- 更新日 : 2024年6月14日
労働協約とは?労使協定との違いや締結プロセスを解説
会社で働くうえでは、給与や休暇をはじめとする様々な取り決めがなされます。労働条件などをあらかじめ当事者間で定めることによって、後のトラブル発生を防止しています。
当記事では、労働協約について解説します。労使協定との違いや適用範囲、注意点など、幅広い内容を解説しているため、ぜひ参考にしてください。
労働協約とは?
「労働協約」とは、労働組合と使用者である会社との間で交わされる、労働条件をはじめとする労使関係全般に関する取り決めのことです。労働協約は、労働組合と企業との団体交渉によって合意した内容を記した書面であり、非常に強い効力を持っています。
労使協定との違い
労働協約に近い存在として、「労使協定」が挙げられます。労使協定も使用者と労働者側で締結すること自体に違いはありません。しかし、労働協約が労働組合との間でしか締結できないのに対して、労使協定は過半数代表者との間でも締結可能です。そのため、労働協約と異なり労使協定は、労働組合のない会社でも締結可能となっています。
労使協定は、労働基準法の例外的な取扱いを定める協定です。労働基準法第32条で定められた、法定労働時間を超える時間外労働を可能とする36協定が、労使協定の代表例となるでしょう。これに対して、労働協約は労働基準法の範囲内で合意内容を決定します。なお、両者とも書面による締結が必要な点に違いはありません。
労働協約の有効期間
労働協約には、有効期間が定められており、その期間は最大3年間です。この点においても原則として有効期間の上限がない労使協定と異なるといえるでしょう。また、3年を超える有効期間を定めた労働協約については、3年の有効期間を定めた労働協約とみなされます。仮に有効期間を4年や5年と定めたとしても、3年に引き直されるわけです。
労働協約には、有効期間を定めないことも可能です。なお、有効期間の定めない労働協約の解約においては、当事者の一方が少なくとも90日前に予告する必要があります。
労働協約と就業規則の関係
就業規則は、会社が定めるのに対して、労働協約は労働組合と会社との間における合意によって締結されています。そのような関係上、労働協約は就業規則よりも優先的に適用されます。
労働協約に定められた労働条件に達しない就業規則や労働契約は、その部分について無効となります。無効となった部分は労働協約に定められた基準となり、就業規則や労働契約に定めがない部分も同様の取り扱いです。このような効力は、労働協約の「規範的効力」と呼ばれます。
適用される優先順位を表にすると次のようになります。上ほど強い効力を持っています。
- 労働法規
- 労働協約
- 就業規則
- 労働契約
労働協約の種類
労働協約には、個別協約と包括協約の2種類が存在します。それぞれの内容を見ていきましょう。
個別協約
労働協約における「個別協約」とは、特定の労働者や、グループなどとの間で交わされた取り決めです。賃金や退職金など、特定の労働条件についての個別の合意事項をその都度書面化します。
包括協約
労働協約における「包括協約」とは、個別協約を体系的に取りまとめたものです。包括協約とすることで、効力に違いが出るわけではなく、あくまで複数の個別協約をまとめた存在となります。
労働組合を結成した当初は、個別協約として締結し、締結した事項が増えてきたら体系的な包括協約とするケースが多く見られます。
労働組合の種類
労働協約は、労働組合との間で締結することが必要です。労働組合は、その制度によって複数の種類に分けられています。
オープンショップ
「オープンショップ」とは、労働組合への加入を労働者の自由意思に委ねる制度です。労働組合員であることと労働条件などの処遇は関連せず、組合員であることが採用や雇用継続の条件ともなっていません。加入だけでなく、脱退も自由であり、加入や脱退が社員としての身分に影響しない制度です。
ユニオンショップ
「ユニオンショップ」とは、社員が必ず労働組合に加入しなければならない制度です。この制度では、雇用継続の前提条件として、労働組合員であることが求められます。そのため、脱退や除名などにより労働組合員の身分を失うと、社員としての身分も喪失することになります。労働組合員であることと、社員であることがイコールとなっているわけです。なお、労働組合員のみを採用する「クローズドショップ」と呼ばれる制度も存在します。
労働協約が適用される範囲
労働協約は、労働協約を締結した労働組合の組合員にのみ適用されるのが通常です。ただし、ひとつの工場事業場で、常時使用される同種の労働者の4分の3以上が労働協約の適用を受けるに至ったときには、他の同種の労働者にも当該協約が適用されます。このような効力を労働協約の「一般的拘束力」と呼びます。先述の規範的効力が及ぶ範囲が、非労働組合員や、他の労働組合の組合員にも拡張されるわけです。
労働協約には、規範的効力の他にも使用者と労働組合の関係を規律する、「債務的効力」と呼ばれる協定締結当事者間を拘束する効力が存在します。債務的効力には、ユニオンショップや、団体交渉のルールなどが定められています。この効力は、使用者と労働組合の関係を規律するものであるため、一般的拘束力によっても拡張されません。
労働協約が有効になる条件
労働協約を有効なものとするためには、所定の要件を守る必要があります。要件を守らない場合には、労働協約としての効力は生じないため、注意しましょう。
合意内容を書面に記入すること
労働協約は、必ず書面によって作成する必要があります。労働契約のように、口頭でも成立するわけではありません。労働協約には、労働組合との交渉によって合意した重要な事項を含んでいるため、必ず書面で作成しましょう。
会社と労働組合の双方が書類に署名または押印すること
契約書には、署名や記名押印するのが一般的です。署名や記名押印などは、契約の成立について必須の条件ではありませんが、当事者間の合意を明らかにするために推奨されています。これに対して、労働協約においては会社と労働組合双方の署名または記名押印が必須です。署名または記名押印が効力発生の要件となっているため、注意しましょう。
労働協約の作り方
労働協約の作成は、一般的に次のような流れで行われます。ステップごとに見ていきましょう。
① 労働協約の有効期間を決める
労働協約は、有効期間を定めないことも可能です。しかし、定める場合には何年にするかを決めなければなりません。設定の際には、最長である3年を超えないように注意しましょう。
② 合意内容の書面を作成する
労働組合との間で交渉を行い、内容について合意に至ったのであれば、その内容を書面化する必要があります。書面での締結は、効力発生の要件であるため、必ず守りましょう。
③ 使用者と労働組合の双方が署名を行う
書面を作成したのであれば、使用者と労働組合双方が署名または記名押印を行います。署名や記名押印は、効力発生の要件であるだけでなく、当事者間の合意を明確にする意味もあります。
労働協約に届出先はある?
労使協定は、締結内容によっては所轄労働基準監督署長への届出が必要です。36協定などは、届出がなければ効力が発生しません。また、常時10人以上の労働者を使用する会社であれば、就業規則の作成変更の際にも届出が必要です。これに対して、労働協約は労働基準監督署長などへの届出義務はありません。労使協定や就業規則と混同しないようにしましょう。
労働協約についての注意点
労働協約の締結には、いくつかの注意点が存在します。適切な労働協約とするために、注意点を守ったうえでの締結を心掛けましょう。
労働協約の締結について義務はある?
労働協約の締結は義務ではありません。そのため、労働組合から締結を求められた場合でも、会社に締結の義務はないことになります。ただし、労働協約締結の前提となる労働組合との団体交渉を正当な理由なく拒否することはできません。正当な理由のない団体交渉の拒否は、不当労働行為となるため注意しましょう。
覚書等でも労働協約は認められる
労働協約は、必ずしも労働協約という名称である必要はありません。「覚書」「合意書」、「協定」といった別の名称であっても、書面により締結し、当事者が署名または記名押印をすれば有効な労働協約として認められます。そのため、形式を守っている限り「覚書のため合意内容は無効である」といった主張は許されません。
各規定については解釈の生じないように明確化する
曖昧な規定の設定や、漠然とした表現を用いた労働協約は、複数の解釈が可能となります。労使間で解釈の違いがあれば、後のトラブル発生にもつながるでしょう。明確な規定を設けることで、トラブルを防ぐことが可能です。
給与など金銭面における労働条件は、生活に直結するため特にトラブルになりやすい項目です。具体的に定めることで、無用なトラブルを避けましょう。
締結のプロセスは段階を踏む
労働協約で定める事項は、ひとつだけとは限りません。ときには複数の事項を定めることが必要となる場合もあるでしょう。このような場合には、必要性の高い事項から段階的に合意していくことが重要です。合意に至らない事項は除外もしくは、先送りにして合意できた事項から順次締結していきましょう。
交渉の進め方や優先的に協議すべき事項、書面の作成方法などを事前に定めることで、団体交渉がスムーズに進められます。これらの項目については、事前に合意しておきましょう。
事前協議事項を定める
労働協約の締結に際して、労働組合から「事前協議事項」の設定が求められる場合もあります。事前協議事項とは、人事配置や解雇などの重要事項を決定する前に労働組合の合意や、労働組合との事前協議を必要とする事項を指します。
事前協議事項は、会社側の意思決定の自由を制限する面があるため、設定を求められた際は慎重な検討が必要です。
労働協約に違反した場合
労働協約は、労働基準法などの法令の範囲内で締結可能です。そのため、労働協約自体が法令に違反していることは考えづらくなっています。しかし、労働組合との間で合意した労働協約が存在するにもかかわらず、会社が労働協約に違反することは考えられるでしょう。このような場合には、労働基準法第92条違反となり、30万円以下の罰金が科される場合もあります。
また、労働組合法第7条違反による不当労働行為として申し立てがあれば、改善命令が出される場合もあるため、注意が必要です。
参考:
労働基準法|e-Gov法令検索
労働組合法|e-Gov法令検索
適切な労働協約の締結を
労働協約は、労使協定などと混同しやすい部分もあり、締結にも所定の要件を満たす必要があります。要件を満たさなければ効力は発生せず、折角の合意も無駄となってしまいます。当記事を参考に労働協約に関する知識を深め、適切な労働協約を締結してください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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