- 更新日 : 2025年1月20日
労働基準法第24条とは?賃金支払いの5原則や違反した場合の罰則を解説
賃金は原則1分単位で計算しなければならず、賃金から控除できる費用も法律で定められています。労働基準法には賃金支払いの原則が定められており、これに違反すれば労働基準監督署から指導を受けるばかりか、罰則が適用されることもあります。
ここでは賃金支払いの5原則を解説するとともに、その例外や注意すべきポイントについて紹介します。
目次
労働基準法第24条とは
賃金は労働者にとって生活の糧となる大切な経済的原資であり、労働条件の中で最も重要な労働条件です。そのため、労働基準法では、労働者保護、賃金保護の観点から規制を設けています。
労働基準法第24条には賃金支払いの原則が定められています。最初にその条文について見てみましょう。
(賃金の支払)
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
②賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
そもそも労働基準法は労働条件の最低限の基準を定めたものであり、労働者の生活を保障するために、第1条では「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」と定めています。賃金の決定は最低賃金法の最低水準さえクリアしていれば、労使の自主的な決定に委ねられています。しかし、賃金が支払われなければ労働者は生活の基盤を守ることができません。そのため、賃金が確実に支払われるように法律で保護しています。
労働基準法第24条の「賃金支払いの5原則」とは
労働基準法第24条に定められているのが、「賃金支払いの5原則」です。条文を分解すると、次のように5つの原則に分けて定められていることがわかります。
賃金は
- 通貨で(通貨支払いの原則)
- 直接労働者に(直接払いの原則)
- 全額を(全額払いの原則)
- 毎月1回以上(毎月1回以上の原則)
- 一定の期日を定めて(一定期日払いの原則)
支払わなければならない。
通貨支払いの原則
通貨払いの原則は、現物給与・実物給与の禁止を定めたものです。現物給与は現金に換価するのが困難であり、価格が不明瞭で確実にお金にできるとはかぎりません。これでは足元を見られて安く買いたたかれ、実質的な賃金の低下につながってしまいます。現代では貨幣・通貨が流通しており、通貨が最も有利な交換手段で安定していると言えるでしょう。そのため、現金払いを原則としています。
直接払いの原則
直接払いの原則は、親方や職業仲介業者、未成年者の親権者や後見人がピンハネすることがないよう、中間搾取を排除するために定めたものです。労働者本人が賃金の全額を確実に受け取れるように、本人以外に支払うことを禁止しています。
全額払いの原則
全額払いの原則では、賃金から同意なく費用を控除することを禁止しています。使用者が貯蓄金や積立金などと言って賃金の一部を支払わないことで労働者を足止めしたり、賃金からさまざまな代金を控除して実際に賃金が労働者の手にわたらなかったりすることがないようにしています。
毎月1回以上の原則
毎月1回以上の原則は、労働者が計画的に安定して生活ができるようにするための規定です。賃金支払日の間隔が開き過ぎていたり、支払日が決まっていなかったりしては、労働者の生活が不安定になってしまいます。労働者の生活上の不安を除くことを目的に、毎月1回以上賃金を支払うことを義務付けています。
20日締め翌月10日払いなどのように、賃金の支払いが翌月になっても、毎月最低1回、賃金の支払日があれば問題ありません。年俸制の場合は、年俸額を12等分で分割し、毎月賃金を支払うようにするのがよいでしょう。
一定期日払いの原則
一定期日払の原則は、毎月1回以上の原則と併せて労働者の生活が不安定にならないようにするための規定です。期日が特定され、周期的にその期日が来るように賃金支払日を設定すれば問題ありません。ただし、月給制の場合、毎月第二金曜日などと定めると、月の支払日によっては7日間の開きが発生するため認められません。
労働基準法第24条の「賃金支払いの5原則」の例外とは
労働基準法第24条の「賃金支払いの5原則」には、それぞれ例外があります。
通貨支払いの原則の例外
賃金の支払いは現金払いが原則です。しかし現在は、金融機関の口座への口座振込で支払う企業の方が多いでしょう。労働者の同意があることを要件に以下の3つの方法が認められています。
- 労働者が指定する銀行など金融機関の預金・貯金口座への振込みによる支払い
- 労働者が指定する一定要件を満たした証券会社など金融商品取引業者の預り金への払込みによる支払い
- 労働者が指定する一定要件を満たした資金移動業者の口座への資金移動による支払い(賃金のデジタル払い)
賃金を銀行や証券会社などの口座へ振り込んで支払う場合は、以下の通りにするように通達が出ています。(平成10年9月10日 基発第530号)
- 個々の労働者の申出や同意により開始すること
- 口座振込等に関する労使協定を締結すること
- 個々の労働者に対して所定の賃金支払日に賃金支払計算書を交付すること
- 賃金支払日の午前10時ころまでに払い出しや支払いが可能になっていること
- 取扱金融機関は一行・一社に限定せず、複数にするなど便宜に十分配慮して定めること
直接払いの原則の例外
直接払いでは、例外的に使者に対して賃金を支払うことが可能です。しかし、代理人への支払いは認められていません。労働者が入院中で、代わりに配偶者が賃金を受け取りに来るなどといったケースでは、使者に対して支払ったと言えるでしょう。しかし、実際には使者と代理人を区別するのは困難なため、特別な事情がないかぎり本人以外の者に賃金を支払うことはおすすめできません。
全額払いの原則の例外
源泉所得税や住民税、社会保険料など法律で控除することが認められているものは、賃金から控除することが可能です。また、労使協定(賃金控除協定)がある場合には、労働者が支払うことが当然に明らかな事理明白なものについては、控除することが認められています。
なお、後述する「労働基準法第24条に関連する判例」でも紹介していますが、賃金の計算ミスによる過払金の精算などでは、「過払いがあった時期と賃金の清算調整が接着した時期」に行われ、「労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれがない場合」は可能と判断した裁判例(福島県教組事件)があります。また、前月のストライキの5日分を過払いした際、「前月分の過払賃金を翌月分で清算する程度は賃金それ自体の計算に関するものであるから」と、労働基準法第24条違反とは認められないとした通達(昭和23年9月14日 基発第1357号)もあります。
参考:4-4 過払いの賃金を一度に清算しても問題はないのか|労働相談Q&A – わーくわくネットひろしま 広島県
毎月1回以上の原則の例外
賞与・ボーナス、結婚手当、退職金や、1ヵ月を超える期間で支給される勤続手当などは、毎月1回以上の原則は適用されません。
- 臨時に支払われる賃金:結婚手当、死傷病手当、退職金など
- 定期・臨時に勤務成績に応じて支払われ、支給額が確定していない賃金:賞与など
- 1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金:勤続手当など
一定期日払いの原則の例外
労働基準法第25条に該当する非常時払いの賃金は、一定期日払いの原則の例外規定です。以下の事情がある場合は、支払期日前でも労働者からの請求があれば、働いた日までの賃金を支払わなければなりません。
労働者またはその収入によって生計を維持する者が
- 出産・疾病・災害を受けた場合
- 結婚・死亡した場合
- やむを得ない事由により一週間以上にわたって帰郷する場合
また、賃金支払日が休日に当たる場合は、就業規則などでルールをきちんと決めておけば、繰り上げて支払うことも繰下げて支払うことも一定期日払いの原則には反しません。ただし、賃金支払日を月末にしている場合、繰り下げすることで支払いが翌月になると、毎月1回以上払いの原則が守れなくなることがあるので注意しましょう。
参考:賃金|兵庫労働局
労働基準法第24条で賃金からの天引きが認められるもの
労働基準法第24条の賃金からの天引きが認められるものについて、具体的に解説します。
法令によって定められた税金・社会保険料
基準法第24条の条文にある「法令に別段の定めがある場合」に該当し、賃金から控除することが認められているものは、以下の税金や社会保険料です。これらは特別な手続きをすることなく、賃金から控除することができます。
労使協定によって控除が認められた社宅料・社員旅行の積立金など
法令で認められた費用以外は、労使協定(賃金控除協定)を締結することで賃金から控除することが認められます。具体的には、以下のような任意の費用が該当します。
- 財形貯蓄
- 旅行積立金
- 社員食堂の食券代金
- 社宅費用 など
ただし、労使協定を締結すれば何でも控除できるわけではありません。実際に控除を行う場合には、労働者の個々の同意を得るか、就業規則規定で控除ができる規定を設けておく必要があります。
労働基準法第24条で賃金からの天引きが認められないもの
賃金からの天引きが認められないものについても確認しておきましょう。
業務上必要とされる費用や損害の相殺
業務上必要とされる費用や労働者の過失による損害費用を、企業が一方的に賃金を相殺することはできません。しかし、労働者が自由な意思に基づき同意した場合には、賃金控除協定がなくても可能です。
ただし、業務上必要とされる費用は会社が負担すべきという考え方もあり、また、修理代などの損害金も労働者にすべて負担させることができるのかという問題もあります。全額払いの原則の趣旨は、一方的な賃金からの控除を禁止することにあります。また、労働者に後から「本当は自分の意思ではなく言わされた」などと主張されてトラブルになるケースが多いため、おすすめできません。賃金は一度全額を支払い、その後、費用は賠償金額について話し合うのがよいでしょう。
給与を支払うときの振込手数料
給与を口座振込みで支払う際、振込手数料を給与から控除することは労働者の同意があったとしても全額払いの原則に反すると判断される可能性があります。
労働基準法第24条に違反した場合の罰則
労働基準法第24条に違反した場合、労働基準監督署から是正指導を求められ、それでも改善せずに悪質で重大なものと判断された場合には送検されることもあります。罰則が適用されれば、「30万円以下の罰金」が科されることがあります。
労働基準法第24条に関連する裁判例
労働基準法第24条に関連する裁判例は数多くあります。その中から2つ紹介します。
日新製鋼事件(H02.11.26最二小判)
破産した労働者が、破産を申し立てる前に使用者と退職金で借入金の一部を返済することに同意していました。しかし、労働者の破産管財人が労働基準法の全額払い原則に違反するものとして退職金の支払いを求めて提訴しました。
裁判では、労働者は会社担当者に借入金の残債務を退職金などで返済する手続きをするように自発的に依頼し、委任状の作成や提出過程にも強要するような事情はなく、退職金の計算書や給与等の領収書に署名押印をしています。そのため、退職金などから借入金を一括返済する旨の各約定を十分認識していたことがうかがえ、相殺は労働者の自由な意思が認められると判断し、労基法の全額払いの原則に反しないとしました。
福岡県教組事件 (S50.03.06最一小判)
昭和33年5月21日、県が公立学校の教職員らに支給した給与に1日分の給与過払いがありました。県は同年8月21日に支給した給与から過払い分を減額したため、教職員らは減額分の返還を求めて提訴しました。
県は、過払い分を翌月の6月の給与から減額することが可能であったにもかかわらず8月分の給与から減額しています。裁判では、「賃金過払による相殺は、過払のあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてなされ、その金額、方法等においても労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのないものである場合にかぎり、許されると解するのが相当である」と判断基準を示しています。過払い分の相殺は時機を逸しており、例外的に許容される場合に該当しないと判断され、最高裁もこれを維持して上告を棄却しました。
参考:5.賃金 5-3「賃金と他の債権の相殺」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性|確かめよう労働条件:労働条件に関する総合情報サイト 厚生労働省
労働基準法第24条で注意すべきポイント
労働基準法第24条に関する注意すべきポイントを2つ挙げて解説します。
労働時間は1分単位で計算する必要がある
労働時間は1分単位で計算して賃金を支払うのが原則です。したがって、15分単位や30分単位で切り捨てて計算したり、10分の遅刻を30分の遅刻として賃金をカットしたりすることは、全額払いの原則に反することになるため認められません。
ただし、事務の簡便を目的に以下のように端数処理を行うことは認められています。
① 労働時間の端数処理
1か月における時間外労働、休日労働及び深夜労働の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること
② 割増賃金の端数処理
1時間当たりの賃金額及び割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上を1円に切り上げること
1か月における時間外労働、休日労働及び深夜労働の各々の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合、上記と同様に処理すること
労働基準法施行規則の改正で賃金のデジタル払いが可能に
キャッシュレス決済が普及していることから、労働者の同意を得た場合に、労働者が指定する一定要件を満たした資金移動業者の口座への資金移動による支払い、いわゆる賃金のデジタル払いが可能になりました。
2024年12月13日現在では「PayPay給与受取」と「COIN+(スタンダード)」の2つのサービスだけですが、今後はもっと増えていくでしょう。デジタル払いを企業で導入するためには、労使協定の締結、労働者への説明(指定資金移動業者に委託することも可能)と同意の取得、賃金支払いの事務処理の確認・実施(労働者は指定資金移動業者への利用申請)が必要になります。詳細は厚生労働省のホームページで確認しましょう。
参考:資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について|厚生労働省
労働基準法に違反することがあれば労働者は退職してしまう
労働者にとって賃金は、生活をする上で最も大切な収入原資です。そのため、労働基準法では、「賃金支払いの5原則」を定め、労働者を保護する規定を設けています。
法律違反があれば労働者は生活ができず、退職してしまうこともあります。人手不足の昨今、働く人員を確保できなければ事業を継続することができなくなることも考えられます。今一度、自社の賃金の支払い方法を確認し、労働基準法に違反することがないか確認しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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