- 更新日 : 2025年1月20日
職場で無視されたらパワハラ?該当事例や対処法を解説
職場での無視は、特定の人物を組織内のコミュニケーションから排除するものであり、身体的・精神的な苦痛を与える可能性があります。このため、パワハラの3要素を満たすとみなされるとともに、パワハラ6類型にも該当する場合が出てくるでしょう。
本記事では、職場での無視がパワハラに該当する事例と対処方法を解説します。
目次
職場での無視はパワハラにあたる?
「パワー」ハラスメントとは言っても、暴行や暴言、脅迫といった「力」を背景にしたものに限られるわけではありません。あえて何もしないことによって、相手方が身体的・精神的な苦痛を受け十分なパフォーマンスを発揮できないこともあります。
まずは、パワハラの判断基準を確認したうえで、職場での無視がパワハラに該当しているかどうかを考えましょう。
① パワハラの定義と6つの類型
【定義:3つの要素】
パワハラとは、次の3つの要素を全て満たす言動のことです。
- 優越的な関係を背景としている
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えている
⇒ 業務上の必要性がない言動とか、通常では考えられない言葉づかいや振る舞い - 就業環境が害されている
⇒ 言動によって身体的・精神的苦痛を受け、就業に支障が生じる状態
【6つの類型】
厚生労働省は、以下の6つのパワハラ類型を提示しています。
- 身体的な攻撃
- 精神的な攻撃
- 人間関係からの切り離し:無視は多くの場合これに該当
- 過大な要求:不要なことや不可能なことの強制や仕事の妨害
- 過小な要求:本人の能力や経験に比べ極端に程度の低い仕事の要求
- 個の侵害
② 職場での無視はパワハラか?
職場のコミュニケーションは、仕事を円滑に進める観点でも不可欠です。つまり、特定の人を無視することは、許されるべき行為ではありません。職場で無視された人は、精神的な苦痛や職場での人間関係からの疎外を感じることがあります。その結果、深刻な苦痛を感じ、自分の能力を発揮できないとすれば、それは明らかにパワハラが行われている状況と言えるでしょう。
職場での無視がパワハラになる事例
職場での無視といってもさまざまなケースが考えられます。上司からの無視、同僚からの無視、部下からの無視という3つの場面におけるケースを、パワハラ6類型を使って考えてみましょう。
上司から無視される場合
- 人間関係からの切り離しに相当するケース
- 自分だけ業務メールを送ってもらえない
- 業務遂行に必要な資料を共有してもらえない
いずれも明らかに通常の職場の人間関係から疎外されています。
- 過小な要求に相当するケース
- 会議への参加指示がない
- 仕事を進めるための指示がない
これらのケースでは、結果的には本来の能力や経験を発揮して仕事をする機会が失われ、程度の低い仕事を探すか、あるいは仕事そのものがなくなってしまいます。
同僚から無視される場合
同僚からの無視の場合、多くのケースが6類型のうち人間関係からの切り離しに分類されます。例えば、次のようなケースです。
- 挨拶をしても、返事をしてもらえない
- 目線を合わせてもらえない
- 同期の集まりに呼ばれない
しかし、無言の圧力とでもいうような態度によって精神的な攻撃が行われるケースもあります。
- すれ違うときに咳払いや舌打ちをされる
- 簡単な質問をしてもそっぽを向かれる
部下から無視される場合
パワハラの定義には「優越的な関係」という要素があります。一見すると、部下からのパワハラはありえないと思われがちです。しかし、①部下が集団となっており上司が抵抗も拒絶もできない場合、②ある業務に必要な知識や能力を持った部下が限定されている場合には、部下が上司に対して優越的であるということができます。
このような状況で、部下が上司を無視して仕事をしないとなれば、パワハラが発生していることになります。つまり、優越的な関係と職位の上下は必ずしも関係するわけではありません。
職場での無視がパワハラと認定された裁判例
職場での無視が訴因の判例ではありませんが、被害者への不法行為がパワハラ6類型の「人間関係からの切り離し」に該当する「無視」として検討できるケースです。
① 松蔭学園事件(東京高判判決 1993(平成5)年11月12日)
【事案】
学校法人Yが設置する高校の教諭Xが、何らの仕事も与えられないまま4年半にわたって別室に隔離され、さらに7年近くにわたって自宅研修をさせられた。
【結果】
慰謝料600万円(初審は慰謝料400万円)。
【判旨】
Xの精神的苦痛は甚大であると認められる。Yの行為は業務命令権の濫用として違法・無効である。
② 関西電力事件(最高裁判決 1995(平成)7年9月5日)
【事案】
勤務先Yは従業員に対し、職場の内外でのXらの継続的な監視をし、Xらとの接触などの回避を働きかけた。また、ロッカーなどを無断で開けて私物の写真撮影をした。
【結果】
Yの上告を棄却:一審・二審(Yは不法行為に対する慰謝料等を支払え)を認容
【判旨】
Yの行為はXらの人格的利益を侵害するものである。
テキストコミュニケーションで無視されたらパワハラ?
職場での無視がパワハラに該当する可能性が高いのは、職場において常時行われているコミュニケーションの輪から特定の個人が疎外されているためです。そして、コミュニケーションの手法は会話だけではありません。資料の受渡しなども含めてメールを使ったり、チャットツールを使ったりするのは、どこの職場でも見られます。このようなコミュニケーションの場面でも、意図的に返信がない、グループから排除されるなどの行為があれば、パワハラに該当する可能性が高いでしょう。
職場で無視された場合の対処方法
パワハラを受けたときに注意したいのは、無視されてしまう原因が自分にあるのかもしれないからです。まずは、周囲の状況やこれまでの経緯などを、できる限り冷静に見つめ直すことが大切です。
原因を確認して自分の態度を振り返る
なぜ無視されているのか原因を確認してみましょう。自分だけでなく周囲の人も同様に無視されているのであれば、問題は無視する人物の側にあると考えられます。自分だけの場合は、何かしらの原因が自分にもある場合もありえます。相談相手を慎重に選択し、話を聞いてもらう過程でさまざまな気づきを得て、今後の対策を講じることにしましょう。
証拠を記録しておく
無視されていると感じるようになったら、その事実を可能な限りの手段を使って記録しておくことが重要です。
相談や質問をしても返答がない様子の録音、返信のないメール、無視されたときの状況などを証拠として残します。また、無視されたことで生じた仕事上の不都合などのメモを残すことや、無視されたときに居合わせた社員の証言なども役に立ちます。本来であれば返答が得られるはずなのに相手が応じなかった状況を残すことを考えましょう。
人事や各窓口に相談する
無視されていることの記録を整理し、自分の仕事に生じている問題点や、精神的なダメージなどと併せてパワハラ相談窓口など会社が設けている窓口に相談しましょう。この場合、不用意に当事者同士で話し合うことは避けるのが妥当です。公正な第三者の力を借りましょう。
自分を追い詰めないことも大切
万が一、自分にも落ち度があった場合でも、自責の念に駆られたり、気に病んだりするのは良くありません。コミュニケーションが何よりも重要な仕事の場において、無視という幼稚で許されない態度に出た相手方にこそパワハラの責があるのです。
職場の無視といった不作為はパワハラに該当する
「無視」という態度は、あからさまなパワーの行使がないので問題として取り上げるのが難しい場合が多いと言われています。しかし、この行為が被害者に及ぼす精神的ダメージは甚大なものとなるでしょう。
無視はパワハラの要件を満たす可能性があるため、実態を証拠として整理し、第三者の公正な処分に委ねましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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