- 更新日 : 2024年8月8日
繰延資産とは 償却方法や仕訳例、活用事例をわかりやすく解説
費用でありながら資産のような性質を持つものを繰延資産と言います。一時的な出費であるものの支出効果は長期にわたって継続し、数年をかけて費用化することが認められています。
繰延資産を計上すると貸借対照表へ記載され、法人税計算へも影響を与えます。種類や償却方法などを理解し、正しい会計処理ができるようになりましょう。
目次
繰延資産とは
すでに発生・支払いが済んでいる支出のうち、年度をまたいで費用化することが認められるものを繰延資産と言います。
繰延資産の読み方は「くりのべしさん」です。出費は一時的であるものの、長期にわたって継続的して効果を得ることが可能な支出です。資産として計上し、数年をかけて償却することで費用化します。
繰延資産は貸借対照表の貸方の、固定資産、流動資産の下に記載されます。
貸借対照表
資産の部 流動資産 固定資産 繰延資産 | 負債の部 流動負債 固定負債 |
純資産の部 株主資本 | |
合計 | 合計 |
繰延資産と他の資産との違い
前述のとおり、貸借対照表における資産の部には、繰延資産の他に流動資産と固定資産があります。この章では、それぞれの違いを解説します。
流動資産・固定資産とは
流動資産とは、短期間(1年以内)に現金化できる資産です。具体的には、現金・預金や売掛金、受取手形、棚卸資産などが該当します。
一方で固定資産とは、長期にわたって保有もしくは使用する資産や、現金化までに1年を超える期間を要する資産です。具体的には、土地や建物などの有形固定資産、特許権やのれんなどの無形固定資産、投資有価証券などの投資その他の資産が含まれます。
流動資産と固定資産には、1年以内の現金化が可能かどうかという違いがあるものの、「財産価値を有する資産」という点で共通しています。
繰延資産と流動・固定資産の違い
両者は資産の部に計上されるという点で共通しているものの、流動・固定資産と繰延資産ではその実態に大きな違いがあります。
流動・固定資産は「財産価値を有する資産」である一方で、繰延資産は「年度をまたいで費用化する支出」という性質を持っており、財産価値があるわけではありません。
「資産」という項目で一括りにされているものの性質が大きく異なるため、混同しないように注意が必要です。
繰延資産の分類
繰延資産には会計上の繰延資産と、税法上の繰延資産があります。考え方の違い、それぞれの種類を理解しましょう。
会計上の繰延資産
会社の会計処理は企業会計原則をはじめとする多くの会計基準に基づいて行われています。会計基準に準拠し、会社会計として行うことが認められている繰延資産が会計上の繰延資産です。以下の5種類があります。
創立費
会社設立のために支出した費用
事務所の契約費用、設立に関わった使用人に対する給料、定款作成費、創立総会に関する費用など
開業費
開業準備にかかった費用
土地や建物等の賃借料、広告宣伝費など
株式発行費
株式の交付のために支出した費用
株式募集の広告費、金融機関・証券会社の取扱手数料、目論見書や株券などの印刷費、変更登記の登録免許税など
社債発行費
社債発行のために支出した費用
社債募集の広告費、金融機関・証券会社の取扱手数料、目論見書や社債債券などの印刷費、変更登記の登録免許税など
開発費
新技術や新経営組織の採用、資源の開発、市場の開拓等のために支出した費用、生産能率の向上または生産計画の変更などによって設備の大規模な配置換えを行った場合の費用など
税法上の繰延資産
税法上の繰延資産とは、税法で計上が認められている繰延資産のことです。会計上の繰延資産5種類に加え、その他として5種類のものがあります。
- 自己が便益を受ける公共的施設や共同的施設の設置あるいは改良のための費用
- 資産を賃借するか使用するために必要な権利金、立ちのき料その他の費用
- 役務の提供を受けるために必要な権利金その他の費用
- 製品等の広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用
- その他の便益を受けるために必要とされる費用
繰延資産の償却
繰延資産の償却に関する原則は、法人税法第32条1項で規定されています。また、法人税法施行令第64条1項の規定に基づき、会計上か税法上かによって、償却方法(計算方法)が異なってきます。
本章では、法人税法および施行令に基づいて、会計・税務別に繰延資産の償却方法および期間について解説します。
償却方法の種類
前提として、償却方法には「任意償却(一時償却)」と「均等償却」の2種類があります。
任意償却(一時償却)
任意償却とは、償却期間および繰延資産額それぞれの範囲内であれば任意のタイミングで自由に償却費を計上できる方法です。
例えば利益が少ない年度は償却額を減らしたり、反対に多い年度では償却額を増やしたりと、柔軟に計上することができます。
また、繰延資産として計上せず、取得年度に一括で全額を費用計上することも可能です。
均等償却
均等償却とは、一定期間で繰延資産の金額を均等に配分し、毎月(毎年)にわたって同額を費用処理する方法です。均等償却の方法は、法人税法施行令第64条1項の二に規定されています。
具体的には、「その繰延資産の金額をその繰延資産となる費用支出の効果が及ぶ期間の月数で除した金額に、当該事業年度の月数を乗じた金額」を年間の限度償却額としています。計算式は以下のとおりです。
- 償却額 =(繰延資産の金額 ÷ 費用支出の効果が及ぶ期間の月数) × 当該事業年度の月数(12ヶ月)
構造としては、まず繰延資産の全額を償却期間の月数で割ることで、1ヶ月あたりの償却額を算出し、その金額に12ヶ月をかけることで、年間の償却額を算出するというものです。
繰延資産の償却方法・期間
会計と税務に分けて、繰延資産の償却(計算)方法および期間を解説します。
会計上の繰延資産
会計上の繰延資産に関しては、原則として均等償却(定額法)または任意償却のいずれかを選択します。それぞれの償却期間は以下の通りです。
ただし例外的に、社債等発行費のみ利息法を用いて、社債償還期間(新株予約権発行費は定額法で3年間)で償却します。
税法上の繰延資産
税法上の繰延資産に該当する場合は、法人税法施行令第64条1項の規定により、均等償却を適用する必要があります。
期間に関しては資産ごとに細かく定められています。
例えば、国税庁「第2節 繰延資産の償却期間」の8-2-3では「公共的施設の設置または改良のために支出する費用」に関して、償却期間を「その施設・工作物の耐用年数の7/10(または4/10)に相当する年数」と定めています。
通達などで確認しながら、正しく処理する必要があります。
※参照元:
e-Gov「法人税法」
e-Gov「法人税法施行令」
国税庁「第2節 繰延資産の償却期間」
繰延資産の仕訳
創立費1,000,000円についての仕訳と償却額の計算は、以下のようになります。
- 繰延資産として計上せず、一括償却する場合
借方 | 貸方 |
---|---|
創立費 1,000,000 | 現金 1,000,000 |
- 繰延資産に計上し、5年間で均等償却する場合
1会計年度の償却額は以下の要領で算出します。
年間償却額 =(1,000,000 ÷ 60ヶ月)× 12ヶ月 = 200,000円
(繰延資産は月割で償却額を計算します)
借方 | 貸方 |
---|---|
創立費償却 200,000 | 創立費 200,000 |
繰延資産のチェックポイント
繰延資産は貸借対照表上に資産として計上されているだけで、実質的に何かが存在しているわけではありません。すでに発生している支出について、費用化を先延ばしているだけの価値のない資産という捉え方もできます。あまりにも多額の繰延資産計上は正確な会計処理とは言えないので、注意が必要です。
適切な繰延資産計上ができているかどうかは、貸借対照表の他の資産、損益計算書の各費用と比較することでチェックできます。金額の大小を比べ、繰延資産額が大きすぎないかを確認しましょう。償却中の繰延資産について正しく計算されているかも、合わせてチェックしましょう。
繰延資産の活用事例
繰延資産を活用すると、ビジネスにおけるさまざまな恩恵がもたらされます。
本章では、実際にベンチャー企業やスタートアップにおいて、どのように繰延資産が活用されているかを紹介します。
費用を抑える
設立直後のスタートアップの場合、売上が少ない、もしくは安定しないといった理由で赤字経営になりやすい傾向があります。赤字が続くと信用力が低下し、資金調達や新規顧客開拓などの面で不利となり得ます。
そこで、創業直後に発生した費用を創立費や開業費などの繰延資産として計上できれば、費用の金額を抑えることが可能です。また、任意償却が認められている繰延資産であれば、利益が少ない間は償却しない(もしくは少額のみ計上する)ことで、費用を抑えられます。
対外的な会社の損益状況が良くなることで、ビジネスを有利に進めやすくなるでしょう。
償却額を多くして税負担を軽減する
事業が軌道に乗ってくると、売上や利益が多くなってきます。そうなると、合法的な手段で可能な限り税負担を軽減することの重要性が高まります。このような場合においても、繰延資産の活用が効果的です。
具体的には、任意償却できる繰延資産に関して、売上が多くなったタイミングに一括で償却費を計上することで、その年度の経費を大幅に増やすことができます。
粉飾決算や脱税のリスクもあるため注意が必要
繰延資産の活用は、利益(所得)をコントロールする手段として有効です。ただし、正当な方法以外で繰延資産を活用すると、粉飾決算や脱税と見なされる恐れがあります。
例えば、本来経費にすべき項目を繰延資産として計上すると、粉飾決算になり得ます。また、本来繰延資産として計上すべき項目を費用として計上すると、経費が課題となり、脱税になり得ます。
繰延資産に関する税制や会計は複雑なため、活用にあたっては税理士などの専門家に相談することがおすすめです。
繰延資産に関するその他の重要論点
最後に、繰延資産に関するその他の重要な論点について簡単にお伝えします。
繰延資産に関係する勘定科目
繰延資産の仕訳では、一般的に以下の勘定科目が用いられます。
繰延資産の種類 | 貸借対照表 | 損益計算書 |
---|---|---|
会計上の繰延資産 | 創立費、開業費、開発費など ※繰延資産 | 繰延資産償却 ※営業外費用や販管費なども可 |
税法上の繰延資産 | 長期前払費用 | 長期前払費用償却 ※減価償却費でも可 |
20万円未満の繰延資産
前述のとおり、税法上の繰延資産に関しては、原則として均等償却が求められます。ただし、法人税法施行令第134条の規定により、支出金額が20万円未満の少額の繰延資産に関しては、その事業年度において全額を損金として計上することが認められます。
上手く活用できれば、その年度の税負担軽減につながるでしょう。
繰延資産に関する近年の動向
嘉悦大学研究論集に掲載されている「法人税法における繰延資産の一考察」によると、会社法の施行などに伴って社債発行差金や試験研究費が繰延資産から除外されたということです。近年は会計・税務それぞれにおいて繰延資産に計上する項目が少なくなり、「早期の費用化」が求められるようになったといえます。
また、繰延資産に関するルールが複雑であることから、その計上をめぐって審査請求に発展した事例も少なくありません。例えば、国税不服審判所「平成30年10月10日裁決」では、試験研究費が繰延資産に該当するかどうかが争点となりました。
※事例の詳細はリンク先にあるため割愛
企業側としては、税務当局からの処分などに発展しないために、税理士などの専門家から最大限協力してもらった上で、繰延資産の会計や税務を行うことが重要であると考えられます。
※参照元:
長谷川貴則「法人税法における繰延資産の一考察」(P77~)
国税不服審判所「平成30年10月10日裁決」
繰延資産の性質を理解し、正しく処理しよう
貸借対照表の資産の部に記載されるものの、繰延資産に資産としての価値はありません。長期にわたって有用であることから年度をまたいで償却することが認められている、費用計上の先延ばしのような性質を持つ資産です。
繰延資産は計上できる内容、償却期間・方法が定められていて、適正に取り扱うことが必要です。仕訳や償却額の計算などを理解し、正しく会計処理できるようになりましょう。
国税庁|繰延資産
よくある質問
繰延資産とは?
すでに発生・支払いが済んでいる支出のうち、年度をまたいで費用化することが認められるもののことです。詳しくはこちらをご覧ください。
繰延資産の分類は?
会社会計として行うことが認められている会計上の繰延資産と、税法で計上が認められている税法上の繰延資産があります。詳しくはこちらをご覧ください。
繰延資産を計上する際のポイントは?
貸借対照表の他の資産、損益計算書の各費用と比較することで、繰延資産額が大きすぎないかチェックすることです。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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