- 作成日 : 2022年9月16日
賞与に雇用保険料はかかる?免除は?退職後や死亡退職の場合
企業に勤めていると、正社員の方はもちろんパート・アルバイトであっても雇用保険料が徴収されます。それでは給与以外で発生した賞与は雇用保険の対象になるのでしょうか。
この記事では雇用保険料が賞与から引かれるか否かをはじめ、雇用保険料の計算方法や健康保険・介護保険・厚生年金保険料の免除事項について紹介します。免除されている月や退職・死亡退職後に発生した賞与に対する支払い義務などを確認してみましょう。
賞与に雇用保険料はかかる?
賞与は月収とは別に会社から支払われるものであり、労働の対価として扱われます。賞与には年末手当・ボーナス・期末手当などがあり「労働保険料の算定基礎となる賃金」に含まれているため、支給されるたびに雇用保険料の対象となるため注意しましょう。
雇用保険の対象となる賃金は以下のとおりです。
- 基本給 / 固定給等基本賃金
- 超過勤務手当 / 深夜手当 / 休日手当等
- 扶養手当 / 子供手当 / 家族手当等
- 宿直手当 / 日直手当
- 役職手当 / 管理職手当等
- 地域手当
- 住宅手当
- 教育手当
- 単身赴任手当
- 技能手当
- 特殊作業手当
- 奨励手当
- 物価手当
- 調整手当
- 賞与
- 通勤手当
- 休業手当
- いわゆる前払い退職金
- 定期券 / 回数券等
- 創立記念日等の祝金
- チップ
- 雇用保険料その他社会保険料
- 住宅の利益(社宅等の貸与を行っている場合のうち、貸与を受けない者に対して均衡上住宅手当を支給する場合)
また、以下のような賃・雇用保険料その他社会保険料金は計算の対象に含まれないことも把握しておきましょう。
- 休業補償金
- 退職金
- 結婚祝金
- 死亡弔慰金
- 災害見舞金
- 増資記念品代
- 私傷病見舞金
- 解雇予告手当て
- 年功慰労金
- 出張旅費 / 宿泊費等
- 制服の代金
- 会社が全額負担する生命保険の掛金
- 財産形成貯蓄のため事業主が負担する奨励金等
- 住宅の利益(一部の社員に社宅等の貸与を行っているが、他の者に均衡給与が支給されない場合)
このように、いわゆる金一封など会社の任意による賞与や貸与しているものについては雇用保険の徴収対象になりません。あくまでも労働に対する対価や義務的に支払われた賞与が徴収対象です。
給与や賞与は労働基準法第24条で厳格にルールが定められており、同法内に『全額払いの原則』があります。この原則により、賞与を含めた賃金は全額を支払わなければなりません。しかし、以下のような場合には控除した状態で支払われることもあります。
- 法令に別段の定めがあるもの
所得税 / 社会保険料 / 雇用保険料の被保険者負担分 / 住民税等 - 労使協定が締結されている場合
社宅 / 寮等の費用 / 購入物品の代金 / 社内預金 / 組合費等
退職後に雇用保険の対象となったとしても、資格喪失日によっては社会保険や所得税の控除対象から外れるケースもあります。
参考:
労働保険料の算定基礎となる賃金早見表|厚生労働省神奈川労働局
労働条件・職場環境に関するルール|厚生労働省
退職後に支払われる賞与に雇用保険料はかかる?
退職後に賞与が支払われた場合、雇用保険料は徴収されないように思われるかもしれません。しかし、社員が退職したあとであっても、基本的には雇用保険料の徴収が必要です。
雇用保険料は就業期間の労働に支払われた賃金に対して発生します。支給されるのが退職後であっても、就業期間中の労働に対して支払われているのであれば雇用保険料の対象になります。
死亡退職の場合も支払われる賞与に雇用保険料はかかる?
万が一就業期間中に死亡した場合、死亡退職後に支払われる賞与について雇用保険料は発生するのでしょうか。
労働基準法において、死亡した場合であっても通常の退職と同じ扱いであるため「死亡日=退職日」として、死亡日までの業務で発生した給与・賞与に対して同様に保険料額を計算・控除されます。
なお、死亡すると社員本人の銀行口座は凍結されるため、賃金や賞与は相続人の口座に振り込まれることになります。その際には、以下のように通常の賃金支給における保険料計算とは異なる点がいくつかあるため注意が必要です。
- 死亡後に支給された給与は所得税が発生しない
死亡後に相続人が受け取る給与は死亡した社員本人の所得ではなく相続人が受け取る財産のため、所得税として計上されません。 - 死亡日までの年末調整 / 源泉徴収の発行が行われる
死亡退職した場合、勤務していた最終月までに給与で年末調整を行います。しかし死亡後に支払われる給与については所得税の対象から外れるため、死亡前までに支給された給与額で年末調整を計算して源泉徴収票が発行されます。
例として、月末締め翌月10日払い支給で9月1日に亡くなった場合、9月10日と10月10日に支給される給与および賞与は、相続財産となるため所得税が発生しません。また、その年の年末調整は9月10日に支給された給与までを対象にして、還付金がある場合は相続人の口座に振り込まれます。
また、相続人はこれら以外にも『傷病手当金』『埋葬費』などを受け取れますが、要件を満たしていても相続人自身で書類を準備して役所に申請しなくてはなりません。会社や役所から自動的に案内が届く訳ではないため、死亡退職に携わる際はその後のお金の流れをよく確認しましょう。
参考:雇用保険事務手続きの手引き|ハローワーク(公共事業安定所)
賞与にかかる雇用保険料の計算方法
ここからは賞与にかかる各種保険料の計算方法を解説します。雇用保険料は事業ごとに計算方法や負担額が異なる場合があり、それぞれの計算式は以下のとおりです(2022年8月現在)。
▼一般事業の雇用保険料
▼農林水産・清酒製造事業の雇用保険料
会社負担分の雇用保険料=標準報酬月額×0.75%
個人負担分の雇用保険料=標準報酬月額×0.4%
▼建設事業の雇用保険料
会社負担分の雇用保険料=標準報酬月額×0.85%
個人負担分の雇用保険料=標準報酬月額×0.4%
また、2022年4月30日に成立した『雇用保険法等の一部を改正する法律案』により、同年10月から以下のように利率が変わります。
▼一般事業の雇用保険料
会社負担分の雇用保険料=標準報酬月額×0.85%
個人負担分の雇用保険料=標準報酬月額×0.5%
▼農林水産・清酒製造事業の雇用保険料
会社負担分の雇用保険料=標準報酬月額×0.95%
個人負担分の雇用保険料=標準報酬月額×0.6%
▼建設事業の雇用保険料
会社負担分の雇用保険料=標準報酬月額×1.05%
個人負担分の雇用保険料=標準報酬月額×0.6%
以上の計算式をもとに自身の雇用保険額を計算します。例として営業職Aさんの賞与が100万円であれば、以下のように雇用保険料を計算します。
2022年4月1日~9月30日 | 10月1日~2023年3月31日 | |
---|---|---|
雇用保険料 | 1,000,000×0.9%=9,000円 | 1,000,000×1.35%=13,500円 |
会社負担額 | 1,000,000×0.65%=6,500円 | 1,000,000×0.85%=8,500円 |
Aさん負担額 | 1,000,000×0.3%=3,000円 | 1,000,000×0.5%=5,000円 |
続いて、同じく賞与が100万円支給される農林水産業のBさんを計算します。
2022年4月1日~9月30日 | 10月1日~2023年3月31日 | |
---|---|---|
雇用保険料 | 1,000,000×1.15%=11,500円 | 1,000,000×1.55%=15,500円 |
会社負担額 | 1,000,000×0.75%=7,500円 | 1,000,000×0,95%=9,500円 |
Bさん負担額 | 1,000,000×0.4%=4,000円 | 1,000,000×0.6%=6,000円 |
最後に、同じく賞与が100万円支給の建設業Cさんの場合を見ていきましょう。
2022年4月1日~9月30日 | 10月1日~2023年3月31日 | |
---|---|---|
雇用保険料 | 1,000,000×1.25%=12,500円 | 1,000,000×1.65%=16,500円 |
会社負担額 | 1,000,000×0.85%=8,500円 | 1,000,000×1.05%=10,500円 |
Bさん負担額 | 1,000,000×0.4%=4,000円 | 1,000,000×0.6%=6,000円 |
このように、雇用保険料が異なる農林水産業と建設業であっても、個人負担額は同額になります。なお、農林水産関係であっても、以下の事業は一般事業に分類されるため注意しましょう。
- 園芸サービス業
- 牛馬育成業
- 酪農業
- 養鶏業
- 養豚業
- 内水面養殖 / 特定船員を雇用する事業
参考:令和4年度雇用保険料率のご案内|厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク
雇用保険を正しく理解しましょう
今回は賞与にも雇用保険が適応されるのかどうか、そして雇用保険の計算方法について解説しました。雇用保険は社員の社会生活や雇用の維持に欠かせない大切な労働保険です。賞与をはじめ、何が雇用保険対象になるのか・ならないのかをしっかり把握して、正しく理解しましょう。
よくある質問
賞与に雇用保険料はかかりますか?
雇用保険は労働に対する賃金にかけられる保険で、賞与も該当するため雇用保険料が発生します。詳しくはこちらをご覧ください。
退職後の賞与にも雇用保険料はかかりますか?
賞与は就労期間中の労働に対して支払われているため、退職日に関わらず雇用保険料は発生します。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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