- 更新日 : 2023年9月29日
人事考課とは?いまだと時代遅れ?意味や目的・必要性を解説
人事考課とは、企業が定める基準に基づき、社員の能力や業績、勤務態度などを査定することです。一般的には、昇格や昇進、ボーナス支給時の評価・査定として人事考課が行われています。一方、旧態依然とした人事考課は時代遅れで、時間の無駄と捉える風潮があるのも事実です。当記事では、人事考課の概要や必要性、長所・短所などを紹介します。
目次
人事考課とは?
人事考課とは、企業が定める一定の基準に基づき、社員の能力・業績・勤務態度などを評価する制度です。「考課」という言葉は古くから使われており、奈良時代の官人、いわゆる役人が唐から伝わった「律令」という法律に従い査定を受ける人事評価制度まで遡ります。現在では社員のランク付けを行う「レイティング(Rating)」を示す言葉として使われることが多く、給与や賞与、昇格・昇進の査定として人事考課を行うのが一般的です。ここでは、人事評価との違いについて解説します。
人事評価と違いはある?
人事考課と人事評価は、どのような違いがあるのでしょうか。結論から言うと、人事考課と人事評価に本質的な違いはなく、同一の意味で用いられるケースが多い言葉です。ただし、厳密に言えば人事考課は給与や賞与、昇格・昇進などの査定を意味し、人事評価は従業員の人材育成や能力開発、人事異動などにかかわる、より広義の意味で用いられます。冒頭でも述べた通り、狭義の人事考課は「レイティング(Rating)」を示す場合もあり、その目的によって区別されるケースも一般的です。一般社会では人事考課と人事評価を区別せずに用いる企業も多いことから、ほぼ同じ意味と捉えても差し障りはないでしょう。
人事考課の歴史
人事考課の歴史は、人事評価制度の歴史に他なりません。我が国日本における人事評価制度は、戦後復興期から高度経済成長期、バブル景気、バブル崩壊、バブル崩壊後の低成長期、その後の景気回復期に至る一連の景気変動に合わせ、大きく変遷してきました。近年の情報化社会においては、諸外国の影響も無視できません。ここでは、人事考課の歴史について解説します。
1980年代まで
1950年代(戦後復興期)から1960年代前半(高度経済成長期)においては、いわゆる年功序列・終身雇用・定期昇給などを採用する企業が一般的でした。経済が右肩上がりで成長する高度経済成長下においては、学歴や勤続年数、役職といった人の属性を基準とした人事考課に基づく「職務給」が最適でした。
職務給における人事考課は、社員の能力や実績を評価する制度ではありません。年齢の上昇に伴い賃金に見合った生産性を実現できないケースも見受けられるようになり、社員の質やモチベーションが低下するという弊害も見られました。
このような課題を解決するため、1960年代後半には能力や実績に基づく「職能給」が導入されます。1970年代(オイルショック)から1980年代(バブル景気)においては、「職能主義」に立脚した人事考課が一般的に行われていました。
1990年代・2000年代
1990年代(低成長期)に入ってバブルが崩壊すると、仕事の成果に着目した「成果主義」が注目を集めます。人の属性に基づき人事考課を行う年功序列とは異なり、成果主義では業績に基づいて人事考課を行うのが原則です。また、欧米から広がった成果主義は、「年俸主義」と同時に導入されるケースも多く見られました。長引く景気後退によって年功序列の維持が困難となり、人件費の削減や収益拡大の仕組みが求められた結果です。
成果主義は社員間の競争を促し、生産性の向上に繋がるというメリットがある一方、職場環境が悪化したり社員のストレスが増加したりする弊害が見られました。
行き過ぎた成果主義や、喫緊の少子高齢化に対応するため、2000年代に入ると仕事における役割に着目した「役割主義」が導入されます。経済のグローバル化やニーズの多様化に伴い、企業には新たな人事考課が求められるようになったのです。そのような背景から、MBO(目標管理制度)、360度評価、コンピテンシー評価など新しい人事評価制度が欧米から持ち込まれました。
2010年以降
2010年(景気回復期)から現在に至っては、働き方や価値観の多様化に従い、各企業は新たな人事評価制度を模索し続けているのが現状です。高度な情報化社会においては諸外国の影響も大きく、変化のスピードは加速度的に早くなっています。日本国内では、働き方改革やワークライフバランスなどが注目され、企業には多様な働き方に則した人事考課が求められるようになりました。
近年では、従来の人事管理システムをAIなどのテクノロジーで発展させた「HR Tech(Human Resources Technology)」を導入する企業が増えつつあります。人事考課においてはクラウドサービスの利用も目立つようになり、人事領域における業務効率化が急速に進行しています。深刻化を増す少子高齢化ならびに人材不足に伴い、優秀な人材の確保と業務効率化が喫緊の課題となっているのです。
人事考課の目的
人事考課の一番の目的は、公平・公正な査定の実現です。企業が定める一定の基準に基づき査定を行い、給与・賞与、昇格・昇進などを決定します。査定の基準を明確化し、すべての社員に一律で適用することで、不公平感を排除するのです。
また、人事考課は社員のモチベーションを引き上げて組織を活性化し、継続的な成長を実現するという目的もあります。個人の成長は企業の成長にも繋がるため、人事考課は企業にとって非常に重要な取り組みです。
その他の目的には、企業が掲げるミッション・ビジョン・バリュー、いわゆる「MVV(Mission Vision Value)」の共有があります。MVVに基づく人事評価制度を構築することで、企業理念や目標、行動指針を社員に浸透させる狙いがあるのです。
人事考課はなぜ必要?人事考課の意味
人事考課は時代遅れで必要ないという風潮が、主に欧米を中心に広がりつつあります。しかし、企業側の考えを社員に周知し、公平・公正な評価を実現するためには、人事考課は今なお重要な取り組みです。
まず、人事考課における査定基準は、「企業が社員に対し期待していること」を反映したものでなければなりません。査定基準が明確化されていないと、上司の主観など属人的な評価となってしまう恐れがあります。
公平性に欠ける評価は社員のモチベーションを低下させるだけでなく、人材配置を始めとした人事戦略にも影響を及ぼしかねません。基準を明確化し、公平・公正な査定を実現するには、人事考課という制度が非常に重要です。
適正な人事考課が実現できれば、社員のモチベーションは向上して組織が活性化し、企業の継続的な成長も実現できます。企業が成長し価値を高めていくためには、人事考課が必要なのです。
人事考課を行うメリット・長所
人事考課を行うメリットは、労使双方の理解が深まることです。企業は、査定基準という形で社員にMVVを伝えます。社員にとっては、仕事に対する希望やキャリアパスについて企業に伝える良い機会となるでしょう。社員の希望を聞いた企業は、個々のキャリア形成に最適な人材マネジメントを実現することが可能です。
また、納得感のある人事考課は、社員のエンゲージメントを高める効果も期待できます。エンゲージメントは、社員が企業に抱く愛社精神と言い換えることも可能です。エンゲージメントは、社員のモチベーションに直結します。モチベーションが高い状態では生産性が向上するため、企業価値を高めるためには公平・公正な人事考課が重要なのです。
人事考課を行うデメリット・短所
一方、人事考課を行うには一定の時間とコストが必要です。特に、納得感のある人事考課を実現するには、評価基準の明確化や人事評価制度の構築など、相応の時間と労力を要します。また、人事考課を行う担当者には、高度なスキルが必要です。
納得感のある人事考課が行われないと、社員のモチベーションが低下する恐れもあります。モチベーションの低下や離職を防止するには、バイアスの生じ得ない評価制度や、適切なフィードバックなどが必要です。ただし、一定の基準に則った査定は人材の画一化を招きます。人材要件に変化が生じた際に対応できない恐れがあるため、十分注意しましょう。
人事考課は時代遅れ?今も実施している具体例
冒頭でもお伝えしたとおり、人事考課は時代遅れで時間の無駄と捉える企業が増えてきているのも事実です。特に欧米では、社員をランク付けしない新たな人事評価制度である「ノーレイティング(No Rating)」を導入する先進企業も増加しています。
しかし、「レイティング(Rating)」を基礎とした従来の人事考課には、公平・公正な査定を実現できたり、労使双方の理解が深まったりするなどのメリットがあるのも厳然たる事実です。
具体的には、国家公務員の人事評価においては、能力や実績に基づく人事考課を「人事管理を進めていく上での基礎となる重要なツール」であると定めています。地方公務員についても、組織全体の士気高揚や公務効率の向上を目的に、能力・実績に基づく人事考課を推し進めているのが現状です。
民間においても、今なおレイティングに基づく人事考課を行っている企業は多く見られます。公務員・民間企業を問わず、人事考課は人材の能力を最大限に引き出すツールとして捉えられているのです。
参考:人事評価|人事院
参考:内閣人事局|国家公務員制度|人事評価
参考:地方公共団体における 人事評価制度の導入等について|総務省
人事考課の方法 – 見るべきポイント
人事考課では、「業績による考課」「能力による考課」「情意による考課」の3つの評価軸で査定が行われるのが一般的です。ここでは、人事考課で見るべき3つのポイントを紹介します。
業績による考課
「業績による考課」は「業績考課」と呼ばれ、設定した目標に対する業績・成果に基づく評価基準です。部署・部門の目標に準じた個人目標を設定し、評価期間内のどの程度その目標を達成できたかによって評価が行われます。
なお、目標設定は売上や生産性など、定量的な評価がしやすい目標が好ましいでしょう。ただし、バックオフィスなど、定量的な評価が難しい部署・部門は注意が必要です。業務プロセスなど定性的な側面を考慮しつつ、業務効率化や業務達成度など、なるべく数値化できる目標を設定しましょう。
能力による考課
「能力による考課」は「能力考課」と呼ばれ、社員の能力に基づく評価基準です。社員が持つ「保有能力」、保有能力を最大限に発揮する「発揮能力」、まだ顕在化していない「潜在能力」の3つの評価軸によって、業務遂行能力を評価します。
社会経済状況の急変など外的要因の影響によって、業績・成果だけでは正確な評価が行えないケースもあるため、社員の能力を個別に評価する能力考課は非常に重要です。また、バックオフィスなど定量評価が難しい部署・部門でも正しく評価が行えるというメリットがあり、社員のスキルアップやモチベーションアップなども期待できます。
情意による考課
「情意による考課」は「情意考課」と呼ばれ、仕事に対する意欲や姿勢などに基づく評価基準です。社員の持つ「規律性」「責任性」「協調性」「積極性」などに基づいて評価が行われます。
情意考課においては、企業の定めるMVVに則した評価項目を設定することが重要です。社員の意欲やふるまいなどを多角的に評価できるというメリットがある一方、評価者の主観に左右され客観的な評価が難しく、属人的な評価になりやすいというデメリットもあります。
公平・公正な人事考課は今なお有効な人事評価制度
今回は人事考課について解説しました。人事考課とは、企業が定める基準に基づき、社員の能力や業績、勤務態度などを評価する制度です。人事考課は一般的に、給与やボーナス、昇格や昇進の査定として行われます。
人事考課は時代遅れで時間の無駄と捉える風潮もありますが、労使双方の理解が深まる、社員のエンゲージメントやモチベーションが高まる、などのメリットがあるのも事実です。国家公務員の人事評価においては、能力や実績に基づく人事考課を「重要なツール」として定めています。公平・公正な人事考課は、今なお有効な人事評価制度といえるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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