- 更新日 : 2024年8月30日
【テンプレート付き】口座振込労使協定とは?作成方法を解説!
かつて、給与は現金の手渡しで支給されていました。給料日には1カ月間の働きに対する報酬を封筒で受取り、その有り難みを感じていました。
今は、給与は銀行口座への振込が当たり前になっています。では、事業主側は一方的に給与の支払を口座振込にすることはできるのでしょうか。
この記事では口座振込労使協定の定義の他、法律的位置づけや作成方法を解説するとともに、口座振込労使協定のテンプレートを紹介します。
目次
口座振込労使協定とは?
口座振込労使協定とは、どのようなものなのでしょうか。会社からの給与を現金の手渡しではなく口座振込としていながら、口座振込労使協定について理解していないケースは珍しくありません。
口座振込労使協定の概要と意義
労使協定とは従業員と使用者との間で締結される書面による協定のことで、労働基準法では時間外・休日労働や賃金控除など従業員の権利に関するさまざまな場面を想定し、14種類の労使協定の締結を義務づけています。本来は労働基準法違反となりますが、労使協定を締結することで罰則を免れる免罰効果が与えられています。
労使協定は、従業員の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、ない場合は従業員の過半数を代表する者と使用者との間で締結する必要があります。
口座振込労使協定とは、賃金を現金ではなく銀行口座に振り込む方法を採用する際に、労使で締結する労使協定のことです。しかし、労働基準法では賃金の口座振込について労使協定の締結を義務づけておらず、法定の14種類の労使協定には含まれていません。
口座振込には個々の従業員の同意が必要であり、口座振込労使協定はそれを踏まえて任意で労使間で締結される労使協定という位置づけになるでしょう。
とはいえ、給与の支払方法や時期、口座の変更手続きなどについて、労使間で明確にルールを決めることには重要な意義があります。
口座振込労使協定の法的背景
賃金の支払は労働契約の内容であり、従業員が使用者の指揮命令を受けて提供する労務の対価です。賃金は従業員の生活に直結するものであることから、従業員が確実に受け取れることを権利として保障する必要があります。
そこで、労働基準法第24条では賃金の支払方法について5つの原則を定めており、その一つに「通貨払いの原則」があります。これは、賃金は通貨(日本で強制通用力のある貨幣)で支払わなければならないというものです。会社の販売する商品など、現物給与で支払うことはできません。
また、振り込まれた賃金を引き下ろす権利は通貨ではないため、口座振込も「通貨払いの原則」では禁止されていることになります。
しかしながら、労働基準法第24条では通貨払いの原則を緩和し、厚生労働省令で定める賃金について確実な支払方法であり厚生労働省令で定めるものによる場合は、例外として通貨以外の支払を認めています。
具体的には、労働基準法施行規則第7条の2第1項において、
使用者は従業員の同意を得た場合には、銀行その他の金融機関の預金または貯金の口座への振込および証券会社の一定の要件を満たす預り金に該当する証券総合口座への払込みによることができる
とされています。
通常の賃金(月例給与、退職手当)について、従業員が指定する金融機関に対する従業員の預貯金への振込もこれに該当し、個々の従業員の同意を得て従業員が指定する本人名義の預金または貯金の口座へ振り込まれること、振り込まれた給料の全額が所定の給料支払い日に引き出し得ることを満たせば認められます。
労使間で口座振込労使協定を締結するケースは少なくありませんが、義務ではなく任意であり、従業員本人の同意が不可欠です。
したがって、口座振込労使協定でも従業員の同意(申出)によって可能となることを明記する必要があります。また、口座振込労使協定が締結されても銀行振込に同意しない従業員に強制することはできません。
口座振込労使協定に関連する法律
労働基準法では免罰効果を付与する労使協定として14種類を定めていますが、口座振込労使協定はこれに該当しません。
賃金支払いの5原則が守られない場合には、30万円以下の罰金刑(労働基準法24条、120条1号)に処せられます。口座振込労使協定を締結しても免罰効果がないことに注意しましょう。
口座振込労使協定のメリット
口座振込労使協定は個々の従業員の同意があって初めて成立しますが、同意を得た上での口座振込にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
従業員の給与受取方法の多様化に対応
従業員は、自分が希望する銀行や金融機関の口座に給与を振り込んでもらうことができます。これにより、手数料や利便性などを考慮して最適な口座を選べます。
最近はキャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化がさらに進み、資金移動業者の口座への資金移動を給与受取に活用するというニーズも生じています。
そこで、2023年4月1日からは使用者が労働者の同意を得た場合に、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座への資金移動による賃金支払(給与のデジタル振込)も認められるようになりました(入金額の上限は100万円)。
「PayPay」などのスマートフォンの決済アプリに給与が直接デジタルで振り込まれるため、銀行口座からアプリにチャージする手間がなくなります。
労使間の円滑な給与管理の実現
個々の従業員との同意だけでなく、給与の支払方法や時期、口座の変更手続きなどについて労使間で口座振込労使協定を締結し、明確にルールを決めることは、円滑な給与管理の実現につながります。また、給与管理の効率化やコスト削減の効果も期待できます。
給与に関するトラブルの未然防止
口座振込労使協定で給与の支払方法などのルールを明確にすることには、トラブルを未然に防ぐ効果もあります。また、給与の口座振込を行うことで、給与の支払や受取の記録を証拠として残すことができるため、あとのトラブルにも対応しやすくなるでしょう。
口座振込労使協定の作成方法
給与の支払を口座振込とすることのメリットをみてきましたが、実際に口座振込労使協定を作成する際にはどのような手順を踏むことになるのでしょうか。
原案の作成
最初に口座振込労使協定の原案を作成しますが、これは一般的に事業主側が行います。給与の支払方法や時期、口座の変更手続きなどについて具体的に記載します。
労働組合に提出し協議を行う
原案を作成したあとは労働組合に提出し、協議を行う必要があります。労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者と協議します。原案の内容について労働者側の意見や要望を聞き、合意に至るまで話し合います。
最終的に決定した協定案を会社と組合代表者で取り交わす
労働組合または労働者の過半数を代表する者との協議の結果、原案の内容に合意が得られた場合には協定書を作成し、署名捺印することで労使協定が成立します。
口座振込労使協定を締結する際のポイント
口座振込労使協定に必要な書類
実際に口座振込を行うためには、前述の手順を踏んで双方の合意のもと締結・作成された労使協定書の他、同意した従業員から提出された「口座振込同意書」が必要です。
労使協定に含めるべき内容
協定書の項目として、「協定の目的」「対象となる銀行口座」「社内手続」「協議事項」「協定の有効期間」などを設けます。
口座振込労使協定を締結しても、従業員本人が同意しなければ、給与は現金で直接本人に渡さなければなりません。したがって「社内手続」には、口座振込の開始や振込先の変更・停止などは従業員の申出(同意)による旨を明記します。
なお、口座振込労使協定は労働基準法で作成が義務づけられていないため、協定書を労働基準監督署に提出する必要はありません。
協定の変更や更新の際の対応策を整える
協定書の「協議事項」には、運用上の疑義が生じた場合は、その都度労使で協議する旨を定めますが、協定内容を変更することもあります。その場合は再度労使で協議し、合意を得た上で協定内容を変更します。
また、「協定の有効期間」には更新する場合の対応についても明記しましょう。
口座振込労使協定に関する注意点
その他の口座振込労使協定に関する注意点は、以下の通りです。
労使協定の遵守と継続的な管理は必ず行う
口座振込労使協定の締結後は、協定内容に従って確実に賃金を支払わなければなりません。協定内容が遵守されなければ、同意した従業員から苦情が出る可能性があります。
労働基準法第24条では給与は現金払を原則としており、口座振込はあくまでも例外措置であることをよく理解することが大切です。そのため、労使協定の遵守と継続的な管理は必須であると考えましょう。
法改正があった場合に対応する
労働基準法など国会で改正される法律と異なり、行政機関で制定・改正する施行規則などの省令は、社会情勢の変化に対応して比較的頻繁に改正されます。
前述のとおり、2023年4月1日からは労働基準法施行規則の一部を改正する省令により、給与のデジタル振込も認められています。必要に応じて、このような改正にも対応しなければなりません。
個人情報の管理徹底
口座振込労使協定の締結後、同意した従業員に提出してもらう「口座振込同意書」には、従業員の銀行口座番号や資金移動業者の口座番号などの情報が記載されます。口座番号だけでは個人情報には該当しませんが、氏名などにひもづくと個人情報となるため、管理を徹底しなければなりません。
個人情報の漏洩や不正利用が発生した場合は、従業員の権利や利益が侵害されるだけでなく、事業主にも法的な責任や信用失墜などの損害が生じるおそれがあります。
口座振込労使協定のテンプレート
口座振込労使協定の作成の手順について解説しましたが、原案についてはテンプレートを活用すると便利です。
この記事では、すぐ利用できる無料のテンプレートを用意しています。ダウンロードしてお使いください。
口座振込労使協定について知っておこう!
口座振込労使協定の定義の他、法律的な位置づけや作成方法を解説するとともに、口座振込労使協定のテンプレートを紹介しました。
給与の支払方法は口座振込が当たり前になっているとはいえ、法的には例外的な扱いであることを念頭に置き、口座振込労使協定をきちんと締結することが大切です。
よくある質問
口座振込労使協定とは何ですか?
給与の支払方法を銀行口座振込にする際、労使で締結する労使協定です。詳しくはこちらをご覧ください。
口座振込労使協定を行うメリットは何ですか?
給与の受取方法の多様化に対応できることや、円滑な給与管理の実現などが挙げられます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
ワークショップとは?意味やメリット、セミナーとの違い
「ワークショップ」という言葉を聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。当記事では、ワークショップと混同されがちなセミナーや研修との違い、メリット・デメリット、具体例などについて解説します。有効に活用すれば多くのメリットを享受できる手法…
詳しくみる育児休業給付金はどう申請する?2回目以降の流れや支給申請書の記入例を解説
育児休業を取ると、雇用保険から育児休業給付金が支給されます。ハローワークへの支給申請は原則事業主が行いますが、申請者が直接申請することも可能です。 本記事では、育児休業給付金の2回目以降の支給申請手続きについて解説します。申請の流れや申請書…
詳しくみる2025年4月~出生後休業支援給付金とは?手取り10割が育休中にもらえる条件
出生後休業支援給付金とは、子育て中の親に対する経済的支援を目的とした給付金のことです。 育児休業中の所得減少を補うことで、子育て・仕事の両立をサポートします。 2025年4月より施行されるこの制度について、支給要件や支給額の計算方法がわから…
詳しくみるHSP(Highly Sensitive Person)とは?敏感からこそのメリット、向き合い方を解説
HSPは人の気質を表す言葉で、光や音、匂いなどに敏感な人を意味します。刺激に弱いことから疲れやすい、体調を崩しやすいという特徴がありますが、病気や障害ではないため矯正や治療を必要とせず、治療法もありません。いくつかの質問に答える方法でセルフ…
詳しくみる内定とは?採用や内々定との違いは?内定後の流れも解説
内定とは労働契約が成立して入社が決定することを意味します。しかし、内定は辞退することもでき、もらったら必ずその企業に入社しなければならないわけではありません。また場合によっては企業から内定を取り消されることもあるでしょう。この記事では内定後…
詳しくみる在宅勤務は減少中?メリットやデメリット、最適な方法を解説
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、人と接することなく業務が遂行できるよう在宅勤務が普及するなど、働き方に大きな変化が見られました。 新型コロナウイルスが収束しつつある昨今でも、家事や育児と両立させやすいうえ通勤時間が削減できるなどのメリッ…
詳しくみる