• 更新日 : 2026年7月3日

人的資本経営とは?具体例や取り組むメリットを紹介

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Point人的資本経営とは何を目指す経営手法なのでしょうか?

人材を「資本」と捉え、経済産業省が推進する中長期的な企業価値向上を目指す経営手法です。

  • 人材をコストではなく価値を生む投資対象として位置づける
  • 2023年3月期決算以降、有価証券報告書での情報開示が義務づけられる
  • 経営陣が主導し、経営戦略と人材戦略を連動させる

人材の多様性や労働環境に関する非財務情報を整備することが求められます。

近年、持続的な企業価値の向上やESG投資への対応において、「人的資本経営」というキーワードが関心を集めています。

人事・経営企画の担当者の中にも「人的資本経営について具体的に知りたい」「なぜここまで注目されているのか」と疑問に思っている人もいるでしょう。

本記事では、人的資本経営の基本的な定義や従来の管理体制との違い、注目されている背景などを分かりやすく解説します。さらに、実務上のメリットや具体的な実現ステップ、導入事例もまとめています。

人的資本経営とは?

人的資本経営とは、人材を「資本」として認識し、その価値を最大限に生かして企業の成長を実現する経営手法です。経済産業省は、人的資本経営を次のように定義しています。

人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。

引用:人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~|経済産業省

このアプローチでは、人材を単なるコストとしてではなく、価値を創出する重要な資源として捉えます。

企業のビジョンや目標にもとづいた人材戦略を重視し、直感や経験に頼るのではなく、データにもとづいた客観的な意思決定を行うことが重要です。

人的資本経営を実践することで企業と従業員がともに成長し、その結果として競争力の向上が期待できます。

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これまでの経営体制との違い

これまでの「人的資源管理」と、現代の「人的資本経営」では、人材の捉え方や主導権の所在、従業員のあり方において決定的な違いがあります。

従来型の体制では、人材を削減・抑制の対象となるコストと捉えており、人事部門が独立して労務管理や採用といった実務を処理するのが主流でした。これに対し、人的資本経営では、人材を価値創造の源泉(資本)として位置づけ、経営陣が経営戦略を達成するために直接主導します。

また、従業員のあり方も、これまでは指示通りに効率よく動く受け身の存在として扱われていました。一方、人的資本経営のもとでは、個人の自律的なキャリア形成やリスキリングを企業が支援し、能動的に動ける存在へと成長させます。

これらの違いをまとめると、以下のようになります。

比較項目 従来の人的資源管理 現代の人的資本経営
人材の捉え方 消費・抑制すべきコスト(資源) 価値創造を支える投資対象(資本)
主導する部門 人事部門が主導する限定的な労務管理 経営陣が直接主導する全社的な経営戦略
従業員のあり方 指示通りに動く受け身の労働力 キャリア支援によって自律する能動的なパートナー

こうした違いを理解しておくことで、労働生産性を最大化するために適切な予算配分や制度設計ができるようになるでしょう。

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人的資本が注目されている背景・理由

近年、企業は従業員を単なる労働力ではなく、人的資本として重視しています。技術革新や競争の激化に伴い、優れた人材が企業の成長に不可欠な要素とされるようになったことが主な理由です。

ここでは、人的資本が注目される背景とその理由について解説します。

人材や働き方の多様化

かつての日本社会では、終身雇用や画一的な働き方が前提となっており、企業にとっても、一律のルールのもとで従業員を管理するほうが効率的でした。

しかし、少子高齢化に伴う労働人口の減少や、共働き世帯の増加などによる多様なライフスタイルの普及により、画一的な管理体制は限界を迎えています。

これからの時代において、企業が優秀な人材を惹きつけて組織の持続可能性を保つためには、個々の事情に配慮した一律ではない、多様な働き方を柔軟に整備することが不可欠です。

育児・介護との両立支援やシニア層が働き続けられる環境の提供など、多様性を強みに変える人的資本経営への移行は、組織維持における死活問題となっています。

無形資産の価値の増加

現代のビジネス環境では、工場や機械設備といった有形資産の重要性が相対的に下がっています。反対に、特許、技術力、従業員のスキルといった無形資産こそが、企業の競争力を決定づける源泉となっています。

グローバル市場においても、企業の時価総額に占める無形資産の割合が世界的に急増しており、機関投資家やアナリストは企業の知的財産や人材の価値を評価する時代に入りました。

競合他社との差別化や新たなビジネスモデルの創出は、従業員の豊かなアイデアや創造性から生まれます。

すなわち、人的資本経営の実現が自社の無形資産の価値を直接的に拡大し、長期的な市場価値を高める直接的な手段になっていると言えます。

ESG投資の拡大と情報開示の義務化

近年、投資判断において、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)の評価を重視する「ESG投資」が世界的な潮流となっています。とくに「社会(Social)」の要素を評価するうえで、従業員の健康状態や適切な労働環境、多様性の確保が重視されています。

これに伴い、2023年3月期決算以降、日本国内の大手企業(有価証券報告書発行企業)を対象に、人的資本に関する各種情報の開示が義務付けられました。 具体的には、女性管理職比率、男性育休取得率、男女間賃金格差などの定量的データの記載が求められています。

情報開示に消極的であったり、開示する人的資本に関するデータが不十分であったりする企業は、国内外の投資家からマイナスな印象を持たれる場合があります。株価の下落や資金調達コストの上昇といった直接的な財務リスクを負う可能性も否定できません。

そのため、経理・財務担当者にとっても、非財務情報の整備は会社の信用を維持する極めて重要な実務となっています。

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人材不足による採用競争の激化

少子高齢化による生産年齢人口の減少が著しい日本において、高度なスキルを持った専門人材や次世代を担う若手優秀層の獲得競争は、かつてないほど激化しています。

現在の求職者や若い世代の労働者は、給与水準だけでなく、その企業が従業員をどのように扱っているかという点をシビアに評価して就職先を選んでいます。

この市場の変化により、自社の人材価値を高める仕組みを対外的に発信する必要が生じ、人的資本経営への注目がさらに高まりました。

人的資本への投資に消極的で、かつてのように社員を使い潰すような古い印象を持たれかねない企業は、採用市場において瞬く間に淘汰されるリスクがあります。

人材版伊藤レポートの公開

日本国内において、企業が人的資本経営へ舵を切る直接的な契機となったのが、経済産業省が設置した研究会によって公表された「人材版伊藤レポート」です。

このレポートは、日本企業が目指すべき人的資本経営の具体的な実践プロセスとその思考の枠組みを明確に示した重要な指針です。

レポート内では、目指すべき組織体制の要として「3つの視点・5つの共通要素(3P5Fモデル)」を以下のように提唱しています。

3つの視点
(Perspectives)
1.経営戦略と人材戦略の連動
2.As-is To-beギャップの定量把握
3.企業文化への定着
5つの共通要素
(Factors)
1.動的な人材ポートフォリオ
2.知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
3.リスキリング・学び直し
4.従業員エンゲージメント
5.時間や場所に捉われない働き方

このレポートが公表されたことで、人的資本経営は理想論ではなく、経営陣や管理部門が真っ先に取り組むべき実践的な優先アジェンダとしての地位を確立しました。

参考:人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~ 人材版伊藤レポート2.0~|経済産業省

人的資本経営に取り組むメリット

ここでは、人的資本経営に取り組む具体的なメリットを紹介します。

エンゲージメントが向上する

会社が従業員の能力開発やスキルアップ、長期的なキャリア形成を支援するために投資を行ってくれていることを実感できれば、従業員のエンゲージメントが高まるでしょう。

単にタスクを割り当てるのではなく、個人の成長ビジョンと組織の事業目標を整合させることで、従業員は日々の業務に対してやりがいや働きがいを見出しやすくなります。

エンゲージメントが向上した結果、自発的に新しいアイデアを出したり自律的に業務改善を試みたりする能動的な従業員が増加し、組織全体が前向きに活性化する可能性もあります。

結果として優秀な人材が定着し、退職や中途採用に伴う業務負担の低減という目に見える財務メリットにも直結します。

生産性が向上する

従業員一人ひとりに対する教育投資やリスキリングの機会を提供することで、個々の業務処理能力や専門スキルが高まり、業務の効率化や高度化も促進されるでしょう。

また、柔軟な働き方を整備したり心理的安全性の確保に投資したりすれば、従業員が身体的・精神的にベストなコンディションで業務に集中できるようにもなります。

さらに、データにもとづいた適材適所の人材配置が可能になることで、個人のポテンシャルが最大限に発揮されることにも期待できます。同じ労働時間やコストであっても、従前より高い付加価値や利益を創出できる組織へと進化できるでしょう。

企業価値が向上する

人的資本経営を実現し、その取り組みプロセスやKPIの進捗率を開示すれば、持続的な成長ポテンシャルをもつ企業であるとして、投資家から高い評価を獲得しやすくなります。

教育訓練費や離職率などの非財務情報を公開している企業は、投資家から見ても将来の成長予測が立てやすく、経営リスクが低いと判断してもらえるためです。

その結果、中長期的な視点を持つ国内外のESG投資家や大手機関投資家から、安定的かつ優良な資金提供を受けやすくなる場合もあります。

経理・財務の担当者にとっても、企業の非財務的な取り組みを社外へアピールすることは、結果的に株価の安定や資金調達時の金利優遇といった財務改善をもたらすことになります。

企業ブランディングが強化される

従業員の健康を最優先し、人の育成に投資を惜しまない経営姿勢が広く世間に浸透すれば、競合他社には模倣できないコーポレートブランドを確立できる可能性があります。

このブランド力によって採用市場における認知度や好感度が高まると、多額の広告費を投入しなくても、優秀な求職者層が自発的に集まることにも期待できます。

さらに、顧客や取引先の企業にも信頼できるパートナーであるという信頼感を与え、ビジネスの契約継続や新規取引の開拓において、優位な立場を築くこともできるでしょう。

人的資本経営を実現する5つのステップ

続いて、人的資本経営を実現する5つのステップを紹介します。

1. 経営戦略と連動した人材戦略の策定

人的資本経営を実現するにあたって、自社が5年後や10年後にどのような市場に参入し、どのようなビジネスモデルを展開するかという経営戦略を確定させましょう。

次に、その経営戦略を確実に実行・達成するために、どのようなスキルや専門性をもった人材が社内のどの部署に何人必要なのかという人材ポートフォリオを具体的に策定します。

人事・総務や経理などの管理部門は、経営部門と連携して最適な人材像を定義し、戦略を支える基盤としてのロードマップを策定することから始めます。

2. 現状分析

方針が確定した後は、現在、社内の誰がどのような資格や専門スキルを保有し、どのようなパフォーマンスを発揮しているかを整理します。

単に役職・年齢・勤続年数といったデータだけでなく、エンゲージメントスコアや研修受講の実績、ストレスチェックの結果など、多角的なデータを収集する必要があります。

人事・総務担当者は、単なる主観や特定の部署の印象に依存することなく、客観的な数値データにもとづき、全体を俯瞰して把握することに努めましょう。

3. KPIの設定とギャップの把握

前段階で可視化した現在の人的リソース(現状)とステップ1で作成した人材ポートフォリオ(理想)を比較し、自社に不足しているスキルや人員などのギャップを明確にします。

そのギャップを中長期的に埋めていくため、進捗率や達成度を定期的に観測・評価できる具体的な重要業績評価指標(KPI)を詳細に設定します。

  • 研修投資比率や1人当たりの研修時間
  • 女性管理職比率、外国籍人材やシニア人材の配置状況
  • エンゲージメントスコアの推移
  • 休職率や離職率の削減割合

設定したKPI目標と現在の数値を経営陣だけでなく従業員にも共有し、なぜこの目標の達成が必要であるかを丁寧かつ継続的に社内へアナウンスすることが大切です。

4. 施策の設計と実施

設定したKPIを計画通りに達成するため、ギャップの解消に寄与する人事・総務施策を詳細に設計して実行へと移します。

  • スキル不足を解消するための教育研修プログラムの提供
  • 柔軟な働き方を支えるための福利厚生の改善
  • 自律的な成長を促すための人事評価制度の見直し
  • 優秀な外部人材を獲得するための採用ルートの再編

これらの施策を実施する際は、現場の管理職や一般の従業員の深い理解と協力が不可欠です。

そのため、新しい制度の狙いやメリットを説明するための社内説明会を開催したり、わかりやすいQ&Aマニュアルを配布したりし、社内への浸透を図りましょう。

5. 効果の測定と情報公開

実施したさまざまな施策が、設定したKPIにどのような定量的変化を与えたかを定期的に測定し、より高い成果が得られるように施策の改善を行います。

また、測定して蓄積された人的資本に関する各種データは、有価証券報告書や統合報告書、サステナビリティレポートなどを通じて、社外の投資家や求職者へ開示しましょう。

なお、近年では、人的資本開示に関する世界的な国際規格である「ISO30414」のフレームワークに準拠して詳細データの開示を行うことが推奨されています。

そして、開示によって得られた社外からの評価を、次の人事戦略の立案にフィードバックする体制も整えるとよいでしょう。

人的資本経営を実現した事例

ここでは、人的資本経営を実現した事例を3つ紹介します。

伊藤忠商事株式会社

総合商社である伊藤忠商事は、企業価値を中長期的に最大化させるのは人であるという信念のもと、以下のようなことを実行しています。

  • 「優秀な人材の確保」や「能力開発」などを人材戦略の目標として設定し、それぞれに対応するINPUT(施策)とOUTCOME(成果)を開示
  • 社員数に対する純利益を労働生産性の指標として、学生に積極的に開示
  • 人的資本の拡充策(朝型勤務制度や在宅勤務制度など)と測定すべきKPI(社員の労働生産性やエンゲージメント・サーベイのスコアなど)を明示

社員の健康とコンディションを整えることが、そのまま会社の生産性と利益向上に直結する戦略的な投資であることを示した人的資本経営の成功例と言えるでしょう。

株式会社サイバーエージェント

インターネット広告やゲーム事業を急成長させているサイバーエージェントは、新規事業の創出に対応するため、社内だけでなく社外の人材も活用し、最適な人材ポートフォリオの確保をしています。

同社では、従業員の挑戦心と才能を早期に引き出すため、適材適所と抜擢を重視した以下のような人的資本経営を実践しています。

  • 勉強会形式でリスキリングを実施し、社員が積極的に取り組みたいと思える目標をもち、ともに取り組む仲間をもてる環境を整備
  • 成長事業分野の社長ポジションに新卒・若手社員を登用し、20〜30代の社長を52名輩出
  • 全社員のエンゲージメント状況を毎月把握。経年分析を通じて、部署ごとの施策検討に活用

個人の成長欲求に寄り添い、適時に活躍の場を提供することが、結果として組織全体の高いモチベーションと持続的なイノベーションの創出につながっているのでしょう。

株式会社日立製作所

IT・インフラ企業である日立製作所は、2011年以降、社会イノベーション事業への集中を進めており、これに追随する形で人事制度のグローバル変革を推進してきました。

グループとしての総合力を発揮し、社会に新たな価値をもたらす人材を育成するため、以下のような制度を全社規模で実装しています。

  • グループ・グローバル共通の人財マネジメント基盤を10年以上かけて段階的に拡充
  • 経営リーダー候補を早期選抜・育成するプログラム(Future50)を設計
  • グループ全体で、デジタル人財の人数に関する目標を開示

大規模な多国籍企業において、経営・事業戦略とHR戦略を高いレベルで連動させ、全世界で同一基準の人的資本管理を実現していると言えます。

参考:人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~ 人材版伊藤レポート2.0~実践事例集|経済産業省

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