- 更新日 : 2024年8月29日
パートで社会保険に加入したくない方必見!調整方法や2024年法改正を解説
社会保険の適用拡大により、2024年10月からパート・アルバイトの従業員でも社会保険に加入する企業の範囲がさらに広がります。しかし、なかには労働時間を調整して社会保険に入らないことを希望する従業員もいるでしょう。
社会保険に加入したくない場合の調整方法やシフト例、給与手取り額の変化などについて、具体例から解説します。
目次
パートで社会保険に加入したくない場合の調整方法
社会保険の適用拡大の要件を整理しながら、月収や労働時間がどの程度なら社会保険に加入しなくてもよいのかなど、パートで社会保険に加入したくない場合の調整方法について解説します。
月収8.8万円(年収106万円)未満
社会保険の適用拡大の要件にある「月収8.8万円以上」の対象になる賃金は、所定内賃金です。パート・アルバイトの従業員の場合、週給・日給・時間給を月額に換算し、所定内賃金が8.8万円以上になるかどうかで判断します。したがって、所定内賃金が8.8万円未満になるように調整すれば、その従業員は社会保険に加入する必要はありません。
「年収106万円の壁」などといわれることがありますが、これは所定内賃金を年収に換算したものであり、判断するのはあくまでも月の所定内賃金です。所定内賃金は各種諸手当を含めて計算しますが、以下の賃金は含まれません。
- 臨時に支払う賃金:結婚手当、傷病見舞金、慶弔見舞金など
- 1月を超える期間ごとに支払う賃金:ボーナス、決算賞与など
- 時間外労働・休日労働・深夜労働に対する割増賃金:残業代など
- 最低賃金法で算入不要な賃金:精皆勤手当、通勤手当、家族手当など
労働時間は週20時間未満
社会保険の適用拡大の要件にある「週20時間以上」というのは、就業規則、雇用契約書などに定める所定労働時間が週20時間以上になるかどうかで判断します。したがって、週の所定労働時間が20時間未満になるように調整すれば、その従業員の社会保険加入の手続きは不要です。
所定労働時間が週単位ではなく1ヶ月や1年で定めている場合には、所定労働時間を1週間に換算して計算する必要があります。
- 1ヶ月単位で所定労働時間を定めている場合:1ヶ月の所定労働時間を12/52で掛けて計算
- 1年単位で所定労働時間を定めている場合:1年の所定労働時間を52で割って計算
- 所定労働時間が短期で周期的に変わる場合:その周期の1週間の所定労働時間の平均で計算
従業員が100人以内の会社(10月より50人以内)
社会保険の適用拡大の対象となる企業は、厚生年金保険の被保険者数が101人以上(2024年10月からは51人以上)の企業です。1年のうち6ヶ月以上、被保険者の総数が基準以上になることが見込まれると「特定適用事業所」となり、社会保険の適用拡大の対象になります。
したがって、厚生年金保険の被保険者数100人以内(2024年10月からは50人以内)の企業の場合は、従業員が「所定労働時間が週20時間以上」「月収8.8万円以上」などの社会保険の適用拡大の要件に該当しても、社会保険加入の対象にはなりません。
労働日数・時間が正社員の4分の3未満
社会保険の適用拡大の対象とならない企業の場合は、従来通り、「週の所定労働時間と1ヶ月の所定労働日数が正社員など通常の従業員の4分の3以上」になると、社会保険加入義務が発生します。
この基準は「4分の3基準」と呼ばれ、社会保険の適用拡大の対象になる・ならないにかかわらず適用されます。そのため、社会保険の適用拡大の対象となっていない企業では、週の所定労働時間と1ヶ月の所定労働日数が正社員の4分の3未満になるように調整すれば、その従業員は社会保険に加入する必要はありません。
その他の調整方法
社会保険の加入が必要な従業員は、原則として「常用的に雇用される」従業員です。2ヶ月以内の短期の雇用で更新しない契約の場合などでは、社会保険の加入義務は発生しません。
また、社会保険の適用拡大の対象となる企業では、大学の夜間学部や高校の定時制などの夜間学生でなければ、学生は対象外です。ただし、「4分の3基準」を満たす場合は、学生であっても社会保険加入の義務があることに注意する必要があります。
パートで社会保険に加入しない場合のシフト例
パートで社会保険に加入しない場合のシフト例を取り上げて解説します。
特定定期用事業所で所定労働時間が1日6時間・週3日勤務のケース
1週間の所定労働時間は18時間となるため、社会保険加入の対象にはなりません。
1日6時間×3日=18時間(週20時間未満・社会保険加入不要)
しかし、毎週2時間以上恒常的に残業をしているようなケースでは、労働時間が週20時間以上となるため、社会保険の資格取得の手続きが必要になることがあるため注意が必要です。
18時間(1日6時間×3日)+毎週残業が2時間以上=20時間以上
特定定期用事業所で週の所定労働時間が一定ではないケース
①月・水・金の週3日・土曜日隔週勤務(週の所定労働時間が周期的に変動するケース)
この場合は1週間の所定労働時間を平均して計算する必要があります。
【週3日・1日5時間勤務、隔週で土曜日5時間勤務】
土曜日出勤がない週:1日5時間×3日=15時間
土曜日出勤がある週:15時間(1日5時間×3日)+土曜日5時間=20時間
(15時間+20時間)÷2=17.5時間(週20時間未満・社会保険加入不要)
②所定労働時間を1ヶ月単位で定めているケース(1ヶ月15日勤務)
このケースでは、1ヶ月の所定労働時間を1週間に換算して計算する必要があります。具体的には、1年間が52週あることから、1ヶ月の所定労働時間に12/52を掛けて計算します。
【1ヶ月15日・1日5時間勤務】
75時間(15日×5時間)×12/52=17.30時間(週20時間未満・社会保険加入不要)
【2024年10月】社会保険加入の適用範囲が拡大
社会保険の適用拡大の対象となる企業は、2024年9月までは厚生年金保険の被保険者数が101人以上の企業です。ただし、2024年10月からは51人以上の企業に適用範囲が拡大されます。
対象 | 要件 | 現行 | 2024年10月~ |
---|---|---|---|
企業(法人・個人事業主) | 事業所規模 | 厚生年金保険の被保険者数101人以上 | 厚生年金保険の被保険者数51人以上 |
短時間労働者 | 労働時間 | 週の所定労働時間数20時間以上 | |
賃金 | 所定内賃金8.8万円以上 | ||
勤務期間 | 継続して2ヶ月を超えて雇用の見込みがある | ||
適用除外 | 昼間学生は対象外 |
被保険者の人数は、法人の場合は企業単位、個人事業主の場合は事業所単位でカウントします。また、厚生年金保険の被保険者数が対象人数未満の企業であっても、被保険者の同意や事業主の申出によって、適用拡大の対象事業所になることが可能です(任意特定適用事業所)。
どのタイミングで社会保険の加入になるか
社会保険加入の要件を満たす従業員を採用した際には、入社と同時のタイミングで加入の手続きをしなければなりません。試用期間があったとしても、加入のタイミングは入社時です。試用期間が経過してから加入するのではないことに注意しましょう。
また、特定適用事業所や任意特定適用事業所の場合、パートやアルバイトが残業した場合の労働時間や所定内賃金は、実態で判断することになるため注意が必要です。日本年金機構の「短時間労働者に対する健康保険 ・厚生年金保険の適用拡大Q&A集(令和6年10月施行分)」では、「連続する2月において業務の都合等により恒常的に実際の労働時間が増加し、賃金が月額8.8万円以上となった場合で、引き続き同様の状態が続いている又は続くことが見込まれる場合は、実際の賃金が月額8.8万円以上となった月の3月目の初日に被保険者の資格を取得します」と記載があります。
引用:短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大Q&A集 (令和6年10月施行分)|日本年金機構
「週の所定労働時間数20時間以上」の判断についても同様の記載があり、連続する2ヶ月の労働時間が実態として20時間以上になった場合、3ヶ月目の初日に被保険者資格を取得することとされています。このような取扱いは「4分の3基準」も同様に取り扱われていたことであり、「4分の3基準」、社会保険の適用拡大の「週の所定労働時間数20時間以上」や「所定内賃金8.8万円以上」は、実態判断であることに注意しましょう。
パートで社会保険に加入した場合の手取りは?
扶養の範囲内で働くパートの従業員が社会保険に加入を希望しない大きな原因は、給与の手取り額の減少にあります。月収10万円、15万円・20万円のケースで手取り額がどのように変わるのかを、具体的な計算例から比較して見てみましょう。
月収10万円のケース【2024年度の東京都の協会けんぽの社会保険料で計算・介護保険あり・住民税は加味せず扶養0人で計算】
標準報酬月額:98,000円
健康保険料(介護保険を含む):従業員負担分5,674円
厚生年金保険料:従業員負担分8,967円
所得税:0円(社会保険料未加入の場合は720円)
(社会保険加入)100,000円-5,674円-8,967円-0円=85,359円
(社会保険未加入)100,000円-720円=99,280円
手取り金額は社会保険に加入することで13,921円減少することになります。
月収15万円のケース【2024年度の東京都の協会けんぽの社会保険料で計算・介護保険あり・住民税は加味せず扶養0人で計算】
標準報酬月額:150,000円
健康保険料(介護保険を含む):従業員負担分8,685円
厚生年金保険料:従業員負担分13,725円
所得税:2,150円(社会保険料未加入の場合は2,980円)
(社会保険加入)150,000円-8,685円-13,725円-2,150円=125,440円
(社会保険未加入)150,000円-2,980円=147,020円
手取り金額は社会保険に加入することで21,580円減少することになります。
月収20万円のケース【2024年度の東京都の協会けんぽの社会保険料で計算・介護保険あり・住民税は加味せず扶養0人で計算】
標準報酬月額:200,000円
健康保険料(介護保険を含む):従業員負担分11,580円
厚生年金保険料:従業員負担分18,300円
所得税:3,700円(社会保険料未加入の場合は4,770円)
(社会保険加入)200,000円-11,580円-18,300円-3,700円=166,420円
(社会保険未加入)200,000円-4,770円=195,230円
手取り金額は社会保険に加入することで28,810円減少することになります。
参考:令和6年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都)|全国健康保険協会
社会保険の扶養は年収130万円未満に抑える
会社員などで社会保険の被保険者となっている家族に扶養されている場合には、家族も被扶養者として健康保険の給付を受けることが可能です。ただし、被扶養者となるためには、以下の条件を満たさなければなりません。
【被扶養者の範囲】
- 同居・別居ともに可能
配偶者(内縁関係も含む)、子(養子も含む)、孫、兄弟姉妹、父母などの直系尊属
- 同居が必要
以上以外の3親等内の親族や配偶者(内縁関係も含む)の父母・子
【被扶養者の条件】
- 年間収入130万円未満(障害者は180万円未満)+被保険者の収入の1/2以下
または、
- 年間収入130万円未満(障害者は180万円未満)+被保険者の仕送りが被扶養者の年間収入を上回る
したがって、社会保険の被保険者となっている家族に扶養されている場合には、年収を130万円未満に抑えれば、パートやアルバイトで働いていても社会保険に加入する必要はありません。ただし、社会保険の適用拡大の対象になる特定適用事業所や任意特定適用事業所に勤務して「所定労働時間が20時間以上」「所定内賃金8.8万円以上」などの要件を満たすと、扶養から外れて社会保険の被保険者になります。
パート先で社会保険に加入するメリット
社会保険に加入することは、手取り額の減少などのデメリットばかりではありません。以下のようなメリットもあります。
- 将来の年金額が増加する
厚生年金保険の被保険者となれば、老齢基礎年金(国民年金)に加え、老齢厚生年金保険も上乗せしてもらえるようになります。勤務期間が長いほど将来の年金額が増えるのが、最大のメリットといえるでしょう。
- 遺族・障害年金の制度により保障が充実する
厚生年金保険の被保険者期間中の大きな病気やケガで障害の認定がされると、障害基礎年金に加えて障害厚生年金が上乗せされて支給されます。また、不幸にも亡くなってしまった場合には、配偶者などの遺族に遺族厚生年金が支給されます。
業務外の病気やケガ、出産のために働けない場合、給料の2/3相当の手当金を受給できます。
- 労働時間を延長し収入を増加させることができる
扶養から外れて働けば、社会保険の「130万円の壁」や「106万円の壁」、所得税の「103万円の壁」を気にする必要がなくなるため、労働時間を延長してさらなる収入アップを図ることが可能です。
- 国民健康保険・国民年金よりも保険料が安くなることがある
先に説明した月収10万円のケースの計算例からわかるように、月収が少ないケースでは、国民年金や国民健康保険に自分で加入するよりもトータルで保険料が少なくなることがあります。
無理に就業制限はパート従業員の離職の原因になる
社会保険の「130万円の壁」や「106万円の壁」、所得税の「103万円の壁」を気にして働き控えをすることが社会問題になっています。無理にパートやアルバイトの労働時間を調整するようなことがあれば、貴重な戦力であるパート従業員の離職の原因になりかねません。
労働時間が少なくても社会保険や雇用保険に加入できることにメリットを感じて、求人に応募する人もたくさんいます。パート・アルバイトの従業員の労働時間を決める際には、社会保険・雇用保険の加入、年収の金額など、従業員の労働条件の希望を尊重して決定しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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