善活動までの、全5ステップで実行しましょう。
1.経営戦略を確認する
人事戦略は、経営戦略に沿って策定します。売上拡大や新規事業の立ち上げなど、経営の方向性によって必要な人材が変わるためです。以下の項目を言語化し、経営戦略と人事戦略の方向性を合わせましょう。
- 中期経営計画
- 事業ごとの売上目標と利益目標
- 今後伸ばす事業領域
- 縮小または見直しを行う業務
- 必要となる組織体制
経営戦略を確認したら、経営層や事業責任者と認識をそろえ、必要な人材や組織課題を共有するのが重要です。
2.必要な人材像を定義する
次に、経営戦略の実現に必要な人材像を定義します。この際、「営業職」のように職種名だけで募集内容を決めると、採用や育成の基準があいまいになりかねません。採用したい人材像は、次の要素から、可能な限り詳細に落とし込みましょう。
- 必要なスキル
- 経験
- 担う役割
- 期待する成果
- 自社の価値観との相性
たとえば、新規開拓を強化するなら、既存顧客対応が得意な人材だけでは足りません。仮説を立てながら、実験的に市場を開拓できる人材が必要です。逆算して人材像を定めると、採用基準や育成計画が具体的になるため、最初に欲しい成果を考えましょう。
3.理想と現状のギャップを分析する
必要な人材像が定まったら、理想と現状の差を分析する段階に移ります。現状を把握しないまま施策を決めると、過剰な採用や効果の低い研修につながりかねません。以下の分析指標から、理想と現状のギャップを測りましょう。
- 部門ごとの人員数
- 年齢構成
- 勤続年数
- 保有スキル
- 管理職候補者数
- 離職率
- 休職状況
- 残業時間
- 人件費
たとえば、「営業人材が足りない」問題がある場合は、本当に人材が足りていないケースと、配置・育成に問題があるケースに分けられます。自社の課題は、採用で解決すべき課題か、育成や配置で対応すべき課題かを分けて判断しましょう。
4.KPIとロードマップを設定する
ギャップを把握したら、KPI(Key Performance Indicator)とロードマップを設定します。KPIとは「重要業績評価指標」と呼ばれる、目標に対する進捗を測る数値です。人事戦略の場合は、採用人数だけでなく育成や定着、生産性に関する数値も含めて設定しましょう。
人事戦略におけるKPIの一例は、以下のとおりです。
- 採用充足率
- 入社後定着率
- 研修受講率
- 管理職候補者数
- エンゲージメントスコア
- 離職率
- ひとりあたり売上高
KPIを設定したら、目標達成までのロードマップを設定する必要があります。たとえば、「6か月以内に管理職候補を10人選定し、育成を開始する」など、期限・担当・行動を明確に設定しましょう。
5.効果を検証し改善する
人事戦略は、策定後も検証と改善を続けて、最適化する必要があります。事業環境や人材市場は常に変化するため、最初に立てた戦略が、半年後・1年後も有効とは限りません。
効果検証には、KPIの達成状況以外に、現場の声も確認しましょう。仮に、採用人数を満たしても、現場で成果が出ていなければ、施策の見直しが必要です。改善時は、以下の観点で原因を切り分けて対処しましょう。
- 人材像のずれ
- 採用チャネルの不一致
- 育成内容と実務の差
- 評価制度の問題
原因を詳細に特定・修正することで、人事戦略の実効性は高まります。
人事戦略の立案に役立つ代表的なフレームワーク
人事戦略を立案する過程、とくに現状分析や課題特定のフェーズでは、思考を整理し、客観的な視点をもたらすフレームワークの活用が非常に有効です。ここでは代表的なものをいくつか紹介します。
PEST分析
自社を取り巻く外部環境(マクロ環境)を「政治(Politics)」「経済(Economy)」「社会(Society)」「技術(Technology)」の4つの観点から分析する手法です。自社ではコントロールできない大きな変化が、人材確保や制度設計にどのような影響を与えるかを予測するために用います。
- 政治 (Politics):労働関連法の改正、育児・介護休業法の動向など
- 経済 (Economy):景気動向、賃金水準の変化、有効求人倍率など
- 社会 (Society):労働人口の減少、働き方の多様化、価値観の変化(ダイバーシティなど)
- 技術 (Technology):AIやRPAの進化、HRテックの普及など
SWOT分析
内部環境である「強み(Strengths)」「弱み(Weaknesses)」と、外部環境である「機会(Opportunities)」「脅威(Threats)」の4つの要素を整理・分析する手法です。人事領域の現状を多角的に評価し、戦略の方向性(強みを活かす、弱みを克服するなど)を定めるのに役立ちます。
| 環境 | プラス要因 | マイナス要因 |
|---|---|---|
| 内部環境 | 強み (S) 例: 若手の定着率が高い | 弱み (W) 例: 管理職の育成が遅れている |
| 外部環境 | 機会 (O) 例: DX人材の市場が拡大 | 脅威 (T) 例: 労働人口の減少 |
クロスSWOT分析(TOWS分析)
SWOT分析で洗い出した4つの要素を掛け合わせる(クロスさせる)ことで、具体的な戦略を導き出すフレームワークです。SWOT分析が「事実の整理」であるのに対し、こちらは「戦略の策定」に用います。
- 強み × 機会(S+O):自社の強みを活かして、外部の機会を最大限に利用する戦略。(例: 高い定着率をアピールし、DX人材の採用を強化)
- 弱み × 機会(W+O):外部の機会を活かして、自社の弱みを克服する戦略。(例: DX市場拡大に合わせ、管理職向けのリスキリング研修を導入)
- 強み × 脅威(S+T):外部の脅威を、自社の強みで回避・軽減する戦略。(例: 労働人口減少に対し、高い定着率のノウハウを活かして中途採用を強化)
- 弱み × 脅威(W+T):弱みを補強し、脅威による最悪の事態を回避する戦略。(例: 管理職不足と労働人口減少に備え、早期から次世代リーダー選抜を開始)
ロジックツリー分析
ひとつの大きな問題をツリー(木)の枝葉のように分解し、根本的な原因(ボトルネック)を特定するためのフレームワークです。抽象的な課題を具体的なアクションに落とし込む際に役立ちます。
- 例:「若手の離職率が高い」という課題を分解
→ 「入社1年目」「入社3年目」
→ 「入社1年目」をさらに分解 → 「オンボーディング(OJT)の問題」「人間関係の問題」
→ 「OJTの問題」をさらに分解 → 「指導役のスキル不足」「業務マニュアルが未整備」
根本原因(施策):指導役(トレーナー)向けの研修を実施する。
PPM(プロダクトポートフォリオマネジメント)分析
元々は、自社の事業や製品を「市場成長率」と「市場占有率」で4象限に分類し、経営資源の配分を決めるためのビジネス戦略フレームワークです。 これを人事戦略に応用し、「どの事業(部署)に、どのような人材を、どれだけ重点的に配置・投資(採用・育成)すべきか」を判断するために用います。
- 例:「花形事業(急成長中)」には、ハイポテンシャルな人材を集中投下し、採用予算も重点的に配分する。一方、「金のなる木(安定収益)」事業では、効率化とノウハウの承継を重視した人材配置を行う。
人事戦略を構成する3つの要素
人事戦略は、採用、育成、定着・エンゲージメントの3要素で構成されます。人を採用するだけでなく、入社後に成果を出し、長く活躍してもらう視点が重要です。
採用戦略
採用戦略とは、事業に必要な人材を、計画的に確保するための方針です。今後の事業展開から逆算して、将来的に必要な人数やスキルを決め、採用に乗り出します。採用戦略で決める項目は、次のとおりです。
- 採用する職種
- 必要人数
- 求めるスキル
- 採用チャネル
- 選考基準
- 入社後に期待する成果
採用戦略では、入社後に任せる業務や、期待する成果まで明確にしましょう。採用時点で活躍の条件を定めることで、入社後のミスマッチを抑えられます。
育成戦略
育成戦略とは、従業員が事業に必要なスキルを身につけ、成果を出せる状態へ導く方針です。研修を実施するだけでなく、学んだ内容を実務で使えるようなサポートまでが、戦略に含まれます。
育成方法の一例は、以下のとおりです。
- OJT
- 集合研修
- eラーニング
- 1on1
- ジョブローテーション
- リスキリング
育成で重要なのは、学んだ後にどのような役割を任せるかです。たとえば、次世代の管理職を育てたいなら、小規模チームのリーダー経験や、評価面談の実践機会も必要でしょう。スキル習得後の役割まで決めることで、育成を事業成果につなげやすくなります。
定着・エンゲージメント戦略
定着・エンゲージメント戦略は、従業員が長く活躍できる環境を整える方針です。人材を採用して育成しても、早期離職が続けば投資効果は下がります。
定着に関わる要素は、報酬だけではありません。成長の機会、上司との関係、評価の納得感、働きやすさなども影響します。
具体的な施策は、以下のとおりです。
- 1on1
- キャリア面談
- 評価基準の明確化
- 柔軟な働き方の整備
- 管理職への支援
従業員の声を定期的に集め、改善につなげるほど、組織への信頼感が高まります。
人事戦略を成功させるポイント
人事戦略を成功させるには、経営層・現場・人事部門が、目的を共有する必要があります。制度を作るだけでは、成果につながりません。
経営課題を人事施策へ落とし込み、実行後に見直す流れを作ることで、制度や戦略の形骸化を防げます。
1. 経営層との連携を密にする
人事戦略は、経営層と連携して策定しましょう。経営戦略と人事施策がずれると、採用や育成に投資しても成果が出にくくなります。共有すべき項目は、以下のとおりです。
- 今後伸ばす事業
- 収益改善が必要な領域
- 不足している人材やスキル
- 採用と育成にかけられる予算
- 外部委託を活用する範囲
人事部門から経営層には、人材面の課題や採用市場の状況、離職傾向も共有しましょう。経営層と情報を共有すると、現実的な計画を立てやすくなります。
2. 現場の意見を無視しない
人事戦略は、現場の実態を踏まえて設計しましょう。経営層の方針だけで作ると、制度は整っていても、現場で使われない状態になります。
現場から確認する情報は、次のとおりです。
- 管理職の課題感
- 従業員の不満
- 離職理由
- 勤怠データ
- 面談記録
- サーベイ結果
現場の声を集める際、個別の意見や不満だけで状況を判断するのは避けるべきです。データと面談内容を照らし合わせ、全社で共通する課題か、特定部署だけの問題かを分離して考えましょう。
3. 施策の優先順位を明確にする
人事戦略では、進める施策を絞ることが大切です。あらゆる施策を一度に変えると、現場の負担が大きくなりかねません。優先順位を決める際は、以下を基準にしましょう。
- 経営目標への影響度
- 緊急度
- 実行に必要な工数
- 必要な予算
- 現場での実行しやすさ
優先順位がないまま施策を増やすと、担当者が疲弊するでしょう。実行する施策に優先順位をつけ、順番に手をつけるのが賢明です。また、施策を絞れば、効果検証もしやすくなります。
4. 抽象的な目標で終わらせない
人事戦略では、抽象的な目標を、具体的なKPIに落とし込むのが重要です。たとえば、「人材を強化する」「組織力を高める」といった表現だけでは、成果を検証できません。以下のような、具体的なKPIを設定しましょう。
- 採用充足率
- 離職率
- 研修受講率
- 管理職候補者数
- エンゲージメントスコア
- ひとりあたり売上高
KPIを設定する際は、目標値と合わせて期限と担当者も決めましょう。
5. 戦略を実行できる人事部門の体制を整える
人事戦略を実行するには、人事部門内の体制づくりも不可欠です。採用担当や労務担当など、担当者同士が分断されると、施策同士の連携が弱くなります。人事部門で以下の項目を整理しましょう。
- 担当者ごとの役割
- 不足しているスキル
- 外部サービスを使う範囲
- 経営層への報告方法
- 現場管理職との連携方法
人事部門には、採用・労務・育成・評価を横断した視点が必要です。精査の結果、社内だけで対応できないと判断した場合は、外部サービスの活用も検討しましょう。
6. 定期的な見直しと柔軟な修正を行う
人事戦略は、一度作って終わりではありません。事業環境や労働市場は変化するため、定期的に成果を確認し、適宜修正する必要があります。以下のように見直しのタイミングを設定し、定期的にチェックを行いましょう。
- 四半期ごとのKPI確認
- 半期ごとの施策見直し
- 年次での人員計画更新
- 経営方針変更時の再確認
採用計画を達成していても、入社後の定着率が低ければ、戦略の見直しが必要です。研修を実施しても、現場の成果につながっていなければ、内容を変えましょう。また、新しい事業が始まった場合や、管理職の負担が増えた場合は、人員配置や育成方針の変更も検討しましょう。
人事戦略を継続的に見直すには、採用や育成だけでなく、従業員が働き続けやすい福利厚生の整備も欠かせません。
「マネーフォワード クラウド福利厚生賃貸」を活用すれば、社宅制度の導入・運用を支援でき、従業員の手取り向上と定着率の改善を後押しできます。戦略の見直しを検討している場合は、ぜひ導入を検討してみてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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