- 更新日 : 2025年1月17日
残業代の割増率とは?25%・35%・50%の違いや計算方法を解説
残業代の割増率は、労働者の労働時間が法定労働時間を超えたり、特定の時間帯や休日に働いたりした場合に加算される賃金率です。
法定労働時間を超える残業には25%以上、休日労働には35%以上、月60時間超の残業には50%以上の割増率が適用されます。
本記事では、残業代の割増率の違いや適用条件を解説します。
目次
残業代の割増率とは?
残業代の割増率とは、通常の賃金に一定の率を上乗せして支払う制度です。この制度は、従業員の健康を守り、過度な長時間労働を防ぐために設けられています。
ここでは、残業にかかる割増率について詳しく解説します。
残業にかかる割増率の一覧
残業にかかる割増率の一覧は、以下のとおりです。
種類 | 支払う条件 | 割増率 |
---|---|---|
時間外 (時間外手当・残業手当) | 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき | 25%以上 |
時間外労働が限度時間(1ヶ月45時間・1年360時間など)を超えたとき | 25%以上 | |
時間外労働が1ヶ月60時間を超えたとき | 50%以上 | |
休日 (休日手当) | 法定休日(週1日または4週4日)に勤務させたとき | 35%以上 |
深夜 (深夜手当) | 22時から5時までの間に勤務させたとき | 25%以上 |
月60時間超の時間外労働に対する50%以上の割増率は、2010年4月から大企業で適用されていましたが、2023年4月からは中小企業にも適用されています。企業は従業員の労働時間を適切に管理し、該当する割増率で残業代を支払うことが必要です。
残業をさせるには36協定の締結が必要
残業をさせるには、企業は従業員の過半数を代表する者または労働組合との間で36協定を締結し、労働基準監督署に届け出なければなりません。
36協定とは、法定労働時間を超える残業や休日労働を行う際に必要な協定です。労働基準法第36条が根拠となっています。
会社と労働者代表が締結し、労働基準監督署に届け出ることで、法的に時間外労働や休日労働を行う権限を得る仕組みです。
時間外労働の上限を原則として月45時間・年360時間と定めています。上限を超えて残業をさせることは、特別な事情がない限り認められていません。
また、36協定を締結せずに残業をさせることは法律違反となります。
参考:厚生労働省|36協定で定める時間外労働及び休日労働 について留意すべき事項に関する指針
残業代の割増率25%とは?
残業代の割増率25%は、基本的な割増率です。法定労働時間を超えて働いた場合に適用される最低限の割増率となります。
ここでは、割増率25%の具体例を紹介します。
1日8時間を超える労働
1日の労働時間が8時間を超える場合、超過した時間には25%以上の割増率が適用されます。
たとえば、休憩時間が1時間で始業9時、終業18時の企業で考えてみましょう。この企業で、9時から20時まで働いた場合、18時以降の2時間分が残業です。そのため、通常の賃金の1.25倍以上を支払う必要があります。
基本時給を1,200円とした場合、1,200円×1.25×2時間の3,000円が残業代です。
この規定は、企業が定める所定労働時間が8時間未満であっても適用されるのが特徴です。所定労働時間が7時間であっても、8時間を超えて働いた際は割増賃金の支払いが必要となります。
週40時間を超える労働
週の労働時間が40時間を超えた場合にも、25%以上の割増率が適用されます。この基準は、1日8時間以内の労働であっても適用されるのが特徴です。
たとえば、平日5日間で40時間勤務したあとに土曜日に勤務する場合、土曜日の勤務時間すべてに対して25%以上の割増賃金を支払う必要があります。
割増賃金の計算は、1日単位の超過時間と週単位の超過時間を比較し、より長い時間に対して適用します。これにより、従業員の利益が最大限保護されるでしょう。
深夜の労働(22時~5時)
深夜時間帯(22時から翌朝5時まで)の労働には、25%以上の割増率が適用されます。この時間帯に時間外労働や休日労働が重なる場合、割増率が加算されます。時間外労働(25%)と深夜労働(25%)が重なると割増率は50%以上です。
なお、休日労働(35%)と深夜労働(25%)の場合は60%以上が適用され、法定休日の深夜時間帯労働はとくに高い割増率となります。
時給1,100円の従業員が午後10時から午後11時まで残業した場合、1時間分の賃金は1,650円(1,100円×1.50)です。深夜労働が月60時間を超える時間外労働と重なる場合は、75%以上の割増率となり、時給1,500円なら1時間あたり2,625円(1,500円×1.75)です。
複数の割増条件が適用される場合は、それぞれを合算して計算します。
残業代の割増率35%とは?
残業代の割増率35%は、おもに法定休日労働に適用される割増率です。法定休日とは、労働基準法で定められた週1日または4週間で4日以上の休日を指します。
以下で、詳しく解説します。
法定休日の労働
法定休日に労働させる場合、労働時間すべてに対して35%以上の割増率が適用されます。時給1,100円の従業員が日曜日(法定休日)に5時間働いたら、5時間分すべてに対して1,485円(1,100円×1.35)の賃金が発生します。
法定休日の労働が深夜時間帯と重なった場合は、休日労働の35%に深夜労働の25%を加えた60%以上の割増率が適用される仕組みです。
複数の割増要因が重なると、それぞれの割増率を合算して適用します。
残業代の割増率50%とは?
残業代の割増率50%は、おもに2つのケースで適用されます。この規定は、2023年4月より中小企業にも適用されるようになりました。
それぞれ具体例を挙げて解説します。
月60時間を超える時間外労働
2023年4月からは、企業規模にかかわらず、月60時間を超える時間外労働には50%以上の割増率が適用されます。ある月の時間外労働が70時間の場合は、60時間までは25%以上、残りの10時間は50%以上の割増率で計算する必要があります。
時給1,000円の従業員が月70時間の時間外労働を行った場合の計算例は、下記のとおりです。
- 60時間まで:1,000円×1.25×60時間=75,000円
- 60時間超の10時間:1,000円×1.50×10時間=15,000円
合計の残業代は90,000円となります。
参考:厚生労働省|36協定で定める時間外労働及び休日労働 について留意すべき事項に関する指針
深夜の残業
深夜時間帯(22時~5時)に時間外労働が重なった場合、時間外労働の25%と深夜労働の25%を合わせた50%以上の割増率が適用されます。不規則な勤務時間による従業員の健康への影響を考慮した規定です。
たとえば、所定労働時間を超えて23時まで働いた場合、22時以降は50%以上の割増率が適用されます。時給1,000円の場合、22時以降は1時間あたり1,500円(1,000円×1.50)以上の賃金を支払う必要があります。
残業代の割増率50%以上になるケース
複数の割増率が重なると、50%以上になるケースがあります。ここでは、代表的な例を挙げて解説します。
残業代の割増率60%
残業代の割増率が60%となるのは、法定休日の労働が深夜時間帯と重なる場合です。法定休日労働の35%と深夜労働の25%が合算され、60%以上の割増率が適用されます。
たとえば、日曜日(法定休日)の23時まで働いた場合、22時から23時までの1時間は時給1,000円であれば、1時間あたり1,600円(1,000円×1.60)以上の賃金を支払う必要があります。
これは、休日労働による心身の負担に加え、深夜時間帯の勤務による影響を考慮した措置です。
残業代の割増率75%以上
月60時間を超える時間外労働が深夜時間帯と重なると、時間外労働の50%と深夜労働の25%が合算され、75%以上の割増率となります。
たとえば、月の時間外労働が65時間あり、そのうち60時間超の5時間が深夜時間帯であった場合は、下記の割増率になります。
- 60時間までの時間外労働:25%以上
- 60時間超の深夜時間外労働:75%以上(50%+25%)
もっとも高い割増率が適用されるケースのひとつです。
残業代の計算方法
残業代を正確に計算するためには、基礎となる時間単価の算出からはじめる必要があります。ここでは、具体的な手順にしたがって計算方法を解説します。
①時間単位の賃金を求める
時間単位の賃金を算出する方法は、従業員の給与形態によって異なります。
- 月給制:月給÷月平均所定労働時間
- 日給制:日給÷1日の所定労働時間
なお、月給からの計算では、通勤手当や住宅手当など一部の手当は除外します。月給制の計算例は、下記のとおりです。
- 月給:30万円(基本給24万円、通勤手当6万円)
- 年間休日:120日
- 1日の所定労働時間:8時間
月平均所定労働時間は「(365日 – 120日)×8時間÷12ヶ月=162.67時間」です。1時間あたりの基礎賃金は「24万円÷162.67時間=1,475円」となります。
②残業時間と割増率を算出する
残業時間は、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた時間を集計します。その上で、以下の区分に応じて適切な割増率を適用して計算します。
- 通常の時間外労働:25%以上
- 深夜労働との重複:50%以上
- 法定休日労働:35%以上
- 月60時間超の残業:50%以上
複数条件が適用される場合の計算例は、下記のとおりです。
- 時給:1,500円
- 通常の時間外労働:30時間
- 深夜の時間外労働:20時間
通常の時間外労働は「1,500円×1.25×30時間」で56,250円、深夜の時間外労働の分は
「1,500円×1.50×20時間」の45,000円のため、合計残業代は101,250円となります。
ただし、実際の支給額は社会保険料や税金が控除された金額です。企業側は別途、社会保険料の事業主負担分も考慮する必要があります。
③残業時間は1分単位で計算する
労働基準法第24条1項にもとづく「賃金全額払いの原則」により、残業時間は1分単位での管理と計算が必要です。たとえば「17時15分退勤」の場合は、15分を0.25時間として計算しなければなりません。
企業が独自に「30分未満は切り捨て」などのルールを設けることは、労働基準法違反となります。就業規則に記載があっても同様です。
ただし、1ヶ月の残業時間の合計において、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げることは認められています。従業員に有利となる場合も、例外的に認められることがあります。
みなし残業の場合
みなし残業は、あらかじめ一定時間分の残業代を含めた給与体系です。実際の残業時間が「みなし時間」を超えた場合は、超過分について割増賃金を支払う必要があります。
また、深夜労働や休日労働には、別途割増賃金の支払いが必要です。
残業を減らすために企業に求められること
残業を減らすことは、従業員の健康管理と企業のコスト削減の両面で重要です。企業は以下のような取り組みを通じて、残業時間の削減を目指す必要があります。
業務に優先順位をつける
業務の優先順位付けは、残業削減の基本です。タスクを整理し、重要な業務を優先的に進めることで、不要な残業を削減できます。管理職は日々の業務量を把握し、特定の従業員に仕事が集中しないよう適切な業務配分を心がけるとよいでしょう。
また、部署全体の業務の可視化を行い、効率的な人員配置を実現すれば、残業の削減につなげられます。
役割分担の明確にする
組織内の役割と責任を明確にすれば、業務の重複や漏れを防げます。具体的には下記の取り組みが効果的です。
- 業務マニュアルの整備
- 定期的な業務の棚卸し
- チーム内でのコミュニケーション強化
- 定例ミーティングでの進捗確認
これにより、各従業員が自身の担当業務に集中でき、効率的な業務遂行が可能となります。
ITツールを導入し効率化する
業務効率化のためのITツール導入は、残業削減に大きな効果があります。具体的なツールは、下記のとおりです。
- プロジェクト管理ツール
- コミュニケーションツール
- 文書管理システム
- RPA(業務自動化)ツール
これらのツールの活用で、定型業務の自動化や情報共有の効率化が図れ、残業時間の削減につながります。
給与計算ソフトや勤怠管理システムの導入
正確な労働時間の把握と適切な残業代の計算のために、勤怠管理システムの導入をおすすめします。
- リアルタイムでの労働時間の把握
- 残業時間の自動集計
- 適切な割増率の適用
- 労務管理の効率化
上記のようなことが実現でき、残業時間の適切な管理と削減が可能となるでしょう。
適切な労務管理で残業を抑制しよう
残業代の割増率は、従業員の健康と権利を守るための重要な制度です。企業は正しい割増率を理解し、適切に残業代を支払う必要があります。
また、業務効率化や労務管理の改善を通じて、残業時間の削減に取り組むことも大切です。
残業に関する法令を遵守しつつ、従業員が健康で働きやすい職場づくりを進めて、企業の持続的な成長につなげましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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