- 更新日 : 2024年9月13日
役員退職慰労金とは?計算方法と功労加算・税金面の注意点や支給手続きを解説
取締役や監査役などの役員が退職した場合に、会社は役員退職慰労金を対価として支給することができます。
この役員退職慰労金については、支給する側にもされる側にも様々なメリット・デメリットがあります。また、役員退職慰労金を損金算入することで、節税にもつながります。
しかし、役員退職慰労金は、支給手続きや計算方法など理解しておかなければ、税務調査で否認されるリスクもあり、簡単ではありません。
今回は、役員退職慰労金について、功績に応じて加算される功労加算金とあわせて解説していきます。
目次
役員退職慰労金とは?
役員退職慰労金とは、取締役や監査役など役員であった者に対して、退任時に支払われる退職慰労金です。
一般的な退職金は、会社の退職給付制度に基づいたものです。従業員が勤め先から勤続年数や功績などに応じて「過去の勤労の対価」として受け取るものをいいます。
役員退職慰労金も「過去の勤労の対価」として支給されますが、全く同じというわけではありません。
役員退職慰労金と一般的な退職金の大きな違いは、退職金規程に従って支給されるかどうかということです。
一般的な退職金は、企業内部で作成した就業規則(退職金規程)に基づいて支給されます。
これに対し、役員退職慰労金は退職金規定の作成の必要がありません。その代わり定款に役員退職慰労金の支給や支払時期について記載するか、株主総会において決議する必要があります。
実務上、定款に退職金規程を定める企業は少ないため、一般的には株主総会で「役員●●に対し▲▲円の役員退職慰労金を支払う」などの旨を決議します。
役員退職慰労金のメリット
支給する法人・支給される役員の両者について、役員退職慰労金のメリットはあります。
●法人側
役員退職慰労金については、法人税等の節税効果があります。
法人税等の計算を簡単に説明すると、「益金(収入)ー損金(経費)=所得×法人税率」で算出されます。
法人側が支給した役員退職慰労金は、全額が損金として算入されるのです。
よって、所得を圧縮することができ、法人税等の節税に繋がることが期待できます。
また、役員退職慰労金は社会保険料の適用対象外です。そのため、法人側が社会保険料を負担する必要がありません。
●役員側
役員退職慰労金の支給を受ける役員については、その受給額について所得税が課されます。
所得税の計算方法は様々あるのですが、役員退職慰労金は退職所得に該当するため、計算式は
となります。
支給された役員退職慰労金の全体に課税するのではなく、支給金額から控除額を控除した金額に2分の1をかけて半分にすることで税負担を軽減させています。
さらに、退職所得は分離課税とよばれる方法で課税されます。
分離課税では他の所得と合算されることなく、退職所得のみに対して税率が適用されるため、より低い税率で課税されるのです。
役員退職慰労金のデメリット
支給する側の法人にとって、役員退職慰労金のデメリットは存在します。
1点目は、当然ながら支給した分の資金は減少するので、資金繰りが厳しい企業にとっては財政状態の悪化に繋がるという危険性があるという点です。
2点目は、上記でも述べたように、役員退職慰労金は株主総会の決議が必要になることです。
決議がスムーズにすすめば良いのですが、うまくいかないケースも見られます。これにより企業内部の混乱や職場環境の悪化などを招いてしまう恐れがあります。
役員退職慰労金の支給手続き
役員退職慰労金を支給するためには、所定の手続きが必要となります。
手続きをしなかった場合、支給額の損金算入が認められなかったり、支給額を返還する義務が生じたりと問題が発生してしまいます。
手続きとして、定款で役員退職慰労金の支給について定める必要があります。
定款とは、会社の事業内容などの根本的な事項を定めた内規のことをいいます。
その定款に役員退職慰労金の事項を定めておく必要があります。
しかし、実務上、定款に役員退職慰労金について定めている会社は少ないため、定款に定めていない場合は、次の手続きをする必要があります。
役員退職慰労金は株主総会で決議される
役員退職慰労金について定款に定めていない場合には、株主総会において支給の可否、支給方法、支給金額などが決議される決まりとなっています。しかし、実際には株主総会では取締役会に一任する旨の決議が行われることが多いのです。
これは、株主総会は一般株主も参加して意思決定を行う場所と認識されているためです。役員退職慰労金については、会社の運営を決議する取締役会において取り決めしたほうがスムーズという理由が挙げられます。
役員退職慰労金を廃止する動きもある
役員退職慰労金制度を廃止している企業が増加しています。これには、市場の報酬体系が成果主義へと移行しているという背景があります。
社員に対する報酬の評価は成果主義であるのに対し、役員の退職金は勤続年数など従来からの評価方法を採用しているのです。このことは不平等であるとの意見が強くあり、今後も役員退職慰労金を廃止する動きは増加していくと予想されます。
役員退職慰労金の計算方法
役員退職慰労金の計算方法についてご説明します。
「功績倍率法」と「1年当たり平均法」とよばれる2種類の計算方法があります。
●功績倍率法
※功績倍率について、厳密には退職支給額÷(退職時の月額報酬×勤続年数)で求めることができますが、一般的には同業種・同規模の他法人の役員退職給与の支給状況のデータを平均して算出されています。
役員の功績倍率の平均相場は以下のようになっています。
- 代表取締役(創業者)・・・3.0~3.4
- 代表取締役・・・2.4~3.2
- 専務取締役・・・2.2~2.7
- 常務取締役・・・2.0~2.6
- 取締役・・・1.2~2.0
- 監査役・・・1.0~1.6
例えば、退職時の月額報酬が50万円である取締役が、30年勤めて退職される場合(功績倍率を2.0とする)は、
50万円×30年×2.0=3,000万円
が役員退職慰労金として計算されることになります。
しかし、この功績倍率法では役員退職慰労金が不相当に高額な金額となる可能性があるため、より適正額を算出するための補完的な方法として次の方法が採用されています。
●1年あたり平均法
※1年当たり退職金は、同種・同規模法人の役員退職金の支給データを基に算出した、1年あたりの退職金の平均値をいう
1年あたり平均法は、特段の事情がある場合に限り裁判等で使用される方法ですので、通常は功績倍率法を使用します。
功労加算する場合
特に功績を残して退職された役員に対しては、上記の功績倍率法で計算した金額とは別に「功労加算金」として上乗せの退職金を支給することができます。
この30%は一般的に定められている上限割合となりますが、明確には制限されていません。
退職金にかかる税金の計算方法
退職金にかかる税金の計算方法は、上記の役員退職慰労金のメリットでも説明しように
他の計算方法と比べ税負担が軽減されています。
役員退職慰労金の計算算式は、
退職所得金額×所得税率-控除額=所得税
となります。
役員退職慰労金は損金算入が認められる
原則として、役員退職慰労金は取締役会などの決議によりその額が具体的に確定した期に損金算入が認められます。一般的には、役員の退職確定日の属する期に損金が算入されるのです。
役員退職慰労引当金を計上している場合は、税効果会計を適用しなければなりません。
税効果会計とは、企業会計と税務会計のズレを調整し、適切に期間配分する手続きをさします。
役員退職慰労引当金については、会計上の費用とはなりますが、税務上では損金とはなりませんので、ここで一時差異が生じます。
この一時差異については、回収可能性が認められた場合に、税金の前払相当額として繰延税金資産として計上し、一時差異が解消する年度に消去しなければなりません。
税務調査で否認されないための注意点
税務調査で役員退職慰労金が否認されないためには、より適正な役員退職慰労金の額を計算しなければいけません。
極端に高い役員退職慰労金を支給すると、税務署に目を付けられる可能性が高くなってしまいます。
そのため、同業・同規模の他法人の支給実績などに基づいて、無理のない範囲で支給額を決定する必要があります。
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役員退職慰労金をご理解いただけましたでしょうか
役員退職慰労金については理解を深めていただけましたでしょうか?
使い方によっては、法人税の大きな節税にも繋がりますし、支給される役員の税負担も軽減することができるなど、多くのメリットがあります。
ただし、支給手続きや支給額など理解しておかなければ、税務調査で否認されるリスクもあります。
また、報酬体系の成果主義への移行により、役員退職慰労金制度を廃止している企業も増加傾向にあります。
自社の状況を判断し、役員退職慰労金の支給について検討してみてはいかがでしょうか?
よくある質問
役員退職慰労金とは?
取締役や監査役など役員であった者に対して、退任時に支払われる退職慰労金です。詳しくはこちらをご覧ください。
役員退職慰労金の支給手続きは?
定款で役員退職慰労金の支給について定める必要があります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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