• 更新日 : 2023年1月30日

社会保険料を徴収ミスした場合の対応

社会保険」とは、健康保険・介護保険・厚生年金保険を含めた公的保険の総称です。社会保険料は毎月の給与から天引きされますが、その計算は複雑です。同時期に大量の給与計算を行う必要があるため担当者の負荷が高く、人的ミスは避けられません。この記事では、社会保険料の徴収ミスが起こった際の対処法についてお伝えします。

社会保険料の徴収ミスが発覚した場合はどのように対応すればいい?

社会保険料の基礎となる「標準報酬月額」の算定は毎年9月までに行われます。4月から6月の平均給与を標準報酬月額表に当てはめ、等級を決定します。この手続きを「社会保険料の定時決定」と言います。定時決定された標準報酬月額は同年の9月から1年間有効となり、翌年8月まで同じ等級で社会保険料が算出されます。

なお、標準報酬月額には基本給のほか、残業手当や賞与、通勤手当や住宅手当、扶養手当なども含まれます。

一方、見舞金や出張旅費などは含みません。標準報酬月額の算出は、対象となる報酬の確認や各種手当の月額換算など、複雑な計算を要します。また、標準報酬月額を決定する定時改定は、7月1日時点で被保険者である全従業員が対象となるため、同時期に膨大な計算をこなす必要があります。そのため、担当者の負荷が高くミスが起こりがちな業務です。

では、実際に社会保険料の徴収ミスが発覚した場合は、どのように対処すれば良いのでしょうか。この章ではミス発覚時の対応について、具体的にご紹介します。

翌月に清算する

最もシンプルな対処法として、「翌月の控除で清算」する方法が挙げられます。少なく徴収してしまった場合は翌月の控除額に上乗せし、多く徴収してしまった場合は翌月の控除額を少なくします。

例えば、定時決定によって算出された健康保険料が10,000円だったところ、10月に12,000円控除してしまったとします。誤って2,000円多く控除してしまったので、翌11月の控除額を減らして8,000円とします。12月からは改めて10,000円控除するようにします。非常にシンプルな対処法です。

なお、清算時には必ず同じ「健康保険料」の項目で調整することが肝心です。「その他」の項目などで調整してしまうと、年末調整時の社会保険料控除額がずれてしまい、所得税額が誤ってしまいます。

当月に現金清算を行う

2つ目の対処法として、「当月中に現金精算」する方法が挙げられます。控除額が多ければ現金で返還し、少なければ追加徴収します。手続き自体は非常にシンプルですが、注意しなければならない点があります。それは、給与計算システムの社会保険料の項目を修正する必要があるということです。この箇所を修正しないと、年末調整時の社会保険料控除額がずれてしまい、誤った所得税額になってしまいます。年末調整を間違えてしまうと、再年調や、場合によっては従業員に確定申告をしてもらわなければなりません。いずれにしても非常に煩雑な手続きを要するため、必ず給与計算システムを修正して帳尻を合わせるようにしましょう。

会社負担で対応する

社会保険料の個人負担分が少なかった場合は、「会社負担で対応」する方法が考えられます。原則、社会保険料は会社と従業員で折半して負担するものです。そして健康保険・厚生年金保険の保険料は日本年金機構が徴収することになっており、毎月下旬に年金事務所から送付される「保険料納入告知書」に基づき、翌月末までに納入する必要があります。

保険料納入時に、徴収ミスにより不足した分は会社が負担して納付します。この時注意しなければならないのが、会社負担分を「現物給与」として課税対象とすることです。年末調整時に給与の一部として計算し、正しく所得税額を算出する必要があります。会社の経理上は「法定福利費」などの勘定項目で処理するようにしましょう。

社会保険料の徴収ミスが起こるケース

社会保険料の計算は複雑で、同時期に膨大な処理を行わなければならないため、人的ミスが起こりがちです。特に、定時決定に向けて算定基礎届を作成しなければならない4月から7月上旬にかけては業務負荷が高まるため、より一層の注意が必要でしょう。定時決定により算出される標準報酬月額は社会保険料の基礎となる大切な数値です。また、定時決定された標準報酬月額は1年間有効であるため、こちらにミスがあると影響は甚大になります。

社会保険料の徴収ミスは、標準報酬月額は正しいものの控除額が誤っているパターンと、そもそも標準報酬月額が誤っているパターンが考えられます。パターンによってその後の対応が変わってくるため、この章ではそれぞれのパターン毎に具体的な対応方法をご紹介します。

標準報酬月額の計算は正しく行われたが、従業員から徴収する額を誤ったケース

1つ目のパターンは、社会保険料の定時決定時に標準報酬月額は正しく算出されたものの、給与からの源泉徴収額が誤ってしまったケースです。このパターンでは、年金事務所には正しい標準報酬月額が通知されているため、あくまで会社と従業員との間の社会保険料負担分の清算となります。清算方法としては、前章でご紹介した通り「翌月の控除で清算」「当月中に現金精算」「会社負担で社会保険料を納付」などの対応が考えられます。社会保険料は年末調整時の社会保険料控除額に関わり、所得税額に影響します。そのため、いずれの場合も雑収入や雑費などで処理するのではなく、社会保険料に関する勘定項目で処理するようにしましょう。

また、年度内にミスが発覚した場合は清算のみで問題ありませんが、年末調整後に発覚した場合は再年調や確定申告・修正申告などが必要です。非常に煩雑な手続きであるため、社会保険料の計算には十分に注意しましょう。

標準報酬月額の計算が間違っていたケース

2つ目のパターンは、社会保険料の定時決定時に標準報酬月額の計算を誤ったケースです。このパターンでは年金事務所へ訂正書類の提出が必要になります。社会保険料の定時決定では、7月1日時点での被保険者を対象に、4月から6月の平均給与を算出し「被保険者報酬月額算定基礎届」という書類を作成して年金事務所に提出します。算定基礎届によって等級が決定され、それに基づき社会保険料が算出されます。この算定基礎届にミスがあった場合は、まず年金事務所に一報を入れましょう。その上で訂正書類を作成して再提出します。

標準報酬月額の計算には、注意しなければならないポイントが沢山あります。ミスを犯しやすい要点をいくつか確認してみましょう。

  • 4月昇給者の考慮が漏れている
  • 報酬へ通勤手当を含めるの忘れる
  • 通勤手当を月額按分ではなく半年分で算出してしまう
  • 支払基礎日数を誤ってしまう
  • 算定対象月を誤ってしまう

算定基礎届の修正は手間がかかるため、ミスの原因をあらかじめ把握して正確に届出を行うようにします。

社会保険料の徴収ミスを起こさないためにすべき対策

社会保険料の徴収ミスは、手取り給与額に影響があるだけでなく、年末調整や確定申告にも影響を及ぼします。社会保険料の誤りは社会保険料控除額の誤りに繋がり、結果として所得税も間違えてしまうことになります。

社会保険料の徴収ミスを防ぐためには、まず社会保険料の算定基礎となる標準報酬月額の計算を正確に行う必要があります。標準報酬月額は定時決定を経て1年間有効であるため、この計算を誤ってしまうと多大な影響を及ぼします。前章でご紹介したミスを犯しやすいポイントを押さえて、正確に算出・届出を行うようにしましょう。

また、標準報酬月額の計算が正しくても控除額を誤ってしまう場合も考えられます。社会保険料は会社側と従業員で折半となるため、従業員から徴収した金額の2倍が保険料納入告知書に記載の保険料と一致していることを確認します。また、定時決定で決まった標準報酬月額が間違いなく給与計算システムに入力されていることを確認することも大切です。定時決定や、大幅な給与増減時に実施される随時改定の前後で、社会保険料が適切に変更されていることを確認しましょう。

社会保険料の徴収ミスは会社・従業員間での清算が必要になるだけでなく、場合によっては再年調や確定申告・修正申告も必要となるため、間違いのないようチェックするようにしましょう。

間違いやすいポイントを押さえて正確に社会保険料を徴収しよう

今回は社会保険料の徴収ミスが発覚した際の対処方法をご説明しました。社会保険料の計算は複雑で、同時期に膨大な計算を実施する必要があるため、ミスが起こりやすい業務です。社会保険料の徴収ミスは年末調整や確定申告にも影響し、所得税額の誤りにも繋がります。この記事ではミスが起きやすいポイントとミスを起こさないための対策もご紹介しました。これらを参考に、正確な標準報酬月額の算出と社会保険料の徴収を実施してみましょう。

よくある質問

社会保険料の徴収ミスが発覚した場合はどのように対応すればいいですか?

「翌月の控除で清算」「当月中に現金で清算」「会社負担で保険料を納付」などの対応が考えられます。詳しくはこちらをご覧ください。

社会保険料の徴収ミスが起こるのは、どのようなパターンがありますか?

社会保険料の算定基礎である「標準報酬月額」の計算ミスが考えられます。標準報酬月額が正しい場合は、等級の変更漏れなどが可能性として挙げられます。詳しくはこちらをご覧ください。


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