• 作成日 : 2023年1月27日

厚生年金保険料が2ヶ月分引かれた!社会保険料の徴収ルールを解説

厚生年金の保険料は毎月の給与から天引きされ、会社が日本年金機構に納付しています。給与から控除される保険料は、原則前月分に相当する1ヶ月分です。しかし、退職のタイミングによっては、2ヶ月分まとめて徴収されるケースがあります。どのような場合に2ヶ月分天引きされるのでしょうか。当記事では、社会保険料の徴収ルールを解説します。

厚生年金保険料が2ヵ月分引かれた理由は?

厚生年金の保険料が2ヶ月分まとめて天引きされた原因は、月末付けで退職したためです。厚生年金保険料は月末時点で在籍している従業員に納付義務が発生するため、退職のタイミングによっては前月分と当月分の2ヶ月分の保険料が一度に控除されるケースがあります。

厚生年金保険料の控除に関するルールは厚生年金保険法に規定されているため、改めてここで紹介しましょう。

  • 月末時点で厚生年金に加入していると当月分の保険料が1ヶ月分発生する
  • 保険料は月単位で発生し日割り計算はされない
  • 月の途中で退職した場合は当月分の保険料は発生しない
  • 事業主は当月分の給与から前月分の保険料を控除できる
  • ただし月末付けで退職した場合は前月分と当月分の2ヶ月分の保険料を控除できる
  • 厚生年金保険の資格喪失日は退職日の翌日
  • 入社と同月に退職した場合は1ヶ月分の保険料が発生する(同月得喪)

上記の通り、事業主が控除できる保険料は前月分に相当する1ヶ月分と定められています。しかし、月末退職の場合は例外として前月分と退職月分の2ヶ月分の保険料控除が可能です。保険料が2ヶ月分引かれた原因は、月末付けで退職したためと考えられます。

参考:退職した従業員の保険料の徴収|日本年金機構

厚生年金保険は社会保険のひとつ

公的年金制度である「厚生年金保険」は、「社会保険」の一つです。社会保険には厚生年金保険の他に、公的医療保険の「健康保険」が含まれます。日本は国民皆年金制度・国民皆保険制度を採用しているため、社会保険適用事業所に所属し一定の条件を満たした労働者は必ず社会保険に加入しなければなりません。

さらに、40歳以上の被保険者は、要介護者を支える「介護保険」にも加入が必須です。また、雇用を維持するための「雇用保険」と、業務上の事由による負傷・疾病・障害・死亡に対して労働者を保護する「労働者災害補償保険(労災保険)」からなる「労働保険」を含めて、「広義の社会保険」と呼ぶこともあります。

広義の社会保険社会保険厚生年金保険
健康保険
介護保険
労働保険雇用保険
労働者災害補償保険(労災保険)

社会保険について、詳しくはこちらの記事をお読みください。

退職時の社会保険料の徴収ルールは?

社会保険料は月単位で発生し、日割り計算はされません。月末時点で在籍している被保険者に保険料の納付義務が生じるため、退職のタイミングによってかかる保険料が異なります。退職時の保険料徴収ルールについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。

月末に退職する場合

まず、社会保険料の徴収ルールをおさらいしましょう。当月分の給与からは前月分の保険料に該当する1ヶ月分のみを徴収できる「翌月控除」が原則です。例えば、5月に支給される給与から控除できるのは4月分の保険料となります。
一方で、保険料が発生するタイミングは月末です。月末付で退職する場合は、例外的に前月分の保険料と当月分の保険料の2ヶ月分を一度に徴収できるルールとなっています。これは、給与の締め日と支給日の兼ね合いから翌月の給与が少なく、社会保険料を控除できない可能性があるためです。

例えば、25日締め当月末払いの会社の場合、月末に退職すると翌月の給与は26日から月末までの分なので、社会保険料を1ヶ月分控除できない可能性があります。25日締め当月末払いの会社を5月31日に退職する場合、5月末に支給される給与から4月分と5月分の保険料が一度に徴収されるため注意が必要です。
一方、月末締め翌月25日払いのような場合は、通常通り6月25日に支給される最後の給与から5月分の保険料が控除されます。

月末退職であっても給与の締め日と支給日によって控除されるタイミングが異なるため、会社に確認するようにしましょう。

  • 25日締め当月末払いの会社を5月31日に退職する場合
    社会保険料 25日締め当月末払いの会社を5月31日に退職する場合
  • 月末締め翌月25日払いの会社を5月31日に退職する場合
    社会保険料 25日締め当月末払いの会社を5月30日に退職する場合

30日付け(月末1日前)で退職する場合

前章でも説明した通り、社会保険料が発生するタイミングは月末です。月末時点で社会保険に加入している被保険者に保険料の納付義務が生じるため、月末1日前に退職する場合は当月分の保険料を負担する必要はありません。

例えば、5月30日付けで退職した場合、5月分の保険料は不要です。5月分の給与から4月分の社会保険料が控除されるのみとなります。なお、社会保険の資格喪失日は退職日の翌日です。すなわち、5月30日に退職する場合は5月31日付けで社会保険の資格を喪失します。退職日である5月30日まで社会保険は有効ですが、5月分の保険料はかからない点に気をつけましょう。5月分給与または6月支給の最終給与から、5月分の保険料は控除されません。

  • 25日締め当月末払いの会社を5月30日に退職する場合
    社会保険料 月末締め翌月25日払いの会社を5月31日に退職する場合
  • 月末締め翌月25日払いの会社を5月30日に退職する場合
    月末締め翌月25日払いの会社を5月30日に退職する場合

15日付けで退職した場合

続いて、15日付けで退職する場合を紹介します。この場合は、前章の月末1日前に退職した場合と同様に当月分の社会保険料はかかりません。5月15日に退職した場合は、4月分の社会保険料が最後の保険料負担です。
控除されるタイミングは、翌月控除の原則に従い5月分の給与から徴収となります。社会保険の資格は退職日の5月15日まで有効ですが、5月分の保険料はかからない点に気を付けましょう。5月分給与・6月支給の最終給与から、5月分の保険料は控除されません。

  • 25日締め当月末払いの会社を5月15日に退職する場合
    社会保険料 月末締め翌月25日払いの会社を5月30日に退職する場合
  • 月末締め翌月25日払いの会社を5月15日に退職する場合
    社会保険料 月末締め翌月25日払いの会社を5月15日に退職する場合

入社した月に退職する場合

社会保険料は月末時点で加入している被保険者に納付義務が生じますが、入社した月に退職した場合は1ヶ月分の保険料がかかります。社会保険の資格を取得した同月に資格を喪失することを「同月得喪」といい、これに該当する場合は1ヶ月分の保険料を納付しなければならないため気をつけましょう。

なお、資格喪失は退職日の翌日に設定されているため、月末退職の場合は同月得喪とはいいません。ただし、保険料については同月得喪と同様1ヶ月分かかるため注意が必要です。一方、資格を喪失した同月に再就職等で再度厚生年金保険に加入した場合や、独立などで国民年金に切り替えた場合は、先に喪失した厚生年金の保険料を納付する必要はありません。元在籍していた会社経由で還付を受けられるため、忘れずに確認しましょう。

なお、健康保険には還付制度はなく、別途健康保険や国民健康保険に加入した場合は2重に保険料がかかる場合があるため、注意が必要です。

参考:月の途中で入社したときや、退職したときは、厚生年金保険の保険料はどのようになりますか。|日本年金機構

月末退職だと社会保険料を損する?

月末退職だと社会保険料が前月分と当月分の2ヶ月分控除されるため、月末1日前や15日など月の半ばで退職した方がお得と思われるかもしれません。しかし、ここで思い出していただきたいのが、日本の公的保険における国民皆年金制度・国民皆保険制度です。

日本国民は何らかの年金制度・医療保険制度に加入することが義務付けられているため、月末退職を避けて社会保険料を1ヶ月分浮かせたとしても、代わりに国民年金や国民健康保険に加入し保険料を納付しなければなりません。しかも、社会保険料は事業主と労働者が半額ずつ負担する労使折半なので、全額自己負担の国民年金・国民健康保険に切り替えると保険料負担が増える可能性があります。
月末1日前や15日などに退職すると、退職月は労使折半の社会保険ではなく、全額自己負担の国民年金や国民健康保険の保険料を納付しなければなりません。さらに、国民年金や国民健康保険には扶養制度がないため、配偶者等を会社の社会保険に扶養加入させていた場合は、被扶養者の分の保険料負担が増えてしまいます。退職後すぐに再就職し社会保険に再加入する場合や、親族や配偶者の社会保険に扶養加入する場合以外は、月末に退職した方がトータルの負担が抑えられる可能性もあります。

また、厚生年金の加入期間が短くなると将来受給できる年金額が減ってしまう点にも注意が必要です。退職するタイミングは、メリット・デメリットを十分比較した上で判断するようにしましょう。

  • 月末退職の場合
    社会保険料 月末退職の場合
  • 15日付けで退職する場合
    社会保険料 15日付けで退職する場合

保険料の徴収ルールを把握し退職のタイミングを決めよう

社会保険料の徴収ルールを解説しました。社会保険料は原則として前月1ヶ月分の保険料が当月分の給与から控除されますが、月末退職の場合は例外的に2ヶ月分まとめて控除されることがあります。一方、社会保険料は月末時点で加入している被保険者に納付義務が生じるため、月末1日前や15日付けで退職すると当月分の保険料はかかりません。

控除される社会保険料が1ヶ月分減るため一見お得に思われるかもしれませんが、代わりに国民年金や国民健康保険の保険料を納付しなければならないため注意が必要です。月の半ばで退職すると厚生年金の加入期間が短くなり、将来の年金受給額が減っていしまうなどのデメリットもあります。
当記事を参考にメリット・デメリットを十分考慮し、退職するタイミングを決めるようにしましょう。

よくある質問

厚生年金保険料が2ヵ月分引かれた理由は?

月末付けで退職したためと考えられます。厚生年金保険料は原則として前月1ヶ月分の保険料が当月分の給与から控除されますが、月末退職の場合は例外的に2ヶ月分引かれることがあります。詳しくはこちらをご覧ください。

月末退職だと社会保険料を損する?

月末退職だと社会保険料が2重で引かれるため損だと思われがちです。しかし、月半ばで退職した場合は代わりに国民年金や国民健康保険の保険料を納付しなければならないため、単純に損得を判断することはできません。詳しくはこちらをご覧ください。


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