• 更新日 : 2025年9月22日

等級制度の設計方法は?種類ごとの特徴や失敗しないためのポイントを徹底解説

企業の持続的な成長には、従業員一人ひとりの能力を最大限に引き出し、正当に評価する仕組みが欠かせません。その中心的な役割を担うのが「等級制度」です。しかし、「自社に合った制度が分からない」「設計の進め方が不明確だ」といった悩みを抱える経営者や人事担当者の方は少なくないでしょう。

この記事では、等級制度の基本的な考え方から、現代の企業環境に適した制度の種類、そして具体的な設計手順までを分かりやすく解説します。

そもそも等級制度とは

等級制度は、従業員の能力、職務、役割などに応じて序列や階層を定め、人材マネジメントの土台を築く人事制度の根幹です。単なる序列付けではなく、企業のビジョンや経営戦略と連動させることで、組織としての方向性を明確にし、従業員の行動指針を示す役割を果たします。

等級制度の役割

等級制度の具体的な役割は、以下の通りです。

  • 評価基準の明確化
    どのような能力や成果が求められるかを等級ごとに定義し、評価の公平性と透明性を担保します。
  • 人材育成の指針
    従業員は上位等級に求められる要件を理解し、キャリアアップに向けた具体的な目標設定ができます。
  • 報酬決定の根拠
    各等級に連動した報酬テーブルを設定することで、従業員の納得感を高め、意欲向上を促します。

等級制度の見直しが求められる理由

現代のビジネス環境では、ジョブ型雇用の広がりや人的資本経営への注目、多様な働き方の浸透など、企業と従業員の関係性が大きく変わりました。従来型の年功序列的な等級制度では、こうした変化に対応しきれません。従業員の専門性や貢献度を適正に評価し、事業戦略の実現を後押しする、より戦略的な等級制度への見直しが急務となっています。

等級制度の種類と特徴

等級制度にはいくつかの代表的な種類があり、それぞれに異なる特徴があります。自社の企業文化や事業内容、目指す組織像に合わせて、最適な制度を選択することが重要です。ここでは主要な3つの制度と最新の考え方を紹介します。

職能資格制度(メンバーシップ型)

職能資格制度は、従業員が持つ職務遂行能力(潜在的な能力)に着目して等級を決定する制度です。長期間にわたる雇用を前提とし、ゼネラリストの育成に適しています。従業員にとっては、幅広い経験を積むことで等級が上がる安心感がありますが、能力と実際の職務内容が乖離しやすいという側面も持ち合わせています。

職務等級制度(ジョブ型)

職務等級制度は、「人」ではなく「仕事(職務)」の価値や難易度を評価し、等級を決定します。同一労働同一賃金の考え方に近く、例えば高度な専門知識が求められるエンジニアや研究職など、スペシャリストの処遇に適しているとされています。職務記述書(ジョブディスクリプション)の作成が必要であり、職務内容と報酬の対応が明確になるため、処遇の公平性が高いとされます。

役割等級制度(ハイブリッド型)

役割等級制度は、従業員が担う「役割(ミッション)」の大きさに応じて等級を決定します。職能と職務の考え方を合わせたハイブリッド型とも言え、従業員に与えられた役割と成果を評価基準とします。変化の激しい現代において、役職や職務内容に縛られず、柔軟な人材配置や抜擢を可能にする制度として導入が進んでいます。

等級制度の設計に失敗しないためのステップ

効果的な等級制度は、体系的な手順を踏んで設計することで実現します。ここでは、自社の実態に即した制度を構築するための具体的な5つのステップを解説します。

1. 現状分析と目的の明確化

最初に、既存の人事制度が抱える課題を洗い出します。従業員へのアンケートやヒアリングを通じて、「評価基準が曖昧」「成長実感が得られない」といった声を集め、問題点を客観的に把握します。その上で、新しい等級制度を通じて「何を解決し、どのような組織を目指すのか」という目的を明確に設定します。

2. 等級の種類と数の決定

次に、自社に合った等級制度の種類(職能・職務・役割など)を選択します。事業特性や目指す組織像を考えて決定しましょう。

続いて、等級の数を設定します。等級数が多すぎると昇格の実感が薄れ、少なすぎると同じ等級内に明らかに能力の違う従業員が存在することになってしまいます。従業員のキャリアステップがイメージしやすい、適切な階層数を検討することが大切です。一般的には、一般社員層で3〜5段階、管理職層で2〜3段階程度が目安とされます。

3. 等級ごとの定義・要件の作成

各等級に求められる能力、職務、役割を具体的に言語化します。どのような状態になればその等級にふさわしいかを、行動レベルで明確に定義することが求められます。例えば、「リーダーシップ」という項目でも、等級ごとに次のように期待されるレベルを段階的に記述します。

  • 下位等級:チーム目標を理解し、自身の役割を遂行する
  • 中位等級:後輩の指導を行い、チームの目標達成に貢献する
  • 上位等級:部門全体の課題を解決し、事業の成長を牽引する

4. 評価制度・報酬制度との連携

設計した等級制度は、評価制度や報酬制度と連動させなければ機能しません。等級の昇降格を決定するための評価基準や評価方法を具体的に定めます。また、各等級に対応する報酬レンジ(給与の範囲)を設定し、従業員の貢献が報われる仕組みを構築します。この連携が、従業員のモチベーションを維持し、制度全体の納得感を高めます。

5. 従業員への周知と移行措置

新しい等級制度が完成したら、従業員への丁寧な説明が欠かせません。説明会やQ&Aセッション、配布資料などを通じて、制度改定の背景や目的、そして自分たちの処遇がどう変わるのかを分かりやすく丁寧に伝えることが重要です。また、新制度への移行に伴い、不利益が生じる従業員が出ないよう、経過措置を設けるなどの配慮も必要です。全社的な理解と協力を得ることが、円滑な制度運用の第一歩です。

等級制度の設計で注意すべきポイント

綿密なステップを踏んで設計しても、いくつかの注意点を見過ごすと制度が形骸化してしまう恐れがあります。ここでは、等級制度を成功に導くために特に意識すべき3つのポイントを挙げます。

経営戦略との連動性を確保する

等級制度は、それ自体が目的ではありません。企業の経営戦略や事業目標を実現するための手段です。例えば、新規事業の創出を目指すのであれば、挑戦的な行動や新しいスキル習得を評価する要件を盛り込む必要があります。常に経営の方向性と足並みを揃え、事業の成長を後押しする役割を果たすことが望まれます。

従業員の納得感を醸成する

従業員が制度を信頼し、前向きにキャリアを考えるためには、その仕組みが透明であることが大切です。等級の定義や評価基準が公開されており、誰もがその内容を理解できる状態を目指しましょう。なぜその評価になったのか、どうすれば次の等級へ上がれるのかが明確であれば、従業員は自律的に成長しようと努力します。

運用後の定期的な見直しと改善を行う

企業を取り巻く環境や事業フェーズは常に変化します。一度設計した等級制度が、未来永劫にわたって最適であり続けることはありません。制度導入後も、定期的に従業員からのフィードバックを得たり、運用状況を分析したりすることが大切です。状況の変化に合わせて柔軟に制度を改善していく姿勢が、その実効性を維持します。

等級制度の設計で、持続的な成長を実現しましょう

本記事では、企業の成長を支える等級制度について、その役割から具体的な設計ステップ、成功のための注意点までを解説しました。変化の激しい現代においては、職能・職務・役割といった各種制度の特徴を理解し、自社の経営戦略と従業員の成長意欲に合致した、透明性の高い仕組みを構築することが今まで以上に重要になっています。

優れた等級制度は、従業員に公正な評価と明確なキャリアパスを示し、組織全体の活力を生み出します。この記事で紹介した5つのステップを参考に、ぜひ自社の現状分析から始めてみてください。


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