• 更新日 : 2024年8月29日

定年退職届は必要?再雇用の場合や書類の書き方・手続きについて解説

企業を退職する際には「退職届」を提出するのが一般的です。では、定年退職はどうでしょうか。現在、定年退職の年齢は60歳以上です。しかし、少子高齢化により高年齢者を積極的に雇用しようという流れが起こりました。65歳定年が推奨され、再雇用や雇用延長制度も進められています。本記事では、定年退職の手続きについて詳しく説明します。

定年退職とは?

定年退職とは、企業があらかじめ退職の年齢を定め、従業員はその年齢に達したら退職しなければならない、という制度です。令和4年度の厚生労働省の調査によれば、定年退職制度を取り入れている企業は94.4%で、ごく一般的な制度であることがわかります。

かつて、一般的な定年退職の年齢は60歳でした。しかし、少子高齢化による労働力の減少などを受け、働く意欲のある高年齢者が働きやすい環境を整えるために「高年齢者雇用安定法」に改正が加えられ、現在では定年退職の年齢は以下のように定められています。

  • 定年は60歳以上でなければならない。
  • 定年が65歳未満の場合、以下のいずれかの方法で65歳まで働けるようにする。
    (65歳までの雇用の確保を義務とする)
    1.定年を65歳に引き上げる
    2.定年制の廃止
    3.再雇用制度や雇用延長制度を設ける(希望者全員に適用)
  • 70歳まで働ける環境作りを努力義務とする。

参考:高年齢者雇用安定法改正の概要|厚生労働省
参考:令和4年就労条件総合調査 結果の概況 2 定年制等|厚生労働省

定年退職時に「退職届」は必要?

一般的に、従業員が企業を退職する際には「退職届」を提出します。では、定年まで勤めあげて定年退職する場合には、退職届の提出は必要なのでしょうか。

結論から言うと、退職する企業の取り決めによって異なります。

民法第六百二十七条によれば、雇用の解約(退職)を申し入れてから二週間経過すれば退職できることになっています。申し入れの方法については書かれていません。つまり、書面による届出などではなく口約束でも、二週間たてば退職が成立してしまうのです。しかし、口約束ではなんの記録も残らず、言った・言わないのトラブルになることも少なくありません。そのため、多くの企業では退職する従業員に「退職届」の提出を求めているのです。就業規則などに定められていれば、従業員は提出する義務があります。

では、「定年退職届」の場合はどのような扱いが一般的なのでしょうか。

就業規則などで特に定められていない場合には、提出の必要はありません。また、高年齢者雇用安定法に基づき雇用延長でそのまま働き続ける場合も、退職ではないため必要ありません。ただし、定年に到達して一度退職し、再雇用で勤務形態や職務内容を変えて働く場合などには、一度退職の手続きをして再雇用の手続きが必要です。そのため、通常の定年退職も同様ですが、手続きについてのトラブル防止として「定年退職届」の提出を求める企業が多いようです。また、企業のほうから「退職辞令」を発行する場合もあります。このように、「定年退職届」については企業によりその扱いが異なるため、確認が必要です。

参考:民法(明治二十九年法律第八十九号)|e-Gov法令検索

定年退職届は自己都合か会社都合か

従業員の退職理由に「自己都合」「会社都合」というものがあります。法律などによる定義があるわけではありませんが、「自己都合」とは、結婚や出産、育児、介護、転居、病気やけがの療養、キャリアアップのための転職、懲戒解雇など、従業員側の都合により退職する場合をいいます。

一方、「会社都合」とは、業績不振によるリストラや希望退職者募集によるもの、賃金未払い、倒産、職場トラブル(いじめやハラスメント)により辞めざるを得ない場合の退職などをいいます。

主に失業給付の支給期間や退職金などに影響するものですが、定年退職の場合はどちらに当てはまるのでしょうか。

定年退職は、定年まで勤務を全うした退職であり、「都合」ではありません。一般的には「自然退職」と呼ばれます。

定年退職届はいつ提出する?

前述したとおり、退職届の提出が必要かどうかは企業によって異なります。退職届の提出を定めている企業の場合、定年退職の場合にも「定年退職届」の提出を求められる可能性があるでしょう。提出のタイミングや期限なども、企業によってそれぞれです。定年後の進路が退職か、再雇用か、雇用延長かによって違う場合もあります。

企業の担当者によく確認しておきましょう。

定年退職届の書き方とポイント

定年退職届を書くことになったら、まずは社内に決まった形式があるかどうかを確認しましょう。決まった形式がない場合には、以下のような項目を記します。

  • 日付(届を出す日)
  • 宛先(社名、役職、役員氏名)
  • 定年に到達する日
    例)このたび、私は、令和   年  月  日をもって満60歳に到達します。
    つきましては、就業規則第〇〇条の定めにより、定年退職となりますので、
    ここにお届けいたします。
  • 退職後の連絡先(住所、電話番号など)
  • 現在の所属
  • 氏名

定年退職届の無料テンプレート・ひな形

定年退職届につきましては、今すぐ実務で使用できる、定年退職届のテンプレート(エクセル・ワード)を無料でダウンロードいただけます。
ベースを保ちつつ、自社の様式に応じてカスタマイズすれば使い勝手の良い書類を作成できるでしょう。この機会にぜひご活用ください。

定年退職にかかわる手続きとスケジュール

定年退職届が提出されたら、企業は速やかに退職手続きを行う必要があります。

健康保険や厚生年金保険などの社会保険関係や、源泉徴収していた税金について、そして失業保険の受け取りに必要な書類など、退職後の生活に欠かせないものですので、期限などに遅れることのないようにしましょう。

健康保険、厚生年金保険の資格喪失手続き

健康保険や厚生年金保険では、従業員が定年退職した場合、資格喪失の手続きをしなければなりません。具体的には、退職日の翌日から5日以内に「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を管轄の年金事務所または健康保険組合に提出するのです。その際、退職者本人と家族の健康保険証すべてを回収し、添付して提出する必要があります。

資格喪失届以後の手続きを行うのは退職者本人です。

年金に関しては、令和5年時点で、支給開始年齢は65歳となっていますが、60歳が定年の場合、5年間、収入に空白ができてしまいます。その場合には、65歳よりも前に1カ月単位で繰り上げ受給が可能です。ただし、繰り上げた分だけ年金額が下がるなどのデメリットもあるなど、担当者からある程度説明をしておくと安心でしょう。

健康保険に関しては、今後どうするかを本人が選ぶことができます。

  • 家族の扶養に入る
    扶養に入ってから5日以内に、扶養する人が勤めている企業で手続きをします。
  • 国民健康保険に入る
    退職日の翌日から14日以内に、住んでいる地域の役所で手続きをします。
  • 退職した会社の健康保険に入る(任意継続)
    退職日の翌日から20日以内に、これまで加入していた協会けんぽまたは健康保険組合で手続きをします。
    任意継続の場合、在職中に企業と折半していた保険料は全額自己負担となるため、注意が必要です。

参考:従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き|日本年金機構

雇用保険の資格喪失手続き

定年退職者のための雇用保険の手続きは、「雇用保険被保険者資格喪失届」の作成です。
退職の翌日から10日以内に作成し、ハローワークに提出しなければなりません。また、「雇用保険被保険者離職証明書(離職票)」の発行手続きも必要です。本来は、離職票の発行は本人の希望があった場合で良いのですが、退職者が59歳以上の場合には必ず発行手続きをしなければなりません。

離職票は失業給付の手続きに必要です。定年退職者に再就職の意思がある場合、7日間の待期期間が過ぎればすぐに失業給付を受給することができます。離職票の発行の遅れは失業給付の遅れにつながる場合もあるため、注意が必要です。

なお、すぐに再就職する意思がない場合、退職の翌日から2カ月以内に失業給付の受給期間延長の手続きを行えば、原則として1年まで受給期間を延長(保留)することができます。この手続きは定年退職者本人が行います。

参考:離職票の交付をするとき|厚生労働省 徳島労働局
参考:受給期間の延長|厚生労働省 大阪労働局

住民税の手続き

給与から住民税を天引きしている場合(特別徴収)、従業員が定年退職する際には「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を市区町村へ提出します。徴収済の金額と未徴収の金額、未徴収分の支払い方法などを記載する書類です。

徴収方法には、一括徴収(給与や退職金などから一括徴収)、普通徴収(退職者個人が納付)がありますが、退職日が1月1日から4月30日の場合には、一括徴収が義務付けられています。

参考:給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書|杉並区
参考:地方税第三百二十一条の五の2|e-Gov 法令検索

離職票など定年退職者へ渡す書類の準備

定年退職者に関する手続きでは、本人に渡すべき書類などが多く発生します。これは役所などへ届け出た結果や、社内で作成するものなど、関係各所で証明書の役割をするものです。定年退職する従業員にとっては大切な書類ばかりですので、漏れのないようにしっかりと準備し、確認しておきましょう。

  • 雇用保険被保険者離職証明書(離職票)
  • 源泉徴収票
  • 雇用保険被保険者資格喪失確認通知書(被保険者通知用)
  • 雇用保険被保険者離職票-1(本人用)
  • 雇用保険被保険者離職票-2(ハローワーク用)
  • 健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失確認通知書(※本人の希望があった場合)
  • 退職証明書、在籍期間証明書(※本人の希望があった場合)

定年退職者からの返却品の確認

定年退職となると、社員証や社章、名刺などは当然使用できません。また、これまで業務で使用していたものなども、返却してもらう必要があります。

企業側と定年退職者側で共通の認識を持てるよう、チェックリストを作成すると良いでしょう。また、パスワードの変更など、ハードだけではなくソフト面にも注意が必要です。

  • 健康保険被保険者証(扶養者がいる場合はその分も)
  • 社員証、社章、本人の名刺など
  • 取引先の名刺
  • 社外秘の資料や取引先の資料など
  • 制服、作業着
  • スマホやタブレット、そのほかの携帯端末、PC、USB、CDなど
  • カードキー
  • 机、ロッカーの鍵
  • 前払いされた交通費、通勤定期券など
  • 顧客名簿
  • その他、企業の経費で買ったもの、企業から貸し出していたもの

定年退職届が任意である理由

60歳定年制から65歳までの雇用確保義務、70歳までの雇用確保の努力義務、と、働く意欲のある高年齢者の雇用を守る政策が進められています。遠くない未来には、定年制度自体が撤廃されるかもしれません。

一方で、退職や定年退職に関する届について、法律でしっかり決まっていないことに驚いた方もいるのではないでしょうか。労働者が辞める権利、自らが望む場所で働いて賃金を得る権利は、簡単に奪われてしまってはならないのです。

よくある質問

定年退職時に退職届は必要ですか?

法的な義務はありません。各企業が就業規則などに定めている場合は提出が必要です。ただ、定めがなくても、トラブル防止の観点から見れば提出してもらうほうが良いでしょう。詳しくはこちらをご覧ください。

定年退職届はいつ提出するのが良いですか?

各企業が就業規則などで定めたとおりです。定年退職の場合、再雇用や雇用延長など、今後の進路によって手続きが異なるため、担当者に確認すると良いでしょう。詳しくはこちらをご覧ください。


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