- 更新日 : 2024年5月10日
慰労金とは?具体例や退職金との違い、税金や相場を解説
慰労金とは役員や従業員の労をねぎらうために支給するお金です。同じ趣旨のものとして退職金が知られていますが、こちらは退職金に関する規定に基づき支給され、慰労金とは異なります。この記事では慰労金の具体例を紹介した上で、特に注意が必要な役員退職慰労金の相場や支給手続き等を解説しますので、実務を進める上で参考にしてください。
目次
慰労金とは?
慰労金(いろうきん)とは、労をねぎらうために支給されるお金のことです。同様に長年の労をねぎらう意味合いを持つ退職金との違いについて、以下で解説します。
慰労金と退職金との違い
慰労金では、役員の退任時に支給する役員退職慰労金がよく知られています。その他にも退職金規定で退職金の支給が定められていないパート従業員が退職する際に一時金を支給するパート慰労金などがあります。このうち、役員退職慰労金は、株主総会決議等を経て支給額等を決定しなければならないため、会社の独断で支給できない性質のものです。
一方、退職金は就業規則において会社の退職給付制度として規定するのが一般的で、役員ではなく一般の従業員の退職にあたって支給される点が慰労金とは異なります。また計算方法や支給額を会社が決定できる点でも、役員退職慰労金と異なります。
慰労金の具体例
慰労金にはいくつかの種類があります。代表的なものを以下で紹介します。
退職慰労金
退職慰労金とは、一般的には役員退職慰労金と同じ意味になります。この他、退職金が支給されない従業員の退職時に支給されるものもあります。代表的なものが後ほど紹介するパート慰労金です。
役員退職慰労金
役員の退任時に支給される慰労金です。詳細については後ほど解説します。
特別慰労金
厚生労働省による「新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金交付事業」に基づき交付された慰労金など、特別に支給する慰労金のことです。医療従事者、医療機関の職員、介護サービス事業者等が感染症対応の最前線で業務に従事していたことに対し、最大20万円の慰労金を給付しました。
パート慰労金
パート慰労金は、退職金が規定されていないパート従業員の退職時に、長年にわたっての勤務をねぎらうために支給する一定額の慰労金のことです。
慰労金の税金は?課税・非課税?
慰労金に課税されるか否かは、所得税法等の規定(非課税所得に関する規定)によります。慰労金は基本的には課税対象となりますが、先述の新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金など、その慰労金の支給の性質によっては非課税となる場合もあります。
所得税法等で定める非課税所得については、以下のリンクの通りです。
慰労金の相場は?
慰労金の中で支給額の調査結果が公表されているのは、役員退職慰労金です。ここでは役員退職慰労金(役員退職金)の相場について、エヌエヌ生命保険株式会社の「中小企業の退職金に関する調査」の結果を踏まえて解説します。
この調査は、全国の中小企業の役員等約10,000名へのアンケート形式で実施したものです。2020年の調査結果のうち、役員の職位ごとの平均支給額は以下の通りです。
社長:2,476万円
取締役:1,685万円
監査役:1,150万円
参考:役員退職金の相場・簡単シミュレーション・社長の功績倍率データ|エヌエヌ生命保険株式会社
役員退職慰労金の計算方法
役員退職慰労金は一般的には功績倍率法と呼ばれる方法で計算し、計算式は以下の通りです。
役員退職慰労金=退職時の報酬月額×役員在任年数×功績倍率
このうち、功績倍率については役員の職位毎に定められるもので、法律等で明確に定められていませんが、同業種・同規模の類似法人の功績倍率の平均値を上限とすることが一般的です。この功績倍率が役員退職慰労金の相場の重要な要素になっているとも言えるでしょう。
功績倍率の平均値については以下の通りです。
代表取締役(創業者):3.0~3.4
代表取締役:2.4~3.2
専務取締役:2.2~2.7
常務取締役:2.0~2.6
取締役:1.2~2.0
監査役:1.0~1.6
なお、急な業績悪化や病気等により報酬減額があった場合など、功績倍率法では妥当な慰労金の額を算定できない場合もあります。そのような場合には、1年あたり平均額法と呼ばれる方法で算定します。
役員退職慰労金=同規模・同業種の役員退職金1年あたり平均額×役員在任年数
※役員退職金1年あたり平均額=役員退職金÷勤続年数
また、特別な功績があった役員に対しては功労加算金を支給することもあります。一般的には役員退職慰労金の30%の額を上乗せ支給します。
参考:役員退職慰労金とは?計算方法と功労加算・税金面の注意点や支給手続きを解説 | 給与計算ソフト マネーフォワード クラウド (moneyforward.com)
慰労金を支給するメリット・デメリット
慰労金の支給について、会社側のメリットとデメリットを解説します。
慰労金を支給するメリット
役員退職慰労金については、税務上損金算入が可能で、法人税の負担を減らせるのもメリットです。また、役員の退任時以外の慰労金の支給では、退職金支給でその労に報いることができないパート従業員等に対して謝意を表明できることもメリットと言えるでしょう。
慰労金を支給するデメリット
慰労金の中でも役員退職慰労金は高額になることが一般的です。したがって、経営状況や財務基盤が厳しい企業にとっては大きな負担になることはデメリットと言えます。
また、役員退職慰労金は一般的には株主総会決議を経て支給するため、滞りなく決議されるように進めるための調整が負担になります。万一総会で否決されるようなことがあると、企業内部の混乱につながることになるためです。
慰労金を支給する際の手続き
慰労金の中でも役員退職慰労金については、支給手続きが会社法に規定されているため注意が必要です。
取締役(役員)の報酬等について、会社法第361条で定款に定めるか、または株主総会の決議を経ることが求められています。役員退職慰労金を定款に定めることはまれで、一般的には株主総会の決議により定める形を取ります。
ただ、株主総会では支給金額までは決定せず、支給方法や時期などを含めて決定を取締役会に一任することが一般的です。この場合、株主が決議の可否を判断するために支給基準を示す必要があり、取締役会への一任はその基準に基づき行う形を取ります。
支給に関する基準は役員退職金規程など、正式な規程として明文化されていることが望ましいですが、基準として機能する限りは慣行として確立されているものでも問題ないとされています。
また、取締役会への一任のために役員退職慰労金の支給基準を株主に示すためには、株主総会招集通知とともに送付する参考書類に記載しなければなりません。なお、参考書類への記載に代えて、支給基準を本社などに備え置いて株主が閲覧できるようにすること等、適切な措置を取ることも可能とされています。
以上の手続を通じ、株主総会の決議を経ることで、先に述べた税務上のメリットである役員退職慰労金の損金算入が可能になります。
慰労金を支給する際の注意点
先述の通り、役員退職慰労金は法人税の計算上、損金に算入することができるため、会社にとって節税効果をもたらします。この損金算入にあたっては、形式的基準、実質的基準、金額基準の3つの要件を満たす必要があります。これらの要件を満たしていない場合、税務調査で否認される可能性があるため注意が必要です。
形式的基準
役員退職慰労金は会社法により定款で定めるか、または株主総会の決議を経る必要があります。株主総会の決議を経ることなく、事業主の独断で慰労金の支給額を決定した場合には、仮に金額が適正であっても、形式的基準を満たさないために税務調査で否認される可能性があります。
実質的基準
役員退職慰労金を受け取っても、引き続き経営上の主要な地位に就いている場合、役員退職慰労金としての支給が認められません。
なお、役員退職慰労金を受け取った後、役員としての地位や職務内容が大きく変わる分掌変更が行われた場合は、実質的に退職したものと同様と考えられ、役員退職慰労金が認められます。
具体的には以下の場合などが該当します。
- 常勤役員から非常勤役員になる(実質的に経営上の主要な地位にある場合を除く)
- 取締役から監査役になる(実質的に経営上の主要な地位にある場合を除く)
- 役員報酬の額が概ね50%以上減少
金額基準
役員退職慰労金は、役員としての業務従事期間、業種や規模が同じ法人における支給額などを考慮し、妥当と判断される額の支給が認められます。これらの基準から考えて、役員退職慰労金が不相当に高額と判断された場合、高額となった部分については損金算入が認められないため、注意が必要です。
役員退職慰労金については、以下のリンクも参考にしてください。
参考:役員退職慰労金とは?計算方法と功労加算・税金面の注意点や支給手続きを解説
慰労金を正しく支給して労に報いよう
慰労金は役員や従業員の労に報いるために支給するものです。慰労金を支給される役員や従業員だけでなく、会社にとっても節税効果といったメリットがあります。一方、役員退職慰労金は支給手続きが法律で厳密に規定されているため、正しい手続きを踏まなければメリットを享受できないことになりかねません。
この記事で紹介した手続きや注意点などに特に注意して、支給する側、される側双方に良い形で慰労金を支給して、役員や従業員の労に報いましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
セカンドキャリアとは?年代別の目的や具体例、企業が採用するポイントを解説
セカンドキャリアとは、第二の人生における職業を意味する言葉です。人生の大きな節目を迎えた人が自身のキャリアについて向き合い、将来を見据えたキャリア設計を意識するという動きが広がっています。 ここでは、30代・40代・50代と年代別のセカンド…
詳しくみる諭旨退職とは?会社都合か自己都合か、退職金の扱いや転職の影響を解説
諭旨退職は会社都合による退職なのか、自己都合退職と違うのか迷うことがあるでしょう。諭旨退職は懲戒処分の一種です。懲戒解雇相当の問題行動があった際、企業が退職するように勧告し、従業員自ら身を引いて退職させることを指します。 諭旨退職とは何か、…
詳しくみるコンティンジェンシーとは?リーダーの特徴やメリット・デメリットを解説
コンティンジェンシー理論は、経営や組織論において重要な概念であり、組織や経営の成功は状況に依存するという考え方です。企業でこの理論を導入することは、現代の不確実性のある環境で競争力を維持し、成果を最大化するために不可欠です。今回は、コンティ…
詳しくみるマザーズハローワークとは?利用方法やハローワークとの違いを解説
「マザーズハローワーク」は、子育て中の女性の仕事探しを支援しています。求職中の女性の中には、「正社員の求人はある?」「ハローワークとの違いは?」「職業訓練は?」などの疑問を感じている人もいるでしょう。 本記事では、マザーズハローワークについ…
詳しくみる見える化とは?可視化との違いや目的を解説
企業経営において、「見える化」というコンセプトは非常に重要です。この記事では、見える化の基本概念、可視化との違い、そしてその目的について詳しく解説します。 また、見える化における「トヨタ式」のアプローチや、見える化のメリットとデメリットにつ…
詳しくみる仕事を辞める人の前兆とは?7つのサインと会社がとるべき対策を解説
人材不足に悩む企業や職場で、突然辞める人が出ると大きな痛手です。事前に退職の兆候がつかめれば引き止められるかもしれません。しかし、意志を固めて退職を申し出た人を説得するのは難しいでしょう。 本記事では、仕事を辞める人の前兆について解説します…
詳しくみる