- 更新日 : 2024年5月1日
アルバイトも雇用保険に加入する?学生は?条件と手続き、未加入の罰則を解説
失業手当や育児休業に伴う給付等が受けられる雇用保険には、加入条件を満たす場合はアルバイトであっても加入させなければなりません。雇用保険の加入条件は労働者の種類に関わらず同じであるためです。
この記事で解説する雇用保険の加入条件、加入手続き等を踏まえ、自社のアルバイトの雇用保険への加入の検討を進めていただければ幸いです。
目次
アルバイトの雇用保険の加入条件
雇用保険は労働者が失業した場合や、職業に関する教育訓練を受ける場合、育児や介護のために休業する場合等に必要な給付等を行うもので、社会保険の一つです。加入条件に該当すればアルバイトであっても加入させなければなりません。
以下では、雇用保険の適用事業や加入条件、雇用保険の給付の種類について解説します。
雇用保険の適用事業
労働者を1人でも雇用していれば、業種や規模に関わらず雇用保険適用事業になり、事業主に加入義務が生じます。この「労働者」には正社員、アルバイト等の区別はありません。
なお、以下の3つの要件を全て満たす場合は暫定任意適用事業となり、加入は任意となります。
- 個人経営の事業
- 農林水産の事業
- 雇用する労働者が常時5人未満
上記を踏まえると、個人事業主で労働者を1名しか雇用していない場合でも、農林水産の事業以外の事業を営んでいる場合には雇用保険適用事業になります。
適用事業に該当する場合は、事業主は「雇用保険適用事業所設置届」を公共職業安定所長に提出します。
雇用保険の加入条件
雇用保険適用事業で働く労働者で、以下の①②の条件をいずれも満たす場合は雇用保険に加入させなければなりません。
①31日以上引き続き雇用することが見込まれる者
- 期間の定めなく雇用される場合(正社員、無期雇用の契約社員など)
- 雇用期間が31日以上である場合(31日以上の有期雇用の契約社員など)
※雇入時に31日以上の雇用が見込まれない場合でも、その後31日以上の雇用が見込まれることになった場合は雇用保険に加入させなければなりません。
- 有期雇用の場合でも雇用契約に更新規定があり、31日未満での雇止めが規定されていない場合
- 更新規定がない場合でも同様の雇用契約で雇用された者が31日以上雇用された実績がある場合
②週の所定労働時間が20時間以上である者
パートやアルバイト、派遣社員であっても上記①②の要件に該当すれば、雇用保険に加入させる必要があります。
なお、学生については上記①②を満たしていても雇用保険に加入できない場合があります。詳細は後ほど解説します。
参考までに上記②の要件に関して、現在雇用保険法改正が国会で審議されています。2028年10月以降は「週所定労働時間10時間以上」となり、対象者が拡大する見込みであるため、注意が必要です。
雇用保険の給付の種類
雇用保険の給付には、求職者給付、就職促進給付、教育訓練給付、雇用継続給付、育児休業給付の5種類があります。それぞれの概要は以下の通りです。
求職者給付
求職者給付には、基本手当、傷病手当、技能習得手当などがあります。いずれも離職した後、新しい仕事を探す際の生活を保障したり、公共職業訓練を受講する場合の交通費などを補助したりするために支給されます。
求職者給付のうち最も代表的な基本手当は、一般的には失業手当と呼ばれているものです。
原則として離職日以前の2年間に、月の賃金支払日数が11日以上の雇用保険の加入期間が通算12か月以上の一般被保険者が失業した場合に受給できます。アルバイトであっても同様です。
なお、解雇などの特殊事情で離職した場合、上記の要件は離職日以前1年間で雇用保険の加入期間が通算6か月以上、となります。
この他の給付内容等、詳細は以下のリンクを参照してください。
参考:ハローワークインターネットサービス – 基本手当について|厚生労働省
就職促進給付
基本手当を受給していた者の再就職が決まった場合等に支給されます。
早期に1年超の雇用が確実である安定した職業に就いた場合等に支給される再就職手当や、早期にアルバイト等常用雇用でない形態で就業した場合に支給される就業手当などがあります。
この他の給付内容等、詳細は以下のリンクを参照してください。
参考:ハローワークインターネットサービス – 就職促進給付|厚生労働省
教育訓練給付
雇用保険に加入している(職に就いている)期間、または離職後の一定期間において、厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講・修了した場合に、受講費用の一部が支給されます。
受講する教育訓練の内容に応じて、専門実践教育訓練、特定一般教育訓練、一般教育訓練の3種類があり、それぞれ支給額が定められています。
雇用継続給付
高年齢雇用継続給付と介護休業給付の2種類があります。
高年齢雇用継続給付は、60歳から65歳までの間に受ける賃金額が60歳時点の賃金や基本手当と比べて低下した場合に支給されます。離職せずに雇用が継続される者に支給される高年齢雇用継続基本給付金と、離職して基本手当を受給した後に早期に安定した職業に就いた者に支給される高年齢再就職給付金があります。
介護休業給付は家族を介護するために休業した雇用保険被保険者に支給されます。
育児休業給付
原則1歳未満の子を養育するために育児休業を取得した場合に支給される育児休業給付金と、産後パパ育休を取得した場合に支給される出生時育児休業給付金の2種類があります。
学生アルバイトも雇用保険の加入は必要?
アルバイトであっても加入条件を満たせば、雇用保険の加入が義務付けられていますが、学生アルバイトの場合は雇用保険に加入できない場合があります。学生の雇用保険加入可否の概要を以下に紹介します。
雇用保険に加入できる学生
- 学校の種類に関わらず、夜間課程や定時制、通信課程の学校に通学する学生
- 昼間課程の学校に通学する学生のうち、以下に該当する場合
- 卒業見込証明書があり、卒業前に就職し、卒業後も同じ会社に雇用される予定の者
- 休学中の者
- 会社の命により、または承認を得て大学院等に在学している者
(社会人大学院生など)
雇用保険に加入できない学生
学校の種類に関わらず、昼間課程の学校に通学する学生
※上述の通り、例外あり。
※専門学校は、学校教育法で規定する専修学校、各種学校に通学する場合
アルバイトを掛け持ちしている場合の雇用保険
31日以上の雇用見込み、かつ週所定労働時間20時間以上という雇用保険の加入条件は、一つの会社における日数、時間数です。これはアルバイトを掛け持ちしている場合でも同じです。したがって、雇用見込み日数、週所定労働時間を合計して加入条件を満たしていても、それぞれの勤務先ごとに条件を満たしていなければ加入できません。
例えばアルバイトを2社掛け持ちしている場合に、週所定労働時間の条件を満たしているかどうかを判断する場合は以下の通りです。
2社ともに週所定労働時間20時間以上の場合
いずれか1社で加入します。
雇用保険に関する業務取扱要領(厚生労働省)では「主たる賃金を受ける雇用関係のもと加入」とされており、通常は支給される賃金額が多い企業で加入します。
2社ともに週所定労働時間20時間未満の場合
雇用保険に加入できません。
ただし、2022年より65歳以上の複数の事業所で勤務する労働者に限り、2社の週所定労働時間合計が20時間以上であれば、労働者本人がハローワークへ申し出ることにより雇用保険に加入できるようになりました。(雇用見込み日数については、各社で31日以上)
2社のうち1社が週所定労働時間20時間以上の場合
週所定労働時間が20時間以上の会社で雇用保険に加入します。
アルバイトの失業手当はいつからいくらもらえる?
雇用保険に加入していて、アルバイトをやめた場合の失業手当(基本手当)を受給するために必要な手続き、受給できる時期、手当の額の計算方法を以下に解説します。
失業手当(基本手当)の受給手続き
失業手当(基本手当)を受給するには、アルバイトをやめた後、ハローワークで求職申込みによる受給資格決定、4週間に1回の失業認定手続きを行う必要があります。
求職申込みの際には、離職票と本人確認書類等をハローワークに提出し、「雇用保険受給資格者証」を受領します。その際に失業認定日が指定されます。
次に、指定された失業認定日にハローワークに行き、「失業認定申告書」と「受給資格者証」を提出して失業の認定手続きを行います。失業認定手続きでは、前回認定日(初回は受給資格決定日)から今回認定日前日までの求職活動の実績が確認されます。求人者との面接や、ハローワークからの職業紹介、職業指導などが求職活動実績とされるのです。前回認定日から今回認定日前日までに原則2回(初回は1回)以上の実績が求められます。
失業認定が完了すると、前回認定日から今回認定日前日までの日数分の失業手当(基本手当)を受給することができます。
なお、初回認定日に受給できるのは、受給資格決定日から初回認定日までの全日数分ではありません。詳細は次項で述べます。
失業手当(基本手当)を受給できる時期
失業手当(基本手当)は上記の受給資格決定日以降、すぐに受給できるわけではありません。以下に説明する待期期間、支給制限期間を経た後に受給できます。
待期期間は受給資格決定日以後に7日間設けられており、この期間の基本手当は支給されません。待期期間の後も、自己都合退職の場合は2か月間の、自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇(懲戒解雇など)の場合は3か月間の支給制限期間が設けられており、この期間についても支給されません。
転職などのために自己都合退職する場合には、受給資格決定日以後7日間+2か月間は失業手当(基本手当)が支給されないため、注意が必要です。
失業手当(基本手当)の計算方法
失業手当(基本手当)は、基本手当日額に基づき、失業認定された日数分が支給されます。
基本手当日額は、離職前の最後の6か月間(原則、1か月あたりの賃金支払日数が11日以上の月のみが対象)の賃金の総額を180で割った額に、一定の給付率(100分の45~100分の80)を乗じた額になります。
なお、支給日数には、雇用保険の加入期間や年齢、離職理由に基づき上限(90~360日)が定められています。また、支給期間(有効期間)は、原則離職日から1年間で、この期間を過ぎると支給日数の上限に達していなくても支給されません。
ただし、離職時に妊娠、出産、育児、傷病などにより引き続き30日以上職に就けない場合には、最長4年まで有効期間を延長する手続きをとることが可能です。60歳以上の定年退職者等の場合も手続きにより1年間延長できます。
アルバイトの雇用保険加入の手続き
雇用保険はアルバイトであっても、一般の従業員と同じ加入手続きを行う必要があります。以下では、雇用保険の加入に必要な書類や手続きの流れを紹介します。
必要な書類
雇用保険に加入するためには、「雇用保険被保険者資格取得届」を作成する必要があります。事業所で初めて労働者を雇用した場合は、「雇用保険適用事業所設置届」の作成も必要です。
添付書類は原則不要ですが、事業所で初めて労働者を雇用した場合などには、これに加えて以下の添付書類が必要な場合があります。
- 賃金台帳
- 労働者名簿
- 出勤簿(タイムカード等)
- 他の社会保険の資格取得関係書類
- 雇用契約書等(雇用期間を確認できるもの)
手続きの流れ
「雇用保険被保険者資格取得届」は、入社日の翌月10日までに事業所の所在地を管轄する公共職業安定所長に提出します。ハローワークに持参、郵送する方法のほか、電子申請を行うことも可能です。
公共職業安定所長側での手続きが完了した後、事業主に「雇用保険被保険者資格取得等確認通知書」「雇用保険被保険者証」が送付されるため、これを被保険者に交付する必要があります。
雇用保険に入っているか確認する方法は?
被保険者が雇用保険に加入しているかどうかは、事業主から被保険者に交付される「雇用保険被保険者証」または「雇用保険被保険者資格取得等確認通知書」の記載事項により確認できます。
上記に加えて、「雇用保険被保険者資格取得届出確認照会票」をハローワークに持参または郵送により提出することで確認することも可能です。また、マイナンバーカードを持っている場合は、マイナポータルでも加入記録を確認できます。(あらかじめ、ハローワークへのマイナンバーの届出が必要です)
アルバイトで雇用保険未加入の場合の罰則は?
雇用保険法第7条により、事業主が雇用保険の加入条件を満たす労働者を雇用した場合には、加入の届出が義務付けられています。
事業主が届出を行わない、または虚偽の届出を行った場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。労働者がアルバイトであっても同様です。
アルバイトでも加入条件に該当したら雇用保険への加入義務あり
雇用保険の加入条件は、アルバイトであっても同じです。学生の場合など例外はありますが、1週間の所定労働時間が20時間以上で、31日以上継続して雇用する場合には雇用保険に加入させなければなりません。
雇用保険に加入しないと、失業手当(基本手当)などが受けられなくなり、労働者にとって不利益が生じます。また事業主に対しても雇用保険法が定める罰則が科せられる可能性があります。アルバイトを雇う際には労働条件を十分に確認し、雇用保険の加入条件に該当する場合は遺漏なく加入手続きを行いましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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