- 更新日 : 2025年2月19日
固定費と変動費とは?代表的な種類や削減方法を解説
事業活動で発生するコストを区分する方法として、固定費と変動費に分ける方法があります。固定費と変動費の把握には、どのようなメリットがあるのでしょうか。この記事では、固定費と変動費の一覧の他、固定費と変動費を区分する理由、分け方や関連する指標、それぞれの削減方法について解説します。
目次
固定費とは
固定費とは、事業者が販売などの活動をしていなくても発生する費用のことです。販売数量や製造数量に比例しない費用で、家賃や水道光熱費など毎月発生する費用、決まった額が定期的に発生するサブスクリプションなどの費用が該当します。売上の増減が影響しないため、将来発生する費用の目途を立てやすいという特徴があります。
変動費とは
変動費とは、売上に比例して増減する費用のことです。製造業であれば、製品のために要した原材料費などが該当します。仕入れた商品を販売する小売業であれば、売上に対して発生した売上原価(仕入額のうち売上に対する部分)が変動費です。理論上は、売上がなければ変動費も発生しないと考えられます。
固定費と変動費を分ける理由とは
固定費と変動費を分けることには、将来予測やコストカットに役立つというメリットがあります。
まず、将来の利益を予想しやすくなります。固定費は売上の増減の影響を受けませんが、変動費は影響を受けます。売上の増減に連動する変動費を計算して固定費に加算することで、おおまかな利益を予測できます。
コスト削減においても、固定費と変動費を分ける意味があります。一般的に、売上にかかわらず発生する固定費を削減したほうが、コストカット効果は高いとされているためです。変動費と固定費を分けて管理しておくことで、コストカット効果の高い固定費を優先的に見直すことができます。
また、新規事業に取り組む際に、高い固定費がネックとなることがあります。事業を立ち上げる前に固定費を調整することにより、事業をスムーズに軌道に乗せられることも固定費と変動費を分けるメリットです。
固定費と変動費の一覧
固定費や変動費に含まれる費用にはどのようなものがあるのか、代表的な勘定科目を紹介します。
固定費の一覧
下表は代表的な固定費の一覧です。販売額や製造量に比例しない費用を固定費とするため、製造業の場合、給与賃金に分類される費用のうち工場で作業する従業員などに支払う費用は、固定費ではなく変動費に区分されます。
勘定科目 | 内容 |
---|---|
役員報酬 | 取締役や監査役など会社の役員に対して支払われる給与など |
給与賃金 | 業務に従事する従業員に支払われる給与や手当 |
旅費交通費 | 業務中の移動や出張で発生した交通費など |
通信費 | 電話代やインターネット利用料、郵便料金など |
広告宣伝費 | チラシの制作費やWeb広告の掲載料など |
福利厚生費 | 福利施設の事業主負担分や従業員の健康診断料など、従業員の福利厚生のための費用 |
法定福利費 | 従業員の社会保険や労働保険など各種法令に基づく事業主負担分 |
接待交際費 | 取引先に対する接待や贈答、慶弔などに関する費用 |
地代家賃 | 事務所や支店の家賃、駐車場などの土地にかかる費用 |
水道光熱費 | 電気代、ガス代、水道代、暖房器具の灯油代など |
修繕費 | 固定資産のメンテナンスや汚損・損傷の原状回復にかかる費用 |
租税公課 | 印紙税や固定資産税などの租税や町内会費などの公共課金にかかわる費用 |
消耗品費 | 固定資産の基準に満たないトナー代や文房具などの消耗品 |
保険料 | 火災保険や賠償保険など保険契約に基づく費用 |
支払利息 | 借入金に対する利息などの費用 |
減価償却費 | 定額法や定率法などの計算に基づく、固定資産の取得価額のその事業年度の費用配分額 |
変動費の一覧
下表は代表的な変動費の一覧です。業種によって、変動費に含まれる勘定科目は異なります。例えば、小売業や卸売業であれば売上原価、製造業であれば材料費・労務費・外注費などが変動費に区分されます。
勘定科目 | 内容 |
---|---|
売上原価 | その事業年度の売上高に対応する仕入相当額 |
材料費 | 原材料費や素材費、部品費など製品の製造に要した材料費 |
労務費 | 工場で作業する従業員の賃金や法定福利費など製造に要した労務費 |
外注費 | 部品の加工など外部に作業を委託するための費用 |
固定費と変動費の分け方
固定費に区分される費用、変動費に区分される費用について解説しましたが、何を目安に区分するのが一般的なのでしょうか。代表的な区分方法として、勘定科目法と回帰分析法を紹介します。
勘定科目法
勘定科目法は、勘定科目によって固定費と変動費を区分する分類方法です。一覧表でも示したように、地代家賃は固定費、売上原価は変動費のように区分します。勘定科目を基準にするため、簡単に分けられることがメリットです。
しかし、勘定科目によっては両方の要素が含まれているために、単純に固定費と変動費に区分できないものも存在します。例えば、従業員に支払う給与賃金などです。製造業の場合は、給与賃金を製造コストに含まれる労務費(変動費)と、管理部門などの従業員に支払う労務費以外(固定費)に分けなくてはなりません。スムーズに区分できるよう、あらかじめ補助科目を設定しておくなどの対応が求められます。
回帰分析法
回帰分析法は売上高とすべての費用を散布図にして、近似直線を引くことによって固定費と変動費を導き出す方法です。売上に比例して変動している値を変動費、近似直線の開始の値を固定費として捉えます。データをもとにそれぞれを導き出せるため、より正確な値を得られるのがメリットです。散布図や近似直線は、Excelなどを利用すると作成しやすいでしょう。
固定費と変動費に関する指標
固定費と変動費を分けて管理することで把握できる指標について解説します。
損益分岐点売上高
損益分岐点売上高とは、売上から総コストを差し引いた額がゼロになる売上高のことです。売上高が損益分岐点売上高を下回ると赤字になります。
売上が損益分岐点を上回ると利益が生じ、売上高が高くなるほど利益額が増えます。損益分岐点売上高を超過した部分は、売上の増加に連動する変動費のみを考慮することになるためです。
損益分岐点は、下記の計算式で算出できます。
限界利益・限界利益率
限界利益とは、下記の計算式で算出される利益のことです。
限界利益は、固定費に利益額を加えた額と同じです。事業の収益性を判断するのに役立つ指標で、限界利益が赤字になる場合は事業の存続に問題があるとされます。
限界利益率とは、下記の計算式により算出した利益率のことです。
「売上の増加がどの程度利益の増加につながっているのか」を見るのに役立つ指標です。販売または製造する商品ごとに限界利益率を計算することで、収益性の高い商品を把握できます。
売上高変動費率
売上高変動費率は、下記の計算式で算出した割合です。
前述の限界利益は、売上高から変動費を差し引いた額です。限界利益率は変動費以外の売上高に対する割合になるため、限界利益率と売上高変動費率の合計は100%になります。
売上変動費率が高いということは、売上にかかわらず発生する固定費の割合が低いということです。固定費が売上を圧迫していない状況であることから、赤字リスクは高くないと判断できます。
安全余裕率
安全余裕率とは、売上高と損益分岐点売上高との差額を比較した割合のことです。以下の計算式により算出します。
「損益分岐点売上高に対してどれほどの余裕があるか」がわかる指標で、経営の安全性を評価するのに役立ちます。割合は高いほど利益に余裕があることを示すため、設備投資などにも取り組みやすくなるでしょう。マイナスの場合は赤字になっていることを表します。
固定費を削減する方法
売上に対する固定費や変動費の割合が高く、利益が圧迫されている場合は、固定費や変動費見直して削減を検討しましょう。固定費の削減方法をいくつか紹介します。
広告宣伝費の見直し
広告宣伝費は、企業の売上に直接的あるいは間接的に影響を与える費用です。広告宣伝費の占める割合が多いという理由で無理に削減すると、広告宣伝の質が落ちて注目度が下がったり、企業やサービスの認知度が下がったりするおそれがあります。
広告宣伝費を削減する際には、広告の種類別の費用対効果の測定が必要です。アンケートやインタビューを実施して、自社の広告がどれだけ認知されているのか、実際に購買につながったのか調査します。
広告ごとの効果を測定した上で、ターゲットにうまくリーチしていない広告や購買活動につながっていない広告などを見直します。広告の出稿媒体を変更して、効率良く宣伝ができるようにしましょう。
アウトソーシングの活用
固定費のうち人件費の割合が高く、社内のリソースをうまく活用できていない場合は、アウトソーシング(外部委託)を活用する方法もあります。
経理業務や給与計算、SNS運用などのバックオフィス業務をアウトソーシングすることで、社内では売上につながるコア業務に集中して取り組めるようになります。
新たに従業員を雇用する場合は毎月固定の給与などが発生しますが、アウトソーシングであれば利用した分だけ支払えば済むのもメリットです。アウトソーシングにより固定費である人件費を削減できるだけでなく、コストの適正化にも役立ちます。
電子化の促進
紙の書類を電子化することも、固定費の削減につながります。紙の文書を発送したり、保管したりする際には、さまざまなコストがかかるためです。例えば、印刷用紙代やプリンター関連の費用がかかります。
文書の保存には、保管スペースの確保や保管するためのキャビネットなどが必要です。印刷した文書を相手先に郵送する場合には、郵送料や封筒代などもかかります。ペーパーレスによるコストカット効果の高い文書から電子化することで、固定費の削減につながります。
変動費を削減する方法
次に、変動費の削減方法を3つ紹介します。
仕入の見直し
変動費の中で大きなウエイトを占めるのが、売上原価や原材料費などのコストです。これらのコストは、仕入を見直すことで削減できます。
例えば、長期保存できる物品は一括購入により仕入単価を下げてもらう、支払いまでの期間を短縮することで仕入単価を下げられないか交渉するといった方法があります。
自社製造の場合は、品質を大きく落とすことなく、よりコストの低い原材料などに代えられないか検討するとよいでしょう。また、様式を変更する、製法を変える、動力を変える、寸法を変える、再利用を検討するなどでコストを削減する方法もあります。
ロスの削減
ロスを減らすことも変動費の削減につながります。
ロスの種類もさまざまで、小売業などであれば季節商品の販売機会ロス、売れ残りや商品の劣化による廃棄ロスなどがあります。いずれも、在庫管理が徹底されていないことなどで発生するロスです。在庫状況を可視化して過剰在庫を防ぐことで、ロスの減少が期待できます。
製造業の場合は、設備や管理などに問題があるために発生する生産ロス、不良品が多く発生することによるロスなどもあります。製造工程においてロスを削減するには、管理方法の見直しやシステムの活用などが有効です。
値引きの抑制
安易な値引きをしないことも、変動費の削減に役立ちます。値引きが多いと利益を圧迫してしまうためです。値引きをした場合、値引き前と同じ利益を出そうとすると、より多くの商品やサービスを販売しなければなりません。値引きは他社との差別化に役立ちますが乱発せず、適切なタイミングで行いましょう。
固定費と変動費の違いを知って経営改善に役立てる
事業で発生するコストは、勘定科目法などを使って変動費と固定費に分類することをおすすめします。固定費と変動費を分けることで、損益分岐点売上高や限界利益などを求められるようになり、自社の利益とコストの適切なバランスを把握できるようになります。
固定費あるいは変動費が利益を圧迫していることがわかれば、それぞれを削減する方法も検討できるでしょう。固定費と変動費を分けて把握することは、経営改善にも役立ちます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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