• 更新日 : 2024年3月27日

給与明細の作成方法を徹底解説!

給与明細の作成方法を徹底解説!

給与明細を作成するにあたって必要な給与の計算は、まず勤務時間や残業時間を集計し基本給に残業手当や各種手当を加えます。そこから社会保険料や源泉所得税、住民税を控除し差引支給額を算出します。給与計算ソフトがあると効率的に作成できるでしょう。今回は給与明細の作成前に準備しておくものや、作成の手順などを解説します。

給与明細はなぜ必要?

労働基準法に関する行政通達では、給与を口座振込の方法で支給する場合には「賃金の支払いに関する計算書」を交付することを求めています。労働時間や賃金などの労働条件の最低基準を定めた「労働基準法」において、給与明細の発行は義務付けられてはいませんが、行政通達を考慮すると発行すべきものだといえるでしょう。

所得税法第231条では給与から控除した金額を示す計算書と、支払明細などを発行しなければならない旨が定められており、一般的にはこれらを給与明細に記載し発行します。「所得税法」のなかで厳密に「給与明細」の発行を義務付けられているわけではありません。しかし第231条により、給与明細を発行しない場合、所得税法に違反する可能性があるでしょう。また、健康保険法第167条第3項、労働保険の保険料の徴収等に関する法律第32条第1項において、控除額を知らせることが義務付けられています。

上記の内容を踏まえると、従業員に対して給与明細を発行することは必須と捉えるべきでしょう。なお、給与明細は電子化が可能ですが、従業員の承諾を受ける必要があることに注意が必要です。給与明細の電子化を検討している方は、以下の記事を参考にしてください。

給与明細に記載必須の項目

給与明細への記載が必須な項目としては、下記が挙げられます。

  • 勤怠に関する項目
  • 給与の支給に関する項目
  • 給与から控除する項目
  • 課税対象額
  • 口座振込額

勤怠に関する項目とは出勤日数や欠勤日数、その月の労働時間などのことです。また、給与の支給に関する項目には基本給や残業手当、資格手当や通勤手当などの各種手当を記載します。通勤手当については、所得税が非課税となるため注意が必要です。

給与から控除する項目とは、下記のような税金や保険料のことです。

課税対象額は下記の計算式で算出します。

課税対象額=総支給額−非課税手当(通勤手当など)−社会保険料の合計

口座振込額は差引支給額とも呼ばれるもので、給与の支給額から上記の税金や社会保険料などを控除した金額です。

給与明細の作成前に準備しておくもの

給与明細を作成するにあたって準備しておくべきデータや書類は以下のとおりです。

  1. タイムカードなどの勤怠記録
  2. 健康保険・厚生年金保険の被保険者標準報酬決定通知書
  3. 住民税課税決定通知書
  4. 健康保険・厚生年金保険の保険料額表、雇用保険の保険料率表
  5. 源泉徴収税額表

それぞれの内容について解説します。

1.タイムカードなどの勤怠記録

前項の勤怠に関する項目のうち、出勤日数や労働時間などはタイムカードなどの勤怠記録をもとにします。タイムカードはタイムレコーダーにスキャンし出退勤の時刻を記録するものです。そのほか、生体認証やICカードを用いた勤怠管理システムを採用しているケースも多いでしょう。

2.健康保険・厚生年金保険の被保険者標準報酬決定通知書

健康保険・厚生年金保険の被保険者標準報酬決定通知書は、定時決定をおこなうと9月下旬頃に届く書類です。定時決定とは、被保険者の報酬は変動する可能性があるため、標準報酬月額が実際の報酬と大きくかけ離れないように、毎年1回報酬月額を届け出て標準報酬月額が決め直されるものです。

なお、標準報酬月額とは健康保険や厚生年金保険の毎月の保険料を決める際に、実際の金額ではなくいずれかの等級にあてはめて計算をする、もとになる金額をいいます。

被保険者標準報酬決定通知書には10月支給分からの標準報酬月額が記載されており、10月支給分からは新たな標準報酬月額を適用します。

3.住民税課税決定通知書

住民税課税決定通知書は、毎年1月31日までに地方自治体に給与支払い報告書を提出すると、5月31日までに送付されてくる、従業員ごとの毎月の住民税納付額が記載された書類です。

住民税課税決定通知書に記載された住民税の金額を、6月から翌年5月までの1年間、毎月の給与から差し引きます。

4.健康保険・厚生年金保険の保険料額表、雇用保険の保険料率表

健康保険や厚生保険の保険料は保険料額表、雇用保険の保険料は保険料率表を、それぞれ最新のものを確認し、当てはめて求める必要があります。

5.源泉徴収税額表

源泉徴収税額表とは、給与の金額や扶養家族の人数に応じて決められた税額の一覧表のことです。給与を支払うたびに、源泉徴収税額表を用いて徴収税額を決定する必要があります。毎年変更される点に注意しましょう。

給与明細の作成手順

給与明細の作成に必要な書類やデータが用意できたら、実際に作成に入ります。作成の流れは次のようになります。

  1. 勤務時間を集計する
  2. 残業時間と残業代を計算する
  3. 各種手当を計算する
  4. 社会保険料を計算する
  5. 課税対象額を計算する
  6. 源泉所得税を計算する
  7. 住民税を計算する
  8. 各種控除額を計算する
  9. 差し引き支給額を計算する

一つずつ、内容を確認していきましょう。ここでは給与明細を作成する視点からおおまかな流れをご説明しますが、給料の計算方法の詳細は以下の記事を参考にしてください。

1.勤務時間を集計する

はじめにタイムカードなどの勤怠情報をもとに、実際の出勤日数や労働時間を集計します。残業時間や休日出勤日数、深夜残業の時間も漏れなくカウントしましょう。遅刻や早退があった場合は、それらの時間分の賃金を差し引くことになります。不就労控除や欠勤控除の対応は、あらかじめ就業規則や賃金規定に明記しておきましょう。

給与明細への有給休暇の取得日数と失効日数の記載は任意ですが、従業員とのトラブルを回避するためにも記載しておくほうが望ましいです。

2.残業時間と残業代を計算する

次に、残業時間や深夜残業、休日労働の時間をもとに残業代となる残業手当を計算しましょう。残業手当の計算は下記の計算式に基づいておこないます。

時間外手当=時間外労働時間数✕1時間あたりの賃金✕割増率

割増率の最低基準は下記を参考にしてください。

種類
支払う条件
割増率
時間外
(時間外手当・残業手当)
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき
25%以上
時間外労働が限度時間(1か月45時間、1年360時間等)を超えたとき
25%以上(※1)
時間外労働が1か月60時間を超えたとき(※2)
50%以上(※2)
休日
(休日手当)
法定休日(週1日)に勤務させたとき35%以上
深夜
(深夜手当)
22時から5時までの間に勤務させたとき25%以上

※1 25%を超える率とするよう努めることが必要です。
※2 中長期業については、2023年4月1日から適用となります。

引用:しっかりマスター労働基準法ー割増賃金編ー|東京労働局

企業によっては上記を上回る割増率を設定している場合があるため、労働協約や就業規則を確認しましょう。

3.各種手当を計算する

各種手当とは、通勤手当や資格手当、家族手当などを指し、企業によってさまざまな手当が設定されています。ほとんどの場合これらの手当の金額は固定ですが、なかには実際の出勤日数に応じて日割り計算をするケースもあるため、あらかじめ自社のルールを確認しておきましょう。

また、各種手当が所得税非課税に該当するかどうかのチェックが不可欠です。たとえば通勤手当の場合、非課税の上限は下記のとおりであるため、通勤手段を当てはめて計算する必要があります。

通勤の手段非課税となる上限額
公共交通機関のみを利用している場合15万円まで
公共交通機関とマイカーや自転車などを併用している場合すべて合わせて15万円まで
マイカーや自転車2キロ未満は全額非課税、2キロ以上は距離に応じて4,100~31,600円

参考:「マイカー・自転車通勤者の通勤手当」「電車・バス通勤者の通勤手当」|国税庁

4.社会保険料を計算する

勤務時間の集計や各種手当の計算が終わったら、控除する社会保険料の計算をします。対象となるものは下記の保険料です。

  • 健康保険料
  • 厚生年金保険料
  • 介護保険料
  • 雇用保険料

上記のうち健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料は全国健康保険協会・日本年金機構から送付される納付書に記載の保険料を確認します。雇用保険は厚生労働省が公開している「雇用保険料率表」をもとに、月の支給額の合計に雇用保険料率を掛けて算出してください。

5.課税対象額を計算する

続いて、課税対象額を計算します。課税対象額とは、給与の総支給額から通勤手当などの非課税の手当と社会保険料などの合計を引いたものです。

前述したとおり、通勤手当において非課税となる上限が決められているため、すべてが非課税になるわけではありません。課税される分は引かず、非課税の通勤手当のみ差し引く点に注意しましょう。

6.源泉所得税を計算する

源泉所得税は5.で算出した課税対象額をもとに、国税庁の源泉徴収税額表に記載されている税額を確認します。

源泉徴収税額表には「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出した従業員が適用となる「甲欄」と、提出していない従業員が適用となる「乙欄」があるため、該当する欄を見ましょう。「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」とは、従業員が扶養する家族について税金を軽減することを目的とした申告書のことです。

令和4年度の源泉徴収税額表は以下の国税庁のサイトを参考にしてください。

参考:令和4年分 源泉徴収税額表|国税庁

7.住民税を計算する

住民税の税額は、特定の計算式にあてはめて算出する必要はなく、各自治体から送付される「住民税課税決定通知書」に記載されている金額を確認することで事足りるでしょう。

「住民税課税決定通知書」は、一般的に毎月5月末頃までに企業宛に送られてくるものです。給与から差し引く住民税は、この通知書に記載されている金額です。

8.各種控除額を計算する

住民税を確認したら、ここまで計算、確認してきた健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、雇用保険料などの保険料と、所得税や住民税を合計します。組合費や積立金、財形貯蓄など企業独自の控除項目がある場合はそれらも合わせ、控除合計額を計算しましょう。

9.差し引き支給額を計算する

差引支給額とは、いわゆる手取りの給与のことであり、従業員の口座に実際に振り込まれる金額のことです。基本給にここまで求めてきた残業手当や各種手当を合計したものから、社会保険料や税金などを控除したものです。

簡単な計算式にあらわすと下記のようになります。

差引支給額=支給額(基本給+残業手当+各種手当)−控除額(社会保険料、雇用保険料、介護保険料、所得税、住民税)

給与明細の作成に使えるサービス

給与明細作成のための給与計算を効率的におこなうために、エクセルや給与計算ソフトの利用がおすすめです。給与の計算そのものはそれほど難易度が高いわけではありませんが、工程が多く手間がかかる傾向にあるためです。

ここからは、給与計算で利用するエクセルや給与計算ソフトの特徴、メリット・デメリットを解説します。

エクセル

エクセルは基本的に無料で使用できるうえ、操作に慣れている方が多く使い勝手もよい点が特徴です。従業員が10人未満の企業においては、エクセルで給与計算をしているケースも珍しくありません。

しかし、エクセルによって手計算で給与計算をする場合、たとえばアルバイトの時給が時間帯ごとに異なる場合は時間別の数式を組む必要があるなど、やや難易度が高い点がデメリットだといえます。手作業での入力のため、ミスが生じやすいことも考慮しましょう。法改正のたびに計算式をアップデートしなければならず、手間がかかるという問題もあります。

また、作成した給与明細は印刷して手渡しする必要があることがほとんどであり、業務の電子化をすすめることが困難という点もデメリットに挙げられます。

給与計算ソフト

時間と手間がかかる給与計算を効率的におこなうために、給与計算ソフトを利用している企業も多いでしょう。業務の効率化はもちろん、人的ミスの削減効果もあります。また、法改正に対応するための負担も軽減できます。

一方、導入にあたっての費用がかかる点がデメリットの一つです。初期費用や月額料金のほか、インストール型の場合はバージョンアップ時の更新料がかかる場合もあります。また、データ消失への対策が必要な点にも注意しましょう。

給与明細(アルバイト)の無料テンプレート・ひな形

アルバイトの給与や税金、社会保険料を計算し記録するための書式です。
アルバイトの給与明細書のテンプレート(エクセル・ワード)を無料でダウンロードいただけます。

給与明細の作成手段は、メリット・デメリットを踏まえて検討しよう

労働基準法に関する行政通達で「賃金の支払いに関する計算書」の交付が求められており、所得税法で控除金額を示す計算書と支払明細を発行することが定められています。そのため、給与明細の作成は必須でしょう。

給与明細作成のための給与計算を手計算でおこなうのはとても大変です。エクセルで給与計算をしている会社も少なくありませんが、人的ミスを防ぐことが難しく、また法改正への対応や業務の電子化が困難である点がデメリットだといえるでしょう。

とはいえ、給与明細の作成を電子化するにしても、労務担当者や従業員が電子化の仕組みにうまく適応できるよう、配慮する必要があります。電子化への移行が自社の現状にあっているかについては、事前にしっかり検討しましょう。

給与明細の作成や配布について、関連するシステムについては以下の記事も参考にしてみてください。

よくある質問

給与明細はなぜ必要なのですか?

労働基準法に関する行政通達で「賃金の支払いに関する計算書」の交付を求めており、さらに所得税法第231条では、控除金額を示す計算書と支払明細を発行しなければならない旨が定められているためです。詳しくはこちらをご覧ください。

給与明細に記載必須の項目について教えてください

「勤怠に関する項目」「給与の支給に関する項目」「給与から控除する項目」「課税対象額」「口座振込額」などが挙げられます。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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