• 更新日 : 2024年3月27日

定年退職は何歳になったら?関連法や再雇用の手続きを紹介

定年退職は何歳になったら?関連法や再雇用の手続きを紹介

定年退職とは、労働者が一定の年齢に達した際に退職となる制度です。何歳まで働けるのかは会社によって異なりますが、原則60歳以上で定年を迎えます。いつ退職となるのか、何月まで働けるのかといった定年退職のタイミングについては、就業規則等への定めが必須です。当記事では、定年退職の概要と、関連法や再雇用の手続について解説します。

定年退職とは?

定年退職制度は定年退職や、単に定年・定年制と呼ばれ、労働者が一定の年齢に達したことを理由とした退職の制度です。そもそも労働者は、入社時に事業者との労使間で民法第623条に基づく労働契約を締結します。正社員の場合は、契約期間に定めのない無期労働契約を締結するのが一般的です。

定年制には、定年退職制定年解雇制の2つがあります。定年退職制は、一定の年齢を迎えたら労働者の意思表示にかかわらず自動で労働契約が終了する制度です。一方、定年解雇制は、一定年齢への到達を解雇事由とし、労働者による解雇の意思表示によって労働契約が終了します。

なお、退職に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項の一つです。常時10人以上の労働者を雇用する事業主は、労働基準法第89条に従い就業規則を作成し、所管の労働基準監督署へ届け出なければならないと定められています。

就業規則へ記載すべき事項は、労働基準法に従い例外なく記載しなければならない絶対的必要記載事項、会社が制度として定める場合は必ず記載しなければならない相対的必要記載事項、法的な規定ではなく公序良俗や社会通念上の理由から記載が望ましい会社独自の任意的記載事項の3つです。

絶対的必要記載事項としては、労働時間や賃金、退職や解雇に関する内容を記載しなければなりません。就業規則に絶対的必要記載事項として記載すべき退職に関する内容の一つが、定年退職制度です。就業規則の記載事項について、詳しくはこちらの記事をご参照ください。

参考:民法(第六百二十三条) | e-Gov法令検索
参考:労働基準法(第八十九条) | e-Gov法令検索

定年退職制度を導入している企業の割合

定年退職制度の規定は、法律で定められた会社の義務ではありません。そのため、定年退職を制度として定めていない企業も一定数存在します。しかし、大多数の企業は何らかの定年退職制度を設けているのが現状です。

厚生労働省による統計調査「令和4年就労条件総合調査の概況」によると、定年制を定めている企業の割合は94.4%となっています。定め方の内訳を見ると、職種によらず一律に定めている企業は96.9%、職種別に定めている企業は2.1%、その他が0.6%です。また、定年制を定めている企業の割合は企業規模が大きくなるほど高くなる傾向にあり、常時1,000人以上の労働者を雇用する企業における割合は99.3%に上っています。

一方、定年制を定めていない企業の割合は5.6%です。常時1,000人以上の労働者を雇用する企業においては、わずか0.7%となっています。現状では、大多数の企業は定年制を定めていることがわかりました。

なお、定年制を定めている企業の割合は、わずかながら減少しています。定年制を定めている場合でも、定年を迎える年齢は上昇傾向です。これは、少子高齢化に伴う労働人口の減少が大きく関係しています。また、高年齢労働者の雇用を推進するための法改正等も、定年年齢引き上げの大きな要因です。定年年齢の引き上げおよび法改正については、次章以降で詳しく解説します。

参考:令和4年就労条件総合調査 結果の概況|厚生労働省

定年退職は何歳になったら?

定年退職の年齢は、会社が自由に規定できます。ただし、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」いわゆる高年齢者雇用安定法の第8条に従い、定年年齢を定める場合は60歳以上としなければなりません。60歳未満の定年は、法律違反で無効となるため気をつけましょう。

ここで、前出の統計調査「令和4年就労条件総合調査の概況」における定年年齢の状況を紹介します。一律定年制を定めている企業のうち、定年年齢を60歳・61歳・62歳・63歳・64歳・65歳・66歳以上のいずれかに定めている企業の割合は下記の通りです。

定年年齢企業の割合
60歳72.3%
61歳0.3%
62歳0.7%
63歳1.5%
64歳0.1%
65歳21.1%
66歳以上3.5%

およそ7割以上の企業が、定年年齢を60歳と定めています。一方、65歳を定年年齢としている企業も一定数存在しており、一律定年制を定めている企業のおよそ2割が65歳定年です。また、定年年齢を65歳以上としている企業は24.5%となっており、この割合は増加傾向にあります。増加の要因は、少子高齢化に伴う労働人口の減少や、高年齢労働者の雇用推進を目的とした法改正の影響などです。

なお、退職や解雇に関する内容は就業規則の絶対的必要記載事項に該当するため、定年年齢についても就業規則に規定しておかなければなりません。

参考:高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(第八条) | e-Gov法令検索

定年退職と高年齢雇用安定法 – 改正など

前章では、定年年齢は高年齢者雇用安定法に従い60歳以上と定められていることを紹介しました。しかし、少子高齢化の進行に従い、高年齢労働者の雇用確保を目的とした法改正がたびたび行われています。時系列に沿って、改正の内容を確認していきましょう。

まず、1990年の改正では、企業に対し65歳まで労働者を継続雇用する努力義務が課されました。続く1998年の改正では、従来努力義務だった60歳以上の定年が義務化され、60歳未満の定年年齢を規定できなくなります。

さらに、2000年の改正では、継続雇用の努力義務をさらに推し進めるかたちで、定年年齢の引き上げや、労働者の希望に応じた継続雇用制度の導入などの策を講じるよう、努力義務が規定されます。

2004年の改正では、従来努力義務だった高年齢者雇用確保措置が義務化されました。講ずべき措置も拡充され、企業は下記のいずれかの策を講じなければなりません。

  1. 65歳までの定年引き上げ
  2. 65歳までの継続雇用制度の導入
  3. 定年制の廃止

継続雇用制度については、労使協定によって、定年後に継続雇用する労働者を企業が選別できる基準を設ける例外措置が認められていました。

2012年の改正では、継続雇用制度における例外措置が廃止されます。現在は適用年齢を段階的に引き上げる経過措置が取られていますが、2025年3月末に終了します。2025年4月1日以降は、企業による選別は認められず、継続雇用を希望する全労働者を雇用しなければなりません。

2020年の改正では、65歳までの雇用確保義務に加え、70歳までの就業確保措置が努力義務として定められています。企業が努力義務として講じなければならない策は、下記のいずれかです。

  1. 70歳までの定年引き上げ
  2. 70歳までの継続雇用制度の導入
  3. 定年制の廃止
  4. 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
  5. 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
    ・事業主が自ら実施する社会貢献事業
    ・事業主が委託・出資する団体が行う社会貢献事業

なお、5の制度を導入するには、労使間の合意が必要です。少子高齢化に伴い、今後も高年齢労働者に対する雇用拡大が予想されるため、法改正に十分注視していきましょう。

参考:高年齢者雇用安定法‐2004 年改正の意味するもの|独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)
参考:高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~|厚生労働省

定年退職通知書の無料テンプレート・ひな形

定年退職を通知する際には、長年にわたり企業に貢献してきたことを評価し、感謝の意を示すとともに、適正な手続きや退職後の生活に関する情報を明確に説明することが必要です。

「定年退職通知書」は、従業員が就業規則に定められた定年を迎える際に、事前にその旨を通知する文書のことを指し退職手続きを円滑に進めるためのものです。一般的に、退職日の数ヶ月前に行います。

マネーフォワードクラウドでは、実務で使用できる、定年退職通知書のテンプレート(エクセル・ワード)を無料でダウンロードいただけます。
ベースを保ちつつ、自社の様式に応じてカスタマイズすれば使い勝手の良い書類を作成できるでしょう。この機会にぜひご活用ください。

定年退職の退職月に決まりはある?

定年退職の退職月に関する法的な規定はありません。就業規則に定められた定年退職に関する規定に従い、退職月や退職日が決まるのが一般的です。具体的には、下記のような規定が考えられます。

  • 定年年齢に達した日
  • 定年年齢に達した日の月末
  • 定年年齢に達した日を含む賃金算定期間の締め日
  • 定年年齢に達した日の年度末 など

なお、定年年齢に達した日は誕生日ではありません。年齢計算ニ関スル法律および民法第143条に従い、誕生日の前日となるため気をつけましょう

参考:明治三十五年法律第五十号(年齢計算ニ関スル法律) | e-Gov法令検索
参考:民法(第百四十三条) | e-Gov法令検索

定年退職後の再雇用の手続き

退職の手続きは会社の規定によって異なりますが、一般的には当該従業員から定年退職届を受理し、必要に応じて退職辞令を交付します。退職時には、規定に従い退職金を支給し、所得税と住民税と控除しましょう。退職金にかかる税金は源泉徴収できるため、別途確定申告を行う必要はありません。

再雇用の手続きでは、契約社員や嘱託社員として有期労働契約を結ぶのが一般的です。契約期間は労働基準法第14条に上限が規定されており、満60歳以上の場合は最長5年間の契約を締結できます。下限については規定がないため、1年契約で毎年更新するといった運用も可能です。

なお、契約の内容については、労使間の合意に基づき自由に決められます。給与についても同様ですが、大幅な減額や著しく低い給与を提示することは、高年齢者雇用安定法の趣旨に反する行為です。民法第90条に規定された公序良俗に反する違法行為として見なされる可能性があるため、給与を減額する際は気をつけてください。

続いて、社会保険の手続きについて見ていきましょう。定年退職後に1日の空白もなく継続して再雇用される場合、給与が現役時代と変わりない場合は、特別な手続きは不要です。給与が下がる場合は、同日得喪という制度によって社会保険料が新たな給与水準で直ちに再計算されます。同日得喪の適用を受けるには、被保険者資格喪失届と被保険者資格取得届を同時に年金事務所へ提出しましょう。提出時には、就業規則や退職辞令など退職したことがわかる書類と、雇用契約書や労働条件通知書など継続して再雇用されたことがわかる書類もしくは事業主の証明、などの添付が必要です。

在職老齢年金を受給しながら働く場合は、給与の額によって支給が停止する可能性もあるため、定年後の働き方については当該従業員と十分相談しましょう。なお、短時間労働への移行などで社会保険の加入要件を満たさなくなった場合は、国民年金や国民健康保険への切り替え手続きが必要です。切り替え手続きは、労働者自身が行わなければなりません。国民年金への任意加入や、健康保険の任意継続といった制度もあるため、切り替えの際には丁寧に説明してください。

最後に、雇用保険と労働者災害補償保険(労災保険)からなる労働保険に関する手続きを説明します。まず、現役世代と給与に変動がない場合は、特別な手続きは不要です。ただし、短時間労働に移行し、週の所定労働時間が30時間未満となった場合は、雇用保険の種別変更手続きを忘れずに行ってください。公共職業安定所(ハローワーク)に区分変更届を提出することで、一般被保険者から短時間労働被保険者に変更されます

週の所定労働時間が20時間未満となった場合は、雇用保険被保険者の資格を失うため、被保険者資格喪失届を提出してください。なお、短時間労働への移行などで給与が減少した場合は、職業生活の円滑な継続を促進・援助するための高年齢雇用継続基本給付金を受給できる可能性があります。一定の要件を満たす必要があるため、受給の可否などについては最寄りのハローワークに確認してみましょう。

参考:労働基準法(第十四条) | e-Gov法令検索
参考:民法(第九十条) | e-Gov法令検索

定年退職の年齢は段階的に引き上げられている

今回は定年退職制度について解説しました。定年退職制度とは、労働者が一定の年齢に達した際に自動で退職となる制度です。約9割以上の企業が定年制を定めており、日本においては非常にポピュラーな退職制度となっています。

60歳以上であれば、定年年齢や定年のタイミングについては、企業の一存で規定することが可能です。しかし、少子高齢化の進行に伴い定年年齢は段階的に引き上げられており、2025年4月1日以降は65歳までの雇用確保が企業の義務となります。

2020年の法改正では70歳までの就労確保が努力義務となったこともあり、高年齢労働者の雇用拡大は既定路線です。当記事を参考に、定年退職制度の現状と、今後の推移を確認しましょう。


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