• 更新日 : 2024年10月30日

ライフキャリアレインボーとは?意味や書き方を解説

ライフキャリアレインボーとは、キャリアについて仕事だけでなく、「子ども」や「職業人」など人生の中で訪れるさまざまな役割として捉える理論です。ライフキャリアを描くことで、社員の自主性やモチベーションを高めるなどのメリットがあります。

本記事では、ライフキャリアレインボーが注目される背景やメリット、書き方について解説します。

ライフキャリアレインボーとは?

ライフキャリアレインボーとは、人生で果たすさまざまな役割の将来設計を組み合わせたキャリア理論です。キャリアを仕事に限定せず、「子ども」「職業人」「親」など人生の中で訪れるさまざまな場面における役割として定義します。

ライフキャリアレインボーの概要や、活用される場面をみていきましょう。

そもそも「ライフキャリア」とは?

ライフキャリアレインボーの「ライフキャリア」とは、労働や家庭、趣味など、人生を形成するすべての役割を指します。キャリアが一般的に職務・仕事の経験を指すことに対し、ライフキャリアはキャリアも含めた包括的な表現です。

人生は仕事をするだけでなく、結婚や子育て、趣味の活動などさまざまなライフイベントがあり、ライフキャリアはそのすべてを含めています。

E・スーパーの提唱したライフキャリアレインボー

ライフキャリアレインボーは、1950年代に米国の教育学者であるドナルド・E・スーパーが提唱した理論です。過去から未来におけるライフキャリアの変化を虹にたとえて名付けられました。

時間軸をベースにした「ライフステージ」と生涯における9つの役割である「ライフロール」の2つを主軸にした考え方です。

従来のキャリアプランのような単一の目標達成を目指すものではなく、多様な経験や価値観を尊重し、それぞれのライフロールでライフキャリアプランを考えることを提唱しています。

ライフキャリアレインボーが活用される場面

ライフキャリアレインボーはビジネスシーンにおいて、さまざまな場面で活用されます。

プロジェクトの開始や年度始めの集会、研修など全社員が集まる場面では、キャリアへの考え方として全体に共有する方法があります。

また、上司と部下が1対1のミーティングを行う1on1ミーティングの場においても、部下のキャリアを考える上でライフキャリアレインボーの考え方を活用できるでしょう。

ライフキャリアレインボーが注目されている背景・歴史

ライフキャリアレインボーは古くからある理論ですが、価値観の多様化や高齢化社会といった状況が進む近年、特に注目を集めています。

ライフキャリアレインボーが注目される背景・歴史をみていきましょう。

社会の多様化

ライフキャリアレインボーが注目される背景には、情報が溢れ、価値観が多様化している状況があります。終身雇用制の崩壊や働き方改革などで個々のワークスタイルも変化し、企業は画一的なキャリアプランを提示することが難しくなってきました。一人ひとりにあったキャリア設計の支援が必要とされています。

また、目まぐるしい社会の変化に対し、ライフキャリアの見直しを検討する人が増えていることも、ライフキャリアレインボーが注目される理由といえるでしょう。

高齢化社会

ライフキャリアレインボーが注目されるもうひとつの背景に、高齢化社会があげられます。現代は人生100年時代とされ、高齢化の進行により、退職後のセカンドキャリアを考える必要性が出てきました。

また、介護や自身の健康問題など、家庭での役割も変化していきます。

長い人生における自分のライフキャリアについて、あらためて考え直す人が増えているという実情があり、ライフキャリアレインボーが注目される背景となっています。

キャリア支援が求められている

変化の激しい時代において、個々の社員はキャリアの見直しが迫られています。キャリアを定型化することはできず、社員は自発的にキャリア形成をしていかなければなりません。企業には、社員に合ったキャリア支援を行うことが求められています。

ライフワークバランスが重視され、仕事と育児・介護の両立を求める社員も増えています。優秀な人材を確保するためには、家庭との両立を踏まえたキャリア支援が必要といえるでしょう。

ライフキャリアレインボーにおける「5つのライフステージ」

ライフキャリアレインボーでは人生を5つのライフステージに分け、各段階でキャリアプランを検討します。

それぞれの段階の概要をみてみましょう。

成長段階

成長段階は、0歳〜14歳ごろを指します。家庭や学校での経験を通して「自分はどのような人間なのか」ということについて考えを形成していき、自身の興味や能力を探求する段階です。

まだ仕事をする年齢ではなく、仕事への興味・関心を高める時期です。働くことの意味について理解を深める時期として設定されています。

探索段階

15歳〜24歳ごろは、探索段階と呼ばれる時期です。学校やアルバイト、就職などで試行錯誤を繰り返し、さまざまな経験を通じて自分に合った職業を考え、希望の仕事を絞る段階です。

その仕事に就くために必要なスキルを身につけたり、自分の適性を見極めて他の仕事を選んだりなど、模索する時期でもあります。

また、学校や遊び、仕事などを通じて人間関係の幅が広がり、自身の役割や好み、特性を把握するのもこの段階です。

確立段階

確立段階は、25歳から44歳までを指します。自分の生涯の仕事を模索し、徐々にキャリアビジョンを明確にする時期です。

一定の職業に就いてキャリアを積み、仕事をする中で自分の適性や能力について試行錯誤を繰り返しながら能力を高めていきます。

後半では自分の立場や役割、キャリアビジョンが明確になり、家庭も仕事も安定していきます。

維持段階

45歳〜64歳は維持段階で、44歳までに確立した地位や役割を守り、維持していく時期です。安定志向が高まり、今までのキャリアを維持することに意識が働きます。

ビジネスの変化に合わせ、これまで身につけた技術や知識をもとに、さらなるスキルや知識を習得することもあります。

後半は、引退後のセカンドキャリアに向けて計画を立て始める時期です。

解放段階

65歳を超えると解放段階となり、肉体的・精神的にパワーが衰える時期です。引退を迎える時期でもあります。役割がなくなるわけではなく、セカンドライフを楽しむ段階です。新しいライフキャリアを考え、実行していくこともあります。

以上の各段階と年齢はあくまでも目安であり、絶対的ではありません。ライフキャリアレインボーの理論が生まれた時代と現代では、年齢の感覚も異なります。

人生は人それぞれで、人生100年時代といわれる現代にあっては、70歳を超えても働き続ける人も増えてきました。

5つのライフステージはあくまでもライフキャリアを考えるひとつの基準であり、時代によって変動すると考えておくとよいでしょう。

ライフキャリアレインボーにおける「9つのライフロール」

ライフキャリアレインボーのもうひとつの考え方は、ライフロールです。人生で担う役割のことで、人生には主に9つの役割があるとされています。

これら9つのライフロールすべてを経験する人もいれば、一部だけ経験する人もいます。人生におけるライフロールはどれかひとつに限定されることはほぼなく、ライフステージに応じて複合的に担うことも多いでしょう。訪れる順番もさまざまです。

ここでは、9つのライフロールをみていきましょう。

子ども

親子関係における子どもであり、家庭で親に保護されるという役割です。養育される立場を含めて親と関わる時間を指し、単に身体・年齢的に子どもということではなく、両親がいる限り子どもとしての役割は続きます。

子どものライフロールは幼少期の親に保護されていた時期だけではなく、子どもとして親の介護をする時間も含みます。

学習者

学習者は、主に小学校や中学校、高等学校、大学までの学校教育を受け、学業に取り組む役割です。働きながら夜間学校に通う人も学習者となります。

ほかにも、習い事や生涯学習など、学業に該当するものは学習者のライフロールに含まれます。

職業人や親の役割があっても、学業をしていれば学習者のライフロールに属しているといえるでしょう。

職業人

職業人とは、正社員やアルバイトなど雇用形態にかかわらず、すべての働く人のことです。

それまでに身につけてきた知識や能力などを活かし、収入を得るために仕事をする人を指します。

余暇人

自分の好きなことや趣味の時間を楽しんでいる人のことです。読書やスポーツ、旅行などの娯楽全般を楽しむ人を指します。

ほかのライフロールに属しながら余暇を楽しむ人は、この役割も担っています。

市民

市民とは社会の構成メンバーのことで、地域活動やボランティアなど社会活動に携わっている人を指します。

収入とは関係なく、積極的に社会活動に参加・貢献している人はこのライフロールに属しています。

配偶者

結婚して、夫や妻としての役割を担うことです。法的な結婚だけでなく、事実婚でもこの役割を担っています。

パートナーがいれば、配偶者のライフロールに属すると考えてよいでしょう。

家庭人

家族の一員であり、家庭生活を維持するために必要な家事全般を担う人のことです。

男女問わず、家庭の仕事を役割として担う人を指します。親元から離れたときに担う役割といえるでしょう。

子どもに対する養育者としての役割を指します。

衣食住の用意や安全の確保、教養・しつけを行うなど、子どもを養育したり社会で生きていくために必要なことを身につけさせたりする役割があります。

年金生活者

退職後、公的年金を受け取りながら老後生活をする人には、年金生活者としての役割があります。

ライフキャリアレインボーを導入するメリット

ライフキャリアレインボーを導入することで、企業には社員の自主性やモチベーションを高められるなどのメリットがあります。

ここでは、ライフキャリアレインボーを導入するメリットについて、詳しい内容を解説します。

メンバーの自主性を高める

ライフキャリアレインボーの導入により社員がライフキャリアを描くことで、社員の自主性を高めることがメリットです。

企業のために働くだけでなく「自分のキャリアを自分で積み重ねる」という認識に変化するため、仕事に対する姿勢も変わります。視野が広がり、自ら積極的に取り組めるようになるでしょう。

社員の自主性が高まることで、生産性の向上も期待できます。

メンバーのモチベーション向上につながる

ライフキャリアレインボーは、生涯を通してキャリアを形成するという視点があるため、社員にキャリア作りへの積極的な取り組みを促します。

仕事が自身のキャリアをより良くするという理解を深めれば、モチベーションの向上につながるでしょう。

社員の現在のライフキャリアを把握することで、企業は個別のキャリア支援ができ、従業員満足度やエンゲージメント(会社への信頼や貢献意欲)の向上が期待できます。

メンバーと上長の相互理解が進む

ライフキャリアレインボーに沿ってライフキャリアを描くことで、上司は部下の考えていることや目指したいキャリアについて理解でき、上司と部下の相互理解が進みます。

プライベートも踏まえながら、理想的なキャリアを上司と部下で作り上げていくのも、人材育成マネジメントのひとつです。

上司から自身のライフキャリアを開示すれば、部下も本音を口にしやすくなり、よりお互いの理解を深められるでしょう。

マネジメントの具体化・個別化が行える

ライフキャリアレインボーの導入により、上司は部下個人のライフキャリアを知ることができ、具体的に個別のマネジメントができます。部下の目標を知れば、目標達成までのキャリアプランを調整するなど、適切なアドバイスができるでしょう。

直属の上司が支援してくれることで、社員にとって働きやすい環境になり、離職防止も期待できます。

ライフキャリアレインボーの書き方・導入方法

ここからは、ライフキャリアレインボーの書き方をみていきましょう。ライフキャリアレインボー用のワークシートを用意し、次の手順で行います。

  1. 現状の把握を行う
  2. 過去の振り返りを行う
  3. 将来ありたい姿を考える
  4. 将来ありたい姿に合わせて準備できることを考える

詳しくみていきましょう。

ライフキャリアレインボーに使えるワークシート

ライフキャリアレインボーのワークシートは、縦は9つのライフロール、横列は10代から50代まで、5段階で年代の項目を作ります。

以下の画像は、厚生労働省のワークシート例です。

ライフキャリアレインボーとは?意味や書き方を解説

シート例は現在と未来の項目のみですが、現在の左側に過去の年代の項目を作り、過去の振り返りも行うとよいでしょう。

引用:平成 29 年度労働者等のキャリア形成における課題に応じたキャリアコンサルティング技法の開発に関する調査・研究事業 報告書|厚生労働省

① 現状の把握を行う

まず、ワークシートで現状を把握します。ワークシートの役割別に、現在どのような活動をしているか具体的に記入してください。

どのくらいの時間やエネルギーを割いているかを考え、合計で100%になるように記入しましょう。

記入する際は、ワークシート例を参考に、役割ごとに色分けしてください。現在の自分がどのような役割をしているかが視覚化されます。

② 過去の振り返りを行う

過去の項目も、現在と同じように具体的な活動内容を書きます。時間やエネルギーの配分も、同じく合計で100%になるようにしてください。

過去の振り返りでは、「これまで何に取り組んできたか」「好きだったものは何か」なども振り替えることで、次の段階で「将来ありたい姿を考える」際の参考になります。

③ 将来ありたい姿を考える

将来ありたい姿を考え、現在・過去と同じように記入します。できるだけ具体的な内容を記入することと、実現可能性のあるプランにすることがポイントです。達成時期も明確にしておけば、準備もしやすくなるでしょう。

完成したシートは上司と共有し、描いたキャリアに向けて足りないことや、キャリア実現に向けてするべきことなどを話し合うとよいでしょう。

④ 将来ありたい姿に合わせて準備できることを考える

1から3まで丁寧に記入していくことで、「将来ありたい姿」が明確になります。それを実現するための方法やステップも、具体的に検討できるでしょう。現在準備できることは何かを考え、できることから進めてください。

なお、将来の具体的な姿を記入する際は、想定できるアクシデントや意図しない役割の変化も予想して整理しておきます。自分にとって最悪な状況とその対策を考えておくことで、万が一のアクシデントが起きたときでも冷静に対処できるでしょう。

ライフキャリアレインボーを取り入れて社員の自主性を高めよう

ライフキャリアレインボーは、仕事だけでなく人生の役割も含めてキャリア形成を考えることです。価値観が多様化する社会では、個々の社員が人生を含めたキャリアプランを作ることが求められます。

ライフキャリアレインボーに沿ったライフキャリアを描くことで、社員は自主性を持って仕事に取り組んだり、仕事へのモチベーションを高めたりする効果が期待できるでしょう。


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