- 更新日 : 2025年7月14日
源泉徴収の対象とならない給与とは?対象になるものや注意点も徹底解説
源泉徴収の対象とならない給与は、法人への報酬や一定額以下の給与などが挙げられます。源泉徴収の対象外であることを知らずに、誤って徴収・未徴収すると、税務リスクや事務負担が発生するおそれがあるため注意が必要です。
本記事では、源泉徴収の対象とならない給与や対象の給与などを徹底解説します。誤った徴収に関するリスクも解説しているため、ぜひ参考にしてみてください。
源泉徴収とは|給与支払い時に税金を差し引いて国に納付する制度
源泉徴収とは、給与や報酬を支払う際に、支払者があらかじめ所得税を差し引いて国に納付する制度です。
本来、所得税は所得者自身が税額を計算して納付する「申告納税制度」により納めます。ただし、給与や報酬などの特定の所得については、支払者が定められた方法で税額を計算し、支払時に天引きして納税します。
上記の仕組みは、税収の確保や納税漏れの防止に役立ち、企業にとって重要な税務実務のひとつです。
以下の記事では、源泉徴収について詳しく解説しているため、ぜひあわせてご覧ください。
関連記事:源泉徴収とは?計算方法やフリーランスの注意点・対象となる所得や報酬をわかりやすく解説!
源泉徴収の対象とならない給与の例
源泉徴収の対象とならない給与は、事前に内容を確認しておくことが重要です。対象外の支払いに誤って源泉徴収を行ってしまうと、受け取る側にとって本来の支給額が減ってしまうなど、思わぬ不利益が生じるおそれがあります。
トラブルを防ぐためにも、源泉徴収の対象外となる項目について確認しておきましょう。以下では、源泉徴収の対象とならない給与の具体例を紹介します。
1. 8万8千円未満の従業員の給与
月の給与が8万8千円未満で、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している従業員は、源泉徴収の対象外です。雇用形態に関係なく、申告書を提出していれば所得税は差し引かれません。
一方、申告書を提出していない場合は、給与額にかかわらず最低3.063%(所得税と復興特別所得税)の源泉徴収が必要です。つまり、給与が少額でも、申告書の有無によって課税関係が変わります。
正しく処理するには、申告書の提出状況と給与額の両方を確認する必要があります。
2. 法人への報酬
報酬の支払い先が法人(株式会社、社団法人、法人化された個人事業主など)の場合、原則として源泉徴収は不要です。
ただし、例外として「法人が馬主であり、競馬の賞金を受け取る場合」は源泉徴収の対象となります。
支払い先が法人か個人かを正しく見極めることが大切です。たとえば、屋号付きの口座であっても名義が個人であれば、個人とみなされ、源泉徴収が必要となるケースがあります。
判断に迷う場合は、法人格(株式会社、合同会社など)が名称に含まれているかどうか、登記簿・法人番号などで確認しましょう。なお、「法人税の納付状況」自体を確認する必要はありませんが、法人として実在しているかの確認は重要です。
3. 報酬に含まれない消費税
報酬と一緒に支払われる消費税については、金額が明確に分かれていれば、源泉徴収の対象から除かれます。
たとえば「報酬10万円、消費税1万円」と記載されていれば、課税対象は10万円のみです。一方で、「税込11万円」といった内税表記では、全額が源泉徴収の対象となります。
インボイス制度が始まった後も、報酬と消費税を分けて記載すれば、消費税部分は除外できます。請求書の書き方ひとつで税額が変わる可能性があるため、記載方法には注意が必要です。
4. 本来企業が国に支払う金額
司法書士や弁護士が登記や申請のために立て替えた登録免許税や手数料は、報酬と明確に区別された実費であれば源泉徴収の対象外です。
旅費や宿泊費などを支払者が第三者に直接支払う場合も、通常の範囲内であり、支払先が役務提供者でなければ源泉徴収は不要です。
いずれも報酬と実費を正確に区分する必要があります。請求書の記載や支払方法によって課税関係が変わるため、注意が必要です。
源泉徴収の対象となる給与の例
どのような支払いが対象になるかを把握しておくことで、企業や個人が不正確な税務処理によるトラブルやリスクを回避しやすくなります。適切な処理は、信頼性のある経理業務の土台ともいえるでしょう。
以下では、具体的な対象項目について紹介します。
1. 従業員に支払う給与・賞与
事業主が従業員に給与を支払う際は、所得税および復興特別所得税を天引きして納付する義務があります。
従業員への給与は年末調整により年間の税額を精算し、過不足のないように処理します。賞与には「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を用いるのが一般的で、前月の給与額や扶養家族の有無によって税率が変わる仕組みです。
夏季・年末手当や期末手当など、定期給与とは別に支給される一時金も賞与とみなされ、源泉徴収の対象です。
2. 原稿料や講演料
原稿料や講演料は、国税庁により「報酬・料金等」として源泉徴収の対象と明確に定められています。
作家や講師に支払う報酬が該当し、所得税および復興特別所得税の源泉徴収が必要です。名目が謝金・取材費・調査費・車代であっても、実態が原稿料や講演料であれば対象です。
税率は通常10.21%ですが、支払額が一人あたり100万円を超える場合は二段階で課税されます。100万円以下の部分は10.21%、超える部分は(超過額×20.42%)に10万2,100円を加算して計算します。
原稿料・講演料に関する情報は、以下の記事で解説しているため、ぜひ参考にしてみてください。
関連記事:原稿料・講演料を受け取ったときの確定申告の書き方や必要経費を解説
3. 特定の資格を持つ人に支払う報酬・料金
弁護士や公認会計士、司法書士、税理士、社労士などの有資格者に支払う報酬や料金は、「報酬・料金等」として源泉徴収の対象と定められています。
名目が謝金や調査費、日当、旅費でも、実態が報酬であれば源泉徴収が必要です。一方、交通機関や宿泊施設の費用を支払者が直接負担し、金額が通常必要な範囲内であれば、報酬には含まれず源泉徴収の対象外となります。
名目だけでなく実態を見極めることが重要です。
4. 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
所得税法第204条により、社会保険診療報酬支払基金が個人の医師や歯科医師に支払う診療報酬は、源泉徴収の対象です。
毎月の報酬から20万円を差し引いた金額に10.21%の税率を掛けて、源泉徴収額を算出します。ただし、国民健康保険団体連合会、健康保険組合、市町村などが直接支払う診療報酬は対象外です。また、支払先が医療法人の場合も源泉徴収は行われません。
診療報酬に消費税が含まれている場合、明確に区分されていれば消費税分を除いた金額に対して源泉徴収を行いますが、区分がない場合は税込金額で計算されるのが一般的です。徴収と納付は、医療機関ではなく支払者である社会保険診療報酬支払基金が行います。
社会保険診療報酬支払基金については、以下の記事で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてみてください。
関連記事:社会保険診療報酬支払基金とは? 保険医療機関との関わり
5. プロ選手やモデルなどへの報酬
国税庁は、職業野球・サッカー・テニス選手や自転車レーサー、モデルなどへの報酬を源泉徴収の対象と定めています。
出演料や出場料、成功報酬、スポンサー料などは名目に関係なく、実態が報酬であれば対象です。税率は報酬額の10.21%で、1回の支払いが100万円を超える場合は、超過分に20.42%が適用されます。
プロ野球選手やホステスへの契約金(一時金)も対象です。報酬の内容を正しく判断し、適切に処理することが求められます。
6. 芸能出演や制作関係の報酬
映画・演劇や音楽、ダンス、漫才、テレビ放送などの芸能出演や制作に関する報酬は、国税庁により「報酬・料金等」として源泉徴収の対象と定められています。
脚本家や演出家、プロデューサー、芸能プロダクション業者など、出演以外の制作関係者への報酬も含まれます。出演料やあっせん手数料、楽曲提供料など、名目が異なっても実態が芸能活動に対する対価であれば対象です。
報酬額が100万円以下の場合は10.21%、超える部分には20.42%が適用されます。
7. 接待業務の報酬
所得税法第204条第1項第6号により、ホテル・旅館・キャバレーなどで接待業務を行うバンケットホステスやコンパニオン、ホステスへの報酬は、すべて源泉徴収の対象です。
衣装代や深夜帰宅時のタクシー代などの実費精算であっても、報酬の一部とみなされる場合があり、源泉徴収対象となることがあります。支払額から控除額を差し引いた残額に対して10.21%の税率が適用され、控除額は「5,000円 × 日数」で計算し、1回の支払いごとに適用されます。
なお、支払いが給与や退職手当として支給される場合は、給与所得や退職所得として別途源泉徴収されることが一般的です。雇用契約の有無や実態により税区分が異なるため、事前に判断が必要です。
8. 契約時の一時金
国税庁では、専属契約などで支払う契約金は給与所得ではなく契約金として扱い、源泉徴収の対象と定めています。
プロ野球選手の支度金や移籍金、入社準備金なども該当します。ただし、就職や移籍に伴う転居費用などが他の契約金と明確に区分され、実費と認められる場合は対象外です。
源泉徴収税率は、支払額が100万円以下の場合は10.21%、超える部分には20.42%が適用されます。契約内容と金額の内訳を正確に把握することが重要です。
9. 宣伝賞金や競馬賞金
所得税法第204条第1項第8号では、広告宣伝を目的とした賞金や、馬主が受け取る競馬の賞金を源泉徴収の対象と定めています。
広告宣伝のための賞金は、1回の支払額が50万円を超える場合のみ、超過部分に対して10.21%の税率で源泉徴収されます。たとえば、懸賞クイズやキャンペーンでの賞金も、PR目的であれば対象です。
国や地方公共団体が行う広報活動に関する賞金や、現金選択不可の旅行招待は対象外となります。
また、馬主が法人の場合でも、金銭で支払われる競馬の賞金は源泉徴収の対象となります。所得の種類にかかわらず、支給目的が広告宣伝であれば源泉徴収の対象となる点に注意しましょう。
源泉徴収する所得税の計算方法
源泉徴収する所得税の計算方法は、事前に確認しておくことが重要です。税額は、誰に・何を・いくら支払うかによって大きく異なります。あらかじめ源泉徴収する所得税の計算方法について確認しておくことで、誤りのない正確な処理が可能です。
以下では、具体的な計算方法について解説します。
従業員の給与は源泉徴収税額表で算出する
従業員の給与に対する源泉徴収税額は、国税庁が毎年公表する「給与所得の源泉徴収税額表(月額表・日額表)」に基づいて算出します。月給や週給には月額表、日給には日額表を使用して計算するのが一般的です。
税額表には、健康保険・厚生年金・雇用保険などの社会保険料(従業員負担分)を差し引いた後の給与額を当てはめます。賞与は、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使って計算します。
正確に適用して計算することで、正しい税額の控除が可能です。
源泉徴収税額表については、以下の記事で詳しく説明しているため、ぜひ参考にしてみてください。
関連記事:源泉徴収税額表の見方を解説!会社員と個人事業主の場合別
給与以外の報酬等は税率を掛けて所得税・復興特別所得税を算出する
給与以外の原稿料や講演料、士業報酬、プロ選手や芸能人、ホステスなどへの報酬は、所得税法で「報酬・料金等」とされ、復興特別所得税とあわせて源泉徴収が必要です。
通常、源泉徴収額は報酬額に10.21%(所得税10%+復興税0.21%)を掛けて算出します。100万円を超える場合は、超過分に対して20.42%を適用し、100万円×10.21%=10万2,100円を加算する方法で計算しましょう。
なお、上記の報酬についても、一定の士業報酬などは「納期の特例」の対象に含まれるケースがあります。支払金額や内容に応じて、計算方法・納付期限が異なるため、事前の確認が大切です。
源泉徴収を怠った場合のリスク
源泉徴収を怠ると、本来徴収すべき税額に加え、加算税や延滞税などのペナルティが課される可能性があります。税務調査で指摘された場合、過去にさかのぼって徴収義務を負うこともあるため、企業にとって大きな負担となります。
リスクを回避するには、制度の内容や対象となる支払い、計算方法を事前に正確に確認しておくことが重要です。以下では、源泉徴収を怠った場合の主なリスクについて解説します。
納付額に応じた不納付加算税が課される
源泉所得税を法定期限までに納付しなかった場合、ペナルティとして不納付加算税が課されます。たとえ1日でも期限を過ぎれば課税対象となり、税務上のリスクがあるため注意が必要です。
納期限後に自主的に納付した場合は、源泉税額の5%が不納付加算税として課されます。税務署から催告を受けた後に納付した場合は、加算税率が10%に引き上げられるため注意しましょう。
ただし、以下の場合は不納付加算税は課されません。
- 不納付加算税の計算額が5,000円未満の場合
- 法定納期限から1ヶ月以内に納付し、かつ過去1年間に期限後納付がない場合
日常の税務処理においては、期限管理を徹底し、不要な加算税を発生させないことが重要です。
納付を延滞した期間に応じた延滞税が課される
源泉徴収した所得税を法定期限までに納付しなかった場合、延滞した日数に応じて延滞税が課されます。
納期限の翌日から2ヶ月以内は「年7.3%」または「延滞税特例基準割合 + 1%」のいずれか低い方、2ヶ月を超えると「年14.6%」または「延滞税特例基準割合 + 7.3%」のいずれか低い方で計算されることが一般的です。
延滞税は次の2段階で計算し、合算した金額が延滞税となります。
- 未納本税 × 延滞税率 × 経過日数(期限翌日〜2ヶ月経過日)÷ 365
- 未納本税 × 延滞税率 × 経過日数(2ヶ月経過翌日〜完納日)÷ 365
ただし、延滞税の計算額が1,000円未満の場合は課されません。
延滞税・加算税については、以下の記事で詳しく解説しているため、あわせてご覧ください。
関連記事:延滞税・加算税って何?附帯税の種類と課せられる条件まとめ
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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