- 更新日 : 2024年10月30日
人材開発と人材育成の違いは?目的は導入における注意点を解説
企業間での競争力の差は、人材によるパフォーマンスによって生まれると言っても過言ではありません。そのため、企業は人材の育成に力を入れる必要があります。さらに、人材の育成は、組織的、計画的に行うのが効果的です。本記事では、組織的、計画的に人材を育成する「人材開発」について、概要や目的、方法や進め方などを解説します。
目次
人材開発とは?
人材開発とは、組織や集団などが、所属する個人に対して能力やスキルの向上を促し、計画的に実現していくことです。一人ひとりのパフォーマンスを向上させることで、組織や集団全体のパフォーマンス向上、成長を実現させるための取り組みのことを指します。
人材開発と人材育成の違い
人材開発と人材育成は、組織や集団などが人を育成するという意味では同じですが、目的や対象者の範囲が異なります。
人材開発は、個人が現在保有している能力を高めて最大化することが目的ですが、人材育成は、新たな知識やスキルを習得させることが目的です。さらに、人材開発は原則として所属する全ての個人を対象として行いますが、人材育成は特定の個人を対象として行います。
人材開発と組織開発の違い
人材開発と組織開発は、組織や集団としてのパフォーマンスの変化に対する目的が異なります。人材開発は、組織や集団としてのパフォーマンスを高めることが目的ですが、組織開発は、組織や集団としてのパフォーマンスを最適化することが目的です。
組織開発では、個人の能力を最適な形で発揮させ個人ごとの能力発揮に相乗効果を生じさせるための人材配置を行います。
人材開発が注目されている背景
人材開発が注目されている背景には、労働者の価値観の変化、グローバル化やIT化の進展に代表されるビジネス環境の変化があります。
年代ごとのキャリア価値観の変化
戦後長らく続いてきた終身雇用では、企業が個人のキャリアを形成するという価値観が主流でした。
しかし、終身雇用が崩壊した現代では、個人のキャリアを自ら形成することに関心を高める労働者が増えています。これにより、世代間でのキャリア形成に対する価値観の相違が生じているのが現状です。
世代間でのキャリア形成に対する価値観の相違に対応した最適な人材活用を行うために、キャリアの多様化を推進する人材開発が注目されています。
グローバル化やIT化に伴う変化
経済のグローバル化やIT化が進展した現代社会では、ビジネスを取り巻く環境が日常的に変化し続けています。
環境変化の速い世の中で企業が生き残っていくためには、そのときの環境に適合した事業の内容や体制を維持し続ける必要があるでしょう。事業の内容や体制の変化に対して柔軟に対応し続けるために、能力の多様化を推進する人材開発が注目されています。
DX人材の必要性
IT化の進展により、デジタル技術を用いてビジネスモデルを変革させるDX(デジタルトランスフォーメーション)への対応が企業に求められるようになりました。DX化に対応していくためには、従業員のデジタル対応力を高めることが必要です。
DX化に対応しながら事業競争力を高めていくために、従業員のデジタル対応力の向上を推進する人材開発が注目されています。
人材開発の目的
人材開発の目的は、従業員の成長を促すことで、経営戦略の実践力を高め、企業の成長を実現することにあります。
従業員の成長を促す
能力やスキルの向上を推進する環境が整うと、従業員の成長を促しやすいでしょう。仕事を通じて自己の能力やスキルが向上することは、従業員のモチベーションアップにつながります。そのため、企業は従業員の定着と成長を促すための人材開発が必要です。
経営戦略の一環として
企業は、成長を実現するために、今後の事業内容やプロセス、実行するための体制などを明らかにした経営戦略を策定します。策定した経営戦略を実践していくためには、今いる人材(従業員)の能力の底上げが必要です。
そのため、企業は、経営戦略の実践に必要な人材(従業員)の能力の底上げを実現するために人材開発を行います。
企業の成長・挑戦を促す
経営戦略を実践し成果が生まれることで、企業の成長が実現されます。その過程で手にした利潤を新たな事業分野に投資し、人材の成長と実効性のある経営戦略が一体化した対応を行うことで、企業は成長し続けるでしょう。
企業は、成長し続けるために必要な仕組みを明らかにした上で、人材(従業員)を戦力化するために人材開発を行います。
人材開発に使用できる方法・手法
人材開発の主な手法として、OJT、OFF-JT、自己啓発、タフアサインメントがあります。
OJT
OJT(On the Job Training)とは、日常の業務遂行を通じて、個別の従業員の能力やスキルを向上させることを目的とした教育や指導を行うことです。直属の上司や先輩社員が、部下や後輩社員に実施するのが一般的です。
OJTのやり方や成功のコツなどに関しては、以下の記事を参考にしてください。
OFF-JT
OFF-JT(Off the Job Training)とは、業務を行う現場以外で、特定の従業員に対して、能力やスキルの向上を促すための教育機会を提供することです。社外の教育機関が実施する研修などを受けさせる対応が一般的です。
OFF-JTの内容や取り組みの事例などに関しては、以下の記事を参考にしてください。
自己啓発
自己啓発とは、知識の習得や能力向上を実現するための学習に従業員が自ら取り組むことです。自己啓発は教育としての効果が高く、自己啓発に取り組むための時間や費用を企業が補助するケースも多く見られます。
自己啓発のやり方や企業側の支援などに関しては、以下の記事を参考にしてください。
タフアサインメント
タフアサインメントとは、現在の本人の能力よりも高い能力を必要とする業務や課題にチャレンジさせることで、本人の能力を開花させる教育手法です。プロジェクトのリーダーに任命した上でメンバーの育成や他の組織との折衝にチャレンジさせるなどの対応があります。
本人の能力向上に対する意欲が高い場合、急速な成長を期待できるでしょう。
人材開発の進め方
人材開発は、どのような人材に育てる必要があるのかを明らかにした上で、組織に合う方法を選択し、データを活用することで効果が向上します。
事業が必要としている人材を定義する
人材開発を行う目的は、企業の成長を促すための経営方針や経営戦略を実現することです。よって、どのようなタイミングで、どのような能力を有した人材がどの程度存在し、どのような役割を果たしてほしいのかを定義する必要があります。
定義することで、企業に必要な人材開発のゴールを明らかにできるでしょう。
メンバー・カルチャーにマッチした方法を探す
人材開発を行う場合、組織や個人に対して新たな取り組みを課し、実行に向けた働きかけを行わなければなりません。そのときに、組織のカルチャーや個人の価値観と合わないやり方をしてしまうと、人材開発を円滑に進めていくことが難しくなります。
人材開発を円滑に進めていくために、組織のカルチャーや個人の価値観に合った方法を探すことが必要です。
タレントマネジメントシステムの導入・検討
人材開発は、組織を成長させるために所属する全ての人材の能力向上を促す取り組みです。そのために、個々の人材の能力を可視化する必要があります。
個々の人材の能力可視化に関しては、育成履歴や能力向上、配置、業務経験などを一元管理できるタレントマネジメントシステムの活用が効果的です。
人材開発を進める上での注意点
人材開発を行うにあたっては、今後の経営方針とマッチし、かつ従業員の動機付けにつながるものである必要があります。
経営課題を洗い出しておく・方向性を明示化する
人材開発は、企業を成長させるために行うものです。そして、企業を成長させるための指針が経営方針です。
そのため、自社の経営課題を認識し、課題を解決するための方向性を明らかにした上で、方向性の実現に必要な人材開発を行わなければなりません。
現場の意欲・望んでいるかどうかを確認する
どれだけ素晴らしい人材開発の計画を立てられたとしても、対象となる人材が望まない内容の場合、円滑に進められません。そうならないように、計画している人材開発が従業員の動機付けにつながるのかを確認する必要があるでしょう。
人材開発の対象となることで従業員がキャリアを形成する意欲とモチベーションを高め、定着することで、人材開発の真の成果を得ることができます。
人材開発が成功している企業例
人材開発の成功事例として、株式会社ニコン、富士通Japan株式会社の取り組みを解説します。
株式会社ニコン:社員の主体的な取り組みを促す人材開発
光学機器メーカーの株式会社ニコンは、社員一人ひとりが自己実現のために主体的に能力開発に取り組むことを推進する教育制度を設けています。
新入社員を対象とした「自ら行い体験できる」タイプの研修を数多く実施し、技術者を対象とした自社技術を深く学べる研修も行っています。
職場への配属後も、1年間は実務に必要な知識や技術を身に着けるためのOJTや、入社3年目までの期間、ビジネスパーソンとしての視野を広げるための研修を実施しています。
富士通Japan株式会社:本人の意欲と自主性を重視した人材開発
IT関連のソリューションサービスを提供する富士通Japan株式会社は、本人の意欲を尊重し自主性を重視した教育制度を設けています。個人の目標達成やスキルアップに役立てることを目的とした階層別の研修と目的別・部門別の研修のメニューも豊富です。
さらに、部門や世代を超えて、社員同士が教育や仕事を通して学んだ知識に関して情報交流を行うことのできる場も設けています。
人材開発で使用できる支援制度・助成金
国が実施する企業の人材開発を支援する制度として「人材開発支援助成金」があります。従業員に対して職務に関連する知識や技能を習得させる訓練を行った事業主に対して、訓練期間中の賃金や訓練にかかる実費を補助する制度です。
助成金には目的や内容ごとに6つの支援コースがありますが、本項では2コースの概要を確認してみましょう。
人材育成支援コース
職務遂行能力の向上を目的とした、従業員に専門的な知識や技能を習得させるための訓練に対する支援コースです。10時間以上のOFF-JTを実施した場合などが支援の対象となります。
支援内容は、1人1時間あたり760円の賃金補助、実費相当額の45%(正社員の場合)の補助などです。
人への投資促進コース
従業員に対する高度なデジタルスキルやIT能力習得のための訓練、定額制サービス(サブスクリプション)による訓練の実施に対する支援コースです。大学院での訓練などが支援の対象となります。
支援内容は、例えば高度デジタル人材訓練の場合は1人1時間あたり960円の賃金補助、実費相当額の75%の補助です。
人材開発は企業が成長していくための重要な戦略である
経営者が素晴らしい経営戦略を立てても、従業員が必要とされるパフォーマンスを発揮できなければ企業は成長できません。従業員が、企業が求める方向に成長し続けてこそ、経営戦略が真価を発揮するのです。
そのような意味でも、組織的、計画的に育成させる人材開発は、企業が成長していくために重要な戦略の一つだと言えるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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