- 更新日 : 2025年1月28日
産休退職で後悔しないために!手当金の条件、退職の伝え方を解説
産休後の退職を検討している方も多いのではないでしょうか?
産休前に退職すると、出産手当金・育児休業給付金のいずれももらえなくなるなど、さまざまな影響があります。
しかし、一定の条件を満たせば退職後でも出産手当金を受け取ることが可能です。
そこで本記事では、産休後の退職で後悔しないために、手当金の条件や産休後の退職での注意点、退職の伝え方などを詳しく解説します。
合わせて、産休後の退職を防ぐ会社の取り組みについても解説するので、人事担当者の方も、これから出産を迎える方も、ぜひ参考にしてください。
目次
約3割が産休と同時に退職している
厚生労働省の調査データによると、出産後も継続して就業している女性の割合は増加傾向にありますが、依然として出産を機に退職する女性は約3割存在するという状況です。
産休後に退職をする理由としては、下記のようなことが挙げられます。
- 保育所に入所できなかったため
- 仕事と育児の両立が難しいと感じたため
- 仕事よりも育児に専念したいと考えるようになったため
- 配偶者の転勤に伴い、退職せざるを得ない状況になったため
上記の理由によって、産休後に退職するケースが多いと考えられます。
企業側は、これらの背景を理解し、従業員が育児と仕事を両立できるような環境を作っていくことが大切と言えるでしょう。
産休を取ることでもらえる手当金・給付金
産休を取ることでもらえる手当金・給付金は、「出産育児一時金」と「出産手当金」です。
次項で、それぞれの給付金について詳しく解説します。
出産育児一時金
出産育児一時金は、出産にかかる費用の一部を補助するため、健康保険や国民健康保険などの公的医療保険から支給される給付金です。
詳細は、下記の通りです。
支給条件 | 健康保険または国民健康保険の被保険者、またはその被扶養者が出産した場合に支給される ※妊娠85日以上であれば、死産・流産の場合も支給対象 |
---|---|
支給金額 | 原則として子ども1人につき50万円が支給(令和5年4月1日以降) ※産科医療補償制度に加入していない医療機関等で出産した場合は48.8万円 |
出産育児一時金は、 医療機関等への直接支払制度を利用すれば、窓口での支払いを減らせます。
直接支払制度を利用しない場合は、出産時に加入している保険制度(協会けんぽ、健康保険組合、共済組合、市町村など)の担当課に申請を行う必要があります。
なお、手続きについては、会社が代行して手続きをしてくれる場合もあるので、事前に申請方法などを確認しておくと良いでしょう。
出産手当金
出産手当金は、出産のために仕事を休んでいる期間の生活を保障するための給付金で、健康保険から支給されます。
詳細は、下記の通りです。
支給条件 | 健康保険の被保険者であり、出産のために会社を休み、給与の支払いを受けていない場合に支給される |
---|---|
支給金額 | 支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額を30日で割った額の3分の2相当額が、1日あたりの支給額 |
支給期間 | 出産日以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から、出産の翌日以後56日までの範囲内で、仕事を休んだ期間が対象 |
出産手当金については、 勤務先を通じて協会けんぽ等に申請を行います。
出産手当金の受給を希望する場合は、早めに勤務先の人事担当者などに相談し、手続きを進めるようにしましょう。
産休前に退職するとどうなる?
産休前に退職する場合、経済的な面や今後の生活設計において注意すべき点があります。
次項で、産休前に退職することで起こりうる具体的な影響について詳しく解説します。
出産手当金がもらえない
出産手当金は、健康保険の被保険者が出産のために会社を休み、給与の支払いを受けていない場合に支給されるものです。
そのため、産休前に退職する場合、出産手当金は支給されません。
育児休業給付金がもらえない
育児休業給付金は、雇用保険の被保険者が育児休業を取得した場合に支給される給付金です。
そのため、産休前に退職してしまうと支給対象外となります。
育児休業給付金は、育児休業中の生活を支えるための重要な給付金です。
育児と仕事を両立する予定がある場合は、退職のタイミングを慎重に検討しましょう。
失業保険をもらうまで時間がかかる
産休前に退職した場合、失業保険(基本手当)を受給するまでに時間がかかる場合があります。
失業保険は、再就職を希望する人を支援するための制度です。
しかし、出産・育児期間中はすぐに就職活動を行うことが難しい場合が多く、受給開始が遅れる可能性があります。
そのため、退職後の失業保険をあてにしている方は、受給開始までに時間がかかる可能性があることを認識しておきましょう。
収入がなくなる
産休前に退職した場合、当然ながら会社からの給与収入はなくなります。
また、退職後は育児休業給付金の対象とならず、出産手当金も条件を満たさない限り受け取れません。
しかし、出産や育児には多額の費用がかかります。
そのため、産休前の退職を検討する際は、事前に生活費や出産費用を確保しておく必要があるでしょう。
産休中に退職しても出産手当金がもらえる場合
産休中に退職しても、退職後も引き続き出産手当金がもらえる具体的な条件を解説します。
健康保険の加入期間が1年以上
産休中に退職して、退職後も引き続き出産手当金を受給するための条件の1つに、「退職日まで継続して1年以上健康保険に加入していること」が挙げられます。
具体的には、転職した場合であっても、加入している健康保険が同一(協会けんぽ→協会けんぽ、健康保険組合→同じ健康保険組合)かつ1日も間を空けずに加入していれば継続とみなされます。
ただし、退職後に任意継続被保険者となった期間は、この1年間の加入期間には含まれません。
あくまで、在職中に健康保険に加入していた期間が対象です。
この条件を満たしていない場合は、退職後の出産手当金受給はできません。
出産予定日が退職日を含む42日以内
産休中に退職しても出産手当金を受給するためのもう1つの条件は、「出産予定日が退職日を含む42日以内であること」です。
これは、産前休業期間(出産予定日の6週間前)に相当する期間を考慮したものです。
たとえば、双子などの多胎妊娠の場合は、産前休業期間が98日(14週間前)となるため、出産予定日が退職日を含む98日以内であれば、条件を満たします。
基本的に、出産予定日が確定した段階で退職日のスケジュールを立てれば、この条件はクリアできる場合が多いです。
もし実際の出産日が予定日より早まった場合でも、退職日と出産予定日の関係でこの条件とその他の条件を満たしていれば、出産手当金は支給されます。
退職日に出勤していない
退職日に出勤していないことも、退職後に出産手当金を受給するための条件の1つです。
たとえば、退職日前に有給休暇を消化する場合、最終出勤日が退職日よりも前であれば、条件を満たします。
また、病気などで退職日を欠勤した場合も、条件を満たします。
この条件は、出産手当金が「出産のために仕事を休んでいる期間」を対象とした給付金であることを明確にするためのものです。
退職後に出産手当金を申請する方法
退職後に出産手当金を自分で申請する流れは、下記の通りです。
- 「出産手当金支給申請書」に必要事項を記入する
- 退職した事業主(会社)に、申請書内にある「事業主記入欄」への記入を依頼する
- 出産を担当した医師または助産師に、申請書内にある「医師・助産師の証明欄」への記入を依頼する
- 必要書類と記入済みの申請書を、自身が加入していた協会けんぽ等に提出する
協会けんぽの場合は、出産手当金支給申請書が、「被保険者用」、「事業主用」、「医師・助産師用」の3枚にわかれています。
また、各健康保険組合等によって、出産手当金支給申請書の様式や必要書類などが異なる可能性があるため、提出方法などと合わせて確認しておきましょう。
退職後に出産手当金を受給する際の注意点
退職後に出産手当金を受給する際には、下記の点に注意が必要です。
- 出産手当金の申請は2年以内に行う必要がある
- 出産手当金を受けていると社会保険の扶養に入れない場合がある
まず、出産手当金は、出産日の翌日から2年以内に申請を行う必要があります。
期限を過ぎてしまうと、手当金を受け取ることができなくなってしまうため、早めに手続きを行うようにしましょう。
次に、出産手当金を受給している期間は、配偶者等の扶養に入れない場合があります。
扶養の条件は、配偶者の加入している健康保険が権法保険組合の場合、健康保険組合等によって異なりますが、協会けんぽの場合は今後1年間の収入見込額が130万円未満であることが条件です。
そのため、出産手当金の受給額によっては、扶養から外れる可能性があります。
扶養から外れると、配偶者の扶養手当が支給されなくなる場合があり、国民健康保険料や国民年金保険料の納付が必要になります。
配偶者の勤務先の健康保険が健康保険組合の場合、、事前に配偶者の勤務先にに確認しておくのがおすすめです。
産休後に退職したい場合はいつ言うのが良い?
産休後に退職したい場合は、復職予定日の1〜2ヶ月前、もしくは会社の就業規則で定められた期間までに退職したい意思を伝えるのが望ましいです。
これにより、会社側も後任の選定や業務の引き継ぎなどの準備期間を確保でき、円満な退職に繋がります。
次項で、産休後の退職はマナー違反なのか、合わせて産休後に退職したい時の伝え方について詳しく解説します。
産休後の退職はマナー違反?
産休後の退職は、法的には全く問題ありません。
育児・介護休業法では、育児休業後の退職を禁止する規定はなく、退職は労働者の権利として認められています。
しかし、会社は従業員が育休から復帰することを前提に、業務の調整や人員配置を行っています。
そのため、会社によっては「育休を取得させたのにすぐに辞めるのはマナー違反」と考える人もいるかもしれません。
産休後の退職は法的に問題ありませんが、円満に退職するためには、できる限り会社に迷惑をかけないように配慮し、誠意をもって対応することが大切です。
産休後に退職したい時の伝え方
口頭で伝えるのが望ましいですが、やむを得ない事情がある場合はメールなどで伝えることも可能です。
下記のように、退職の意思を明確に伝え、感謝の気持ちと退職理由を丁寧に説明しましょう。
伝え方の例文(口頭の場合)
「〇〇部長、お時間をいただきありがとうございます。本日は、大変恐縮なのですが、私事でご相談させて頂きたいことがございます。実は、産休をいただき、育児と仕事の両立について真剣に検討してまいりました。復帰に向けて準備を進めていたのですが、実際に育児を経験する中で、〇〇(具体的な理由)という状況があり、大変心苦しいのですが、退職させて頂きたいという結論に至りました。これまで大変お世話になりましたこと、深く感謝しております。このような形になり、大変申し訳ございませんが、何卒ご理解頂けますようお願い申し上げます。」
退職理由の具体例は、下記の通りです。
退職理由 | 具体例 |
---|---|
保育園の問題 | 「当初、保育園に入れる予定だったのですが、待機児童が多く、預け先が見つからない状況です。このままでは復帰が難しく、大変申し訳ございませんが、退職せざるを得ない状況です。」 |
子どもの体調 | 「子どもが生まれつき体が弱く、頻繁に体調を崩してしまうため、仕事と育児の両立が難しいと判断いたしました。子どものそばにいて、しっかりとケアをしてあげたいと考えております。」 |
自身の体調 | 「出産後の体調がなかなか回復せず、以前のように働くことが難しいと感じております。このまま無理をしてしまうと、かえってご迷惑をおかけしてしまうと思い、苦渋の決断ではありますが、退職させて頂くことにいたしました。」 |
心境の変化 | 「復帰に向けて色々とシミュレーションを重ねてきたのですが、実際に育児を経験する中で、想像以上に時間的・体力的な制約があり、仕事と育児の両立は現状では難しいと判断いたしました。会社には大変感謝しているのですが、このような結論に至り、申し訳ございません。」 |
上記の例を参考に、ご自身の状況に合わせて言葉を選び、誠意をもって伝えることが大切です。
退職理由を伝える際は、会社の責任を追及するような言い方は避け、個人的な理由であることを強調するようにしましょう。
産休後の退職を防ぐ会社の取り組み
産休後の退職を防ぐ会社の取り組みとして、下記のようなものが挙げられます。
- 働き方の改革
- 両立支援等助成金を活用する
- 相談窓口の設置
- 復職支援プログラムの実施
たとえば、短時間勤務制度、フレックスタイム制度、在宅勤務制度など、従業員のライフスタイルに合わせて働き方を選べるようにしましょう。
上記のような柔軟な働き方により、産休・育休明けの従業員でも、育児と仕事の両立をしやすくなります。
合わせて、両立支援等助成金を活用すれば、企業の負担を軽減しながら両立支援のための取り組みを進められます。
これらの取り組みを通じて、従業員の不安を解消し、安心して長く働き続けられる環境を整えられれば、産休後の退職を防げるでしょう。
産休・育休に関わる申請書類のテンプレート
産休・育休を取得する際には、会社への申請手続きが必要です。
そこでマネーフォワード クラウドでは、産休・育休を取得する際に必要な書類のテンプレートをご用意いたしました。
次項にて、それぞれの申請で使える無料のテンプレートをご用意しているので、必要に応じてご活用ください。
産休申請書テンプレート
産休(産前産後休業)を取得する際には、「産休申請書」を会社に提出する必要があります。
産休申請書には、出産予定日、産休開始日と終了予定日、氏名、所属部署などを記載します。
産休申請書の作成にお役立ていただけるよう、無料のテンプレートをご用意いたしました。
下記リンクよりダウンロードしてご利用ください。
なお、会社によっては独自の様式を使用している場合もあるため、事前に会社の担当部署に確認しておきましょう。
育児休業申請書テンプレート
育児休業を取得する際には、「育児休業申請書」を会社に提出する必要があります。
育児休業申請書には、育児休業の開始日と終了予定日、養育する子どもの氏名・生年月日、申請者の氏名・所属部署などを記載します。
育児休業申請書の作成にお役立ていただけるよう、無料のテンプレートをご用意いたしました。
下記リンクよりダウンロードしてご利用ください。
なお、育児休業申請書に関しても会社によって独自の様式を使用している場合があるため、事前に確認しておきましょう。
産休後の退職で後悔しないためのポイントと準備
産休後の退職で後悔しないためには、下記の点を考慮したうえで準備を行いましょう。
- 受給できる手当金・給付金の確認
- 退職後の収入源や生活費、保育環境などを具体的に計画
- 退職の意思を伝える際は、できる限り早めに、誠意をもって伝える
- 短時間勤務制度や在宅勤務制度などの制度を活用できないかを検討
上記のポイントを踏まえ、しっかりと準備を行えば、産休後の退職という選択を後悔のないものにできます。
産休前後の退職は、経済状況やキャリアプラン、育児環境などに大きな影響を与えるため、本記事を参考に冷静かつ慎重な判断を心がけましょう。
もし迷いや不安がある場合は、協会けんぽ等の窓口や会社の担当者に相談することも検討してみてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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