• 更新日 : 2023年9月1日

ダニングクルーガー効果とは?原因や対処法を具体例を用いて解説!

ダニングクルーガー効果とは?原因や対処法を具体例を用いて解説!

ダニングクルーガー効果とは、自己を過大評価してしまう認知バイアスです。根拠のない自信は、周囲に誤解を与える恐れがあります。また、職場の評価と自己評価のギャップから、業務に支障が出るかもしれません。逆に、自己を過小評価する心理状態はインポスター症候群です。当記事では、ダニングクルーガー効果の要旨や対策などを解説します。

ダニングクルーガー効果とは?

ダニングクルーガー効果とは、自己を正しく評価できず自分の能力を過大評価してしまうという、認知バイアスに関する仮説です。先入観や思い込みなど、根拠のない自信は周囲の誤解を招く恐れがあります。

また、周囲の評価と自己評価とのギャップは、ときに業務へ支障を及ぼす可能性もあるでしょう。ここでは、ダニングクルーガー効果が成立した背景と、インポスター症候群との違いについて解説します。

ダニングクルーガー効果が成立した背景

ダニングクルーガー効果は、アメリカの社会心理学者デイヴィッド・ダニングジャスティン・クルーガーによって提唱された、優越の錯覚という認知バイアスに関する仮説です。認知バイアスとは、これまでの経験や、それに基づく先入観、直感などで生じる非合理的な心理現象を指します。

ダニングとクルーガーは、優越の錯覚を生み出す心理学的現象の研究において、自身の能力が低いことを認識する困難さが過剰な自己評価につながる、という認知バイアスの一形態を示しました。さらに、「Revisiting why incompetents think they’re awesome(無能な人が自分を素晴らしいと思う理由を再考する)」という研究においては、能力の低い人にしばしば見られる以下のような特徴が、優越の錯覚を生み出しているとの考えを示しています。

  • 能力が不足していることを認識できない
  • 能力がどの程度不十分なのかを認識できない
  • 他者の能力の高さを正確に推定できない
  • その能力について実際に訓練を積んだ後であれば能力の欠如を認識できる

さらに、ダニングクルーガー効果は、自信と知識・能力の相関関係を表す以下の曲線で説明することも可能です。

ダニングクルーガー効果の曲線 知識や能力はないのに自信だけはある「馬鹿の山」

上記1の、知識や能力はないのに自信だけはある「馬鹿の山」がダニングクルーガー効果に該当します。自信と知識・能力の相関関係は下記の経過を辿るのが一般的です。

  1. 「馬鹿の山」多少の知識や能力が身に着き自信に満ち溢れている状態
  2. 「絶望の谷」知識や能力の不足を実感し自信を失っている状態
  3. 「啓蒙の坂」成長を実感して自信を持ち始めている状態
  4. 「継続の台地」成熟して正確な自己評価が行えるようになった状態

なお、ダニングとクルーガーは2000年、優越の錯覚を生み出す認知バイアスに関する1999年の論文「Unskilled and Unaware of It(未熟で無自覚)」で、人々を笑わせ考えさせられる研究に贈られるイグノーベル賞心理学賞を受賞しました。

インポスター症候群との違い

ダニングクルーガー効果とは逆に、周囲の評価は高いのに自己の能力を過小評価してしまう心理状態をインポスター症候群といいます。「インポスター(impostor)」とは、日本語では「詐欺師」を意味する英単語です。

自身に対する高い評価は周囲を欺いた結果という考えから、インポスター症候群と名付けられました。インポスター症候群では、能力の高さを示す客観的な証拠があるにもかかわらず、高い評価や成功は周囲の助けによるもの、もしくはたまたま運が良かっただけと考え、自身は成功に値する人間ではないという思考に陥ります。

従来、このような過小評価は誰しもが持つ傾向と考えられてきました。しかし、最近の研究では、特定の状況に対する反応ともいわれています。インポスター症候群は社会的に成功した人に多く見られ、特に男性よりも社会的成功を収めた女性が陥りやすい傾向です。

近年では女性の社会進出が進み、要職に就く女性も増えてきています。ネガティブな傾向が心理的負担となり、日常生活や社会生活に支障をきたす可能性もあるため、インポスター症候群には十分注意が必要です。

ダニングクルーガー効果によって生じること

ダニングクルーガー効果によって生じる最も代表的な影響が、自己を過大評価するようになることです。例えば、自動車の運転免許を取り立ての初心者ドライバーは、自身の運転技術が未熟なことをよく理解しているため、安全運転を心がけます。しかし、能力不足を認識しているうちはよいものの、ある程度運転に慣れてきた頃に注意が必要です。運転歴が3年から5年程度経過すると、運転への慣れから自身の能力を過信し無理な運転をするようになり、事故を起こす確率が高くなるといわれています。これは、代表的なダニングクルーガー効果といえるでしょう。

続いて生じる影響は、知識不足に陥ることです。ダニングクルーガー効果の影響下では、自身の知識や経験、能力が十分だという錯覚に陥ります。その結果、知識の習得やアップデートなどの勉強を怠るようになり、能力が高く謙虚で勤勉な人との差はどんどん広がってしまうのです。成長の機会を失っていまうこともまた、ダニングクルーガー効果の影響といえるでしょう。

また、ダニングクルーガー効果による過大評価は認知の歪みから生じるため、自己の評価だけでなく他者の評価も誤る可能性があります。高い自己評価と比較し周囲を過小評価してしまう、あるいは周囲をも過大評価してしまう恐れがあるでしょう。上司がダニングクルーガー効果に陥っている場合は部下を正しく評価できない可能性があるため、十分注意が必要です。

さらに、根拠のない自信は対人関係に影響を及ぼす可能性もあります。例えば、自身を過大評価し、上から目線で接したり、高圧的な態度で接したりすることは、周囲の反感を買う可能性の高い行動です。自己評価と周囲の評価とのギャップは、コミュニケーションのミスマッチを引き起こす恐れもあります。謙虚さのない態度は反感を買いやすく、周囲から孤立してしまうかもしれません。

ダニングクルーガー効果によって自己評価と現実とのギャップが大きいことで、困難に直面した際に対応できない恐れもあります。自分にはできるはずと思いがちですが、能力が伴わないため対処できない可能性が高いでしょう。自己評価と現実とのギャップを痛感し、自信を失ってしまうかもしれません。さらに、自己評価の高いダニングクルーガー効果の影響下では、他者に責任を押し付ける傾向もあるため注意が必要です。

加えて、自分を過信しがちな人は騙されやすい、ということも覚えておきましょう。自分は騙されないと思い込みがちですが、嘘か真実かを見極める能力が伴わないため、容易く騙されてしまいます。場合によっては詐欺被害などに巻き込まれる恐れがあるため、十分注意してください。

ダニングクルーガー効果の原因

ダニングクルーガー効果の原因には、メタ認知が大きく関わっているといわれています。メタ認知とは、自己の認知の在り方を認知することです。すなわち、考える・感じる・認識する・記憶する・判断するといった自己の認知を客観的に捉える行為を指します。

自己の認知を客観的に捉え、自らコントロールし、冷静に判断して行動する能力がメタ認知能力です。メタ認知能力が不足すると、ダニングクルーガー効果に陥りやすいといわれています。

メタ認知機能が不足する原因としてまず挙げられるのが、他者のフィードバックを受け付けないということです。フィードバックを受ける機会が少なかったり、フィードバックを受け付けない態度が続いたりすると、認知に歪みが生じて自己評価のみが膨れ上がり、ダニングクルーガー効果に陥りやすくなります。

また、他責思考が強く、原因を分析しない態度も危険です。問題が生じた際に原因究明を怠り他者に責任を押し付ける行為は、自己を客観視する機会を奪い、自己評価への依存を引き起こします。結果として、自己評価が過剰に高いダニングクルーガー効果に陥ってしまうのです。

ダニングクルーガー効果の具体例

ダニングクルーガー効果に陥っている人は一般的に、根拠のない自信に満ち溢れています。そのため、ダニングクルーガー効果に陥るとさまざまな問題を引き起こす可能性が高まるでしょう。

例えば、ビジネスにおいては報酬の高さが能力の高さであるという誤った認知が生じ、「より高い報酬を得ている自分は他者よりも優れている」という考えに陥りがちです。また、経営層がダニングクルーガー効果に陥ると、自分の判断は絶対であるという根拠のない自信が生まれ 、経営判断を誤る可能性があります。

投資においては、インターネット上にある過去のデータや成功体験から、投資で利益を得るのは簡単であると錯覚しがちです。自身の経験や能力を過大評価した結果、投資に失敗して大きな損失を生み出してしまうケースがあります。

ダニングクルーガー効果への対策 – 人事労務担当者ができること

ダニングクルーガー効果に陥ると、さまざまな問題を引き起こす可能性が高まります。人事労務担当者は、従業員がダニングクルーガー効果に陥らないよう、適切な対策を講じなければなりません。具体的には、どのような対策をとればよいのでしょうか。

まず、フィードバックを受けられる環境を整えることが重要です。他者から客観的な評価を受けることで、メタ認知が促進され認知の歪みが解消されます。正しいフィードバックは知見を広げ、過大な自己評価への依存から脱却する効果があるのです。

目標や成果を数値化し、客観的に評価するのも有効な対策といえます。数値という客観的なデータは、絶対的な評価基準となるため、先入観や思い込みによって認知が歪むこともありません。主観による評価ではなく、数値目標を設定して客観的に評価することが重要です。

多くの人と交流を持つことも、認知の歪みを防ぐ一定の効果が期待できるでしょう。他者との交流を通しさまざまな価値観に触れることで、自身を客観的に捉え正しく自己評価できるようになります。職域においては、年齢の近い先輩社員が新人社員をサポートするメンター制度の導入も有効な方法です。

また、ダニングクルーガー効果によって自信に満ち溢れている人には、チャレンジの機会を積極的に提供しましょう。実力が伴わないため、おそらく失敗してしまいますが、失敗の経験が自己評価を見直すきっかけになるかもしれません。また、失敗した際は適切にフィードバックを行い、失敗の原因を分析することが重要です。失敗から立ち直り、身の丈に合った成功体験を積み重ねることで、自分自身を正しく認知できるようになるでしょう。

ダニングクルーガー効果のメリット・デメリット

ここまで、ダニングクルーガー効果が引き起こす問題について述べてきました。

しかし、ダニングクルーガー効果には一定のメリットがあるのも事実です。

ダニングクルーガー効果の影響下では、たとえ過大評価だっとしても自信に満ち溢れているため、何事にも臆することなく挑戦できるのは大きなメリットといえるでしょう。物おじしない発言や、積極的な行動も期待できます。

一方、困難に直面した際に対応できない、他責思考が強い、成長機会の機会が失われる、コミュニケーションに齟齬が生じる可能性がある、などはダニングクルーガー効果の代表的なデメリットです。

人事労務担当者には、メリットを最大限に引き出し、デメリットを最小限に抑えるような人材育成が求められます。

ダニングクルーガー効果にはメリット・デメリットがある

今回はダニングクルーガー効果について解説しました。ダニングクルーガー効果とは、自分の能力を過大評価してしまう認知バイアスの仮説です。

ダニングクルーガー効果に陥ると、根拠のない自信によって周囲と軋轢が生じたり、周囲の評価と自己評価のギャップから問題が生じたり、成長の機会が失われてしまったりする恐れがあります。一方、積極性が増して何事にも臆することなく挑戦できるといったメリットがあるのも事実です。

ダニングクルーガー効果は、メタ認知の歪みから生じると考えられています。メタ認知の歪みを解消するには、フィードバックの機会を設けたり、積極的に他者とコミュニケーションを取ったりすることが重要です。

従業員が過度なダニングクルーガー効果に陥らないよう、人事労務担当者は十分注意しましょう。


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