• 更新日 : 2024年4月19日

日本の離職率はどれくらい?高い会社や労働環境の特徴

日本の離職率はどれくらい?高い会社や労働環境の特徴

離職率とは、一定期間に何人社員が離職したかを表す割合です。特に新卒社員の離職率は問題になることが多く、1年・3年・5年以内の離職率が一つの目安となっています。何パーセントから高いとは一概にはいえませんが、離職率が平均して20パーセントを超えるようだと注意が必要です。当記事では、離職率の現状などについて詳しく解説します。

離職率とは?

離職率とは、ある一定の期間にどのくらいの社員が離職したのかを表す割合です。集計期間は、把握したい内容に従い任意に設定します。例えば、新卒社員の1年以内の離職率、大卒社員の3年以内の離職率、中途社員の5年以内の離職率、といった具合です。ここでは、退職率との違いや、離職率の求め方について解説します。

退職率とは違う?

まずは、離職と退職の違いについておさらいしておきましょう。離職とは、退職や失業などによって職を離れることをいいます。離職の理由は自己都合、会社都合を問いません。公務員法では、退職や辞職だけでなく、免職や失職も含めて離職と総称します。一般社会では、失業等給付を受ける際に必要な離職票のように、公共職業安定所(ハローワーク)で頻繁に用いられる用語です。

一方退職は、労働契約を解消し仕事を退くことをいいます。離職は仕事を離れた状態を指す一方、退職は会社を辞めて仕事を退く行為と区別することが可能です。なお、懲戒解雇の場合は退職という言葉を使いません。

離職率と退職率の違いについてですが、社会一般ではほぼ同様の意味で用いられています。ただし、厚生労働省の基幹統計である「雇用動向調査」においては、「常用労働者数に対する離職者の割合」と定義しているため、「離職率」がより正確な表現といえるでしょう。当記事では原則、離職率という表現を用いて解説していきます。

参考:雇用動向調査|厚生労働省
参考:調査の結果|厚生労働省

離職率の求め方

厚生労働省の基幹統計「雇用動向調査」の定義に従うと、離職率は下記の式で算出することが可能です。

離職率=離職者数÷1月1日現在の常用労働者数×100(%)

常用労働者とは、期間を定めずに雇われている労働者、もしくは1ヶ月以上の期間を定めて雇われている労働者を指します。なお、統計調査ではなく会社の内部調査として離職率を算出する場合は、1月1日現在の常用労働者数ではなく、集計期間の期首における常用労働者数と読み替えて算出するとよいでしょう。ただし、この計算式では集計期間内に入離職した労働者が含まれないため、離職率が低く算出される点に注意が必要です。

参考:雇用動向調査|厚生労働省
参考:調査の結果|厚生労働省

日本における離職率の現状

離職率は会社の働きやすさを端的に表す指標となるため、定期的に算出して課題を可視化する必要があります。とりわけ、入職率と離職率の推移を確認することは非常に重要です。ここでは、我が国日本における離職率の現状を解説します。

日本企業全体で見た場合

前述の「雇用動向調査」によると、令和4年度の入職率は15.2%、離職率は15.0%となっており、0.2%の入職超過という結果になりました。向こう15年間の入職率・離職率の推移をグラフ化してみると、下記の通りです。

雇用動向調査 離職率

令和2年度は新型コロナウイルス感染症の影響で離職超過に陥っておりましたが、翌年令和3年度には入職超過に転じています。令和3年度の入職率14.0%に比較すると、令和4年度は15.2%で1.2ポイント上昇しました。一方、離職率についてもコロナ禍の影響からか、令和3年度の13.9%から令和4年度の15.0%へ1.1ポイント上昇しています。

参考:令和4年 雇用動向調査結果の概要「入職と離職の推移」|厚生労働省

新卒の離職率の現状

新規学卒者の一括採用が一般的な日本においては、新卒社員の早期離職が問題となっています。とりわけ入社後3年以内の離職率が高い傾向にあり、「753現象」などといわれ長年問題視されてきました。753現象とは、中卒新入社員のおよそ7割、高卒新入社員のおよそ5割、大卒新入社員のおよそ3割が入社後3年以内に離職する傾向にあることを表しています。厚生労働省の調べによると、向こう15年間の新規学卒者における離職率の推移は下記の通りです。

新卒の離職率の推移

実際の統計を見ると、中卒新入社員と高卒新入社員については753の法則から改善していることがわかります。一方、大卒新入社員については定説の通り30%前後の離職率で推移しているのが現状です。いずれにしても、新規学卒者の早期離職を防止することは喫緊の課題といえます。

参考:新規学卒者の離職状況|厚生労働省

離職率が注目されている背景

我が国日本では近年、離職率の高さが問題視されています。そもそも、なぜ離職率がここまで注目を集めているのでしょうか。ここでは、離職率が注目されている背景について解説します。

労働人口の減少

団塊世代や団塊ジュニア世代の引退が象徴するように、高齢化が急速に進行している日本において労働人口の減少は社会的な問題です。出生率は年々低下し少子化も進行していることから、今後ますます人材の確保が難しくなってくることが予想されます。そのような社会経済環境において、会社にとっては既存の雇用をいかに維持するかが喫緊の課題です。人材を確保し事業活動を継続するため、離職率および離職率を改善する取り組みが注目を集めています。

人材の流動性の高まり

新卒社員の一括採用が当たり前に行われている日本においては、長年メンバーシップ雇用に基づく年功序列や終身雇用などが採用されてきました。しかし、バブル崩壊後の経済低迷により年功序列や終身雇用の維持が困難となり、欧米型の成果主義や年俸主義、ジョブ型雇用などが相次いで導入されます。このような社会経済環境の変化に伴い、若年層を中心に会社に対する帰属意識が希薄となりつつあるなか、より良い職場を目指して転職することも一般的なキャリアアップの方法です。人材の流動性が一気に高まった結果、優秀な人材を確保するため離職率を改善する取り組みが注目を集めています。

職場環境の健全性から見たときの指針

離職率は、会社の働きやすさを端的に表す指標となります。離職率の高い会社は労働環境や人間関係などに何らかの問題を抱えていることが多いため、離職率は職場環境の健全性を表す指針と捉えることも可能です。前述の通り、少子高齢化に伴い労働人口は減少し、社会経済環境の変化によって人材の流動性が高まっている現状では、職場環境の健全性を保ち少しでも離職を防止しなければなりません。職場環境の健全性を表す一つの指針として、離職率および離職率を改善する取り組みが注目を集めています。

離職率が高い会社の特徴

前章で解説したとおり、離職率は職場環境の健全性を表す一つの指針です。離職率を改善するには、労働環境や人間関係の改善などによって職場環境の健全性を保たなければなりません。ここでは、離職率が高い会社の特徴を解説します。

働き方の柔軟性(リモートワークなど)の対応ができていない

柔軟な働き方が実現できていない会社は、離職率が高い傾向にあります。例えば、コロナ禍で一般的となったリモートワークや在宅勤務が廃止されたり、出社を強制されたりすると、社員の不満は高まる可能性があるでしょう。ワークスタイルに不満を覚えた社員は、より柔軟な働き方を実現できる会社へ転職を検討するかもしれません。ワークライフバランスが重要視される現在では、会社は多様な働き方へのニーズに答える必要があるのです。

勤務時間の長さ

勤務時間が長く、長時間労働が常態化している会社は、離職率が高くなる傾向にあります。時間外労働や休日労働、深夜労働は社員の健康に悪影響を及ぼすのが一般的です。長時間労働は社員の心身に大きな負担を与え、モチベーションも低下させます。心身の健康を害しモチベーションの低い状態では生産性も低下するため、会社の業績へも悪影響を及ぼしかねません。また、長時間労働が当たり前のワークスタイルではワークライフバランスが損なわれるため、仕事に対する不満にもつながります。仕事に不満を感じた社員は離職や転職を検討するため、結果として離職率が上昇してしまうのです。

職場における人間関係の雰囲気の悪さ

人間関係が思わしくない職場もまた、離職率が高くなります。職場や部署・部門など、他者との関係性によって成り立つコミュニティのなかで生きる我々にとって、人間関係の充足は仕事のやりがいにかかわる非常に重要な要素です。人間関係の悪化や雰囲気の悪さは職場環境に悪影響を与え、働きにくさにつながります。働きにくさを感じた社員は離職や転職をする可能性が高くなるため、離職率が上昇してしまうのです。

業務内容に対する報酬が適切でない

業務内容に対し報酬が適切でないケースでも、離職率は高まるのが一般的です。仕事に見合った報酬を得られていない場合、社員は自身の能力が正しく評価されていないと感じ、モチベーションが大きく損なわれます。モチベーションが低下した社員は離職や転職をする可能性が高く、離職率が上昇するのです。優秀な人材の流出を防止するには、仕事に見合った十分な報酬を提示しなければなりません。

ハラスメントの多さ

ハラスメントが横行している職場は、離職率が著しく高くなります。セクシャルハラスメントやマタニティハラスメント、パワーハラスメント、モラルハラスメントなどは社会的な問題です。ハラスメントは対象となった社員の健康に悪影響を及ぼすだけでなく、職場全体の雰囲気が悪化する恐れもあります。職場環境の悪化は働きにくさに直結するため、人材の流出につながりかねません。離職率を改善するには、研修などを実施することでハラスメントを防止することが重要です。

意味のない業務・非効率な業務が多い

意味のない業務や非効率な業務が多い職場は、社員のモチベーションが低下し離職率が高まります。例えば、誰にでもできるような定型的な作業にやりがいを見いだすことは難しいでしょう。前時代的で非効率な業務は、社員の不満に直結します。仕事に不満を感じた社員は、よりやりがいのある仕事へ転職を検討するかもしれません。人材の流出を防ぐには、DXなどによって単純作業の機械化や業務の効率化を推進し、仕事の質を高めることが重要です。

休暇を取ることに心理的抵抗感がある

働くことを良しとする風潮が根強く、休暇を取りにくい職場も離職率が高まります。有給休暇の取りやすさはもちろん、産前産後休業や育児休業、介護休業の取りやすさは、働きやすさに直結する非常に重要な要素です。特に日本では、結婚や出産、育児、介護など、ライフステージの変化に合わせて離職するケースが目立ちます。離職率を改善するには、福利厚生を整備すると同時に、休暇を取りやすい職場の雰囲気を醸成することが重要です。

離職率が高い業界

前述の厚生労働省による基幹統計「雇用動向調査」によると、平成31年度における就職後3年以内の離職率は、新規高卒就職者が35.9%、新規大学卒就職者が31.5%となっています。特に離職率の高い上位3業界は下記の通りです。

順位業界高卒大卒
1位宿泊業・飲食サービス業60.6%49.7%
2位生活関連サービス業・娯楽業57.2%47.4%
3位教育・学習支援業53.5%45.5%

参考:新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)を公表します|厚生労働省

宿泊業・飲食サービス業

就職後3年以内の離職率が最も高い業界は、宿泊業・飲食サービス業です。新規高卒就職者のおよそ6割、新規大学卒就職者のおよそ5割が就職後3年以内に離職してしまうため、非常に離職率の高い業界といえるでしょう。具体的には、ホテルや飲食店のスタッフが該当し、離職率が高い理由としては「顧客からのクレーム」「長時間労働や不規則な勤務形態」「低い賃金」などが挙げられます。

生活関連サービス業・娯楽業

宿泊業・飲食サービス業に次いで就職後3年以内の離職率が高いのは、生活関連サービス業・娯楽業です。具体的には、理髪店や美容院、映画館やパチンコ店などのスタッフが該当し、離職率が高い理由としては「キャリアアップが見込めない」「景気動向に左右されやすく将来性が不安」「体力的な負担が大きい」などが挙げられます。

教育・学習支援業

3番目に就職後3年以内の離職率が高いのは、教育・学習支援業です。具体的には学習塾の講師や学習教材の開発販売会社などが該当し、離職率が高い理由としては「長時間労働や不規則な勤務形態」「膨大な業務量」「業務量に見合った賃金が得られない」などが挙げられます。

不必要な離職を防ぐためには?

少子高齢化に伴う人材不足が深刻さを増すなか、離職率を改善するにはどうすればよいのでしょうか。ここでは、社員の不必要な離職を防ぐ方法を解説します。

退職理由のヒアリング

まず、離職を希望する社員にヒアリングをすることで、問題を可視化しましょう。例えば、社員が賃金や人事制度に関する不満や、労働環境や人間関係に関する問題などを訴えた場合は、業務に見合った賃金の提示や納得感のある人事制度の構築、労働環境や人間関係の改善などによって慰留できるかもしれません。たとえ当該社員を慰留できなかったとしても、離職率の改善に役立つ重要なデータとなるでしょう。

オンボーディング・教育体制の充実

新しいメンバーが職場に定着できるようオンボーディングを実施したり、既存の社員がスキルアップできるよう教育体制を充実させたりする取り組みも重要です。新入社員の場合は、集合研修やOJT(On-the-Job Training)、年の近い先輩社員が後輩社員をサポートするメンター制度などが有効な方法として挙げられます。既存の社員に対する研修制度としては、社内研修やワークショップに加え、社外研修への参加なども一般的です。社員をサポートする体制を強化することは、離職率の改善に役立ちます。

コミュニケーションの活性化

職場の人間関係は、働きやすさに直結する重要な要素です。コミュニケーションを活発化することで良好な人間関係が構築され、働きやすい職場が形成されます。さらに、良好な人間関係は、従業員エンゲージメントを高めるのが一般的です。従業員エンゲージメントが高い状態は会社に対する愛着を持った状態を意味するため、モチベーションが高まり離職率は低下します。

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会社の人員動向と離職率を把握するための便利なテンプレートです。年度ごとの従業員数、入職者数、離職者数を基に、離職率を自動的に計算します。これにより、人事戦略の策定や改善に役立つヒントを得ることができます。

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離職率は職場環境の健全性を表す重要な指標

今回は離職率について解説しました。離職率とは、ある一定期間に何人離職したかを表す割合です。離職率は業界によって大きく異なるため、何パーセントだから高いとは一概にはいえませんが、就職後3年間以内の離職率は概ね30%前後が一つの目安となります。

離職率が高い職場は労働環境や人間関係に問題を抱えているケースも多いため、離職率は職場環境の健全性を表す一つに指針と考えることも可能です。深刻な少子高齢化によって、人材不足は喫緊の課題となっています。当記事の後半で紹介した離職を防ぐ方法を参考に、離職率を改善する施策に取り組んでみましょう。


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