• 更新日 : 2024年1月26日

有給休暇の5日取得義務とは?違反した場合の罰則や内容を解説!

労働者の心身をリフレッシュさせ、パフォーマンスを維持するためにも適切な休暇の取得は

重要です。しかし、業務の繁忙などにより、なかなか休暇を取れない場合もあるでしょう。

当記事では、有給休暇の年5日取得義務について解説します。取得義務対象者などの基本的知識に加えて、取得促進の方法も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

有給休暇の5日取得義務とは?

年次有給休暇(以下有給休暇)は、原則として労働者が自由に取得可能です。そのため、会社が取得を強制することはできず、取得しないことも労働者の自由です。

しかし、有給休暇が年に10日以上付与される労働者に対しては、そのうちの5日について企業が時季(取得する具体的な日)を指定して取得させる義務が存在します。これを「使用者の時季指定のよる付与(有給休暇の年5日取得義務)」と呼びます。

なお、後述する計画的付与や、労働者自らが時季を指定することによって、有給休暇を5日以上取得している場合には、企業による時季指定は不要です。企業が時季指定により有給休暇を取得させる場合には、時季について労働者の意見を聴取することが必要となります。また、企業は労働者から聴取した意見を尊重するように努めなければなりません。

有給休暇の5日取得義務はいつから始まった?

有給休暇の制度自体は、以前から労働基準法に定められていました。ただし、取得は労働者の自由意思に委ねられており、取得義務などはありませんでした。年5日の取得が義務付けられたのは、2019年4月からです。

2019年4月から働き方改革関連法の施行が始まり、これに伴って労働基準法や労働安全衛生法も改正されています。この改正により、罰則付きの残業時間上限規制の導入や、労働時間の客観的把握が義務化され、同時に有給休暇の年5日取得も企業に義務付けられました。

働き方改革の一環である年5日取得義務ですが、義務化の目的は、有給休暇取得率の向上です。厚生労働省が公表した「令和4年就労条件総合調査の概況」によれば、平成30年の有給取得率は52.4%です。しかし、義務化された令和元年には、56.3%と大幅な上昇を見せています。その後も令和2年には56.6%、令和3年で58.3%と順調な伸びを見せており、取得義務化の効果が表れた結果といえるでしょう。

参考:令和4年就労条件総合調査の概況|厚生労働省

有給休暇の5日取得義務の対象者

有給休暇の年5日取得義務は、全ての労働者を対象とした制度ではありません。有給休暇が年に10日以上付与される労働者のみを対象としていることに留意が必要です。本項では、対象となる労働者について個別に解説します。

入社後6ヵ月経過した正社員またはフルタイム契約社員

有給休暇は、入社日から「6ヵ月間継続勤務」し、「全労働日の8割以上出勤」した労働者に付与される権利です。これには、正社員や契約社員、パート・アルバイトといった雇用形態による違いはありません。ただし、正社員やフルタイムで働く契約社員の場合には、付与される日数が勤続年数に応じて、以下のように変動します。

勤続年数0.5年1.5年2.5年3.5年4.5年5.5年6.5年
付与日数10日11日12日14月16日18日20日

5日の取得義務の対象となるのは、年に10日以上付与される労働者です。そのため、正社員やフルタイムの契約社員であれば、入社6ヵ月経過後は全て取得義務の対象となります。

入社後6ヵ月が経過している週30時間以上勤務パート・アルバイト

すでに述べた通り、有給休暇は条件を満たせばパートやアルバイトにも付与されます。また、通常パート・アルバイトは、フルタイムで雇用されていないため、付与の日数も正社員等とは異なります。しかし、パート・アルバイトでも、週の所定労働時間が30時間以上なら、正社員等と同様の日数が付与されることに注意が必要です。

週の所定労働時間が30時間以上となるパート・アルバイトは、入社後6ヵ月経過時点で正社員等と同じように10日の有給休暇が付与されることになります。年5日の取得義務の対象となるのは、有給休暇が年間10日以上付与される労働者です。そのため、入社後6ヵ月が経過している週30時間以上勤務のパート・アルバイトは、正社員等と同様に取得義務の対象となります。

一定の週30時間未満勤務のパート・アルバイト

週30時間以上勤務するパートやアルバイトは、フルタイムの正社員等と同様の日数が付与されます。しかし、次の条件を満たすパート・アルバイトの場合には、所定労働日数と勤続年数に応じた「比例付与」と呼ばれる一般的な付与とは異なる日数が付与されることになります。

  • 1週間の所定労働日数が4日以下
  • 週以外の期間で労働日数が定められる場合は、年間216日以下

パート・アルバイトに、比例付与される有給休暇の具体的な日数は以下の通りです。

所定労働日数勤続年数
1年間0.5年1.5年2.5年3.5年4.5年5.5年6.5年
4日169日~216日7日8日9日10日12日13日15日
3日121日~168日5日6日6日8日9日10日11日
2日73日~120日3日4日4日5日6日6日7日
1日48日~72日1日2日2日2日3日3日3日

上記表にある通り、週の所定労働日数が4日で入社後3年半以降のパート・アルバイトは、年間10日以上の有給休暇が付与されることになるため、取得義務の対象者となります。また、週の所定労働日数が3日であっても、5年半以上継続勤務していれば、年間10日以上付与されることになるため、取得義務の対象となります。

有給休暇は取得しなかった日数分を次年度に繰り越すことが可能です。しかし、義務の対象となる「年間10日以上」は、その年に付与される日数であるため、週の所定労働日数が2日や1日の場合には、どれだけ長期間継続勤務しても義務の対象とならないことに注意してください。

取得義務期間における1年間の定義 – 基準日の計算方法

有給休暇の年5日取得義務は、基準日から1年以内に取得させることが必要です。基準日は、付与された日を基準として定められます。しかし、いつ付与するかは、企業の裁量に委ねられている部分もあり、原則と異なる基準日が設けられている場合もあります。

入社後6ヵ月後に10日以上の付与をする場合

有給休暇は、入社してから6ヵ月経過後に10日付与することが原則です。たとえば、4月1日に入社したのであれば、その年の10月1日に10日の有給休暇が付与されることになります。この場合には、10月1日が基準日となり、毎年10月1日から1年以内に5日の有給休暇を取得させることになります。

入社と同時に10日以上付与する場合

有給休暇は、前倒しで付与することも可能です。前倒しの付与であれば、通常よりも早く有給休暇を取得できるようになります。そのため、労働者の不利益とはならない前倒しは法に触れるものではありません。ただし、本来10月1日に付与される有給休暇を11月に後ろ倒しするようなことは、労働者の不利益となるため認められません。

4月1日入社で、入社日に10日の有給休暇を付与したケースを考えてみましょう。この場合には、4月1日が基準日となり、その後も毎年4月1日から1年以内に5日の有給休暇を取得させる必要があります。

特定の日に全社で付与日を統一している場合

入社日は、一定の日に限定されているわけではありません。中途採用などを行った結果として、複数の入社日が存在する企業も珍しくないでしょう。しかし、その場合に原則通りの6ヵ月経過時点で有給休暇を付与することになると、労働者ごとに基準日が異なってしまいます。異なった基準日の設定は、有給休暇の管理を複雑にさせ、取得義務違反を助長しかねません。

特定の日を付与日とすることによって、全社における基準日を統一し、管理を効率化させている企業も存在します。このような場合には、統一された日が基準日となり、そこから1年以内に年5日の有給休暇を取得させることになります。

たとえば、4月1日と10月1日の2種類の基準日が存在しており、それを4月1日に統一した企業で考えてみましょう。本来であれば、その2つの基準日(4月1日と10月1日)から1年以内に取得させる必要がありますが、統一によって、統一した基準日(4月1日)から1年以内に取得させれば良いことになるわけです。管理の利便性が向上する方法といえるでしょう。

一部前倒しで有給休暇を付与する場合

有給休暇の全てを前倒しで付与する必要はありません。たとえば、入社日に5日、6ヵ月経過時点で残りの5日を分割して付与することも可能です。この場合には、有給休暇の付与日数が合計10日以上になった日から、取得義務が発生することになります。

4月1日の入社日に5日、6ヵ月経過後の10月1日に残り5日を付与したケースであれば、10月1日から1年以内に取得させる必要があるわけです。最初の付与日ではないことに注意しましょう。なお、このような分割付与の場合に翌年の有給休暇が付与されるのは、最初の付与日である4月1日が基準となる点にも、併せて注意しておくことが必要です。

有給休暇の5日取得義務に違反した場合の罰則

有給消化の年5日消化義務を守れなかった場合には、労働基準法第120条1項に基づく罰則が予定されています。その内容は、違反した労働者1人につき、30万円以下の罰金です。違反が1人であればともかくとして、多人数になればその額も極めて大きなものとなります。10人で300万円、100人であれば3,000万円もの罰金を科される恐れがあるわけです。適切に有給休暇を管理し、義務違反が起きないように心掛けましょう。

参考:労働基準法|e-Gov法令検索

有給休暇の取得を促進するための方法

有給休暇は、労働者の権利であり、会社が取得を強制できません。しかし、労働者の心身をリフレッシュさせるためにも、できる限りの取得が望ましいといえるでしょう。では、どのような方法を取り入れれば、労働者が有給休暇を取得しやすくなるのでしょうか。

取得によるインセンティブ導入

有給休暇の取得促進には、インセンティブを導入する方法が考えられます。これには、有給休暇を一定以上取得した労働者に対して、さらに特別休暇を付与する方法などが考えられます。このような制度を導入すれば、「有給休暇の取得は良いことである」という風土が生まれ、労働者の有給休暇取得を後押しすることにつながるでしょう。

お盆や年末年始など有給休暇の取得推奨日を設ける

お盆や年末年始などの長期休暇のシーズンに併せた取得を推奨することも効果的です。このような取得推奨日を設ければ、取得申請の心理的ハードルが下がるだけでなく、お盆休みなどに接着されたより長期の休暇も取りやすくなります。また、企業にとっても取得予定の見通しが立てやすくなり、スケジュール管理を容易にする効果も期待できます。

計画表の作成を行う

「有給休暇を取得したいが、職場に迷惑が掛かることが心配」と考え、申請を躊躇う労働者も存在するでしょう。そのような労働者に対しては、計画表を作成し有給休暇を取りやすい時季をあらかじめ示しておくことが効果的です。業務の繁忙や希望者の人数を基にした計画表を作成すれば、取得しやすい時季があらかじめわかるため、心理的負担なく有給休暇が取得できるようになるでしょう。

半日単位での取得もできることを伝える

有給休暇は、1日単位だけでなく、就業規則等に定めることで半日単位でも取得可能となります。午前中や午後だけ休みたいという労働者の需要に対して、柔軟な対応策を用意することは、有給休暇の取得率向上にも資する取り組みとなります。また、労使協定の締結が必要となりますが、時間単位での取得も可能なため、こちらの導入を検討してみても良いでしょう。

有給休暇の付与方法 – 計画的付与制度の手法

有給休暇には、「計画的付与」と呼ばれる制度が存在します。労使協定を締結することで、労働者が保有する有給休暇のうち5日を超える分については、協定で定めた時季に付与することが可能となります。計画的付与では、いくつかの付与方法が考えられるため、それぞれ解説を行います。

一斉付与方式

一斉付与方式では、企業や事業場を単位として有給休暇を取得することになります。従業員が一斉に休暇を取得することになるため、工場や製造部門などの操業を停止できる場合に向いている方法です。顧客の迷惑とならないような日程で設定されることが多くなるでしょう。

班・グループ付与方式

全社を挙げて一斉に休暇を取得することが困難であったり、定休日を増やせなかったりする業種・業態も存在します。そのような場合には、班やグループを単位として付与する方法が取り入れられます。流通業やサービス業などに向いている方法といえるでしょう。

個人別付与方式

計画的付与は、企業全体や班・グループだけでなく、個人単位でも導入可能です。お盆休みや年末年始休暇、ゴールデンウィークなどに併せて設定すれば、より長期の休暇を取得できることになります。また、結婚記念日や誕生日などの特別な記念日に併せて、設定される場合もあります。

有給休暇を理解し取得の促進を

有給休暇は、労働者の重要な権利であり、いつどのような理由で取得することも自由です。しかし、一定の場合には企業の時季指定による取得が義務となっており、違反には罰則も予定されています。当記事で解説した年5日の取得義務を正しく理解し、義務違反がないようにするだけでなく、より有給休暇の取得しやすい環境構築に努めてください。


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