• 更新日 : 2025年1月20日

パワハラ発生で加害者への対応はどうする?企業が取るべき対応を解説

企業は職場でパワハラが発生したときに、被害者や加害者への適切な対応が求められます。パワハラ防止法に基づき、パワハラの原因を特定し、再発防止に向けて取り組まなければなりません。再発防止のためには、パワハラの加害者への対応も重要です。

本記事では、パワハラの加害者に企業が取るべき対応について解説します。

パワハラ発生時に、企業が取るべき加害者への対応

職場でパワハラ問題が発生したとき、企業は被害者へのしかるべき対応だけではなく、加害者への対応も重要になるでしょう。ここでは、パワハラ発生時の企業が取るべき加害者への対応について解説します。

事実関係の確認

パワハラ問題が発生した際は、事実関係の確認が必要です。これはパワハラ発生後の最初の取り組みになります。パワハラの発生時には、被害者の精神状態が不安定な状況が考えられるため、被害者からの状況の確認には時間を要する可能性があるでしょう。

加害者のなかには、言動や行為がパワハラに当てはまると自覚していない場合もあるため、加害意識の低さも考えられます。企業側は、加害者に対して「パワハラ行為をした加害者」と決めつけて聴取すると、反論される可能性もあるでしょう。事実関係の段階では、加害者とすぐに断定せず、その前に職場でどのようなことが起きているのかを客観的に把握することが重要です。

また、被害者と加害者の言い分だけでは、状況が食い違う可能性があるため、事実関係の確認では第三者からの聞き取りも必要です。パワハラの原因や当事者の対立状況によっては、専門家(弁護士や労働基準監督署の調査)への依頼が考えられます。

措置や処分の検討

パワハラ問題の事実関係は、第三者の協力を得たうえで被害状況と加害状況などが明白になっています。加害者の行為がパワハラに該当すると確認された場合は、加害者への措置や処分の検討が必要です。措置や処分の検討では、服務規定として就業規則に定めなければなりません。

事業者は、パワハラ防止の義務化により、事業主の方針を明確化し周知・啓発する必要があります。周知・啓発の一つの方法として、パワハラ行為の措置や処分を就業規則で定めます。加害者への対応として、状況によっては就業規則で定める処分のうち、比較的重い降格から最も重い懲戒解雇などが考えられるでしょう。

パワハラが認定された場合に、企業が取るべき加害者への対応

事実関係の確認により加害者のパワハラ行為が認定された場合は、企業として加害者に次の対応が求められます。

懲戒処分なしとする場合

パワハラが認定された場合は、パワハラ被害の程度によって懲戒処分を検討します。一方で、懲戒処分が適用されないケースとして、パワハラ被害が比較的軽微で、かつ被害者の精神的・身体的な状態が著しく悪化していない場合が挙げられます。例えば、パワハラ被害者の状態が精神疾患まで至らず早めの発見で対応できた、被害者側が訴訟を起こさず加害者による被害者への謝罪で解決したというケースです。さらに、懲戒処分ではなく、加害者自身が作成した「パワハラ行為を二度と行わない」という意思を示した誓約書の提出なども措置の一つになります。

懲戒処分する場合

パワハラが認定されたときの加害者への対応では、懲戒処分がやむをえない場合があります。パワハラ加害者に対し懲戒処分を行う場合は、就業規則に明記された懲戒規定に基づいた対応が必要です。懲戒処分には、戒告、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などがあります。どのような懲戒処分になるかは、就業規則に準じて決定します。ただし、就業規則で定める規定に違反した場合の懲戒処分が過度に厳しいと判断された場合、裁判沙汰になることも考えられるでしょう。

パワハラ被害を起こした加害者は、問題を起こしてもすぐに解雇できるわけではありません。就業規則に基づいた懲戒処分の手続きを踏んでいない場合は、不当解雇として逆に訴えられる可能性があります。この場合は、軽い懲戒処分を与えながらも、パワハラ行為を繰り返す場合は懲戒解雇にするなどの対応が必要です。

パワハラが認定された場合の配置転換

パワハラが認定された場合は、パワハラが行われた職場環境の改善が必要です。職場環境を改善するには、当事者の配置転換も一つの方法になります。

厚生労働省によるパワハラ防止指針では、パワハラが認定された場合の被害者に対する配慮措置が示されています。配慮措置の内容で示されている対応は、被害者と行為者を引き離すための配置転換です。

被害者と加害者ではどちらを異動させているケースが多いか

パワハラ行為の被害者への配慮として配置転換を行う場合は、被害者と加害者の異動において検討が必要な場合もあります。一般的には、パワハラ行為を行った加害者の異動が考えられるでしょう。

被害者と加害者では、加害者のほうが立場的に不利になるため、被害者の働きやすい環境への配慮として加害者の異動が多くなります。ただし、必ずしも加害者だけが配置転換されるわけではありません。パワハラ行為のあった職場の状況も踏まえたうえでの判断が考えられるでしょう。

例えば、職場の従業員との関係性が被害者より加害者のほうが良好な場合や、職場にとって加害者の能力が必要不可欠な場合は、被害者を配置転換させることもあるでしょう。被害者を配置転換させる場合は、被害者の意向を十分に確認し、不利益な取扱いとならないよう配慮しなければなりません。また、配置転換が二次被害とならないよう慎重な対応が求められます。

パワハラを加害者が認めない場合の対応

パワハラ問題の対応では、パワハラ加害者がパワハラの事実を認めない場合もあります。パワハラ加害者によっては、被害者が提示した証拠や他の同僚への聴取によってパワハラの可能性が高くても認めないケースもあるでしょう。そのような場合に企業は、次の対応が求められます。

客観的に十分な証拠を収集する

パワハラ加害者が行為を認めない場合は、被害者の提示した証拠や同僚の聴取で得た発言だけでは不十分とも考えられます。この場合は、客観的に十分な証拠を追加で収集することが必要です。

客観的な証拠とは、社内のみならず外部の人も納得できるものが求められるでしょう。例えば、パワハラ行為の一部始終を録音や録画するなどです。加害者のパワハラ行為の証拠が「言った言わない」の言動になる場合は、録音が民事裁判の判断材料としても認められる場合もあります。

社内第三者の判断も踏まえたうえで措置や処分を決定する

一般的にパワハラ加害者は、事実の指摘を受けても懲戒処分を回避するため、事実を否認する傾向があります。このような場合、社内における第三者委員会の設置や、外部専門家の意見を求めることなど、客観的な判断をするための措置をとることが重要です。措置や処分は、具体的に就業規則で明記する必要があります。

パワハラ認定後の、加害者への適切なフォロー

パワハラと認定された加害者は、通常、企業側が適切な措置を取る場合、懲戒処分を受けることになるでしょう。しかし、懲戒処分などで会社を退職した場合でもパワハラの発生した職場には課題が残ります。そのため、職場におけるパワハラの再発防止に向けた取り組みが必要です。パワハラ加害者が処分後も引き続き会社に在籍する場合は、次の適切なフォローによる再発防止を進めましょう。

加害者の意見を尊重する

パワハラ認定後の加害者に対して、適切なフォローは加害者の意見を尊重することです。パワハラ行為を起こした加害者本人は、関係者からパワハラ行為のことを責められる可能性があります。また、パワハラの発生が職場による勤務中の出来事の場合は、周囲から「パワハラ行為をした人」と見られます。

しかし、パワハラ加害者が起こしたパワハラ行為にも原因があるはずです。例えば、パワハラ加害者は被害者に対して、最初のうちは普通の上司と部下の関係で接していたかもしれません。日常の業務において、部下である被害者が上司である加害者の指示に従わず、その積み重ねによる度が過ぎた叱責(しっせき)(しっせき)によって精神的な障害を与えることも考えられます。そのような状況で発生したパワハラ行為も想定し、パワハラ認定後は被害者の意見だけでなく、加害者の意見も尊重した対応が必要です。

加害者を責めずに接する

パワハラ加害者へのフォローを行う際は、加害者を責めずに接しましょう。懲戒解雇などの厳しい処分ではなく、配置転換や減給などの処分で会社に残った場合は、過去の出来事を引きずらず、再発防止に向けた建設的な対応を進めることが重要です。

パワハラ問題を起こした理由で加害者を責め続けても過去は変えられません。変えるのは、パワハラが発生しない職場環境の整備です。また、事前に防ぐための周知・啓発も必要となるでしょう。

加害者の孤独状態を防ぐ

パワハラ加害者は、自分の起こした問題行為に対して処分を受けています。処分が済んでいるにもかかわらず、加害者を孤独状態にすることも考えられます。また、パワハラ騒動に直接関与していない人から距離を置かれる場合もあるでしょう。

加害者の孤独状態は、パワハラの再発になりかねません。企業は、パワハラ防止法で定める義務により、被害者だけではなく加害者の相談も受ける体制が必要になるでしょう。

パワハラの発生や認定後は適切なフォローが必要

パワハラ加害者には、発生後や認定後に適した対応が求められます。パワハラ加害者への対応が十分でなければ、再発のリスクも考えられるでしょう。

パワハラ問題が起きると、どうしても被害者ばかりにフォローが偏ります。しかし、被害者を基準にパワハラ行為を考えても本質的な要因は見えません。そのため、被害者と加害者のどちらも適切にフォローすることが重要です。


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