- 更新日 : 2024年6月28日
大企業病とは?治らない?症状や具体例、すぐにできる7つの対策方法
長年の歴史と実績がある大企業は、安定した経営が期待されますが、その半面でさまざまな弊害が起こる可能性もあります。それが「大企業病」です。大企業病とは、大企業に特有の組織的な問題や非効率性を指す言葉で、企業の成長を阻害し、競争力を低下させる要因となります。
本記事では、大企業病の具体的な症状や原因、企業が直面するリスク、そしてすぐに実践できる7つの対策方法について詳しく解説します。
目次
大企業病とは?
大企業病とは、大企業に特有の組織的な問題や非効率性を指す言葉です。具体的には、官僚主義、過度な階層構造、意思決定の遅さ、リスク回避の傾向、イノベーションの欠如などが挙げられます。
例えば、意思決定に多くの承認が必要で、迅速な対応が求められる市場環境に適応できないことがあります。また、過度なリスク回避により、新しいビジネスチャンスを逃すこともあり得ます。これらの問題は、企業の成長を阻害し、競争力を低下させる要因となります。
中小企業でも発生する可能性がある
大企業病は大企業に特有の問題とされがちですが、中小企業でも発生する可能性があります。急成長した中小企業が組織の拡大に伴い、官僚主義や過度な階層構造を取り入れることで、同様の問題が発生することがあります。
具体的には、意思決定の遅さやリスク回避の傾向が見られるようになり、イノベーションが停滞することがあります。また、従業員のモチベーションが低下し、離職率が高まることもあります。中小企業でも、組織の柔軟性を維持し、迅速な意思決定を行うための対策が必要です。
大企業病の初期症状、具体例
企業の健全な成長を維持するためには、大企業病の初期症状を早期に発見し、適切な対策を講じることで、大企業病の進行を防ぐことが重要です。では、その初期症状とは、どのようなものなのでしょうか。ここでは典型的な4つの症状を解説します。
ルールや手続きが厳しい
大企業病の初期症状として、ルールや手続きが厳しくなることが挙げられます。社内で新しいプロジェクトを立ち上げる際に、多くの承認や書類が必要となり、手続きが煩雑化します。これにより、迅速な対応が難しくなり、業務の効率が低下します。プロジェクトの開始前に複数の部門から承認を得る必要があり、承認プロセスが長引くことで、競合他社に先を越されるリスクが高まります。
意思決定スピードが遅い
意思決定スピードの遅さも大企業病の初期症状の一つです。新製品の開発や市場投入に関する決定が、複数の階層を経て行われるため、時間がかかります。現場からの提案が課長、部長、事業部長、そして経営陣へと順次上がっていく過程で、各階層での確認や修正が入るため、最終決定までに数ヵ月を要することがあります。この遅延は、ビジネスチャンスを逃す原因となり、競争力の低下を招きます。
チャレンジ意欲が低下する
大企業病の初期症状として、社員のチャレンジ意欲が低下することがあります。新しいアイデアやプロジェクトが上司や同僚から否定されることが多くなると、社員はリスクを避け、現状維持を選ぶようになります。過去に新規事業の提案が却下された経験を持つ社員は、「どうせまた否定される」と考え、新しい提案をしなくなることがあります。このような環境では、イノベーションが生まれにくくなり、企業の成長が停滞します。
部門間の連携が悪い
部門間の連携が悪くなることも、大企業病の初期症状の一つです。営業部門と製造部門が情報を共有せず、顧客のニーズに迅速に対応できないことがあります。営業部門が顧客からのフィードバックを製造部門に伝えないことで製品の改善が遅れることがあり、この結果、顧客満足度が低下し、競合他社に顧客を奪われるリスクが高まります。部門間の連携が悪いと、全体最適が図れず、企業全体のパフォーマンスが低下します。
大企業病の末期症状、具体例
大企業病を初期に発見できずに放置した場合、末期症状に至ることになります。こうなると、「ときすでに遅し」となり、企業の健全な成長を維持することは困難です。あらかじめ末期症状が、どのような状態であるかを知っておくことは非常に重要でしょう。
社員のモチベーションの低下
大企業病の末期症状として、社員のモチベーションの低下が挙げられます。現状維持を優先する風土が蔓延し、新しいことにチャレンジする意欲が失われると、社員は「どうせやっても無駄だ」と感じるようになります。これにより、業務に対する熱意が失われ、生産性が低下します。具体的には、プロジェクトの提案が却下され続けることで、社員が新しいアイデアを出さなくなり、組織全体の活力が失われることがあります。
責任の所在が不明確
大企業病の末期症状には、責任の所在が不明確になることも挙げられます。業務が細分化され、各部門が自分の仕事だけに集中することで、全体の責任が曖昧になります。プロジェクトが失敗した際に「自分の部門の仕事ではない」と責任を押し付け合う状況が発生します。これによって問題解決が遅れ、組織全体の効率が低下します。責任の所在が不明確な組織では、社員がリスクを避ける傾向が強まり、イノベーションが阻害されやすくなります。
顧客ニーズより社内ニーズを優先
顧客ニーズより社内ニーズを優先することも大企業病の末期症状の一つです。社内の評価やルールを重視するあまり、顧客の要望や市場の変化に対応できなくなります。製品開発において顧客のフィードバックを無視し、社内の意向だけで仕様を決定すれば、顧客満足度が低下し、競争力が失われます。顧客ニーズを無視した企業は、最終的に市場から淘汰されるリスクが高まります。
優秀な人材が辞めていく
大企業病の末期症状になると、優秀な人材が辞めていきます。現状維持を優先する風土や、チャレンジを評価しない環境に嫌気がさした優秀な社員が、新たなチャレンジの場を求めて退職します。よく見受けられるのが、新規事業の提案が却下され続けることで、モチベーションを失った社員が他社に転職するケースです。これにより、企業は優秀な人材を失い、競争力が低下します。優秀な人材の流出は、企業の成長を阻害する大きな要因となるでしょう。
大企業病にかかる原因
では、大企業病にかかる原因はどこにあるのでしょうか。原因を理解し、適切な対策を講じることで、大企業病の進行を防ぎ、企業の健全な成長を維持することができます。ここでは、5つの原因を取り上げて解説します。
ルールが多い
大企業病の原因の一つに、ルールが多すぎることが挙げられます。組織が大きくなると、統制を取るために多くのルールが制定されますが、これが過剰になると柔軟性が失われます。承認プロセスが複雑化し、迅速な意思決定ができなくなることがあります。新製品の開発においては、複数の部門の承認が必要となり、時間がかかりすぎて市場投入が遅れることもあるでしょう。このような状況では、ビジネスチャンスを逃し、競争力が低下します。
業績が安定している
業績が安定していることも大企業病の原因となります。安定した業績は企業にとってよいことですが、危機感が欠如し、新たな挑戦を避ける傾向が強まります。既存の成功に依存しすぎて、新しい市場や技術への投資を怠るリスクもあります。長年にわたり同じ製品ラインで成功しているため、新製品の開発や市場拡大を行わず、結果として競合他社に市場シェアを奪われるという事態を引き起こします。
上層部と現場の意識のズレ
上層部と現場の意識のズレも大企業病の原因です。経営陣が現場の実情を理解せず、現場の声が経営に反映されないことが多くなります。経営陣が市場の変化に対応するための戦略を立てても、現場の従業員がその意図を理解せず、実行に移せないという事態が生じます。例えば、経営陣がデジタル化を推進しようとしても、現場の従業員がその必要性を感じず、抵抗することが考えられます。このような意識のズレは、組織全体の効率を低下させます。
顧客よりも社内評価を重視する
大企業病のもう一つの原因は、顧客よりも社内評価を重視することです。社員が上司や同僚の評価を気にしすぎて、顧客のニーズを軽視する傾向があります。製品開発において、顧客のフィードバックよりも社内の意見を優先することがあります。具体的には、ある企業が新製品を開発する際に、顧客の要望を無視し、社内の意見だけで仕様を決定した結果、製品が市場で受け入れられず、売上が低迷するという事態は珍しいことではありません。
閉鎖的なコミュニケーション
閉鎖的なコミュニケーションも大企業病の原因です。部門間の連携が悪く、情報共有が滞ることで、組織全体の効率が低下します。営業部門と製造部門が情報を共有せず、顧客のニーズに迅速に対応できないケースがあります。営業部門が顧客からのフィードバックを製造部門に伝えなければ、製品の改善が遅れてしまいます。その結果、顧客満足度が低下し、競争力が失われるという事態に至ります。閉鎖的なコミュニケーションは、組織の柔軟性を損うでしょう。
大企業病がもたらす企業のリスク
適切な対策を講じず、大企業病が進行した場合、どのようなリスクがあるのか、十分に理解しておくことが大切です。
生産性の低下
大企業病がもたらすリスクの一つに、生産性の低下があります。過度なルールや手続きの煩雑さ、意思決定の遅さが原因で、業務効率が低下します。新製品の開発プロセスにおいて、複数の部門の承認が必要となれば、プロジェクトが遅延することがあります。承認プロセスが長引くことで、開発スケジュールが遅れ、競合他社に先を越されるリスクが高まります。このような状況では、従業員のモチベーションも低下し、全体の生産性がさらに悪化するでしょう。
競争力を失う可能性
大企業病は、企業が競争力を失うリスクをもたらします。顧客ニーズよりも社内ニーズを優先し、イノベーションが停滞することで、市場の変化に対応できなくなります。すでに見たように製品開発において顧客のフィードバックを無視し、社内の意見だけで仕様を決定することがありますが、顧客の要望を無視すれば、製品が市場で受け入れられず、売上が低迷する結果を引き起こします。このような状況では、競合他社に市場シェアを奪われ、企業の競争力が低下することは自明の理と言えるでしょう。
大企業病にかかっているか知る方法
大企業病にかかっているかを知るためには、組織の現状を客観的に評価することが重要です。企業が大企業病にかかっているかどうかを確認するための5つの方法について解説します。
社内アンケートの実施
社内アンケートを実施することで、従業員の意識や感じている問題点を把握することができます。「業務の効率性」「意思決定のスピード」「部門間の連携」「チャレンジ意欲」などに関する質問を設け、従業員の意見を収集します。アンケート結果を分析することで、組織の問題点や改善点を明確にすることができます。例えば、「意思決定が遅い」「ルールが多すぎる」といった回答が多い場合、大企業病の兆候があると判断できます。
KPIの分析
KPI(重要業績評価指標)を分析することで、組織のパフォーマンスを客観的に評価することができるでしょう。「プロジェクトの完了までの時間」「新製品の市場投入までの期間」「従業員の離職率」「顧客満足度」などのKPIを定期的にモニタリングし、これらの指標が悪化している場合、大企業病の影響が出ている可能性があります。プロジェクトの遅延が頻発している場合には、意思決定の遅さや部門間の連携不足が原因と考えられます。
外部コンサルタントの活用
外部のコンサルタントを活用することで、第三者の視点から組織の問題点を客観的に評価することができます。コンサルタントは、組織の現状を分析し、改善点を提案する専門家です。組織診断や業務プロセスの見直しを依頼することで、内部では気付きにくい問題点を明らかにすることができます。コンサルタントは部門間の連携不足や過度なルールの存在があれば、それを指摘し、改善策を提案してくれるでしょう。
定期的なフィードバックセッション
定期的なフィードバックセッションを実施することで、従業員の意見や提案を収集し、組織の現状を把握することができます。月次や四半期ごとにフィードバックセッションを開催し、従業員が感じている問題点や改善点を共有します。これによって、現場の声を経営に反映させることができ、組織の柔軟性を維持することができます。例えば、フィードバックセッションで「ルールが多すぎる」「意思決定が遅い」といった意見が多い場合、大企業病の兆候があると判断できます。
大企業病の対策方法
大企業病の進行を防ぎ、企業の健全な成長と競争力の維持を図るためには、対策を講じることが不可欠です。最後に7つの大企業病の対策を挙げて解説します。
業務内容や承認ルートを効率化する
業務内容や承認ルートを効率化することで、大企業病の進行を防ぐことができます。具体的には、業務プロセスを見直し、不要な手続きや重複する業務を排除します。プロジェクトの承認プロセスを簡素化し、必要な承認者を最小限に絞ることで、意思決定のスピードを向上させることができるでしょう。また、デジタルツールを活用して、承認フローを自動化することも効果的です。これにより、業務の効率が向上し、迅速な対応が可能になります。
コミュニケーションを促進する
社内コミュニケーションを促進することで、大企業病のリスクを軽減できるでしょう。具体的には、定期的なミーティングや1on1の面談を実施し、社員同士の意見交換や情報共有を活発に行います。週次のチームミーティングを設け、進捗状況や課題を共有することで、部門間の連携を強化します。ほかにも、社内SNSやチャットツールを導入し、気軽にコミュニケーションを取れる環境を整えることも重要です。こうした施策を講じることによって、情報の伝達がスムーズになり、組織全体の一体感が高まります。
従業員の権限範囲を明確にする
従業員の権限範囲を明確にすることで、意思決定の迅速化と責任の所在を明確にできます。各従業員の役割と責任を明確に定義し、権限を委譲することが大切な施策となります。プロジェクトマネージャーに予算管理やスケジュール調整の権限を与えることで、現場での迅速な意思決定ができるようになるでしょう。そして、権限委譲に伴う責任を明確にすることで、従業員が自律的に行動しやすくなります。結果的に組織全体の効率が向上し、柔軟な対応が可能になります。
ビジョンを共有する
企業のビジョンを全社員に共有すれば、組織の一体感を高め、大企業病の進行を防ぐことが期待できます。まず、ビジョンを明文化し、定期的に社員に伝える機会を設けます。例えば、全社ミーティングや社内報を通じて、ビジョンや目標を共有し、社員が共通の目標に向かって努力できる環境を整えます。さらに、ビジョンに基づいた行動を評価する仕組みを導入することで、社員のモチベーションを高めることができるでしょう。
失敗を許容する風土を作る
失敗を許容する風土を作ることにより、社員が新しいことにチャレンジしやすい環境を整えます。重要なことは、失敗を責めるのではなく、学びの機会として捉える文化を醸成することです。具体的には、失敗事例を共有するミーティングを定期的に開催し、失敗から得られた教訓を全社員で共有します。併せて、失敗を恐れずにチャレンジする姿勢を評価する制度を導入することで、社員が積極的に新しいことに取り組むようになるでしょう。
人事評価でチャレンジを支援する
人事評価制度を見直し、チャレンジを支援する仕組みを導入することで、大企業病の進行を防ぐことができます。チャレンジ精神やイノベーションを評価する項目を設け、成果だけでなくプロセスも評価しましょう。具体的には、新規事業の提案やプロジェクトのリーダーシップを評価する制度を導入します。チャレンジした社員に対して昇進や報奨を与えてモチベーションを高めることができれば、社員が積極的に新しいことに取り組む文化が醸成されます。
顧客ニーズを優先する
顧客ニーズを優先することで、社内の自己満足に陥らず、常に市場の変化に対応できる組織を維持します。顧客の声を積極的に収集し、製品やサービスの改善に反映させましょう。例えば、定期的な顧客アンケートやフィードバックセッションを実施し、顧客の要望や不満を把握します。また、顧客ニーズに基づいた製品開発やサービス提供を行うことで、顧客満足度を高め、競争力を維持します。これにより、企業は常に顧客視点での改善を続けることができるでしょう。
大企業病のリスクを認識し、健全な成長と競争力の維持を目指そう!
大企業病は、企業の成長を阻害し、競争力を低下させる深刻な問題です。初期症状や末期症状を早期に発見し、適切な対策を講じることが重要です。具体的な対策として、ルールの見直し、意思決定の迅速化、社員のチャレンジ意欲の向上、部門間の連携強化などが挙げられます。
企業全体で大企業病のリスクを認識し、積極的に改善策を実施することで、健全な成長と競争力の維持を図りましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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