- 更新日 : 2025年9月2日
賃貸を法人契約するメリット・デメリットを解説!流れや注意点も紹介
個人ではなく、会社名義で物件を借りるのが法人契約です。法人契約を適切に活用することで、会社の経営基盤を強化できます。
賃貸を法人契約することは、「家賃などを経費として計上できる」「社会的信用が高まり審査で有利になる」「福利厚生の充実で人材確保につながる」など多くのメリットがあります。
この記事では、法人契約のメリットやデメリット、個人契約との違いや契約の具体的な流れを解説します。
目次
賃貸を法人契約する5つのメリット
法人契約には、経費として計上できるなど個人契約にはない経営上のメリットが数多くあります。まずは、特に重要なメリットから見ていきましょう。
メリット1. 経費として計上でき会社の税負担が軽くなる
法人契約の大きなメリットは、事業に関連する住居コストを経費として計上できる点です。法人税は、会社の売上から経費を差し引いた利益(課税所得)に対して課税されるため、経費を適切に計上することは、納税額を適正化する上で非常に重要です。
法人契約では、主に以下のような費用を経費として扱えます。
- 毎月の家賃・管理費
- 契約時の仲介手数料や保証料
- 契約更新時の更新手数料
毎月の家賃・管理費や仲介手数料は、原則として支払い時に経費(損金)として算入できます。ただし、契約時に支払う礼金や、契約期間が1年を超える保証料、更新料などは、税務上「繰延資産」として資産計上し、契約期間にわたって分割して経費化(償却)するのが一般的です。
メリット2. 従業員の魅力的な福利厚生になる
会社の借り上げ社宅は、従業員にとって魅力的な福利厚生の一つです。個人で借りるより家賃負担が減るため生活にゆとりが生まれ、社員の満足度向上につながることも期待できるでしょう。
特に、採用競争が激しい業界や都心部の成長企業にとって「社宅完備」は、他社と差別化できるアピールポイントといえます。
メリット3. 社会的信用が高まり賃貸審査が有利になる
賃貸審査では、家賃を継続的に支払う能力があるかどうかが最も重視されます。経営が安定している法人は、その継続的な支払い能力が高いことを決算書類から財務状況で示せるため、黒字決算が続く法人では審査が円滑に進むことがあります。
法人は登記によって実在が証明されており、決算書を通じて客観的な財務状況を示せます。個人のように転職などで収入が途絶えるリスクが低いと見なされるため、大家さんや管理会社に安心感を与えられる点が、法人の強みの一つです。
メリット4. 経理を効率化して資金計画を立てやすくする
賃貸契約を法人にまとめることは、日々の経理業務と中長期的な資金管理の両面で大きなメリットがあります。
もし従業員が個別に契約して家賃補助を経費精算している場合、担当者は毎月、多数の申請を確認し、個別に振り込むという煩雑な作業に追われます。法人契約で支払いを一元化すれば、これらの個別対応は不要になり、振込手数料や仕訳の手間も削減されます。経理担当者の業務負担も軽減されるでしょう。
さらに、複数の物件の家賃が住居関連コストとして会社の口座からまとめて支出されるため、月々の固定費が正確に把握できます。このコストの「見える化」は、精度の高い月次・年次の予算策定や、将来のキャッシュフロー予測に直結します。
資金繰りの見通しが立てやすくなることで、設備投資や新規採用といった重要な経営判断を、より確かな根拠のもとで行えるようになります。
メリット5. 入居者変更時の手続きが簡素化できる
従業員の転勤や異動で入居者が変わる場合でも、契約者は法人のままなので、賃貸借契約をゼロから結び直す必要がありません。
個人契約であれば、その都度、敷金・礼金の支払いや保証会社の再審査、契約書の締結といった煩雑な手続きが発生しますが、法人契約では簡単な入居者変更届の提出などで済むケースが多く、それに伴う時間やコストを大幅に削減できます。
ただし、保証会社の再審査や追加契約書への署名が必要となる物件もあります。事前に入居者変更時の手続き内容を管理会社に確認しておくと安心です。
そもそも賃貸の法人契約とは?個人契約との基本的な違い
メリットを理解した上で、改めて法人契約の基本をおさらいしましょう。個人契約との違いを知ることで、より深く制度を理解できます。
賃貸の法人契約とは、その名の通り、物件を借りる契約者の名義が個人ではなく、株式会社や合同会社といった「法人」になる契約形態のことです。入居するのは社長や従業員ですが、法律上の借主はあくまで会社となります。そのため、契約に関する責任はすべて法人が負うことになります。
費用の計上方法と範囲の違い
従業員が個人契約で支払う家賃は、単なる個人の生活費です。しかし、法人契約であれば、その家賃は会社の「地代家賃」という経費になります。この経費にできるという点が、両者の最も大きな違いといえるでしょう。
社宅として利用する場合、従業員から一定の家賃を受け取ることで家賃収入が発生しますが、会社が支払う家賃は経費として計上することが可能です。
社会的信用度と賃貸審査の違い
個人契約の審査では、入居者個人の勤務先や年収、保証人の情報が重視されます。一方、法人契約の審査で最も重視されるのは、会社の経営状況です。会社の設立年月日、資本金、事業内容、決算状況などが総合的に評価され、家賃の支払い能力があるかどうかが判断されます。
賃貸の法人契約で知っておくべき4つのデメリット
多くのメリットがある一方で、法人契約特有のデメリットも存在します。契約を進める前に、リスクもしっかりと把握しておきましょう。
デメリット1. 空室発生時の家賃負担リスクがある
社宅として利用していた従業員が退職してしまった場合、次の入居者が決まるまでの間も家賃は発生し続け、空室期間中の家賃はそのまま会社の負担となります。特に複数の社宅を運用している場合、この空室リスクは会社の資金繰りに影響を与えることがあるため注意が必要です。
デメリット2. 個人契約より手続きが煩雑になる
法人契約では、個人の身分証明書などに加えて、会社の登記簿謄本(履歴事項全部証明書)や会社案内、決算書といった書類の提出を求められます。
また、契約書への捺印も代表者印が必要となるなど、個人契約に比べて手続きや準備に時間がかかることがあります。
デメリット3. 敷金・礼金などが高くなる可能性がある
物件によっては、借主が法人の場合、事業用契約と見なされることがあります。その結果、地域・物件にもよりますが、住居用の個人契約に比べて敷金や礼金が高めに設定されることがあります。
なお、社宅など居住用の家賃は原則として消費税は非課税ですが、事業用と見なされた場合は課税対象となります。
デメリット4. 会社の状況によっては保証を断られるケースがある
メリットとして挙げた「社会的信用」は万能ではありません。設立間もない企業や決算状況が不安定な場合は、むしろ個人契約よりも厳しく審査され、保証会社の利用を断られたり、高額な保証金を求められたりするリスクがあります。
賃貸の法人契約を成功させるための注意点
先に述べたデメリットを踏まえ、契約を成功に導くために特に注意すべき点について解説します。賃貸の法人契約を成功させるためには、事前の準備が鍵となります。
社宅として利用するなら社宅規程の整備が必須
社宅制度を導入する場合、税務上・労務管理上のトラブルを防ぐため「社宅規程」の作成をおすすめします。労働者数10人以上の事業場の場合、従業員に適用するルールは就業規則に定める必要があります。労働者数10人未満の事業場には就業規則の作成義務はありませんが、適正な福利厚生制度として運用するためも、「社宅規程」を事前に整備しておきましょう。
誰が、どんな物件に、いくらの家賃負担で住めるのか、といったルールを明確に定めておかなければ、従業員間の不公平感や税務上のトラブルの原因となります。家賃の上限額、入居期間、本人負担の割合などを細かく定め、全従業員に周知しましょう。
法人契約不可の物件も存在すると理解しておく
すべての賃貸物件が法人契約に対応しているわけではありません。大家さんの方針によっては、手続きの煩雑さなどを理由に法人契約を敬遠されるケースもあります。物件探しの初期段階で、不動産会社に「法人契約を希望している」とはっきりと伝え、対応可能な物件を中心に紹介してもらうことが効率的です。
契約書の禁止事項や特約をよく確認する
賃貸借契約書には「事務所利用の禁止」や「転貸の禁止」といった条項が含まれていることがあります。社宅としての利用が契約上問題ないか、また、従業員が変更になる際の手続きはどのようになるか(変更届の提出で済むかなど)、特約を含めて事前に確認することがトラブル防止につながります。
社宅家賃の税務上のルールを遵守する
税務上、従業員から一定額以上の家賃(賃貸料相当額)を徴収しなければ、会社が負担した差額分が給与として課税されます。この「賃貸料相当額」は、国税庁の通達に基づき、以下のいずれかの方法で計算した金額以上である必要があります。
- (従業員に社宅を貸与する場合や役員に貸与する社宅が小規模な住宅の場合)固定資産税の課税標準額などから計算する方法
- (役員に貸与する社宅が小規模な住宅に該当しないの場合)自社所有か賃借物件かで異なる計算方法
- (役員に貸与する社宅が豪華社宅の場合)実勢価格などから算定する方法
計算方法は複雑で、特に役員社宅の場合は要件がより厳しくなるため、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
出典:No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき|国税庁
出典:No.2600 役員に社宅などを貸したとき|国税庁
賃貸の法人契約でメリットを享受するための具体的な流れ
実際に法人契約を進める際の一般的な流れを解説します。スムーズに進めるために、各ステップのポイントを押さえておきましょう。
ステップ1. 社内ルール(社宅規程など)の決定と物件探し
最初に行うべきは、社宅規程などの社内ルール作りです。家賃の上限やエリア、広さなどの基準を決めます。ルールが決まったら、不動産会社に法人契約を希望する旨と条件を伝え、物件探しを開始します。
ステップ2. 申し込みと入居審査・必要書類の準備
入居したい物件が見つかったら、入居申込書を提出します。同時に、不動産会社や大家さんから指示された、以下のような必要書類を準備します。
- 会社の登記簿謄本(履歴事項全部証明書など):法務局で取得します。通常、発行から3ヶ月以内のものを求められます。
- 会社定款の写し:会社の基本的なルールを定めた書類です。
- 会社概要がわかるもの:会社のウェブサイトのコピーや、会社案内パンフレットなどです。
- 決算書(損益計算書・貸借対照表):直近1~2期分の提出を求められることが多く、会社の支払い能力を示す重要な書類です。
- 法人税の納税証明書:税務署で発行される、税金をきちんと納めていることの証明です。
- 代表者の連帯保証人確約書:代表者が連帯保証人になる場合に必要です。
- 入居者の身分証明書:実際に住む従業員の運転免許証や健康保険証のコピーです。
- (保証会社利用の場合)保証会社の申込書
これらの書類をもとに、入居審査が行われます。
また、この際に連帯保証人や保証会社への加入を求められることが一般的です。連帯保証人は法人の代表者がなるケースが多いですが、保証会社を利用することで、代表者の個人的な負担を軽減できる場合もあります。どちらが必要になるか、事前に確認しておきましょう。
ステップ3. 重要事項説明と契約手続き・入居開始
審査に通過したら、契約手続きに進みます。宅地建物取引士から重要事項説明を受け、契約書の内容を十分に確認した上で、記名・捺印します。
この際、多くの管理会社は火災保険(借家人賠償責任特約付き)の加入を条件としますが、近年は「保険加入証明書の提出のみで可」や「自社包括保険で代替可」とする例も増えています。
不動産会社が推奨する保険に加入するか、会社として包括的な保険に加入している場合はそれが利用できるかなどを確認し、必ず手続きを済ませましょう。敷金・礼金などの初期費用を期日までに支払いが完了すれば、鍵が引き渡され、入居開始となります。
賃貸を法人契約するメリットを理解し、戦略的な経営判断を
賃貸物件の法人契約は、単なるコスト削減策ではありません。税負担の軽減によって生まれたキャッシュフローを新たな投資に回せるだけでなく、従業員の生活を支えることでエンゲージメントを高め、優秀な人材の確保と定着につながる可能性があります。
導入には規程作成や管理といった手間もかかりますが、計画的に進めることで、そのメリットは会社の持続的な成長を支える強固な土台となるでしょう。本記事で解説したメリットと流れを参考に、ぜひ自社の成長戦略として法人契約の活用を検討してみてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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