• 更新日 : 2024年9月16日

パワハラにならない言葉とは?アウト発言の変換方法や注意の仕方

パワハラとはパワーハラスメントの略で、労働施策総合推進法に定義されています。同法の定義は言動に着目しており、そのような言動を避けることがパワハラを防止する上では大変重要です。

この記事では言葉に着目したパワハラ防止対策や、企業として取り組むべきこと等を解説します。自社のパワハラ発生を防止する上で参考にしてください。

目次

パワハラにならない言葉の使い方

パワハラとはパワーハラスメントの略称です。労働施策総合推進法においては以下の3条件全てを満たすことをパワハラと定義しています。

  • 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であること
  • 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であること
  • 労働者の就業環境が害されるような言動であること

「優越的な関係」とは、業務上抵抗できない可能性が高い関係のことです。上司部下の関係が代表的ですが、その逆で部下から上司、同僚同士など様々なパターンがあります。

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」とは、業務上明らかに不必要で、目的を大きく逸脱した言動を指します。繰り返し執拗に個人攻撃をしたり、集団で一人のことを攻撃したりする形での言動も含みます。

「就業環境が害されるような言動」とは、身体的または精神的苦痛を感じ、職場を不快なものに感じたり、業務上看過できないほどの支障が生じたりするような言動を指します。

後ほど解説しますが、企業がパワハラ防止のための相談に乗り、適切に対応を行うことなどが厚生労働省のガイドラインで義務付けられています。また、パワハラを放置すれば従業員が心の健康を害して休職や離職に至る可能性がある他、不法行為責任や安全配慮義務違反など法的責任を問われることにもなりかねません。

参考:2020年(令和2年)6月1日より、職場における ハラスメント防止対策が強化されました!|厚生労働省

以下では、パワハラにならない言葉の使い方を紹介します。

相手の立場に立つ

パワハラはハラスメント(嫌がらせ)であり、相手に嫌な気分を抱かせる発言がパワハラと捉えられる大きな原因と言えるでしょう。したがって相手の立場に立って発言することが、パワハラをはじめとしたハラスメントを防ぐためには重要です。

相手のことを思いやっての発言であれば安心感を覚えるため、ハラスメントと感じにくくなる可能性があります。

丁寧な言葉使い

パワハラと感じられないようにするには、丁寧な言葉使いを心がけることが重要です。乱暴な言葉使いの場合、相手はそれだけで威圧感を感じ、ハラスメントを受けていると考える可能性があります。威圧的な言動はそれだけでパワハラの定義に該当する可能性があるため、注意が必要です。

行動指示ではなく目的を提示する

一方的に行動を指示されると不快感を覚えて、パワハラを受けていると感じる可能性があります。パワハラと受け取られないようにするには、単に指示内容を伝えるのではなく、目的も併せて伝えるとよいでしょう。目的を提示されることで、指示を受けた側は指示内容への納得感を高めることにつながります。

人格や能力を攻撃しない

人格や能力を攻撃する言動は、厚生労働省の「パワーハラスメント防止のための指針」における代表的な言動の6類型の一つ「精神的な攻撃」に該当します。相手の人格や能力を攻撃する言動を行ってはなりません。

参考:職場におけるハラスメント関係指針|厚生労働省

書面での表記にも注意する

発言だけでなく、書面での表記についてもパワハラに認定される可能性があります。書面で表記する場合でも上記の内容に注意しましょう。

パワハラにならない言葉づかい

以下でパワハラにならない言葉づかいの代表例を5つ紹介します。

命令ではなく依頼をする「~できますか?」

一方的に行動を指示される命令口調の場合、パワハラと受け取られる可能性があります。指示を行う場合は「~できますか?」などの言葉で依頼形の言葉づかいを心がけるとよいでしょう。

否定的な表現は控える「~するとよいと思います」

人格否定など、自らを否定する表現には精神的苦痛を覚えることが多いため、パワハラと受け取られる可能性があります。

相手の言動に対して改善や変更を求めたい場合には、一方的に否定するのではなく、相手のことを思ってアドバイスする形で「〜するとよいと思います」と伝えるとよいでしょう。相手を思いやる気持ちが伝われば、ハラスメントと受け止められないようになります。

具体的な改善点を示す「次はこのような手順で行うといいかもしれません」

相手に改善や変更を求める際には、具体的な改善点を示すとよりよい結果につながります。具体的には「次はこのような手順で行うといいかもしれません」といった形で、相手に対応してもらいたい内容に踏み込んで発言するとよいでしょう。自らを思いやってのアドバイスと受け止め、パワハラと感じにくくなります。

感情的な発言は避ける「この状況についてご説明いただけますか?」

相手に非がある場合に、感情的に問題点を述べるのではなく、冷静にその内容を確認しようとしていることを相手に伝えることも重要です。

具体的には、相手に説明を求める形で「この状況についてご説明いただけますか?」と投げかけ、相手の言い分を聞く姿勢を見せるとよいでしょう。自らを冷静に評価しようとしていると安心感を覚え、パワハラには感じない可能性があります。

相手の意見を尊重する「どのように思われますか?」

一方的に自分の意見を押し付ける形で発言すると、相手に不快感を与えかねません。相手の問題点について注意したい場合でも、自らの意見を押し付けるのではなく、「どのように思われますか?」と相手に質問を投げかけるとよいでしょう。それにより相手の意見を尊重していることが伝わり、パワハラと受け取られにくくなります。

パワハラにあたる言葉のジャンル

パワハラにあたる言葉とはどのようなものでしょうか。以下では3種類に分けて紹介します。

脅迫にあたる言葉

脅迫にあたる言葉は、厚生労働省の「パワーハラスメント防止のための指針」における代表的な言動の6類型の一つ「精神的な攻撃」に該当します。

裁判例では部下のミスの際の「てめえ、何やってるんだ」「どうしてくれるんだ」「ばかやろう」といった上司の発言が、指導の域を超えたものとして不法行為と判断されています。

参考:【第22回】「パワハラ、暴行等と自殺との間に相当因果関係有りとして高額の損害賠償」 ― メイコウアドヴァンス事件|あかるい職場応援団

侮辱にあたる言葉

侮辱にあたる言葉も上記と同様に「精神的な攻撃」に該当するとされています。

裁判例では、業績が芳しくない従業員に対して「マネージャーが務まると思っているのか」「マネージャーをいつ降りてもらっても構わない」と上司が発言したことについて、従業員を侮辱するものとして違法と判断されています。

参考:【第49回】 「管理職としての配慮に欠ける言動が違法であるとされた事案 社内ルールに反する取扱いを行うに当たり説得をしなかった点が違法であるとされた事案 職業上の誇りを傷つける言動が違法であるとされた事案」 ― 富国生命保険ほか事件|あかるい職場応援団

人格否定にあたる言葉

人格を否定する発言も同様に「精神的な攻撃」に該当すると考えられています。裁判例では、従業員が本来報告すべきことを報告しなかった際、その従業員の上司が「馬鹿野郎」「給料泥棒」「責任を取れ」などと叱責したことについて、違法と判断されています。

参考:【第17回】「上司から受けたパワハラを理由とした損害賠償請求」 ― 日本ファンド(パワハラ)事件|あかるい職場応援団

パワハラ言葉をパワハラにならない言葉に変換

パワハラと受け取られるパワハラ言葉について、どのようにパワハラにならない言葉に変換すればよいのでしょうか。以下では代表例を5つ紹介します。

お前の仕事はダメだ

相手を全否定する「お前の仕事はダメだ」という発言は、本人にとって大きな精神的ダメージにつながります。パワハラと受け取られかねず、今後の改善にもつながりません。本人の改善を促す意味でも、本人のよいところを認めながら改善点を指導するよう声がけすることが重要です。

「〇〇についてはよかったと思いますが、××については▲▲にしたほうがよかったと思います。それについて、あなたはどう思いますか」といった言葉で相互理解と改善につなげましょう。

そんなこともできないの?

「そんなこともできないの?」と一方的に言われると、相手は「では、どうすればいいの?」と考えてしまうでしょう。自分が相手を適切に指導できないことを棚に上げているといった不快感を覚える発言で、パワハラと受け取られてしまいます。

「~をしてみてはどうでしょうか?」という形で、何をすべきかを丁寧にアドバイスする形で発言すると、パワハラと受け取られないでしょう。

お前の意見は間違っている

一方的に否定的な発言をされると、相手は容易に受け入れがたいものです。意見の相違を認めた上で問題解決につなげることが重要です。

「お前の意見は間違っている」と言う前に「私は〇〇と考えるのですが、あなたがそのように考える理由を教えてもらえますか」といった形で、相互理解を促す形で声がけするとよいでしょう。自分の意見を聞いてもらえると安心感を抱き、パワハラと感じにくくなるでしょう。

もう来なくていいよ

会社で上司などから「もう来なくていいよ」と言われると、仕事を失ってしまうのではないかという不安を抱くでしょう。相手の振る舞いに苛立っての発言の場合も多いと考えられますが、本人に特に大きな問題がない場合に解雇と受け取られれば、大きな問題にもなりかねません。またパワハラと感じることもあるでしょう。

例えば仕事上で何らかの大きな問題があった場合に「私は〇〇したほうがよかったのではないかと思うのですが、どうしてこのようなことになったのか教えてもらえませんか?」「困ったことがあったら教えてほしい」といった形で声をかけてみましょう。このように、本人の言い分に耳を傾ける姿勢を示すことが重要です。

親の顔が見てみたい

相手の行動に不満を感じて感情的になった際に、つい「親の顔が見てみたい」と口走ってしまうかもしれません。この発言は本人はもちろん本人の親を侮辱する発言であり、パワハラと受け止められるでしょう。口にしたところで解決につながるわけではありません。

本人の言い分にしっかり耳を傾けるべく、「〇〇は問題ですが、どうすれば解決できるか一緒に考えてみましょう」といった形で、サポートする形で声をかけるとよいでしょう。

パワハラにならない注意の仕方

この章では、パワハラにならない注意の仕方を4つ紹介します。

具体的な問題行動、内容などを指摘した上で改善方法を指導する

一方的に叱るだけでは納得感が高まらず、パワハラと受け止められる可能性があります。

本来、問題行動を改めてもらうことが目的のため、具体的にどのような行動や内容が問題なのかを指摘した上で、それをどのように改善すべきかを伝えます。改善方法についても一方的に伝えるだけでなく、相手の意見を聞きながら自発的な改善を促すように働きかけることが重要です。

感情を抑え、冷静に指導する

一時の感情だけで叱ってしまうと叱られた方は精神的にダメージを受けたり、反発心を抱いたりしてしまい、パワハラと受け取られる可能性があります。一呼吸置いて不満や怒りなどの感情を抑え、冷静に問題点を指摘し、改善に向けた働きかけを行うことが求められます。

人格や性格の否定は避ける

人格や性格を否定する言動はパワハラの代表例のため絶対に避けましょう。人格や性格を否定されてよい気分になる人はいませんし、改善につながりません。

指導した内容の伝わり方を確認する

指導を行った際に、それが指導された相手にどのように伝わったかを確認します。指導した内容を復唱させた上で、趣旨が十分に理解できているかを丁寧に確認したり、指導結果を踏まえ行動させる中でフォローしたりするなど指導内容を徹底するとよいでしょう。これにより、相手を思いやって改善を促すために真剣に指導していることが伝わります。思いやりが伝わればパワハラと受け止められにくいでしょう。

パワハラ言葉を防ぐためのクッション言葉

感情のおもむくままにダイレクトに伝えると、相手に不快感を与えてしまうことはよくあることです。「責められている」「怒られている」といった感情を抱くと、精神的に不調に至ってしまう可能性もあります。そのような不快な感情を和らげるために使われるのがクッション言葉です。前章で述べたことに注意しながら、必要によりクッション言葉を活用すると効果的です。例として以下のような言葉が挙げられます。

部下に声をかけるとき

  • 忙しいところ申し訳ないけど、少し時間をもらえるかな
  • どうしても手伝ってもらいたいことがあるけど、いいかな
  • いつも頑張ってくれているところ、申し訳ないけど
  • いつも頑張ってくれていてありがとう

感情のおもむくまま叱ってしまったとき

  • ついカッとなり怒鳴ってしまい申し訳ない。
  • 私も少し言い過ぎたかもしれない。申し訳ない。

パワハラ対策への企業の取り組み

厚生労働省の指針により、パワハラ防止に向けて企業として取り組むことが義務付けられていることは以下の通りです。

事業主のパワハラ防止に向けた方針等の明確化と周知、啓発

パワハラ防止に向けた方針等を明確化するだけでなく、パワハラの行為者に対して厳正に対処する方針とその内容を就業規則等に定め、従業員に周知、啓発する必要があります。

パワハラに関する従業員の相談に応じ、適切に対応できる体制整備

相談窓口を従業員に周知し、窓口担当者が適切に対応できるよう体制を整備しなければなりません。

パワハラに対する事後の迅速かつ適切な対応

事実関係を正確に把握し、被害者への配慮のための措置、行為者に対する措置、再発防止のための措置を適切に行わなければなりません。

その他

相談者のプライバシー保護のための適切な措置を取り、相談したこと等による解雇その他不利益な取扱いを禁止する旨を定めた上で、従業員に周知、啓発する必要があります。

上記以外にも取り組んだ方が望ましいことについて定められています。詳細は以下のリンクを参考にしてください。

参考:2020年(令和2年)6月1日より、職場における ハラスメント防止対策が強化されました!|厚生労働省

パワハラが発生した時の会社の対応

前章で解説した厚生労働省の指針に基づき、パワハラが発生したときに会社が対応しなければならないことを紹介します。

事実関係の調査担当者決定

パワハラが発生した際の事実関係を調査する担当者を決めておく必要があります。相談窓口の担当者、または相談窓口とは別に調査委員会等を設けて担当させる方法があります。調査委員会を設置する場合には、人事労務や法律に詳しいメンバーを加えるとよいでしょう。

事実関係の調査

相談者や関係者、行為者に対してヒアリングを行います。相談者以外へのヒアリングにあたっては、相談者の許可を受けます。ヒアリングの際は、録音やメールの内容等、客観的な証拠を収集することが重要です。また、ヒアリング結果は対象者に確認、署名をしてもらいましょう。

パワハラの有無を判断

事実関係の調査結果をもとにパワハラの有無を判断します。パワハラの有無を判断するにあたっては、法律や裁判例、社内ルール等に照らして慎重に行う必要があります。

調査報告書の作成

調査結果や判断結果を踏まえ、調査報告書を作成します。調査内容や調査の結果判明した事実、パワハラの有無に関する事実認定と判断結果などを記載します。

パワハラの事実が認定された場合の行為者への処分、被害者への配慮

行為者への処分を下すとともに、被害者に対しても行為者との関係改善に向けた援助や人事上の措置などの配慮を行います。

再発防止措置を取る

パワハラへの会社の対処方針等を改めて周知するほか、従業員に対してパワハラ防止意識を啓発するための教育などを実施する等、再発防止のための取り組みを進めます。

パワハラの始末書の無料テンプレート・ひな形

以下より、テンプレートを無料でダウンロードいただけます。ぜひご活用ください。

パワハラを防止して働きやすい企業に

パワハラの被害を受けた従業員は、精神的な苦痛を受け離職や休職に至る可能性があります。また、職場の雰囲気が悪化して生産性低下につながりかねません。パワハラは従業員だけでなく企業にとっても大きな損失を招くため、発生を防止する必要があります。この記事の内容を参考にパワハラ発生を防止し、働きやすい企業づくりに取り組みましょう。


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