- 更新日 : 2024年4月19日
LLPとは?事例やメリット・デメリット、設立方法を解説
LLPとは、組合員が出資の範囲までしか事業の責任を負わない、有限責任事業組合契約に関する法律に基づいて設立された事業組合のことです。今回は、LLPの活用事例や株式会社との違い、設立方法などを解説します。インボイス登録申請が可能であるかどうかについてもお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。
目次
LLP(有限責任事業組合)とは?
LLPとは、組合員が出資の範囲までしか事業の責任を負わず、組織の内部ルールを柔軟に変更できる組織形態のことです。2005年に経済産業省によって定義付けられた、比較的新しい組合制度です。
LLPは「Limited Liability Partnership」の略称で、日本語では「有限責任事業組合」と呼ばれます。
LLPの特徴
LLPの特徴は、主に以下の3点です。
- 有限責任である
- 内部自治が原則
- 法人税が課されない
LLPの組合員は、出資額分しかリスクを負いません。それにより、組合員は自分のリスクの範囲を限定できるため、事業に参画しやすくなるというメリットがあります。
無限責任の場合、債務を会社の財産だけで返済できない場合は、出資者は個人の財産から返済することを求められます。しかし、有限責任の場合の責任範囲は出資額に限定され、個人の財産から返済する必要はありません。
また、LLPでは内部自治が原則です。出資額に関係なく、組合員の同意があれば利益や権限の配分ルールを自由に決められます。例えば、貢献度や労働負荷によって配分を決めることも可能です。株式会社のように、出資比率に応じて議決権の割合が決まるわけではありません。なお、原則として組合員の同意を得ることが必要とされているものの、組合契約書に同意を必要としない旨を明記しておけば、同意も不要です。
法人格を持たないLLPには法人税は課されず、発生した利益に対する税金は組合員に直接課税される「パススルー課税」が適用されることも、特徴の1つです。法人格を保有している組織の場合、法人税が課税されます。しかしLLPでは、組合員が個人であれば所得税が課税され、各自で確定申告を行います。
LLP法が誕生した背景
国内でLLP法が誕生した背景には、海外でLLPや有限責任会社であるLLCの組織が数多く立ち上げられたことが挙げられます。もともとイギリスで誕生し、その後アメリカなどに広がりました。このような海外の動向を受け、日本でもLLP立ち上げのニーズが高まり、LLP法が制定されました。
株式会社との違い
LLPと株式会社の違いは、主に法人格の有無や課税方式、議決権や利益の分配方法などです。株式会社には法人格がある一方で、LLPは法人格を持たず、組合名で契約や許認可の申請ができません。取引先とは、組合名と組合員名で契約を締結します。
また、株式会社では法人所得に法人税が課税されますが、LLPでは組合員に分配した損益に対して所得税がかかります。
そのほか、株式会社では基本的に持株比率に応じて会社の議決権の割合や配当が変化するのに対し、LLPは内部自治が原則であり、議決権や利益の分配も自由に決められる点が両社の違いです。
LLPのメリット・デメリット
LLPのメリット・デメリットは以下のとおりです。
LLPのメリット
LLPのメリットは、主に以下の4点です。
- 設立費用が安い
- 設立までの日数が短い
- 組合員の任期がない
- 決算公告義務がない
LLPを設立するのに必要な費用は、登録免許税の6万円と最低2円の出資金のみです。株式会社の場合は、「定款の印紙代4万円」「公証人役場での定款認証費用5万円」「法務局の登録免許税が15万円」の合計24万円がかかります。そのため、LLPの設立における費用面の負担は低いことがわかります。
また、設立にかかる期間もLLPは10日程度で済みますが、株式会社は20日程度かかるのが一般的です。LLPのほうが早い時期に新事業を立ち上げられ、機会損失のリスクを押さえられます。
そのほか、組合員の任期がない点もメリットです。株式会社は代表取締役や取締役などを任命する必要があり、その任期は原則2年間と決められています。これにより、株式会社に比べて人事業務の手間がかかりません。
また、LLPでは決算公告の義務がありません。株式会社では、出資者の立場である株主に対して会社の状況報告を行う必要がありますが、LLPは組合委員が出資しており決算公告は義務づけられていないため、手間とコストを削減できます。
LLPのデメリット
メリットの多いLLPですが、デメリットもあります。LLPのデメリットは、以下のとおりです。
- 法人格ではない
- 株式会社に組織変更できない
LLPは法人格ではなく、この点はデメリットになり得ます。LLP名義では取引先との契約が結べず、財産を保有できません。法人格がないことによって、法人税がかからないメリットを生みますが、利益が大きくなると、その分組合員に課される税金も大きくなってしまいます。法人税の税率は一律であるため、利益率によってはLLPよりも法人単体のほうが税負担を抑えられる場合があります。
途中で株式会社への組織変更ができない点も、デメリットの1つです。株式会社に組織変更するには、LLPを一度解散し株式会社として登記しなければなりません。税率を考慮すると、一定以上の利益率が期待できる場合は、法人化するほうが有利なケースも考えられます。
LLPの活用事例
LLPは、さまざま事業に活用されている組織形態です。経済産業省が公表する資料には、以下のような活用事例が掲載されています。
- 朗読講演や話し方講習会を実施する、フリーアナウンサーによるLLP
- アニメーション作品の制作や製作管理、営業活動などを行うLLP
- 栄養指導や講演、コンサルティングなどを行うフリーの管理栄養士によるLLP
LLPの設立方法
LLPの設立は、以下のような流れで行います。
- 設立基本事項を決定する
- 組合契約書を作成する
- 出資金の払い込みを行う
- 必要書類を法務局に提出する
設立基本事項とは、組合の名称や事業の目的、所在地や出資金などです。LLPを登記するためには、6万円の登録免許税とは別に最低2円の出資金が必要です。
申請内容に不備がなければ、申請してから約7~10日で登記が完了します。登記完了後に、LLPの登記簿謄本や印鑑証明書を取得できます。
LLPもインボイス登録申請が可能
LLPの組合員全員がインボイス事業者の場合、インボイスの登録申請が可能です。インボイス制度とは、複数税率を採用した際の計算ミスや不正を防ぐために導入された消費税の申告制度であり、インボイスとは、従来の請求書に税率と税額を正確に伝えるための請求書のことです。
LLP自体は「パススルー課税」が原則であり、消費税課税事業者にはなりません。しかし、組合員全員がインボイス事業者になることでLLPとしてインボイスの発行ができるようになります。
LLPと他の形態との違い
ここからは、LLPとほかの組織形態との違いについて解説します。
LLC(合同会社)との違い
LLPとLLCの違いは、主に法人格の有無や課税方式にあるでしょう。LLCとは、「Limited Liability Company」の略称で、日本語では合同会社と呼ばれます。
LLPは法人格ではないため法人税がかかりませんが、LLCは会社法が適用され法人税を課されます。なお、LLCも出資比率が議決権の割合に影響することがなく、柔軟に組織の設計ができる点はLLPと同じです。
LPS(投資事業有限責任組合)との違い
LLPとLPSは、いずれも有限責任組合であるものの、組織設立の目的と業務執行役員の責任の範囲が異なります。LPSとは、「Limited Partnership(リミテッド・パートナーシップ)」の略で、日本語では投資事業有限責任組合と呼びます。
LPSは投資事業を行うことが目的であるのに対し、LLPでは投資目的の参加は想定されていません。さらに、LPSにおける業務執行役員は無限責任組合員として無限責任を負う一方、LLPでは業務執行役員を含めたすべての組合員は、有限責任の範囲でしか責任を負いません。
個人事業主との比較
LLPと個人事業主では、責任範囲が異なります。個人事業主として行った事業が失敗した場合、その債務を負うのは個人事業主自身です。しかし、LLPの事業が失敗した場合は、LLPの財産からのみ返済を行います。組合員が出資した金額は戻ってきませんが、出資額以上の返済義務を課せられることはありません。
LLPの活用によりビジネスの可能性が広がる
LLPとは、有限責任と自由な内部自治を両立した事業体のことです。LLPは、組合員が負うリスクが出資額分のみであるほか、内部自治が原則であることや、法人税が課されないパススルー課税であることなどが特徴です。
LLPを活用することで、自社のビジネスの可能性が広がります。この機会に、LLPに関する理解を深めておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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