- 更新日 : 2024年10月7日
育休の計算方法を具体例をあげて解説
育休(育児休業)とは、従業員が育児のために取得できる制度のことです。この記事では、通常の育休制度に加え、男性の育休取得促進を目的とした「産後パパ育休」や、新たに創設される「出生後休業支援給付」などを取得できる期間や育児休業給付金の計算方法について解説します。自動計算ツールもご紹介するため、ぜひ参考にしてください。
目次
育休(育児休業)とは?
育休(育児休業)とは、従業員が1歳未満の子どもを養育することを目的に取得する制度のことです。
本人の申し出の有無に関わらず、産後6週間は就業させられません。それに対し、育休は基本的に満1歳に満たない子どもを養育するために従業員が申し出た場合に、使用者が与えなければなりません。
ここでは、育休の対象者と取得状況、男性の育休と産後パパ育休の違いを解説します。
育休の取得率
厚生労働省が公表する育休の2022年度の取得率は、女性が80.2%、男性が17.1%です。男性の育休取得率は増加し続けているものの、女性と比較すると依然として低い割合です。
参考:「令和4年度雇用均等基本調査」結果を公表します|厚生労働省
育休の対象者
育休の対象者は、1歳未満の子どもを養育している従業員であり、性別を問いません。雇用保険に加入していれば、パートやアルバイトなどの雇用形態であっても対象となります。労使協定を締結している場合、勤続1年未満勤務者は対象外となるため、自社の労使協定の内容を確認しておきましょう。
また、血縁関係がある実子だけでなく、法的に認められた養子や未成年後見人が養育する子どもなども、育休を取得する対象となります。ただし、子どもが育休を取得する従業員と同居している必要がある点に注意しましょう。
男性の育休と産後パパ育休の違い
産後パパ育休とは、産後8週間以内に4週間(28日)を限度として2回に分割して取得できる休業のことです。2022年の育児・介護休業法の改正によって施行されました。1歳までの育児休業とは別に取得できます。
通常の男性の育休と産後パパ育休の違いとしては、取得できる期間と期間中の就業の可否が挙げられます。
育児休業を取得できるのは子どもが最長2歳になるまでであるのに対し、産後パパ育休の取得期間は、子どもが生まれてから8週間以内と短期的です。また、育休中は基本的に就業不可ですが、産後パパ育休は労使協定を締結すれば就業が可能です。
参考:令和3(2021)年法改正のポイント 令和4年(2022)10月1日から育児・介護休業法が改正されました!|厚生労働省
育休期間の計算方法
育休を取得できる期間は、原則、子どもが1歳になる日の前日までです。ただし、1歳になっても預けられる保育所が見つからないなどの理由がある場合には、事前申請をすることで1歳6ヶ月から2歳まで延長できます。
たとえば、出産日が2024年1月1日の場合の育休開始日と育休終了日は以下のとおりです。
- 育休開始日: 出産後57日目(2024年2月26日)
- 育休終了日:子どもが1歳になる前日(2024年12月31日)
なお、育休開始日は産休を8週間(56日間)取得した翌日です。
また、出産日が2024年1月1日で、子どもが2歳になるまで育休を延長した場合の育休開始日と育休終了日は以下をご参照ください。
- 育休開始日: 出産後57日目(2024年2月26日)
- 育休終了日:子どもが2歳になる前日(2025年12月31日)
「厚生労働省の自動計算サイト」を利用すると、産休や育休がいつから始まるのかがすぐにわかり、便利です。
引用:制度改正により実現できる働き方・休み方(イメージ)|厚生労働省
育休は、夫婦それぞれが分割して2回ずつ取得できます。夫婦で交代して取得する際は、以下のようなパターンがおすすめです。
- まず妻が育休を取得し、途中で夫に交代した後、妻が2回目を取得する
- 妻が出産後57日目から子どもが満1歳になるまで育休を取得しつつ、夫は育休開始直後と妻の職場復帰前のタイミングの2回に分割して取得する
参考:産休・育休はいつから?産前・産後休業、育児休業の自動計算|厚生労働省
パパ・ママ育休プラスの計算方法
パパ・ママ育休プラスとは、両親が育児休業を取得することにより、特別な事情がなくても、子どもが1歳2ヶ月に達するまで育児休業を延長できる制度です。
通常の育休にプラスされる2ヶ月分は、後から取得した方に加わることがポイントです。つまり、後から取得した方の育休が先に終了する場合は、2ヶ月延長できない点に注意しましょう。
引用:「パパ・ママ育休プラス」を活用して、パパも育児休業を上手に利用しよう|東京都産業労働局
パパ・ママ育休プラスの取得パターン例
パパ・ママ育休プラスの取得方法の代表的な取得パターンは、以下の3つです。
- パターン1:子どもが1歳になる前日までママのみが育休を取得し、1歳以降の2ヶ月間をパパが取得する
- パターン2:パパとママがなるべく一緒に育休を取得する
- パターン3:先にママが育休を取得し、その後は祖父母に子どもの面倒をみてもらい、最後にパパが育休を取得する
育休手当(育児休業給付金)の計算方法
育休手当(育児休業給付金)とは?
育休手当とは、育休取得期間中の給与支給を受けない間に収入が減少することを補うために、雇用保険から支給される手当のことです。出産した女性本人だけでなく、配偶者が出産した男性についても受給対象となります。
育休手当の計算式
育休手当は、以下のように計算しましょう。
- 育休を開始してから180日目まで:休業開始時賃金日額×支給日数×67%
- 育休を開始してから181日目以降:休業開始時賃金日額×支給日数×50%
育休中はずっと同じ金額を受給できるのではなく、育休開始してから180日目を境に支給率が変更になることがポイントです。
なお、「休業開始時の賃金日額」とは、育休を開始する前の6ヶ月間の賃金を180日で割った金額のことです。賃金日額を計算するための賃金は手取り額ではなく、残業手当や通勤手当などを含みます。
参考:1 出生時育児休業給付金|厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク
参考:育児休業給付の内容と支給申請手続 2024(令和6)年8月1日改訂版|厚生労働省
育休手当の上限額と下限額
育休手当として受給できる金額と、育休手当を計算する際に用いる「休業開始時賃金日額」には、それぞれ以下のように、2025年7月31日までの上限額と下限額が設定されています。
休業開始時賃金日額の上限額:15,690円
休業開始時賃金日額の下限額:2,869円
また、育休手当の育休手当については、次の表をご参照ください。
支給率67% | 支給率50% | |
---|---|---|
上限額 | 315,369円 | 57,666円 |
下限額 | 235,350円 | 43,035円 |
参考:育児休業給付の内容と支給申請手続 2024(令和6)年8月1日改訂版|厚生労働省
育休手当(育児休業給付金)の支給額を計算しよう!
育休手当は全員が同じ金額ではなく、育休を取得する前6ヶ月間の給料の額によって異なります。実際にどの程度が支給されるのかイメージしやすいように、給料の金額別に育休手当の支給額を計算してみましょう。
すべての事例において、休業開始時賃金日額は社会保険料などが控除される前の金額であり、残業手当や通勤手当などが含まれます。
なお、育休手当については、「育休開始日の属する月から終了日の翌日が属する月の前月まで」と「育休開始日の属する月内に14日以上育児休業を取得した際の当該月」の社会保険料控除が免除されます。
給料が20万円の場合
育休開始前の6ヶ月間の給料が平均して20万円であった場合の育休手当の支給額は、以下のとおりです。
- 休業開始時賃金日額:120万円(20万円×6ヶ月)÷180日=約6,667円
- 育休を開始してから180日以内の支給額(1ヶ月):6,667円×30日(原則)×67%=約13万4,000円
- 育休を開始してから181日以降の支給額(1ヶ月):6,667円×30日(原則)×50%=約10万円
給料が20万円の場合、1年間育休を取得した場合の総額は約140万4,000円になります。(13万4,000円×6ヶ月+10万円×6ヶ月)
給料が30万円の場合
育休開始前の6ヶ月間の給料が平均して30万円であった場合の育休手当の支給額は、以下を参考にしてください。
- 休業開始時賃金日額:180万円(30万円×6ヶ月)÷180日=1万円
- 育休開始から180日以内の支給額(1ヶ月):1万円×30日(原則)×67%=20万1,000円
- 育休開始から181日以降の支給額(1ヶ月):1万円×30日(原則)×50%=15万円
給料が30万円の場合、育休を1年間取得した場合の総額は、210万6,000円になります。
(20万1,000円×6ヶ月+15万円×6ヶ月)
給料が50万円の場合
育休開始前の6ヶ月間の給料が平均して50万円であった場合の育休手当の支給額は、以下のとおりです。
- 休業開始時賃金日額:300万円(50万円×6ヶ月)÷180日=1万6,667円→上限額15,690円を超えるため、15,690円とする
- 育休開始から180日以内の支給額(1ヶ月):15,690円×30日(原則)×67%=約315,360円
- 育休開始から181日以降の支給額(1ヶ月):15,690円×30日(原則)×50%=235,350 円
給料が50万円の場合、育休を1年間取得した場合の総額は、約330万4,260円になります。
(31万5,360円×6ヶ月+23万5,350円×6ヶ月)
【最新】育児休業給付金、実質10割給付はいつから?
2025年4月から「出生後休業支援給付」が創設されることに伴い、一定期間において手取りベースでの実質10割の金額が支給されます。具体的には、子どもが生まれてから女性は産後休業後8週間以内、男性は子どもの出生後8週間以内に、夫婦ともに14日以上の育休を取得した場合に支給される仕組みです。
夫婦それぞれ28日間を限度に、通常の育休手当に休業前の給料の13%が上乗せされるため、「67%+ 13%=80%」となり、休業前の給料の80%を受給できます。さらに社会保険料が免除されることや、育休手当は非課税であることを勘案すると、結果的に手取りの10割程度を受給できます。
出産直後の収入減が与える影響は大きく、とくに男性の育休取得を阻む要因となっているのが実態です。こういった背景により、「出生後休業支援給付」の創設が検討されるに至ったと考えられます。
育休の取得で会社がすべきこと
従業員の育休取得に関連して会社がすべきことは、主に以下の5点です。
- 従業員に対する個別の説明・意向の確認
- 育児休業給付および社会保険料免除の手続き
- 雇用環境の整備
- 育休の公表
- ハラスメントの防止
それぞれの内容を解説します。
従業員に対する個別の説明・意向の確認
従業員から自身または配偶者の妊娠・出産の申し出があった場合、個別に育休・産休制度に関する説明を行い、育休制度などを取得する意向を確認することが義務付けられています。
育児休業給付および社会保険料免除の手続き
受給資格の確認手続きと初回の支給申請を同時に行う場合は、従業員の育休開始から4ヶ月を経過する日の属する月の末日までに、その事業所を管轄するハローワークに届け出なければなりません。また、社会保険料の免除申請や、育休中の給与計算の調整などの手続きも行います。
雇用環境の整備
育休を取得しやすい雇用環境の整備も、会社として行うべき取り組みの1つです。育休に関する相談窓口の設置や、従業員を対象とした育休に関する勉強会・講習・啓蒙などが該当します。
育休の公表
育休取得者の情報を適切に管理し、公表することも重要です。他の従業員に対して育休取得の実例を示し、制度の利用を促進することが目的です。プライバシーに配慮しつつ、成功事例を共有します。
ハラスメントの防止
育休取得に伴うハラスメントを防止する対策を講じることも欠かせません。育休取得を理由とした不利益な扱いを禁止することはもちろん、ハラスメント防止のための研修や相談窓口を設置することなどが挙げられます。
育休手続きに関する各種テンプレート
従業員による育休取得の申し出は、原則書面で行うことが義務付けられています。後のトラブルを回避するためにも、申請に関わる書面を用意しておきましょう。
「育児休業申請書」と「育児休業申出書」については、以下をご活用ください。以下のリンクから、フォームに入力すれば無料でダウンロードできます。
https://biz.moneyforward.com/payroll/templates/415/
https://biz.moneyforward.com/payroll/templates/885/
育児短時間勤務申出書のテンプレートが必要な場合は、以下を利用しましょう。
https://biz.moneyforward.com/payroll/templates/872/
https://biz.moneyforward.com/payroll/templates/868/
育休期間や手当に関する計算方法を押さえよう
企業の人事担当者やビジネスパーソンにとって、育休の期間や手当の概要やその計算方法を理解することは非常に重要です。
近年、男性の育児休業取得の促進を目指し「産後パパ育休」制度が設けられ、2025年4月からは新たに「出生後休業支援給付」の制度も創設されます。これらの制度の概要や計算方法を正しく把握し、適切に活用できるようにしましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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