- 更新日 : 2024年10月7日
役職手当とは?決め方や相場、設定時の注意点を解説
役職手当とは、役職に応じて支給される賃金のことです。支給するかどうかは企業が任意に設定でき、残業代が出ない管理職にその代わりとして支給できるというメリットがあります。
設定の際は、管理職と非管理職の給与が逆転する現象が起きないよう注意が必要です。
本記事では、役職手当のメリットや金額の決め方、注意点を解説します。
目次
役職手当とは
役職手当とは、従業員の役職に応じて支給される賃金のことです。「管理職手当」「主任手当」など、企業によって名称は異なります。
昇給との違い
役職手当の支給は、昇給とは異なります。役職手当は、基本給とは別に支給される賃金のことです。
これに対し、昇給とは従業員個人の年齢や勤続年数などに応じて、基本給が上がることを指します。時期を定めて昇給を行う「定期昇給」などが代表例でしょう。従業員の給与水準を一律に引き上げる「ベースアップ」とは異なります。
いずれも基本給自体が上がることであり、支給されて結果的に給与が上がる役職手当とは異なります。
役職手当の支給有無は企業が任意に設定できる
役職手当の支給は法律で定められておらず、支給するかどうかは企業が任意に設定できます。企業によっては手当をつけない場合もあり、支給する場合でも、支給する対象や金額は企業ごとにさまざまです。
支給される場合は、役職が上がるほど金額も高くなることが一般的で、昇進・降格によって金額も変動します。役職手当は、役職につくことで責任が重くなり、負担も大きくなることへの対価ともいえるでしょう。
役職手当の支給対象
役職手当の対象になるのは、部長・課長といった管理職、および係長や主任などが該当します。役職手当は、役職に付随する責任や業務量に応じて支給されることが一般的です。
役職手当を支給することに決めたら、支給対象のほかに支給基準と金額(計算方法)を明確にして、就業規則に記載することが必要です。
役職手当に関連するデータ
東京都が行った調査によると、役職手当を支給している企業の割合は66.4%です。
会社の規模ごとの支給している会社の割合は、次のとおりです。
- 10〜49人:62.6%
- 50〜99人:72.9%
- 100〜299人:76.7%
支給金額は、同一役職の支給額が同じ会社と同一役職でも支給額が異なる会社があり、いずれの場合も会社の規模が大きくなるほど金額が高くなる傾向にあります。
役職手当を設定するメリット
役職手当を設定することで、企業にはさまざまなメリットがあります。
従業員のモチベーションアップにつながる
役職手当がつくことで毎月の収入が上がり、企業の従業員に対する期待や評価を可視化できます。そのため、従業員のモチベーションアップにつながるでしょう。
従業員のモチベーションアップは生産性の向上や、商品・サービスの質を高める効果が期待できます。その結果、業績の向上や顧客からの信頼・評価の向上・企業イメージのアップへとつながるでしょう。
残業代が出ない管理職の報酬を上げられる
役職手当は、残業代が出ない管理監督者である管理職に対して別の形で支払えるという点もメリットです。管理監督者とは、企業のなかで相応の地位と権限が与えられ、労働条件の決定など労務管理について経営者と一体的な立場と評価できる従業員のことです。
役職についている従業員が「管理監督者」にあたる場合、労働基準法で定められた労働時間や休日等に関する規制が適用されず、残業代も支給されません。
そのような管理職にも役職手当という名目で、支給されない残業代に相応する賃金を支払えます。
役職手当の金額の決め方
役職手当の金額は、次の手順で行うとスムーズに決められます。
- 役職区分を整理する
- 責任の重さに応じて金額を設定する
- バランスを調整する
それぞれの手順をみていきましょう。
役職区分を整理する
役職の名称や区分は会社によってさまざまですが、主に職務内容によって次のように分類できます。
職務内容 | 主な役職名 |
---|---|
複数の組織を管理する | 部長、次長、店長、ゼネラルマネジャー |
特定の部署を管理する | 課長、室長、マネージャー |
係やチームを管理する | 係長、班長、リーダー |
スキルが高く、現場をサポートする | 主任・チーフ・サブリーダー |
役職を分類すれば、それぞれの階層ごとに金額を設定することができます。
区分に応じて金額を設定する
区分した役職ごとに、求める業務の難易度や責任の重さなどに応じて大まかな金額を設定します。
業種によって役職手当の相場は異なるため、自社の業界の傾向や相場も調査しておくとよいでしょう。ただし、業界平均に合わせる必要はなく、あくまで自社の財政状況や今後の事業の見通しなどを考慮するようにしましょう。
具体的に金額を決めるときは、権限の低い役職から金額を設定し、それを基準に上の役職の金額を考えていくとバランスをとりやすくなります。
バランスを調整する
大まかな金額を決定したら、全体のバランスを調整します。基本給や他の手当と合わせ、妥当な金額になるかを検討してください。
役職ごとの金額に差をつけるなかで、必要以上に高くなったり安くなったりすることが考えられます。金額の差が不公平感を与えることの内容に調整しましょう。
また、管理監督者にあたり残業手当が出ない役職については、想定される残業時間をもとに残業代を計算し、その金額をベースに金額を決めるという方法もあります。
役職手当の相場
役職手当の金額を決めるときは、役職ごとの相場を知っておくと目安になります。
役職手当は会社規模により幅がありますが、相場は次のとおりです。
- 主任クラス:5,000円〜1万円
- 係長クラス:1万5,000円〜3万円
- 課長クラス:4万5,000円〜8万円
- 部長クラス:7万円〜13万円
主任クラスは従業員のなかでスキルの高い者が登用されることが多く、業務における責任の重さは一般社員とそれほど変わりません。現場のサポートや後輩の指導、上司と一般社員のパイプ役になるといった役割があり、役職手当もそれほど高くはないでしょう。
係長クラスはチームリーダーとも呼ばれ、「課」の下に位置付けられる組織の最小単位を統率する役割があります。現場の責任者として、自身の業務を行いながらチーム全体の目標達成にも責任を追う立場になり、主任クラスよりも2倍程度高くなるのが相場です。
課長クラスは組織の中堅リーダーとして課全体をマネージメントします。その一方で、部長以上の上長からの指示を受け、実行する責任を担います。役職手当の金額は係長クラスよりも高く、管理監督者として残業代に相当する金額も考慮する必要があるでしょう。
部長クラスは、部署を統率・管理する役職であり、経営層や役員に近い地位にあります。戦略の意思決定に関わり、責任の重さから相応の金の設定が求められるでしょう。
役職手当を設定する際の注意点
役職手当を設定する際は、いくつか注意したい点があります。
詳しくみていきましょう。
管理職と非管理職の給与逆転現象に気をつける
管理監督者にあたる管理職と非管理職は給与逆転現象が起きる可能性があるため、注意が必要です。
管理監督者には残業手当や休日出勤手当が支給されないため、非管理職にそれらの手当が多くつく場合、給与が管理職を上回る可能性があるためです。
責任が重いにもかかわらず、非管理職よりも給与が低いことになれば、管理職を目指す従業員はいなくなるでしょう。残業手当や休日出勤手当に代わるだけの役職手当を支給する必要があります。
役職手当を設定したら就業規則に明記する
役職手当を支給する場合は、役職名や手当の定義などを就業規則に明記しなければなりません。労働基準法では、就業規則への記載が必要な「絶対的必要記載事項」として「賃金の決定、計算および支払方法、賃金の締切りおよび支払時期」を定めており、役職手当はこの「賃金」にあたるためです。
明記している場合にも、役職名や金額などの変更がある場合は、所轄の労働基準監督署長へ届出が必要です。
一方的な役職手当の減額はできない
設定した役職手当は、会社側の都合で一方的に減額はできません。従業員の不利益になる変更は、従業員の同意が必要になります。
また、合理的な理由なしに就業規則を改定して役職手当を減額することも許されません。個別に従業員の同意を得る場合は、役職手当を減額する理由について十分な説明を行い、書面による同意書の取得が必要です。
ただし、人事異動や人事評価による減額は不利益変更にはあたらず、減額することは可能です。また、降格により役職が変更した場合は、手当の減額が認められます。
役職手当に関するよくある質問
役職手当についてよくある質問は、次の3つです。
- 役職手当をもらっても残業代は請求できる?
- 複数の役職を兼任した場合の役職手当は合算?
- 役職手当は課税対象?
それぞれ、回答を紹介します。
役職手当をもらっても残業代は請求できる?
役職手当に残業代は含まれていないため、もともと残業代が支給されない管理監督者以外は請求できます。
そもそも残業代は時間外労働をした場合、その時間に応じて支給されるため、固定した金額で支給することは適切ではありません。
ただし、残業時間があらかじめ予測される場合、固定残業代として役職手当に含める場合もあります。その場合でも、固定残業時間として決められた時間を超えて残業した場合、残業代の支給が必要です。
複数の役職を兼任した場合の役職手当は合算?
複数の役職を兼務している場合、兼務する役職のうち、どちらを支給対象とするかは企業ごとに異なります。一般的には、役職としてのポジションが高い方や支給額が多い方の役職手当を支給することが多いでしょう。
役職を兼務することで従業員の負荷が重くなる場合は、その度合いに応じて手当を増額するなど、判断は企業に委ねられています。
いずれの場合でも、兼務の際の取り扱いは就業規則への記載が必要です。
役職手当は課税対象?
企業が役員や従業員に対して支給する手当は給与所得の一部であり、原則として支給額に応じた所得税が課税されます。
通勤手当のうち一定金額以下のものや、転勤・出張などの旅費のうち必要と認められるものなど、給与所得に含まない手当もありますが、役職手当はこれらの例外にあたらず、給与所得として所得税の課税対象です。
役職手当の決め方や相場を知って適切に金額を決めよう
役職手当は法的義務ではなく、企業は任意で支給できます。役職手当の支給により従業員のモチベーションが高まり、生産性向上につながるなどのメリットがあります。
役職手当を決める際は相場を確認し、役職ごとのバランスを調整して過不足のない金額を設定してください。役職手当を設定したら、就業規則への記載も忘れずに行いましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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