- 更新日 : 2024年5月10日
非正規雇用とは?割合や平均賃金、正規雇用との違い、デメリットを解説
非正規雇用とは正規雇用以外の労働者を指し、その働き方は多様です。企業は非正規雇用のメリットとデメリットを理解した上で、法令や制度について理解することが求められます。本記事では非正規雇用が年々増加している原因や現状、それを取り巻く法律について解説し、非正規雇用が働きやすくなるためのソリューションについても提示します。
目次
非正規雇用とは?
ここでは非正規雇用の概要と現状について解説します。
非正規雇用の種類
非正規雇用は、正規雇用に該当しないさまざまな雇用形態を指します。正規雇用が期間の定めがなく、フルタイム勤務を前提としているのに対し、非正規雇用は働き方にある程度の自由度があります。非正規雇用をタイプごとに分類すると以下の3種類です。
- 契約社員
- パートタイム労働者
- 派遣労働者
非正規雇用は柔軟な働き方ができる反面、雇用の安定性や福利厚生の面で正規雇用と差異が出てきます。
なお、正規雇用も含めた雇用形態については、以下の記事で詳しく解説しています。雇用形態の変更手続きや、社会保険の適用範囲などについてもまとめているのでぜひ参考にしてください。
参考:雇用形態とは?種類や正規雇用と非正規雇用の違い、変更手続きを解説
非正規雇用の割合
非正規雇用の割合は、1984年は全体の15.3%でしたが2023年時点では37.1%にまで増えています。
1984年 | 1999年 | 2004年 | 2010年 | 2015年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
15.3% | 24.9% | 31.4% | 34.4% | 37.5% | 37.2% | 36.7% | 36.9% | 37.1% |
2020年と2021年はやや減少しているものの、2022年以降は非正規雇用の割合が年々増加しています。非正規雇用の雇用形態の大部分を占めているのがパートとアルバイトで、2023年の非正規雇用のうち、パートが48.5%、アルバイトが21.6%です。また、近年は非正規雇用に占める65歳以上の割合が年々高くなっており、2023年の非正規雇用に占める65歳以上の割合は19.6%となっています。
非正規雇用の平均賃金
非正規雇用の平均賃金(2023年6月分)について正規雇用と比較したのが以下の表です。
正規雇用(正社員・正職員)の平均賃金 | 非正規雇用(正社員・正職員以外)の平均賃金 | ||
---|---|---|---|
一般労働者 | 短時間労働者 | 一般労働者 | 短時間労働者 |
2,014円 | 1,900円 | 1,407円 | 1,392円 |
一般労働者の平均賃金は、所定内給与を所定内実労働時間で除して計算したものです。表からも分かるように、非正規雇用は正規雇用に比べて賃金に大きな開きがあります。
非正規雇用者が年々増加の背景
非正規雇用が年々増加している背景には、以下のような要因が挙げられます。
- 働き方の多様化
- 子育てや介護との両立
- 企業側の人件費削減
終身雇用が当たり前でなくなる中、若者のように仕事とプライベートのバランスを重視し、フレキシブルに働ける非正規雇用の雇用形態を魅力に感じる人が増えています。家庭での子育てや家族の介護などプライベートを優先したい人にとっても、非正規雇用は正規雇用よりも働き方に融通を利かせやすく、家庭と仕事を両立しやすいです。
また、近年は技術革新やロボット、AIの進化によって多くの職種において機械化が進んでおり、企業側も正規雇用を削減して非正規雇用を増やすことで、運営コストの削減を図るようになったことも要因の1つです。
非正規雇用と正規雇用の主な違い
非正規雇用と正規雇用の主な違いは、以下の通りです。
正規雇用 | 非正規雇用 | |
---|---|---|
雇用期間 | 無期雇用が前提で解雇が難しい | 有期雇用である場合が多く雇用が不安定 |
給与 | 月給の定額制が多く安定した収入が見込める | 正規雇用に比べて低い傾向にある |
福利厚生 | 各種手当や社宅、退職金などが充実している | 正規雇用ほど充実していないことが多い |
労働時間 | 原則フルタイム勤務で所定労働時間が定められている | 柔軟な働き方ができる分、労働時間が不規則である |
職務内容 | 長期プロジェクトや責任のある業務を任される | 臨時的または補助的な仕事が多い |
正規雇用と非正規雇用にこのような違いが見られるのは、同じ仕事をするにしても正規雇用には業務を完遂する責任があるためです。
例えば、ある食品メーカーで機械の調子が悪く予定通りの生産ができなかった場合のパート労働者(非正規雇用)と正社員(正規雇用)を見てみましょう。その日の決められた生産高を達成するまで、正社員は帰宅できませんがパート労働者は定時になれば帰宅できることが多いです。納品のために、パート労働者が帰った後に正社員が機械の修繕を行い、生産高を達成するまで残業を行うこととなります。
このように、同じ目的で仕事をしていても責任の程度や労働時間によって待遇に違いが生じるのです。
非正規雇用のメリット
非正規雇用のメリットについて、企業側と従業員側の異なる視点で見てみましょう。
企業側
企業側には以下のようなメリットがあります。
- 人件費の削減
- 労働への柔軟な対応
- 即戦力の確保
非正規雇用は、正規雇用に比べて一般に賞与や退職金などが低い傾向にあるため、正規雇用を雇うよりも人件費を削減できます。また、派遣社員や契約社員は会社の繁忙期や閑散期に応じて人員の調整が可能である点も企業にとって大きなメリットです。
特定の技能を要する業務においては、スキルのある人を非正規として雇うことで即戦力として活用できるだけでなく、教育や研修に要する費用の節約にもつながります。
従業員側
従業員側には以下のようなメリットがあります。
- 柔軟な働き方
- スキルアップ
- 将来的なキャリアの形成
非正規雇用は勤務地や勤務時間、勤務形態を自由に選べるため個人の都合やライフスタイルに合わせた働き方ができます。仕事と家庭や学業、趣味などとの両立ができるのは大きな魅力です。
また、派遣社員や契約社員は自分のスキルや経験を活かして選べる仕事が多く、専門的スキルを身につけられます。さらに、非正規雇用としてさまざまな業界を経験することで、将来のキャリア形成にもつなげやすいでしょう。
非正規雇用のデメリット
一方で非正規雇用にはデメリットもあります。企業側と従業員側の両側面から見てみましょう。
企業側
企業側には以下のようなデメリットがあります。
- 人材確保が難しい
- シフト管理が大変
- 人材が流動的
非正規雇用で高いスキルを持つ人は引く手あまたであるため、特定のプロジェクトや役割に適した能力のある人材を見つけることは困難です。また、非正規雇用は勤務形態がさまざまであり、休憩時間や実労働時間も人によって異なるためシフト管理や給与計算の手間がかかります。
非正規雇用は継続的な長期雇用を前提としておらず人の出入りが激しいため、その度に教育の手間が発生する点もデメリットといえるでしょう。
従業員側
労働者側には以下のようなデメリットがあります。
- 雇用が不安定
- 福利厚生が十分でない
- 新しい職場への適応が必要
有期契約を結んでいる非正規雇用は、契約終了後に次回の更新がない場合には新しい仕事を探す必要があります。新しい仕事がすぐに見つからない場合にはブランク期間ができてしまい、収入も不安定になってしまいます。
また、福利厚生の面でも正規雇用と比べて賞与や退職金、各種手当、社宅提供の有無で待遇差がある場合が多いです。さらに、派遣社員のように短期間で勤務先が変わるような場合にはその都度新しい職場に適応する必要があり、人間関係構築や業務内容の習得をする努力が求められます。
非正規雇用に関連する主な法令や制度
ここからは、非正規雇用に関する法令や制度について解説します。
同一労働同一賃金制度
同一労働同一賃金は、職場における正規雇用と非正規雇用の間で労働の内容が同じであれば、その待遇も等しくすべきという考え方です。
同一労働同一賃金は、パートタイム・有期雇用労働法によって具体的な法的枠組みが設けられました。同一労働であるかどうかの判断は、職務内容だけでなく責任の程度、転勤や職種変更の有無などを考慮します。同一企業で働く正規雇用と非正規雇用の間の不合理な待遇差をなくし、雇用形態に関係なく誰もが納得できる多様な働き方を目指しています。
雇い止め法理
雇い止め法理は、有期労働契約の更新を拒否すること(雇い止め)に対して、労働者保護の観点から一定の制限を加える法理です。雇い止めは、客観的合理的な理由や社会的相当性がなければ無効とされます。形式上は有期労働契約であっても、以下のような場合には解雇権濫用法理が類推適用されます。
- 労働者が契約の更新を期待することに合理性がある
- 期間の定めのない労働契約と実質的に同視できる状態にある
雇い止め法理は労働市場における不平等な力関係を是正し、労働者の生活の安定や雇用を守るための役割を果たしています。
5年ルール(無期転換ルール)
無期転換ルールは、一定の条件を満たす有期労働契約の労働者が、その労働契約を期間の定めのない無期労働契約(無期転換)に変更できるという制度です。具体的には、平成25年(2013年)4月1日以降に開始した有期労働契約が通算5年を超えた場合に、労働者は無期契約への転換を申し込めます。
無期転換権が発生するタイミングは、契約期間によって異なります。契約期間が1年の場合には、5回目の更新後1年間に無期転換申し込みができますが、契約期間が3年の場合には1回目の更新後の3年間が無期転換申し込みのタイミングです。
無期転換は労働者からの申し込みが必要で、口頭でも可能ですがトラブル防止のために書面で行うことが推奨されています。
雇用保険の適用拡大
現在の雇用保険被保険者の要件は週所定労働時間が「20時間以上」となっていますが、これを「10時間以上」に引き下げることによって、雇用保険の適用対象が拡大されます。雇用保険の適用拡大の施行期日は令和10年10月1日です。適用拡大によって、短時間で働く人であっても雇用保険に加入でき、失業給付や育児休業給付金などを受け取れるようになります。
非正規雇用を無期雇用にするには
非正規雇用を無期雇用にするには、雇用している非正規雇用が無期転換権が発生した契約期間中に無期転換の申し込みをすることが必要です。無期転換の申し込み権が発生するのは以下の3つの条件をすべて満たしたときです。
- 同一の使用者との有期労働契約期間が通算で5年を超えている
- 契約更新が1回以上ある
- 現時点で同じ使用者と雇用契約を結んでいる
無期転換の申し込みをすると、使用者はその申し込みを承諾したものとみなされ、その時点から無期雇用契約が成立します。ただし、無期転換ルールには特例(有期雇用特別措置法の特例)があり、無期転換の発生時期が延期または免除されます。特例の対象になるのは、以下の有期契約労働者です。
- 高度な専門知識を有している者
- 定年後引き続いて雇用している者
1については、特例によって無期転換申し込み権が発生しない期間の上限を10年にできます。2については、特例によって定年後引き続き雇用されている期間は無期転換申し込み権を生じさせない効果があります。
特例を適用するには、以下のステップを経ることが必要です。
- 計画を作成する
- 計画を提出する
- 計画の認定を受ける
- 特例が適用される
事業主は無期転換ルールの特例を適用させたい対象労働者が、能力を有効に発揮するための雇用管理措置に関する計画を作成し、本社や本店を管轄する都道府県労働局に提出する必要があります。その後、都道府県労働局長が計画に基づき適切と判断すれば認定が行われ、対象労働者についての特例が適用されるというのが主な流れです。
非正規雇用が働きやすい環境にするために
非正規雇用が働きやすい職場環境にするために、使用者は以下のような取り組みをすることが望ましいです。
待遇を改善する
まず、非正規雇用の待遇について見直すことが大切です。非正規雇用の待遇は企業や業界によって差がありますが、採用に際しては他の企業や業界の水準と比較しながら分析を行い自社の賃金が適正であるかを見直しましょう。待遇が改善されることで労働者のモチベーションが向上し、企業全体の生産性アップにもつながります。
教育制度を見直す
一般的に、非正規雇用は正規雇用と比べて教育の機会が少ないです。教育や研修の機会が少ないと将来のキャリア形成に対して不安になり、仕事に対するモチベーションが下がる恐れがあります。非正規雇用に対しても、スキルアップのための定期的な研修機会などを提供することで優秀な人材育成ができ、ひいては将来の企業全体の成長にもつながるでしょう。
正規転換を促す
非正規雇用に対して、正規雇用への転換を促すことも重要です。正規転換することで安定した雇用につながり、長期的なキャリア計画を立てやすくなります。また、正規転換するための条件などを明確にするために就業規則の見直しも同時に必要です。正規転換した場合には一定の条件を満たすことでキャリアアップ助成金の対象にもなるため、労働者と企業の双方にメリットがあります。
雇用形態に関係なく労働者全員が活躍できる職場へ
非正規雇用はライフスタイルによって柔軟な働き方ができるため、非正規雇用の形態を望む人も多くいます。しかし、非正規雇用だからといって仕事に対するモチベーションが下がるような労働条件であっては、労働者本人の就業意欲をなくすだけでなく企業にとっても将来的な損失になりえます。
今後も非正規雇用の割合の増加が見込まれる日本で、雇用形態にかかわらず働きやすい労働環境を整備することが、今後ますます企業側には求められるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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