• 更新日 : 2024年8月27日

定額減税には手続きが必要?従業員と担当者両方の観点から解説

令和6年度税制改正に基づき、6月以降に支払われる給与等で所得税や住民税の定額減税が行われます。定額減税にあたり、従業員においては手続きは不要ですが、労務(給与)担当者においては新たな手続きが必要になります。本記事では、定額減税の概要と企業側での手続きについて解説します。

そもそも定額減税とは?

定額減税とは、令和5年11月に閣議決定された「デフレ完全脱却のための総合経済対策」に基づき、令和6年度税制改正で実施されることになった所得税、住民税の定額減税のことです。賃金上昇が物価上昇に追いついていないことによる国民の負担を緩和すべく、デフレ脱却に向けた一時的措置として実施されることになりました。

対象者

令和6年分の所得税における合計所得額が1,805万円以下(給与所得のみの場合は、給与収入が2,000万円以下(※))の人。

※子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除の適用を受ける場合は2,015万円以下

定額減税の対象とならない住民税非課税世帯や住民税均等割のみが課税される世帯に対しては、減税ではなく給付金が支給されます。

定額減税の額

【所得税】

本人30,000円、同一生計配偶者30,000円、扶養親族1人につき30,000円

同一生計配偶者、扶養親族(※1)とは以下の要件に該当する配偶者、親族(※2)を指します。

  • 納税者と生計が同一
  • 年間合計所得額48万円以下(給与所得のみの場合、年収103万円以下)
  • 青色申告における事業専従者として一度も給与が支払われていない
  • 白色申告における事業専従者でない

※1 扶養親族には所得税の扶養控除の対象にならない16歳未満の者も含まれます。

※2 親族には都道府県知事から養育を委託された児童、市町村長から養護を委託された老人も含まれます。

なお、令和6年中に子どもが生まれるなど、扶養親族が増えた場合も1人につき30,000円の減税となります。

【住民税】

本人10,000円、同一生計配偶者(※)10,000円、扶養親族1人につき10,000円

※納税者本人の前年の合計所得が1,000万円以下の場合の同一生計配偶者(控除対象配偶  者)。納税者本人の所得が1,000万円超の場合の同一生計配偶者は、令和7年度の住民  税で控除。

所得税とは異なり、令和6年中に扶養親族が増えた場合でも減税の対象にはなりません。

定額減税の詳細については以下の記事も確認してください。

参考:【2024年6月開始】定額減税とは?給与計算の方法と具体例をわかりやすく解説(令和6年6月開始)

定額減税の方法

定額減税の実施方法は所得税と住民税で異なり、以下の通りとなります。

【所得税】

令和6年6月分の給与等(賞与を含む)の源泉徴収税額から、定額減税額を控除します。令和6年6月分の給与で控除しきれない場合(源泉徴収税額<定額減税額の場合)は、以降令和6年中に支払われる給与等の源泉徴収額から控除します。給与明細の適宜の箇所には、月次の減税額のうち実際に控除した金額が明記されます。

参考:令和6年分所得税の定額減税について (給与所得者の方へ)|国税庁

【住民税】

給与天引きの場合、令和6年6月分の給与では住民税は徴収されません。定額減税後の年税額を令和6年7月~令和7年5月(11か月)で割った額(年税額の11分の1の額)を令和6年7月分の給与から徴収されます。

毎年5~6月頃に会社で配布される「特別徴収税額通知書」(今年度の住民税の額を通知する書類)の摘要欄に、定額減税の額、減税しきれない額がある場合はその額が明記されます。

参考:個人住民税の定額減税 に係るQ&A|総務省

定額減税制度を受ける際に従業員は手続きが必要?

定額減税制度の適用を受ける際は会社側が手続きを行うため、年末調整の際に扶養控除等申告書を会社に提出している場合は、従業員側での手続きは不要です。住民税についても同様に扶養控除等申告書などの内容に基づき定額減税を行いますので、手続きは不要です。

年末調整の際に扶養控除等申告書を会社に提出していない場合で、定額減税の対象となる人は確定申告を行うことで精算できます。

なお、令和6年6月分の給与等の支給日以降に、同一生計配偶者や扶養親族の数に変動があった場合には、年末調整または確定申告により精算します。

定額減税に伴い労務担当者が対応すること

定額減税に伴い労務(給与)担当者が対応することを、所得税と住民税に分けて解説します。

所得税(月次減税事務)

令和6年6月以後に支払う給与や賞与などの源泉所得税額から、定額減税額を控除することです。令和6年6月以後、最初に支払う給与、賞与等の源泉所得税額から定額減税額を控除し、控除しきれない場合にはそれ以降の令和6年中に支払う給与、賞与等の源泉所得税額から定額減税額を控除します。

この事務を進めるにあたり、労務担当者は以下の対応を行います。

①控除対象者の確認

令和6年6月1日現在の従業員のうち、源泉徴収税額表の甲欄が適用される従業員(扶養控除等申告書を提出済の従業員)を抽出します。この従業員を「基準日在職者」と呼びます。なお、以下の従業員は基準日在職者にはなりません。

  • 令和6年6月2日以降に入社した従業員
  • 令和6年5月31日以前に退職した従業員、出国して非居住者になった従業員

また、この時点では合計所得額を勘案しないため、合計所得額が1,805万円を超えることが見込まれる基準日在職者であっても月次減税事務の対象とします。

②月次減税額の計算

同一生計配偶者、扶養親族の数を扶養控除等申告書等により確認します。(要件は先述の通りです)

なお、扶養親族については16歳未満の者も含まれます。税法上の扶養控除の対象は16歳以上の扶養親族ですが、それとは異なるため注意が必要です。

扶養控除等申告書に記載のない同一生計配偶者、扶養親族について、最初の月次減税事務を行うまでに「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」の提出を受けた場合は、要件に該当することを確認した上で月次減税額の計算対象に含めることが可能です。(扶養控除等申告書で、納税者本人の所得が900万円を超える場合に、源泉控除対象配偶者として申告していないケースなどが想定されます)

③月次減税額の控除

令和6年6月以後に支払う給与や賞与等について控除前の源泉徴収税額を算出し、月次減税額を控除します。月次減税額>控除前源泉徴収税額となる場合は、2回目以降に支払う給与や賞与等で順次控除します。

また、月次減税額控除の実績(月次減税額、控除しきれない金額等)については、従業員それぞれについて管理します。管理にあたっては、国税庁が公開しているフォーマット「各人別控除事績簿」を利用することも可能です。なお、帳簿の作成や様式は法律などで定められていないため、自社で管理しやすい形で行いましょう。

参考:

各人別控除事績簿(pdf)|国税庁

各人別控除事績簿(Excel)|国税庁

なお、給与計算ソフトでは定額減税に対応しているものもあるため、あらかじめ確認しておくとよいでしょう。

④給与明細への控除額の表示

給与明細の適宜の箇所に「定額減税額(所得税)●●円」「定額減税●●円」などの形で表示します。

⑤納付書の記載と納付

月次減税事務が終了した後、納付書(給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書)を作成し、納付すべき源泉徴収税額があれば納期限までに納付します。

所得税(年調減税事務)

年末調整の際、年末調整時点の定額減税額に基づいて精算を行うことです。

令和6年6月2日以降に入社した従業員や、令和6年7月以降に扶養親族の数が変わる場合などについては月次減税事務に減税額が反映できないため、年末調整で差額精算を行います。月次減税事務で定額減税額を控除しきれなかった場合についても同様です。

年調減税事務は以下の流れで進めます。

  1. 通常通り年末調整を行い、年調所得税額(算出所得税額ー住宅借入金等特別控除額)を算定
  2. 1)の年調所得税額から年調減税額(年末調整時点の定額減税額)を控除
  3. 2)で算定した額に102.1%(復興特別所得税分)を乗じて、年調年税額を算定
  4. 3)の年調年税額を基に過不足額を精算

なお、年末調整後に作成する給与所得の源泉徴収票の摘要欄には、年調減税額を「源泉徴収時所得税減税控除済額●●円」の形で記載します。

参考:令和6年分所得税の定額減税のしかた|国税庁

住民税

毎年5月頃に会社に届く特別徴収税額通知書に記載されている住民税額の通りに給与から控除します。(記載の住民税額は定額減税分が控除されているため)労務(給与)担当者における計算は不要です。

令和6年6月分は徴収せず、定額減税後の住民税額を令和6年7月〜令和7年5月分(11か月)で割った額を令和6年7月分から毎月徴収します。

定額減税の事務は確実に進めよう

令和6年6月以降の定額減税の月次減税事務について、すでに進めている企業もあるでしょう。しかしながら本記事で紹介したように、月次減税事務で定額減税の全てを反映しきれないケースもあります。月次減税事務に反映できない場合には年末調整等での対応が必要です。

月次減税事務を確実に行うとともに、年末調整で行う年調減税事務についても遺漏のないように進めましょう。


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