- 更新日 : 2026年1月20日
基本給に固定残業代を含めることはできる?上限や給与計算、求人票ルールを解説
基本給に固定残業代を含める運用は、労働条件通知書、雇用契約書や就業規則で固定残業代の金額と時間数が基本給と明確に区分されている場合に限り可能です。この仕組みは給与計算の効率化や従業員の収入の安定につながる一方、労働条件通知書、雇用契約書や就業規則への正しい規定と、その規定に基づく計算を怠ると違法となるリスクがあります。
「毎月の残業代計算が複雑で困っている」「求人票にどう書けばトラブルを防げるかがわからない」といった企業の担当者様向けに、2026年の最新の実務をふまえた固定残業代制度の正しい導入手順と計算方法、求人にあたっての表記のルールを解説します。
目次
基本給に固定残業代を含めることはできる?
基本給と固定残業代を合算して支給すること自体は可能ですが、労働条件通知書、雇用契約書や就業規則での「明確な区分」が必要です。
基本給と固定残業代を明確に分ける必要がある
基本給に固定残業代を含める運用は、あらかじめ一定時間の残業を想定して、その分の割増賃金を基本給に上乗せする制度です。しかし、例えば「月給30万円(残業代含む)」とだけ雇用契約書等に記載しているのでは、基本給と残業代それぞれの金額が明確にわからないため、認められません。
上記の例のように、基本給の金額と固定残業代の金額が明確に区分できなければ、そのすべての金額を基本給とみなされ、別途残業代の支払いが必要になる判例もあります。
最高裁の判例(テックジャパン事件)でも、基本給と残業代にあたる部分の区分が不明確な場合は支払われた全額が「基本給」とみなされ、別途残業代の支払いが必要になるリスクがあります。
- 金額の明示:基本給の額と、固定残業代の額が明確に分かれていること。
- 時間の明示:固定残業代が「何時間分の残業」に相当するかが明記されていること、規定されている時間数を超えた残業が発生した場合には、割増賃金を別途支払うことが明記されていること。
合意の形成:労働条件通知書、雇用契約書や就業規則に基づき条件が明示され、従業員がその内容に同意していること。
そもそも基本給とは?
基本給とは、各種手当(通勤手当、家族手当、残業代など)を含まない、賃金のベースとなる金額のことです。 基本給は労働者の能力や勤続年数、年齢などに応じて支払われるもので、ボーナス(賞与)や退職金、残業代の単価の算定基礎になります。
固定残業代を含められる手当と含められない手当
手当の中に固定残業代を含められるかは、手当の性質によって異なります。まず、「営業手当」や「役職手当」という名称であっても、就業規則等で「〇〇時間分の固定残業代として支給する」と定義されていれば、固定残業代としての性質を持ちます。
ただし、その手当に役職の責任給など固定残業代以外の要素が含まれている場合は、残業代相当分とそれ以外とを分けて就業規則等に記載しなければなりません。
一方で、原則として以下の手当は残業代の計算基礎に含めないため、固定残業代を含めて支給することはできません。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
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基本給に固定残業代を含める場合の注意点
基本給に固定残業代を含める制度を導入する際は、労働基準法に基づいた厳格な運用ルールを守る必要があります。特に残業時間の上限や超過分の扱いには注意が必要です。
残業の上限規制と36協定を遵守する
「固定残業代を支給しているから、残業時間の上限がない」というわけではありません。固定残業時間は、36協定(時間外・休日労働に関する協定届)で定めた範囲内で設定する必要があります。
月45時間、年360時間という法律上の上限を超えるような固定残業時間を設定することは、長時間労働を助長するものとして無効と判断されるリスクが高いでしょう。
設定した残業時間を超えたら追加で割増賃金を支払う義務がある
実際の残業時間が、就業規則等であらかじめ規定した固定残業時間を超えた場合、企業はその超過分について割増賃金を追加で支払う義務があります。「固定残業代であるから、追加の残業代を支給しない」という運用は違法です。
したがって、固定残業代制を導入したとしても、日々の勤怠管理を行い、実際の残業時間を正確に把握しなければなりません。
雇用契約書、就業規則などには具体的に記載する
雇用契約書、就業規則や賃金規程などには、採用する制度の定義、対象者、固定残業代の金額と時間の関係、規定した時間数の超過分の取り扱いなどを具体的に記載します。
特に「固定残業代〇円は、時間外労働〇時間分として支給する」という計算根拠と、「〇時間を超えた場合は別途割増賃金を支給する」という規定は必須です。
基本給に固定残業代を含める場合のシミュレーション
基本給と固定残業代の構成パターンを紹介します。固定残業時間を月20時間、月平均所定労働時間を160時間のパターンを紹介します。(東京都の最低賃金:時給1,226円)
※残業単価は1,250円×1.25=1,562.5円で計算し、端数処理等は円単位で切り上げています。
時給1,250円の場合
- 総支給額:231,250円
- 内訳
基本給:200,000円(時給1,250円×160時間)
固定残業代:31,250円(単価1,562.5円×20時間)
時給1,500円の場合
- 総支給額:277,500円
- 内訳
基本給:240,000円(時給1,500円×160時間)
固定残業代:37,500円(単価1,875円×20時間)
時給2,000円の場合
- 総支給額:370,000円
- 内訳
基本給:320,000円(時給2,000円×160時間)
固定残業代:50,000円(単価2,500円×20時間)
基本給に固定残業代を含めた場合の給与計算
固定残業代の計算は、「1時間あたりの基礎賃金 × 1.25(割増率) × 固定残業時間数」で求められます。ただし、時間数の設定には法的な上限を考慮する必要があります。
固定残業代の正しい計算式
固定残業代を正しく算出するためには、まず「1時間あたりの単価」を計算し、割増賃金率と固定残業代の設定時間数を掛ける必要があります。
計算ステップは以下の3段階です。
- 月給から除外する手当など(家族手当、通勤手当、住宅手当など)を差し引く
- その金額を「月平均所定労働時間」で割り、1時間あたりの単価を計算する
- 1時間あたり単価に1.25(法定割増率)と設定する時間数(例:20時間)を掛ける
計算式(月給制の場合)
計算例
基本給が200,000円、年間休日などから算出される月平均所定労働時間が160時間、設定したい固定残業時間が20時間の場合で計算してみましょう。
- 時給単価を出す:200,000円 ÷ 160時間 = 1,250円
- 割増賃金にする:1,250円 × 1.25 = 1,562.5円
- 固定残業代を出す:1,562.5円 × 20時間 = 31,250円
このケースでは、固定残業代として31,250円以上を設定する必要があります。
基本給が最低賃金を下回っていないか必ず確認する
固定残業代を除いた「基本給部分」が、最低賃金を下回っていないかを必ず確認してください。
総支給額の時給換算額では最低賃金を上回っていても、固定残業代を差し引いた基本給部分の時給換算額が最低賃金を下回っている場合には違法になります。特に最低賃金が改定される毎年10月頃には再計算が必要です。
※最低賃金の計算対象にならない手当等については、以下のURLに記載の通りです。
基本給に固定残業代を含めた場合の給与明細書の書き方
固定残業代制を導入した場合、給与明細書の記載方法にも注意が必要です。 給与明細書上でも「基本給」と「固定残業代」を明確に区分して記載します。
「残業手当」という項目に、固定分と超過分が合算されて記載されていると、従業員は「本当に追加分が支払われているのか?」との疑念を抱きやすくなります。
透明性を高めるためには、以下のように明細を分けることが望ましいでしょう。
- 固定残業手当:◯◯円(基本給に含まれる固定残業代部分)
- 時間外手当:◯◯円(固定残業代に相当する時間数を超過した場合の差額)
このように区分して記載することで、会社が労働時間を適正に管理し、ルール通りに支払いを行っていることを従業員に示せます。
基本給に固定残業代を含めた場合の求人票などへの記載ルールは?
採用時の募集要項や求人票において固定残業代に関する記載内容が曖昧な場合には、ハローワークや民間の転職エージェントなどで受理されないだけでなく、若者雇用促進法に基づく指針への違反となります。トラブル回避のため、以下の3点を必ず明記してください。
必須の記載項目
厚生労働省の指針により、以下の事項をすべて明示する必要があります。
- 固定残業代を除いた基本給の額
例:基本給200,000円(2の固定残業手当を除く) - 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
例:固定残業手当50,000円(時間外労働の有無にかかわらず、時間外労働〇時間分として支給)
「固定残業代」だけでなく、実際に支給する「手当の名称」も明記が必要です。 - 固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨
例:〇時間を超える時間外労働についての割増賃金は追加で支給
誤解を招く表記は避ける
「月給25万円(固定残業代含む)」というだけの表記は不適切であり、認められません。 求職者からの苦情で最も多いのは「固定残業代を含む賃金に関すること」です。
誤解を招かない明確な表記にすることが、採用後の定着率向上にもつながります。
参照:固定残業代 を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。|厚生労働省
基本給と固定残業代は適切に区分する
基本給に固定残業代を含める制度は、正しく運用すれば労務管理の効率化に寄与しますが、曖昧な形で導入した場合には未払い賃金発生や採用トラブルにつながりかねません。
重要なことは「基本給と残業代を明確に分けること」「固定残業代分の時間数を超過したら必ず割増賃金を追加支給すること」「求人票などでわかりやすく明示すること」の3点です。
透明性の高い給与体系を構築することが、結果として優秀な人材に選ばれる企業の条件となるでしょう。
自社の就業規則や求人票などの表記が最新の法令に適合しているか、この機会に見直してみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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