- 更新日 : 2025年2月10日
2025年4月~出生後休業支援給付金とは?手取り10割が育休中にもらえる条件
出生後休業支援給付金とは、子育て中の親に対する経済的支援を目的とした給付金のことです。
育児休業中の所得減少を補うことで、子育て・仕事の両立をサポートします。
2025年4月より施行されるこの制度について、支給要件や支給額の計算方法がわからずにお困りの人事労務担当者も多いでしょう。
そこで、この記事では出生後休業支援給付金に関して、企業や担当者が把握しておくべきことを網羅して解説します。
目次
出生後休業支援給付金とは?
出生後休業支援給付金は、育児休業給付に上乗せ支給をすることで、育児休業中の経済支援をする制度です。
2025年4月から施行されるこの制度は、育児休業を取得した従業員に対して、休業中の生活を支えるためのものです。
この給付金は、育児休業給付金の一部として、社会保険料に上乗せして支払われている「子ども・子育て支援金」を財源として支給されます。
この章では、出生後休業支援給付金の対象期間・支給条件・支給額の概要を解説します。
出生後休業支援給付金はいつからいつまで?
出生後休業支援給付金は、出産後に取得する育児休業期間を対象に支給されます。
具体的には、男性は子の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内に取得する育児休業が対象です。
この期間中に、育児休業を2回以上に分けて取得する場合でも、それぞれの休業期間が支給対象となります。
ただし、従業員が育児休業を取得していることが前提条件となります。
人事労務担当者は、対象期間が限定されている点に注意し、従業員と密に連携して申請漏れを防ぐことが重要です。
出生後休業支援給付金の支給条件
出生後休業支援給付金の支給条件は主に以下の通りです。
- 出生時休業開始日前2年間に、みなし被保険者期間が12か月以上あること
- 子の出生直後の一定期間以内(男性は子の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内)に育児休業を取得すること
- 被保険者とその配偶者の両方が14日以上の育児休業を取得すること
出生後休業支援給付金は、夫婦ともに14日以上の育児休業を取得している必要があるので、男性の育休取得を促進する目的もあります。
出生後休業支援給付金の支給額
出生後休業支援給付金の支給額は、休業開始前の賃金を基に計算されます。
具体的には、「出生後休業開始時の賃金日額×出生後休業日数(上限28日)×13%」が支給される金額です。
育児休業給付金は休業前賃金の最大67%が支給されるため、出生後休業支援給付金の13%を上乗せすると、最大80%が支給される仕組みになっています。
ただし、休業期間中に一定の収入がある場合は、その分が控除される可能性があります。
出生後休業支援給付金の支給申請手続
出生後休業支援給付金の支給申請手続は、原則会社経由で、育児休業給付の初回申請または出生時育児休業給付の申請と兼ねることとされています。
出生後休業支援給付金の支給申請手続や申請書などはまだ公表されていないため、人事担当者は常に最新情報をチェックしておきましょう。
出生後休業支援給付金は手取り10割とはどういうことか
「手取り10割」とは、育児休業中の収入が休業前の手取り額と同等になることを指します。
通常、育児休業給付金は休業前の賃金日額の67%(休業開始から180日間)または50%(181日以降)が支給されます。
出生後休業支援給付金はこれに上乗せされ、実質的に手取り額が100%に近づく仕組みです。
育児休業期間中は社会保険料は免除されます。就労収入のおおむね20%が社会保険料等であることから、休業開始時賃金日額の80%=手取り分の100%といわれるのはこのためです。
手取りが実質10割になることで夫婦揃って育児休業を取得しやすくなります。
出生後休業支援給付金の支給額の計算方法
出生後休業支援給付金の支給額は、休業開始前の賃金日額を基に算出されます。
計算式は「出生後休業開始時の賃金日額×出生後休業日数(上限28日)×13%」です。
ここでの「賃金日額」は、休業開始前6ヵ月間の総支給額を180日で割った額です。
支給日数は育児休業を取得した日数を指します。
たとえば、月給30万円の従業員が4週間(28日間)休業した場合は、下記のように計算します。
賃金日額=30万円×6ヵ月 ÷ 180日 = 1万円
支給額 = 1万円 × 28日 × 0.13 = 3万6,400円
ただし、休業期間中に一定額以上の収入がある場合、減額される場合があります。
出生後休業支援給付金と現行の育児休業給付金との違い
出生後休業支援給付金は、現行の育児休業給付金に上乗せして支給される給付金です。そのため、出生後休業支援給付金のみを単体で受け取ることはできません。
出生後休業支援給付金と現行の育児休業給付金を合わせて支給することで、手取り実質10割となり、育児休業中の金銭面をサポートします。
これにより、父親の育児参加を促進し、夫婦間で育児負担を分担することを目的としています。
産後パパ育休と出生後休業支援給付金は同時にもらえる?
産後パパ育休(出生時育児休業)と出生後休業支援給付金は、同時に利用可能です。
産後パパ育休は、子どもの出生後8週間以内に最長4週間取得できる特別な育児休業制度で、これに伴う休業期間中に出生後休業支援給付金が支給されます。
両親ともに育児休業を取得することを促進することが目的であり、出生時育児休業給付と併給されることで、特に男性の育休取得がしやすくなることが期待できます。
ただし、育休中に一定額を超える就業がある場合は、給付金が減額または支給されない可能性があるため注意が必要です。
出生後休業支援給付金の支給要件の例外
出生後休業支援給付金には、一般的な支給要件に加え、家族の状況に応じた例外規定があるため、詳しく解説します。
配偶者が専業主婦(夫)もしくは配偶者がいない場合
配偶者が専業主婦(夫)もしくは配偶者がいない場合でも、出生後休業支援給付金の支給対象となります。
出生後休業支援給付金の支給条件は、「被保険者とその配偶者の両方が14日以上の育児休業を取得すること」です。
しかし、配偶者が専業主婦(夫)もしくは配偶者がいないひとり親家庭の場合は、配偶者が育児休業を取得していなくても支給するとされています。
配偶者が雇用労働者以外
配偶者が自営業者やフリーランスなど、雇用労働者ではない場合も、出生後休業支援給付金の支給対象となります。
育児休業を取得する本人が雇用保険に加入しており、ほかの要件を満たしていれば問題ありません。
出生後休業支援給付金の支給中の社会保険料はどうなる
出生後休業支援給付金の受給期間中、すなわち育児休業期間中は社会保険料は免除されるため、労働者にとっては経済的負担は軽減されます。
また、育児休業給付等は雇用保険料の徴収対象外で、所得税も賦課対象外です。
厚生年金・健康保険料
出生後休業支援給付金の受給期間中は、厚生年金保険料・健康保険料が原則として免除されます。
この免除措置は、育児休業取得者が経済的な負担を軽減できるように設けられており、会社が「育児休業等取得者申出書」を年金事務所に提出することにより行います。
免除期間中も健康保険の適用を受けられ、厚生年金保険料は「納付済期間」とされるため、将来的な年金額や健康保険の給付に影響はありません。
雇用保険料
雇用保険料は、出生後休業支援給付金の支給中に控除されることはありません。
育児休業中の賃金がゼロになり給付金のみとなるため、保険料の負担は発生しない仕組みです。
ただし、育児休業中に一定額以上の収入がある場合は、給与に対して雇用保険料が発生する可能性があります。
その場合、通常の給与から計算される雇用保険料が控除されるため、注意が必要です。
所得税
出生後休業支援給付金は、非課税所得として扱われるため、所得税は課されません。
ただし、休業期間中に給与や手当が支払われた場合、それらの金額が課税対象となるため、所得税が控除される可能性があります。
従業員がこの点を理解していないと、年末調整や確定申告時に混乱を招くことがあるため、人事担当者は給付金と給与の課税関係を明確に説明する必要があります。
住民税
住民税は前年の所得に基づいて計算されるため、出生後休業支援給付金を受け取る年においても、通常通りの納付義務が発生します。
給付金自体は非課税ですが、前年に課税所得がある場合、その分の住民税が課されます。
育児休業中に給与が支払われない場合でも、住民税を納付する必要があるため、事前に納付スケジュールや金額を把握しておくことが重要です。
休業中の支払いに備えるため、人事担当者は従業員に対して住民税の取り扱いについて説明しておくとよいでしょう。
出生後休業支援給付金で期待されるメリット
育児休業中の収入を補償する出生後休業支援給付金は、家庭の育児環境を改善し、子育てと仕事の両立を支援するための重要な役割を果たします。
この章では、出生後休業支援給付金で期待される3つのメリットについて解説します。
男性も育休を取得しやすい
出生後休業支援給付金により、男性が育児休業を取得しやすくなります。
父親が主な収入源である家庭では、育休中の収入減少が不安要素となりがちですが、給付金がその懸念を解消します。
そのため、父親が育児に積極的に参加しやすくなり、職場で男性の育休取得もしやすくなるでしょう。
また、企業が従業員の育休取得を後押しすることで、職場全体のワークライフバランスを向上させ、従業員満足度の向上にもつながります。
夫婦で育児の分担ができる
出生後休業支援給付金の導入により、夫婦での育児分担がより現実的になります。
男性が育児休業を取得することで、母親の育児負担を軽減し、家事や育児を夫婦で分担できる大きなメリットです。
これにより、父親の育児参加率が向上し、子育てしやすい環境作りを促進できます。
また、夫婦間での役割分担が柔軟になれば、家庭内のコミュニケーションも円滑になるでしょう。
出生後休業支援給付金は金銭面のサポートだけではなく、育児に対する心理的負担の軽減も期待されます。
育休中も収入が補償される
出生後休業支援給付金を受けることで、育休中の収入が一定割合で補償され、休業期間中の生活費の不安を軽減できます。
この補償により、育休を取得しやすくなり、育児負担の軽減につながるでしょう。
また、給付金は非課税で支給されるため、実質的な手取り額は休業前の手取りと近い水準となる場合が多いです。
出生後休業支援給付金は、育児と仕事の両立を支援するだけでなく、育休取得による経済的な不安を軽減する役割があります。
出生後休業支援給付で企業が行う対応
出生後休業支援給付金の申請手続きを従業員が円滑に行えるよう、企業が行う手続きや必要書類、注意点などを解説します。
育児休業給付金または出生時育児休業給付金と併せて申請する
出生後休業支援給付金は、育児休業給付金や出生時育児休業給付金と併せて申請する必要があります。
これにより、申請者は複数の手続き負担を軽減でき、スムーズに給付金を受け取れます。
企業の人事担当者は、申請書類の準備や提出スケジュールを従業員に案内し、必要な情報を適切に提供しなくてはなりません。
出生後休業支援給付金の申請手続きや申請書類に関してはまだ公表されていないため、人事担当者は常に最新情報をチェックしておきましょう。
男性も育児休業を取得しやすい環境を整える
出生後休業支援給付金を効果的に活用するには、男性が育児休業を取得しやすい職場環境の整備が必要です。
そのためには、育児休業の取得がキャリアに影響しないことを企業側が明確にし、取得を推奨する姿勢を示すことが求められます。
また、職場文化や周囲のプレッシャーといった取得を妨げる要因を取り除くため、社内での啓発活動やロールモデルの紹介などを行うとより効果的です。
さらに、休業取得者の業務をサポートする体制を整え、復職後もスムーズに業務に戻れるよう配慮することも大切です。
出生後休業支援給付金が不支給となる場合
出生後休業支援給付金が不支給となる主なケースとして、以下の例があります。
ケース | 概要 |
---|---|
育児休業期間中に一定以上の賃金が支払われた | 給付金の支給対象外となる収入が発生すると、不支給となる可能性がある |
申請期限を過ぎた | 給付金は一定の期限内に申請する必要があり、これを過ぎると申請が無効になる |
育児休業の要件を満たしていない | 育児休業期間が法律で定められた期間外である場合や、育児目的以外の休業である場合には給付対象外となる |
雇用保険に未加入 | 給付金は雇用保険に加入している労働者が対象であるため、未加入者は対象外となる |
企業の人事担当者は、不支給となるケースを把握し、従業員がこれらの条件を満たしているか事前に確認する必要があります。
また、支給条件や不支給の理由を明確に説明することで、従業員の理解を深めることが求められます。
出生後休業支援給付金は育休中の経済不安を解消する制度
出生後休業支援給付金は、育児休業中の経済的負担を軽減し、男性の育児参加を促進する制度です。
企業側は従業員がスムーズに申請できるようなサポート体制を整備しなくてはなりません。
また、不支給となる要件や申請期限などを正確に把握し、従業員が安心して制度を利用できるよう努めることが大切です。
出生後休業支援給付金を効果的に活用することで、従業員満足度を高めると同時に、企業の社会的責任の遂行にもつながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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