- 更新日 : 2024年8月21日
介護離職とは?後悔しない両立方法、企業の取り組み事例、助成金
介護離職とは、家族の介護を理由に仕事を辞めることです。介護離職を防ぐためには、介護休業や介護休暇の制度、勤務先の支援、介護サービスの利用が欠かせません。政府や企業も助成金や柔軟な働き方、再就職支援などを提供しています。本記事では、介護離職とはどのようなものなのか、概要や後悔しない両立方法、企業の取り組み事例、助成金などについて解説します。
目次
介護離職とは?
介護離職とは、家族や親族の介護を理由に仕事を辞めることを指します。日本では少子高齢化が進行しており、介護が必要な高齢者の数が増加する一方で、介護を担う人手が不足している状況です。
介護離職を防ぐためには、社会的な支援や個人の対策が欠かせません。具体的には、介護休業や介護休暇、所定外労働の制限などの制度があります。仕事と介護を両立させるためには、勤務先の制度を利用したり、介護サービスをフル活用したりすることが重要です。
介護離職をしてよかった人、後悔した人、考えた人など、さまざまです。そのため、介護離職を決める前に、視野を広げて慎重に考えなくてはなりません。
介護離職の現状と背景
近年における、日本企業の介護離職はどのような状況なのでしょうか。ここでは、介護離職の現状と背景をご紹介します。
介護離職した人数や割合
総務省による令和4年の就業構造基本調査によれば、直近1年間で介護・看護のために離職した人は約10万6,000人だそうです。このうち、女性が約8万人を占めています。
また、介護離職者は40歳代以上が約9割を占めており、高齢者が多く離職していることも垣間見えます。
経済の損失
介護離職による経済損失は約6,500億円に上ると見込まれています。これは、介護離職に伴って失われる付加価値(付加価値損失)を試算したものです。
そのため、介護離職の問題は改善が必要であり、政府は「介護離職ゼロ」に向けた具体策を示しています。具体的には介護の受け皿の拡大や、仕事と介護の両立が可能な働き方の普及などが必要です。
介護離職となる理由や原因
介護離職に至る原因には、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、厚生労働省の調査データを参考に、介護離職となる理由や原因を3つご紹介します。
勤務先の問題
介護離職に至る原因の中でもっとも多いものが、勤務先の問題です。本人に「仕事を続けたい」という強い意志があったにも関わらず、勤務先での介護と仕事の両立が難しいと感じた方が多くいます。
具体的には、勤務時間の柔軟性がない、休暇取得が難しい、または職場の理解が得られないなど、問題はさまざまです。これらの問題は、介護離職を避けるために改善が求められる課題だといえるでしょう。
サービスの問題
次に多い理由は、介護に関するサービスの問題です。介護保険サービスや障害福祉サービスなど、必要なサポートを受けられない場合、仕事を続けることが困難になることがあります。
また、これらのサービスの存在自体を知らなかったり、利用方法がわからなかったりするケースも少なくありません。これらの情報不足は、介護離職を招く一因となります。
家族・親族などの希望
家族や親族の希望も、介護離職に至る理由の1つです。特に、高齢者や障害を持つ家族がいる場合、その人の介護を優先するために仕事を辞めるという選択をする方もいます。ただし、これは家族間での話し合いや、その人の介護が必要となる状況にもよるでしょう。
参考:令和3年度仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業|厚生労働省
介護離職のメリット・デメリット
介護離職は企業にとって大きな損失ですが、介護者やその家族にとっても経済的な困難をもたらすことがあります。介護と仕事を両立させるためには、各種制度を活用して経済的な安定を保ちつつ介護を続けることが重要です。ここでは、介護離職のメリットとデメリットについて考えてみましょう。
介護離職のメリット
介護離職のメリットは、離職した方が介護に専念できることと、精神的な負担軽減につながることです。
介護離職により、家族の介護に必要な時間とエネルギーを確保できます。24時間体制で介護に従事できるため、緊急時も対応できるでしょう。家族の健康や安全を守るために、介護者として専念することは重要です 。
また仕事と介護の両立は、ストレスや疲労を引き起こすことが多いですが、介護離職により精神的な負担が軽減されることが期待されます。家族の介護に集中できることで、心身の健康を保ちやすくなるのがメリットです。
介護離職のデメリット
経済的な負担が増加することと、社会的な接点が減少することが介護離職のデメリットです。
介護離職により、収入が減少することは避けられません。生活費や介護にかかる費用を考慮する必要があります。そのため、社会保障制度や介護休業制度を活用し、経済的な基盤を維持しながら介護を続けることが必要です。
また、離職により社会的なつながりや職場での役割が変わることで、ストレスを感じることもあります。家族や友人とのコミュニケーションを大切にし、孤立感を和らげることが重要です。
したがって介護離職を選択する際は、家族の状況や自身の体力・精神的な面を考慮し、バランスを取ることが欠かせません。
介護離職の問題点
介護離職に至ることで、問題が発生する場合があります。ここでは、厚生労働省の「令和3年度 仕事と介護の両立等に関する実態把握 のための調査研究事業 報告書 」を参考に、介護離職の問題について解説します。
介護離職後に6割が「負担が増した」と回答
厚生労働省のデータによると、介護離職後に6割の方が「負担が増した」と回答したそうです。このような回答に至った理由としては、以下のようなことが考えられます。
経済的な負担
離職によって収入が途絶えるため、家計が厳しくなることが一般的です。特に、介護には予想以上に費用がかかる場合が多いため、経済的な不安が増大します。
精神的・肉体的な負担
介護を一手に引き受けることになるため、介護者自身の健康や精神的なストレスが増えることが多いです。また、介護と家事など他の責任を同時にこなす必要があるため、疲労やストレスも蓄積します。
社会的な孤立
仕事を辞めることで、社会とのつながりが減り、孤立感を感じることもあるでしょう。精神的なサポートが不足し、ストレスがさらに増す可能性があります。
介護離職から再就職した人の割合は約4割のみ
厚生労働省のデータによると、介護離職者の再就職率は低く、約4割です。これには、以下のような要因が影響している可能性があります。
再就職の困難さ
介護離職した方は、介護の経験が職務経験として評価されにくいケースが多いです。また、離職期間が長い場合、再就職活動が難しくなることがあります。
介護と仕事の両立の難しさ
再就職先でも、介護と仕事を両立させるのが難しいと感じることがあります。実際には、柔軟な勤務時間や、在宅勤務が可能な介護に適した職場を見つけるのは困難です。
スキルや知識の更新不足
介護に専念している間に、仕事に必要なスキルや知識が時代遅れになることがあります。その結果、再就職の際に求められる能力を満たせない可能性もあるでしょう。
参考:令和3年度仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業報告書|厚生労働省
介護離職を解決するための国の支援策・助成金
介護離職による経済的な損失を抑制するため、政府が実施している支援策・助成金は以下のとおりです。
- 介護休業
- 介護休暇
- 残業の免除
- 両立支援等助成金
それぞれの内容を解説します。
介護休業
介護休業制度とは、介護を行う労働者が仕事と介護を両立できるようにするための制度です。具体的には、介護を行うために一時的に仕事を休めます。介護休業は、最大で93日間(3回まで分割可能)まで取得でき、給与の一部が支給される点が特徴です。介護が必要な家族の状態に応じて利用できます。
介護休暇
介護休暇とは、介護を行う労働者が一時的に仕事を休むための制度です。介護休業とは異なり、短期間の休暇を取得できます。具体的な取得方法や期間は、企業ごとに異なりますが、介護が必要な家族の状態に応じて利用できる点が特徴です。
残業の免除
介護を行う労働者に対して、残業を免除する制度があります。これにより、介護と仕事の両立を実現しやすくなるでしょう。残業の免除は、介護が必要な家族の状態に応じて適用されます。
両立支援等助成金
両立支援等助成金は、仕事と家庭の両立支援に取り組む事業主を支援する助成金です。介護離職防止支援コースでは、介護支援プランを作成し、介護休業の取得や職場復帰を促進する場合に助成されます。
参考:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律の概要|厚生労働省
介護離職を防ぐ企業の取り組み
介護離職を抑制するために、各企業ではさまざまな取り組みが実施されています。ここでは、介護離職を防ぐための企業におけるおもな取り組みについて解説します。
介護休業・休職の設定
従業員が介護をするために、一時的に離職できる制度を設けている企業があります。休業・休職の期間は約1年に設定する企業が多く、最長で5年まで可能にしているケースもあるようです。介護のフェーズ(介護開始直後、看取りなど)に合わせて分割利用できるようにしているケースが多く、従業員は介護と仕事を柔軟に調整できます。
相談窓口の整備
従業員が介護に直面したときに相談できる体制を整備し、それを案内しておくことも重要な取り組みです。従業員が適切なサポートを受けられるようにするために、相談窓口を周知しておくことが求められます。介護に関する悩みや問題を共有できる場所を提供することで、従業員はストレスを軽減し、仕事と介護の両立をしやすくなるでしょう。
柔軟な働き方の提供
短時間勤務やフレックスタイム制度を導入することで、従業員が介護と仕事を両立しやすくしている企業もあります。例えば、従業員が朝晩の介護時間に合わせて勤務時間を調整できるようにすることで、ストレスを軽減することが可能です。
介護者の再就職支援
介護離職した従業員が再就職できるように、キャリアサポートや求人情報提供などの支援を行う企業もあります。退職後のキャリアプランニングやスキルアップのサポートを通じて、従業員が新たな職場で活躍できるようにサポートする取り組みです。
介護離職を防ぐ取り組みをしている企業事例
自社で介護離職を抑制するための取り組みを検討する際には、他社事例を参考にするのがおすすめです。ここでは、具体的な企業事例を3つご紹介します。
介護休業無期限|大和ハウス工業
大和ハウス工業は、2012年に「介護休業制度」を導入しました。通常の法律で定められている介護休業期間(93日間)を無期限にすることで、親の介護を必要とする従業員をサポートしているのが特徴です。本制度の導入により同社は、従業員が家族の介護に専念できる環境を提供しています。
介護休業からの復職で一時金|株式会社メルカリ
株式会社メルカリでは、産休・育休・介護休業・傷病休職から復職する際に復職一時金を提供しています。また、結婚休暇や出産休暇に合わせて特別有給休暇の付与、およびお祝い金を支給しているのも特徴です。さらに、家族に不幸があった場合には忌引き休暇や弔慰金も提供されています。
最長2年介護休業が可能|株式会社リコー
株式会社リコーでは、従業員が家族の介護をするために最長2年間の介護休業を取得できる制度を導入しています。本期間中は無給ですが、雇用保険による介護休業給付金が支給されるのが特徴です。同社は、従業員のニーズに合わせた柔軟な働き方を推進しており、介護休業制度はその一環として重視されています。
介護離職で後悔しないために仕事と介護を両立する方法
仕事と介護を両立するためには、以下のポイントを押さえることが大切です。
- 事前の情報収集
- 家族の状況を職場と共有
- 介護サービスの活用
それぞれのポイントを確認しておきましょう。
事前の情報収集
介護休業や介護休暇、所定外労働の制限など、職場の制度を理解しましょう。制度を利用することで、仕事と介護のバランスを取りやすくなります。
例えば、介護休業は、介護を行うために最大93日間の休業を取得できる制度です。本期間中は介護休業給付金が支給されますが、詳細な条件や手続きについては職場の人事部に相談しましょう。
家族の状況を職場と共有
職場に「家族等の介護を行っている」と伝え、必要に応じて「仕事と介護の両立支援制度」を利用しましょう。本制度は、介護を行う従業員に対して柔軟な勤務時間や在宅勤務、一時的な仕事の休業などを提供するものです。職場の理解と協力を得ることで、仕事と介護の両立がしやすくなります。
また、介護離職を避けるために、職場の上司や人事部に相談しましょう。適切な対応を得ることが可能です。例えば、職場の方針に基づいて、フレックスタイムやリモートワークの適用を検討してもらえるでしょう。
介護サービスの活用
「介護=親孝行」という考えに固執せず、介護サービスを積極的に活用しましょう。介護サービスには、訪問介護やデイサービス、ショートステイなどがあります。これらを有効活用することで、自分の健康や生活も大切にしながら、無理なく両立させることが可能です。
参考:介護で離職しないために仕事と介護の両立セミナー|厚生労働省
仕事と介護を両立できる職場環境の実現が大切
介護離職とは家族の介護を理由に仕事を辞めることです。日本では少子高齢化により介護が必要な高齢者が増え、介護離職が社会問題となっています。介護離職を防ぐためには、企業の制度利用や介護サービスの活用が重要です。
多くの企業は介護休業や柔軟な働き方、復職支援などの取り組みを進めています。介護と仕事の両立を支援する国の制度や助成金も活用し、経済的負担を軽減することが求められます。したがって、仕事と介護を両立できる職場環境の構築が必要です。
本記事の内容を参考に、介護離職を抑制する取り組みを検討してみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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