• 更新日 : 2025年9月26日

不当労働行為の事例をわかりやすく!パワハラとの違いや罰則も解説

「労働組合に入ったら給料を下げられた」「組合の活動を理由に、会社が話し合いに応じてくれない」。このような使用者の行為は、「不当労働行為」にあたるかもしれません。不当労働行為とは、労働者が団結して会社と対等な立場で交渉する権利を、使用者が妨害する行為全般を指します。

この記事では、どのような行為が不当労働行為にあたるのか、実際の事例をまじえてわかりやすく解説します。パワハラとの違いや罰則、相談先も紹介します。

そもそも不当労働行為とは?

不当労働行為とは、使用者が労働者の団結権や団体交渉権といった憲法で保障された権利を侵害する行為を指します。労働組合法第7条で禁止されており、主に「不利益取扱い」「団体交渉拒否」「支配介入」の3つの類型に分けられますが、法律の条文に沿って詳しく見ると、以下の5つの行為が具体的に定められています。

出典:労働組合法|e-Gov法令検索

1. 不利益取扱い

労働者が労働組合の組合員であること、組合に加入しようとしたこと、または正当な組合活動をしたことを理由として、使用者がその労働者を解雇したり、降格や減給といった不利益な取り扱いをすることです。たとえば、組合の役員であるというだけで昇進させない、といった差別的な扱いもこれに含まれます。

2. 黄犬契約(おうけんけいやく)

労働組合に加入しないことや、組合から脱退することを雇用の条件とすることです。これも不利益取扱いの一種とされます。労働者の団結権を最初から奪ってしまうため、特に悪質な行為とみなされています。

3. 団体交渉拒否

使用者が、労働者が加入する労働組合の代表者と団体交渉をすることを、正当な理由なく拒むことです。交渉のテーブルには着いても、終始不誠実な態度をとることも含まれます。会社側の権限のある人が交渉に出てこなかったり、理由なく回答を引き延ばしたりする行為などが該当します。

4. 支配介入

使用者が、労働組合の結成や運営に対して支配したり、介入したりすることです。組合の運営費用を使用者が援助する「経費援助」も、組合の自主性を損なうため原則として支配介入にあたります。ほかにも、組合活動に関する悪口を言ったり、組合からの脱退をそそのかしたりする言動も支配介入とみなされることがあります。

5. 報復的不利益取扱い

労働者が労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てたり、その調査や審問で証言したりしたことを理由に、使用者がその労働者を不利益に取り扱うことです。労働者が萎縮することなく、正当な権利として救済制度を利用できるようにするための規定です。

【不利益取扱い】不当労働行為の事例

不利益取扱いとは、労働者が組合活動を行ったことなどを理由に、解雇や配置転換、賃金差別といった不利益な処遇をすることです。労働者の団結権を実質的に奪う行為といえるでしょう。

組合活動などを理由とした不利益な取扱いには、以下のようなケースがあります。

  • 労働組合員であることを理由に解雇や雇止め、本採用拒否、退職強要を行う
  • 労働組合に加入したり、結成しようとしたりしたことを理由に降格する
  • 組合活動が困難な場所への配置転換や出向を行う
  • 組合員であることを理由に基本給や手当、賞与などを減額する
  • 組合員だけ懇親会に参加させない
  • 組合員だけ人事評価を厳しく採点する

ただし、会社が社員の能力不足や勤怠不良など、労働組合の活動とは全く無関係の正当な理由で解雇や降格などの処分を行ったのであれば、不当労働行為にはあたりません。

もっとも、能力不足を理由とした処分であっても、会社の日頃の言動から組合を敵視していることが明らかな場合は、組合活動を理由とした不当労働行為であると判断される可能性もあります。

組合員への解雇が不当労働行為とされた事例

労働組合の結成後、会社が組合員に対して複数の不当な取扱いを行ったとされる事件です。具体的には、中心的な組合員を不当な理由で解雇したほか、組合員である主任2名を降格させ、他の組合員4名には恒常的だった土曜出勤を命じないことで経済的な不利益を与えました。

また、会社の会長が従業員に対し組合への関与を躊躇させるような言動を行う「支配介入」も認められました。労働委員会はこれらを組合員であるが故の不利益取扱い等であると認定し、会社に賃金相当額の支払いや処分の撤回などを命じています。

出典:大阪府労働委員会「令和2年(不)第37号 A事件」

【団体交渉拒否】正当な理由なき不当労働行為の事例

団体交渉拒否とは、使用者が労働組合からの交渉申し入れに対し、正当な理由なく応じないことです。形式的に交渉の席についても、実質的な話し合いを拒否するような不誠実な態度もこれに含まれます。具体的には、以下のようなケースが該当します。

  • 組合からの交渉申し入れを完全に無視する
  • 交渉の日時や場所について、合理的な調整に一切応じない
  • 交渉の場に、決定権限のない担当者しか出席させない
  • 組合の要求に対し、理由を説明せずにゼロ回答を繰り返す
  • 議論に必要な経営資料の開示を、正当な理由なく拒否する

使用者は、労働組合から申し入れられた団体交渉に誠実に応じる義務(誠実交渉義務)があります。組合側の要求にすべて応じる必要はありませんが、なぜ応じられないのかを具体的に説明し、妥結点を探る姿勢が求められます。この姿勢を欠く場合、「不誠実団交」として不当労働行為にあたります。

団体交渉の申入れに応じなかった事例

組合に加入したマンション管理員との契約を会社が解除し、団体交渉を拒否したものです。会社は、管理員は業務委託契約であり労働組合法上の「労働者」ではないと主張しました。

しかし大阪府労働委員会は、事業への組み入れや指揮監督の実態などを総合的に考慮し、この管理員は法に定める「労働者」に該当すると判断。契約解除そのものは不当労働行為とまでは言えないとしつつも、労働者であることを前提とした団体交渉を正当な理由なく拒否したことは不当労働行為にあたるとして、会社に団体交渉へ応じるよう命じました。

出典:大阪府労働委員会「令和3年(不)第33号 O事件」

団体交渉に誠実に応じなかった医療法人

組合の中心人物である職員が、同僚のパワハラ相談に応じたことを理由に、法人が「業務時間中の不適切な組合活動」として戒告処分と反省文の提出を指示した事件です。職員が反省文の提出を拒否すると、法人はさらに業務命令違反だとして減給処分に処しました。

労働委員会は、法人が挙げた処分の理由は薄弱で、手続きも不十分であったと判断。一連の処分は組合の影響力を削ぐことを狙った不利益取扱いと支配介入であると認定しました。また、関連する団体交渉の一部でも不誠実な対応があったとし、法人に処分の撤回などを命じています。

出典:大阪府労働委員会「令和2年(不)第13号ほか Y事件」

【支配介入】組合運営に対する不当労働行為の事例

支配介入とは、使用者が労働組合の結成や運営に介入し、その自主性を損なわせる行為全般を指します。使用者による言動が、組合の弱体化を意図しているとみられるかどうかが判断のポイントです。具体的には、以下のようなケースが該当します。

  • 労働組合の結成や加入を妨害するような言動
  • 組合員に対して、組合からの脱退をそそのかす
  • 特定の組合や組合活動について、従業員の前で中傷・批判する
  • 組合の役員選挙に会社が介入する
  • 組合の運営費用を会社が援助する(経費援助)

使用者が組合に対して意見を表明すること自体は、直ちに支配介入とはなりません。しかし、その言動が従業員の自由な意思決定を妨げ、組合の団結や運営に悪影響を及ぼすような場合は、支配介入と判断される可能性があります。

会社代表者による組合活動への発言

この事件では、会社の会長が組合幹部に近い従業員を個別に呼び出し、面談した際の言動が問題となりました。会長は、組合への加入や活動が自身の意に背く行為であるとの認識を持たせ、組合に反対しなければ不利益な扱いを示唆する圧力をかけました。

労働委員会は、こうした言動が他の従業員を萎縮させ、組合への関与を躊躇させることで組織の弱体化を狙ったものだと判断。会社の組合運営に対する不当な「支配介入」にあたるとして、不当労働行為と認定しました。

出典:大阪府労働委員会「A事件」

パワハラと不当労働行為の違いとは

職場のパワーハラスメント(パワハラ)と不当労働行為は、法律上の定義が異なります。パワハラは個人の尊厳を傷つける許されない行為ですが、その行為自体が直ちに不当労働行為となるわけではありません。

両者の違いは、行為の背景にある「意図」です。 不当労働行為と判断されるのは、パワハラが「組合活動を妨害する意図」や「組合員であることを理由とした嫌がらせ」として行われた場合です。たとえば、組合役員に対してのみ、上司が集中的に厳しい叱責を繰り返したり、達成困難な業務を命じたりするケースは、組合活動を妨害するための支配介入と判断されることがあります。

パワハラか不当労働行為かによって、相談先や解決のための手続きが変わってくるため、両者の関係性を理解しておくことが大切でしょう。

不当労働行為の罰則と救済方法

不当労働行為そのものに対して、拘禁刑や罰金といった直接的な刑事罰はありません。しかし、労働者の権利を救済するための仕組みが用意されています。

労働者は、不当労働行為があった場合に都道府県の「労働委員会」に救済を申し立てられます。労働委員会が審査を行い、不当労働行為があったと認めると、使用者に対して「救済命令」を出します。命令には、解雇の撤回や元の職場への復帰、団体交渉への誠実な対応などが含まれます。

この確定した救済命令に違反した場合、使用者には「1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金」または「50万円以下の過料」といった罰則が科されることがあります。

近年の不当労働行為の事例にみられる傾向

近年、働き方の多様化や社会の変化にともない、不当労働行為のあり方も変化してきています。とくに、非正規雇用の労働者や、新しい働き方に関連した事例が注目されます。

たとえば、パートタイマーや契約社員といった非正規雇用の労働者が組合を結成し、正社員との待遇差の是正を求めて団体交渉を申し入れたところ、会社側が「彼らは主要な戦力ではない」として交渉を拒否する事例がありました。これも、雇用形態を理由とした不当な団体交渉拒否にあたる可能性があります。

また、リモートワークが普及するなかで、オンライン会議の場で組合員だけを意図的に発言させない、あるいは業務連絡用のチャットグループから組合員を排除するといった行為も、新たな形の支配介入や不利益取扱いとして問題になるかもしれません。労使間のコミュニケーションが変化するなかで、新しい形の不当労働行為の事例が今後も出てくることが考えられます。

不当労働行為の事例を知り、適切な相談先を確保する

会社から受けた行為が不当労働行為にあたるかもしれないと感じた場合、一人で抱え込まずに外部の専門機関に相談しましょう。主な相談先は、各都道府県に設置されている「労働委員会」です。

労働委員会は、中立・公正な立場で労使間の紛争を解決するための行政機関であり、不当労働行為の救済申し立てを受け付けています。そのほか、労働問題に詳しい弁護士や、地域の労働組合(ユニオン)も心強い相談相手となるでしょう。


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