• 更新日 : 2025年1月17日

65歳以上も雇用保険に入れる?失業保険や年金のもらい方、給付金も解説

2017年の雇用保険法の改正により、65歳以上でも雇用保険に入れるようになりました。

法改正までは、65歳以上の方が雇用された際は雇用保険適用外でした、ただし、同じ会社で65歳になる前から継続して働いていた人は「高年齢雇用継続被保険者」として雇用保険の適用を受けていました。

日本では高齢化が進んでおり、高年齢の従業員を雇用するケースも珍しくありません。本記事では、65歳以上の方が新規で雇用保険に入れるか、また具体的な手続きについて解説します。

65歳以上でも雇用保険に入れる?

65歳以上でも雇用保険に入れます。2016年までの雇用保険制度は年齢制限があり、65歳以上の方は雇用保険に加入できませんでした。当時は、65歳になる前から働いていた場合のみ、雇用保険に加入できたのです。

しかし、2017年の開設雇用法施行で年齢制限がなくなり、65歳以上の方は「高年齢被保険者」として雇用保険に入れるようになりました。

64歳までの雇用保険との違い

65歳以上と64歳までの雇用保険は、適用範囲や内容に違いがあります。65歳を境に雇用保険の適用や内容は変化があり、事情主だけでなく従業員も違いを理解しておくことが重要です。

法改正により65歳以上の従業員も雇用保険の対象となり、保険料の支払い義務が発生しました。65歳以上で仕事をやめた場合は「高年齢求職者給付金」が支給されます。高年齢求職者給付金は、64歳までに受け取れる原則として最大150日分の基本手当と比べて短く、30日分または50日分です。

また、64歳11ヶ月で退職すると、基本手当と老齢年金の両方を同時に受給できるケースもあります。65歳を迎える前後で雇用保険の適用や給付内容が変わるため、労働者と事業主は最新の制度内容を確認し、適切に対応しましょう。

65歳以上の方が雇用保険に入れる要件

65歳以上の方が雇用保険の対象となる「高年齢被保険者」の雇用保険適用要件は以下のとおりです。

  • 65歳以上
  • 1週間の所定労働時間が20時間以上
  • 31日以上の雇用見込みがあること

2016年までは、高年齢継続保険者を継続して雇用しているケースに限り、雇用保険の被保険者として認められていました。しかし、2017年以降は、新たに以下の従業員も雇用保険の対象に含まれるようになりました。

  • 2016年12月末時点で65歳以上の労働者を雇用しており、2017年以上も雇用が続いているケース
  • 2017年以上に初めて65歳以上の労働者を新規に雇用したケース

ただし、65歳以上でも学生は雇用保険に加入できないため注意が必要です。雇用保険の加入条件を満たしていても、学生であれば適用除外となるため事前に確認しておきましょう。

今後、雇用保険の対象を拡大する予定

雇用保険の適用範囲は、2024年5月から2028年10月1日にかけて段階的に拡大する予定です。雇用保険適用拡大により、短時間労働者の生活安定が期待できます。

近年では、労働時間が短い労働者も増加しており、短時間労働者に対しての保障を充実させる必要性が重視されています。2028年10月1日以降は、週10時間以上働く労働者も雇用保険の被保険者となり、失業手当や育児休業給付などの各種給付を受給できるようになる予定です。

雇用保険の適用拡大により、多くの労働者が雇用保険の対象となり、さらなる生活の安定を図れます。

65歳以上でも失業保険はもらえる?

満65歳以上の方が失業または退職しても、通常の失業保険を受け取れません。ただし、65歳以上の方は「高年齢求職者給付金」の受け取りが可能です。雇用保険制度では、65歳を迎えると「一般被保険者」から「高年齢被保険者」となります。そのため、65歳以上の方は一般的な失業保険を受け取れませんが、条件を満たしていれば「高年齢求職者給付金」を受け取れることを理解しておきましょう。

64歳までとの失業保険の違い

65歳以上の人が受け取る失業保険は「高年齢求職者給付金」として支給され、64歳以下の人が受け取る失業保険は「基本手当」として支給されます。2つの主な違いは、受給日数や給付額などです。

65歳以上の高年齢求職者給付金は、基本手当と比べて、受けられる期間や給付額が少ない傾向にあります。64歳以下の基本手当は、今まで働いた期間や離職の理由により、90日から最大360日まで支給されます。一方、65歳以上の高年齢求職者給付金は、今までの雇用保険の加入期間に応じて、支給される日数が30日または50日に限られているため注意が必要です。また、基本手当日額の上限も、高年齢給付金では低く設定されています。

そのため、65歳以上の高年齢求職者給付金は、64歳以下の基本手当と比べて受け取れる日数や金額が少なくなります。退職する時期を考える際は、違いを理解しておくことが大切です。

65歳以上が失業保険をもらえる要件

65歳以上の失業保険である「高年齢求職者給付金」を受給するための要件は以下のとおりです。

  • 離職の日までの1年間に被保険者期間が通算6ヶ月以上あること
  • 失業していること

被保険者期間は、雇用保険に加入していた期間です。離職後は1ヶ月単位で区切り、賃金が支払われた日が11日以上ある月を「1ヶ月分」としてカウントします。2020年8月1日以降に離職した方については、もし賃金支払い日が11日以上の月が6ヶ月ない場合でも、80時間以上働いた月を1ヶ月として計算可能です。

また、失業保険をもらうためには、失業状態であることが前提です。失業状態は、就職したい意思と能力があり、求職活動も行っているにもかかわらず就職できない状態を指します。

上記の条件に当てはまっていなければ、高年齢求職者給付金は受け取れないため注意が必要です。

65歳以上の失業保険の計算方法と具体例

高年齢求職者給付金の費用は「基本手当日額(賃金日額×給付率)×給付日数」で計算できます。

まずは、賃金日額を計算しましょう。賃金日額とは、離職直前6ヶ月の賃金1日の単価で、「退職前6ヶ月の給与総額÷180(30日×6ヶ月)」で算出できます。ただし、賃金日額は上限額13,700円、下限額2,574円と定められているため注意が必要です。なお、この数字は2020年のものとなっています。上限額や下限額は毎年変更されるため、必ず確認しておきましょう。

賃金日額がわかれば、雇用保険で受給できる1日あたりの金額「基本手当日額」を算出します。基本手当日額は「賃金日額×給付率」で計算できます。ただし、給付率は固定のものと計算が必要なものがあるため注意が必要です。2,574円以上5,030円未満は80%、12,390円以上13,700円以下の場合は80%で計算します。上記の範囲外である場合は、「0.8×賃金日額-0.3×{(賃金日額-5,030)÷7,360}×賃金日額」で計算してください。

基本手当日額がわかれば、「基本手当日額×給付日数」で高年齢求職者給付金が計算できます。給付日数は、被保険者期間が1年以上なら50日分、1年未満なら30日分です。

たとえば、雇用保険期間が1年以上で、退職前6ヶ月の給与が月額20万円の場合、計算方法は以下のとおりです。

賃金日額:(20万円×6ヶ月)÷180=6,666円

基本手当日額:0.8×6,666円-0.3×{(6,666円-5,030)÷7,360}×6,666円=4888円

高年齢求職者給付金の給付額:4,888円×50日=244,400円

上記のように、高年齢求職者給付金は計算できるため、目安として事前に確認しておくといいでしょう。

65歳以上で年金をもらいながら失業保険はもらえるか

65歳以上の方は、失業保険である「高年齢求職者給付金」と年金を同時に受け取れます。

一方、65歳未満の方が受給する基本手当は、老齢年金と同時に受給できず、受給すると年金の支給が停止されます。たとえば、65歳以上で退職し、老齢年金を受給している方が新たに就職先を探す際に高年齢求職者給付金を申請すると、年金を受給しながら一時金として給付金も受給可能です。

ただし、65歳以上でも受給している年金が「特別支給の老齢厚生年金」の場合、受給する時期や条件により失業給付との調節が必要な場合があります。

基本的には、65歳以上の方は年金を受給しながら失業保険を受け取れるため、退職後の生活安定のために有効に活用することが重要です。

複数で働いている65歳以上の雇用保険制度

本業だけでなく副業をしている65歳以上の人を対象に、2022年1月1日から「マルチジョブホルダー制度」が新設されました。複数の勤務先で働く65歳以上の労働者が、2つ以上の企業での労働時間を合計して雇用保険の要件を満たす場合、労働者の要望に応じて雇用保険の被保険者となります。

以下では、マルチジョブホルダー制度の基本情報や適用条件などについて解説します。

マルチジョブホルダー制度

マルチジョブホルダー制度は、65歳以上の労働者が複数の職場で働いている場合、勤務先を合わせて一定の要件を満たした場合、ハローワークに申し込むと特例として雇用保険の対象となる制度です。

  • 複数で働く65歳以上の労働者
  • 2つの事務所(ひとつの事務所での1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間合計が、1週間の所定労働時間20時間以上
  • 2つの事務所それぞれの雇用見込みが31日以上

マルチジョブホルダー制度を導入すると、65歳以上の労働者は複数の短時間労働を組み合わせて生計を立てている場合でも、雇用保険適用となります。

マルチジョブホルダー制度は、2022年1月1日から施行されており、効果の検証が実施されています。

マルチジョブホルダー制度は労働者本人が申し出る

マルチジョブホルダー制度を利用するためには、労働者本人はハローワークに申し出る必要があります。マルチジョブホルダー制度の手続きは、労働者の意思に基づくもので、事業主からの一方的な申請は認められていません。

労働者が申し出を行った日から雇用保険の被保険者資格が取得され、以降は通常の被保険者と同じ扱いとなります。

事業主は、労働者からの依頼に応じて必要な書類の作成や証明を行う義務があります。また、労働者が制度を申し出たことを理由に、不当な扱いをすることが法律で禁じられているため注意が必要です。

65歳以上の雇用保険で使える給付金

65歳以上の雇用保険で利用できるのは、高年齢求職者給付金以外にもあります。以下では、各給付金の概要と条件を解説します。

教育訓練給付金

教育訓練給付金とは、働いている方の学び直しやスキルアップを支援するための制度です。65歳以上の方でも再就職やキャリアチェンジを目指す方は増えている傾向にあります。教育訓練給付金は、経済的負担を軽減しながら、学びの機会を提供する重要な制度です。

たとえば、65歳以上の方が新たな資格取得を目指して講座を受講する場合、教育訓練給付金を申請すると、受講料の一部が支給されます。そのため、自己負担額を減らしてスキルアップが目指せます。

65歳以上でも、教育訓練給付金を受給できるため新たなスキルを習得したい方に最適です。

介護休業給付金

介護休業給付金は、雇用保険の被保険者が家族の介護のために休業する場合、収入の一部を補助する制度です。65歳以上の方でも、雇用保険の被保険者であれば、介護休業給付金を受給できます。

高齢化社会が進んでいることにより、65歳以上の方が家族の介護をするケースが増加しています。介護休業給付金は、介護と仕事を両立する支援目的で支給され、急激な収入の減少を防ぎ、介護に専念できる環境を提供しているのです。

そのため、家族の介護が必要な場合は、介護休業給付金を利用して経済的なサポートを受けることが推奨されています。

育児休業給付金

育児休業給付金は、育児休業中の所得を補助するための制度で、65歳以上の方でも雇用保険に加入していれば受給対象です。

高齢者の方でも、孫や養子の育児にかかわるケースがあり、育児休業給付金の適用範囲を拡大しています。たとえば、65歳以上の労働者が養子を迎え入れ、育児休業を取得する場合、要件を満たせば休業期間中の賃金の67%が給付金として支給されます。そのため、収入の減少を補いながら育児に専念できる仕組みです。

65歳以上の方でも雇用保険の被保険者であれば、育児休業給付金を活用できるため、必要に応じてサポートを受けるといいでしょう。

適切に手続きして65歳以上も雇用保険に加入しよう

2017年の法改正により、65歳以上でも要件を満たせば雇用保険に加入できます。そのため、企業は年齢を問わず加入条件を満たす従業員がいれば、雇用保険に加入させることが義務付けられています。事前に加入条件を確認し、雇用保険に加入できる条件を満たしているか確認しておきましょう。


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