- 更新日 : 2025年7月24日
労働施策総合推進法とは?概要と2022年施行のポイントを解説!
労働施策総合推進法は別名「パワハラ防止法」と呼ばれ、働く人にとって身近な法律です。2022年4月1日からは中小企業もこの法律の対象となるため、内容を把握しておきましょう。ここでは改正の背景や目的、企業が取るべき対応、気になる罰則について解説します。
※ 中小企業の定義は中小企業庁のHPをご参照ください
目次
労働施策総合推進法(パワハラ防止法)とは?
労働施策総合推進法は、1966年に制定された「雇用対策法」を改正し、労働者が生きがいをもって働ける社会の実現を目的として成立しました。正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」です。2019年5月の改正により、大企業に2020年6月から職場におけるパワーハラスメントの防止が義務づけされ、パワーハラスメント対策の強化が図られたことにより「パワハラ防止法」とも呼ばれるようになりました。
パワハラ防止法にいう「パワハラ」とは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素をすべて満たすものをいいます。ただし、客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントに該当しません。
労働施策総合推進法(パワハラ防止法)改正の背景と目的
2016年度に厚生労働省が実施した「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年以内にパワーハラスメントを受けたことがあると回答した人は32.5%に上りました。このような背景の下、職場のパワーハラスメントの予防・解決を目的として、労働施策総合推進法が改正されました。
参考:厚生労働省|平成28年度職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書 厚生労働省
2022年施行のポイント
改正された労働施策総合推進法(パワハラ防止法)では「第30条の2(雇用管理上の措置等)」「第30条の3(国、事業主及び労働者の責務)」の条文が新設されました。これまで規定のなかった職場におけるパワーハラスメントを初めて定義した点や、企業にパワーハラスメント防止のため、社内のルールや相談体制の整備など、雇用管理上必要な措置を講じることを義務づけた点が改正ポイントです。すでに大企業では法令が適用されていますが、中小企業にとって2022年は、努力義務とされていた期間が終わり、義務化が適用される節目の年となります。
2022年4月から中小企業も法令の対象となる
2020年6月から大企業で適用されているパワーハラスメントの防止義務が、2022年4月から中小企業にも適用されます。そのため、労働施策総合推進法の改正の理解と、パワーハラスメント対策の基本的な枠組みを早急に構築することが求められています。
この法令の対象となるのはすべての労働者とされており、正社員に限らず、パートや契約社員などの非正規労働者や、派遣労働者も含まれるため注意しましょう。
労働施策総合推進法(パワハラ防止法)について企業が取るべき対応
労働施策総合推進法は、職場のパワーハラスメントに対して、企業にどのような対応を義務づけたのでしょうか。ここでは具体的な対策方法を挙げながら説明します。
パワーハラスメントが生じないための環境整備
厚生労働省が定めた「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(パワハラ指針)」の項目を確認し、就業規則に関係規定を設けることや、労使協定を締結するなど、まずは社内ルールを明確化し、周知・啓発することが重要です。この周知は電子メールやポスター等で伝えるだけでなく、会社が本気でパワハラ防止に取り組んでいることを理解してもらえるようにしましょう。また、相談窓口をあらかじめ定め、迅速に適切な対応ができるよう、解決に向けたガイドラインも作成しましょう。これらの活動の継続には、効果把握の調査や、取り組みの修正を含め、年間スケジュールを立てて計画的に進めることが大切です。
パワーハラスメントを相談した者に対する不利益の排除
パワーハラスメントの相談者や、事実確認するための第三者、行為者などの個人情報が職場に広まり、不利益な扱いを受けることや、企業の不都合を隠すために相談者を解雇することは、法律上禁止されています。パワーハラスメントの相談者は、行為者からの報復を恐れながら過ごしていることを心に留め、秘密が守られ、安心して相談できる窓口をつくりましょう。できるだけ初期の段階で気軽に相談できるような環境を提供する方法のひとつとして、外部相談窓口の活用も有効です。また、相談内容や状況に応じて適切に対応できるよう、フォロー体制を整えましょう。
社内研修ほかパワーハラスメントに関する従業員への周知
パワーハラスメントの防止には、会社の方針やルール、相談窓口や取り組みを積極的に周知して、会社が真剣に取り組んでいることを従業員に実感してもらうことが大切です。社内研修などの教育は、周知を確実なものにするために効果的な方法といえます。
また、パワハラ防止法では、客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントに該当しないとされていますが、「適正な指示」であったとしても、時として感情がこもってしまったりすることは人間である以上、避けられない側面があります。パワハラの図式は、必ずしも上司から部下に対する態様のものばかりとは限りませんが、一般的には上司との関係において問題となることが多いと想像されます。せっかくの熱のこもった指導が、従業員にとってはパワハラであるとも受け止められかねません。
従って、従業員へパワハラに関する研修を実施することは、多少の感情がこもってしまったとしても、上司からの「適正な指示」であるか否かを彼らに適切に判断してもらうための一助にもなるかもしれません。
もっとも、パワハラとなり得る態様を押さえておくことは、これからマネジメントを担う立場として必須のスキルだといえるでしょう。
事業主自らのパワーハラスメント防止への理解と徹底
職場のパワーハラスメントは、業務上の教育指導や注意との見分けがつきにくいという難点があるため、まず事業主自らが「パワーハラスメントとは何か」を理解することが必要です。職場のパワーハラスメントは、受ける人だけの問題ではありません。パワーハラスメントの放置は、貴重な人材の損失や、裁判沙汰による会社名の公表、被害者によるSNSを使った拡散など、使用者としての責任を問われ、イメージダウンにつながりかねません。パワーハラスメントを見過ごさないためにも、対策を徹底しましょう。
労働施策総合推進法(パワハラ防止法)を遵守できなかった場合の罰則
労働施策総合推進法には、違反した場合の罰則がありません。しかし、厚生労働大臣が必要と判断する場合は、企業に対して助言や指導、勧告するとされています。従わない場合は内容が公表され、企業の社会的信用が失われることにもつながりかねません。
2022年の施行に合わせてパワハラへの理解と防止策を徹底しよう
労働施策総合推進法は、パワーハラスメントの防止に関する規定が盛り込まれた身近な法律であることを、ご理解いただけたのではないでしょうか。2022年4月から中小企業も法令の対象となることに合わせ、まずは企業の方針を明確にすることや、相談など適切に対応するための体制を整え、教育や周知することをおすすめします。職
場のパワーハラスメントは、誰もが被害者にも行為者にもなる可能性があります。この法律の施行をきっかけに、パワーハラスメントのない職場を目指してみてはいかがでしょうか。
よくある質問
労働施策総合推進法とは何ですか?
これまで法的規定のなかったパワーハラスメントについて定義し、防止措置を事業主に義務づけた法律で「パワハラ防止法」とも呼ばれています。 詳しくはこちらをご覧ください。
労働施策総合推進法について2022年4月施行のポイントは何ですか?
2022年4月1日から、労働施策総合推進法の適用が大企業から中小企業まで拡大されます。そのため中小企業にも、パワーハラスメント対策の基本的な枠組みを早急に構築することが求められています。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
夜勤明けの勤務は違法?36協定のルールをわかりやすく解説
「夜勤明けの勤務は違法ではないのか?」と夜勤後の働き方に疑問を感じるケースは少なくありません。適切な休息時間が確保されていなければ、過労や健康被害につながる可能性があります。また、労働基準法や36協定のルールを正しく理解していないと、違法な…
詳しくみる有給休暇の買取ができるパターンと計算方法を解説
有給休暇の買取は原則違法です。しかし、例外的に認められるケースもあり、適切に運用すれば法的リスクを回避できます。 本記事では、有給休暇の買取が認められる具体的な条件や計算方法について解説し、買取時に発生しやすいトラブルや注意点も紹介します。…
詳しくみるタイムカードの00分退勤は問題ない?残業の扱いや出勤時の場合を解説
タイムカードを定時ぴったりの「00分」に打刻して退勤すると、上司から注意されたり、早退と見なされるのではと不安に感じる人もいるかもしれません。実際の勤務実態と打刻時刻が一致していれば、法律上は問題になりませんが、会社のルールや機器の設定によ…
詳しくみる勤怠管理を効率化するならシステムの導入が鍵!選び方やメリットを解説
勤怠管理は従業員の労働状況を把握するための大切な業務ですが、手作業では時間がかかりミスも発生しがちです。 また、計算を間違うようなことは許されないため、正確性を維持しながらも業務の効率化を図ることが重要です。 この記事では、勤怠管理をより効…
詳しくみる違法な時間外労働は全国1万1,000ヶ所以上!企業が行うべき対策を紹介
時間外労働は労働基準法で厳しく制限されており、36協定を締結していても、月45時間・年360時間の上限を超えると違法になる場合があります。 また、「1ヶ月に100時間の残業は違法?」「1日12時間労働は認められるのか?」など、企業の労務管理…
詳しくみるシフトや勤務変更の進め方とは?拒否できるケースやトラブルを防ぐコツを解説
勤務時間や業務内容、勤務地が変更される「勤務変更」は、企業が柔軟に運営を進めるうえで欠かせない対応です。一方で、こうした変更は従業員の生活や働き方に直結するため、不安や疑問を抱かれやすい面もあります。内容によっては、労働基準法違反や労働契約…
詳しくみる