• 更新日 : 2025年11月26日

転勤の社宅手配どうする?担当者が知るべき業務フローと注意点

転勤に伴う社宅の手配は、人事異動を円滑に進める上で欠かせない重要な業務です。しかし、物件探しから契約、入居準備まで多岐にわたるため、特に中小企業の担当者にとっては大きな負担となりがちです。適切な社宅手配は、従業員の不安を和らげ、新しい環境での活躍を後押しするだけでなく、無用な労務トラブルを避けることにも繋がります。本記事では、転勤における社宅手配の基本的な流れから、業務を効率化する方法、従業員の不利益とならないための法的な注意点まで、担当者が知っておくべきポイントをわかりやすく解説します。

転勤における社宅手配の業務フロー

転勤が決まった従業員のために、会社が社宅を手配する際の業務は、段取りがすべてです。担当者の方は、従業員がスムーズに新生活をスタートできるよう、一連の流れを把握しておくことが大切です。ここでは、一般的な業務フローを6つのステップに分けて具体的に見ていきましょう。

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STEP1:内示と社宅規定の確認

すべての始まりは、従業員への転勤の内示です。できるだけ早い段階で伝え、引っ越しの準備期間を確保することが、従業員の心理的負担を軽減する第一歩となります。同時に、担当者は自社の「社宅規定」を再確認しましょう。家賃の上限額、会社と従業員の費用負担の割合、許容される物件の広さや間取り、契約可能な物件の範囲(例:会社から半径2km以内など)といったルールを正確に把握しておくことで、その後の手配がスムーズに進みます。

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STEP2:希望条件のヒアリング

次に、転勤する従業員から物件の希望条件をヒアリングします。家族構成、子供の学区、通勤時間、駐車場の有無、周辺環境(スーパーや病院など)といった項目をまとめたヒアリングシートを用意すると効率的です。社宅規定の範囲内で、できる限り従業員の希望に寄り添う姿勢を見せることが、エンゲージメントの維持に繋がります。ただし、すべての希望を叶えることは難しいため、優先順位を一緒に確認しておくと良いでしょう。

STEP3:物件探しと内見

ヒアリングした条件と社宅規定に基づき、物件探しを開始します。地域の不動産会社に依頼するのが一般的ですが、最近ではオンラインで物件を探せるポータルサイトも充実しています。複数の候補が見つかったら、従業員に共有し、内見の手配を進めます。遠隔地で物理的な内見が難しい場合は、オンライン内見を活用するのも一つの手です。写真だけではわからない現地の雰囲気や日当たりなどを確認してもらいましょう。

STEP4:申込と入居審査

従業員が入居したい物件を決めたら、不動産会社を通じて入居申込を行います。法人契約の場合、会社の登記簿謄本決算書、会社概要などの提出を求められることが一般的です。これらの書類は事前に準備しておくとスムーズです。その後、家主や管理会社による入居審査が行われます。審査には数日から1週間程度かかることがあるため、スケジュールには余裕を持たせておきましょう。

STEP5:法人契約と初期費用の支払い

入居審査に通ったら、賃貸借契約を結びます。法人契約では、契約書の内容を法務担当者や顧問弁護士に確認してもらうと安心です。特に、退去時の原状回復に関する特約や更新料の有無などは、後々のトラブルを防ぐために重要なチェックポイントです。契約と同時に、敷金、礼金、仲介手数料、前家賃、火災保険料といった初期費用を支払います。経理担当者と連携し、期日までに支払いを完了させましょう。

STEP6:入居準備と鍵の受け渡し

契約が完了したら、入居に向けた最終準備です。電気、ガス、水道といったライフラインの開通手続きを、入居日に合わせて行います。これらの手続きは従業員本人に行ってもらうのか、会社が代行するのかを事前に決めておきましょう。引っ越し業者の手配もサポートが必要な場合があります。最後に、不動産会社から鍵を受け取り、従業員に渡せば一連の手配は完了です。

社宅手配の方法

社宅の手配業務を、すべて自社で行う「内製」と、専門業者に委託する「アウトソーシング」。どちらの方法が自社に適しているのでしょうか。それぞれのメリット・デメリットを理解し、会社の規模や転勤の頻度に合わせて最適な方法を選択することが、業務効率化の鍵となります。

内製のメリット・デメリット

内製の一番のメリットは、コストを直接的に管理しやすい点です。外部への委託費用がかからず、不動産会社との交渉次第では仲介手数料を抑えられる可能性もあります。また、従業員一人ひとりの事情に合わせて柔軟に対応しやすいのも強みです。一方、デメリットは担当者の業務負担が非常に大きいこと。専門知識がない場合、物件探しや契約に時間がかかり、他のコア業務を圧迫してしまいます。業務が属人化しやすく、担当者の異動や退職でノウハウが失われるリスクも考慮すべき点です。

アウトソーシングのメリット・デメリット

アウトソーシング(社宅代行サービス)を利用する最大のメリットは、担当者の負担を劇的に軽減できることです。物件探しから契約、支払い、更新・解約手続きまで一括で委託できるため、担当者は本来の業務に集中できます。専門家による適切な物件提案や契約内容のチェックは、トラブル防止にも繋がります。デメリットとしては、当然ながら委託コストが発生することです。また、代行会社を介すことで、従業員との直接的なコミュニケーションが減り、細かなニュアンスが伝わりにくくなる可能性もゼロではありません。

中小企業における判断ポイント

中小企業の場合、どちらを選ぶべきか悩むところでしょう。判断のポイントは「転勤の頻度」と「担当者のリソース」です。年に数件程度の転勤であれば、コストを抑えられる内製で対応可能かもしれません。しかし、複数の転勤が頻繁に発生する場合や、担当者が他の業務と兼任していて余裕がない場合は、アウトソーシングを検討する価値は十分にあります。まずは一部の業務(物件探しだけなど)から委託してみるのも良い方法です。

ありがちな社宅手配のトラブルと回避策

丁寧に進めているつもりでも、社宅手配には思わぬトラブルがつきものです。ここでは、よくあるトラブル事例とその回避策を解説します。事前にリスクを把握し、対策を講じておくことで、企業と従業員の双方にとって不幸な事態を防ぎましょう。

物件探しに関するトラブル

「規定内の家賃では、従業員の希望する条件の物件が全く見つからない」「良い物件が見つかったが、法人契約がNGだった」といったケースは頻繁に起こります。これを防ぐには、赴任先の家賃相場を事前にリサーチし、社宅規定が現実的かを見直すことが重要です。また、法人契約に強い不動産会社と普段から関係を築いておくと、スムーズに物件を紹介してもらえます。従業員には、すべての希望を叶えるのは難しいことを伝え、条件に優先順位をつけてもらう協力も必要です。

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費用負担に関するトラブル

「退去時の原状回復費用は誰が負担するのか」「町内会費やケーブルテレビ代は会社負担?」など、費用の線引きが曖昧だとトラブルの原因になります。特に、従業員の故意・過失による損耗の修繕費用は、従業員負担となるのが一般的ですが、その範囲を明確にしておかないと揉めることになります。回避策は、社宅規定に費用負担の範囲を可能な限り具体的に明記しておくことです。入居時に書面で説明し、双方の合意を得ておくとより確実です。

従業員の不満と退職リスク

「手続きが遅く、引っ越し準備が間に合わなかった」「提示された物件の質が悪く、会社に大切にされていないと感じた」といった不満は、従業員のモチベーション低下、ひいては退職に繋がる深刻な問題です。担当者は、従業員が新しい環境で不安を抱えていることを理解し、進捗状況をこまめに報告するなど、丁寧なコミュニケーションを心がけましょう。社宅は単なる「住居」ではなく、従業員の生活基盤そのものであるという認識が大切です。

就業規則によるトラブル防止

これまで挙げたようなトラブルを包括的に防ぐために有効なのが、就業規則の一部として詳細な「社宅管理規定」を整備することです。入居資格、家賃や共益費の負担割合、禁止事項(ペット飼育、又貸しなど)、更新・解約手続き、退去時の原状回復義務などを明文化します。この規定を従業員に周知徹底することで、「言った・言わない」の争いを避け、公平で透明性のある運用が可能になります。

転勤命令と社宅手配の注意点

社宅手配は、そもそも有効な「転勤命令」があって初めて発生する業務です。担当者としては、人事異動に関する法的な知識も最低限、押さえておく必要があります。ここでは、企業の権利と義務、そして従業員への配慮という観点から注意点を解説します。

転勤命令の有効性

就業規則に「業務上の都合により、従業員に転勤を命じることがある」といった包括的な同意規定があり、採用時に勤務地限定の合意がなければ、企業は従業員に対して転勤を命じる権利(配転命令権)を持ちます。そのため、従業員は原則として、正当な理由なく転勤命令を拒否することはできません。これが、多くの企業で人事異動が成立する法的根拠となっています。

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権利濫用と見なされるケース

ただし、企業の転勤命令権は無制限ではありません。以下の2つのケースでは「権利の濫用」として、転勤命令が無効になる可能性があります。

  1. 業務上の必要性がない場合:明らかに嫌がらせや退職に追い込む目的など、不当な動機・目的による転勤命令は無効です。
  2. 労働者に著しい不利益を与える場合:転勤によって労働者が負う不利益(家族の介護が困難になる、自身の持病の治療が続けられなくなる等)が、通常甘受すべき程度を著しく超える場合も、無効と判断されることがあります。

企業に求められる業務上の必要性

転勤命令を正当なものとするためには、その「業務上の必要性」が重要になります。例えば、「欠員補充」「新規事業所の立ち上げ」「本人のキャリアアップや人材育成」といった理由は、一般的に業務上の必要性が認められやすいです。企業は、なぜその従業員をそのタイミングで異動させる必要があるのか、その動機と目的を本人に誠実に説明する責任があります。

社宅手配で示すべき合理的配慮

転勤が従業員に大きな負担を強いることは事実です。企業には、その不利益を軽減するための「配慮」が求められます。適切な社宅を手配することは、まさにこの合理的配慮の重要な要素の一つです。家族構成に合った広さの物件を確保する、子供の転校が不要なエリアを探す、単身赴任手当や帰省旅費を支給するなど、制度面でのサポートを通じて、従業員が転勤を前向きに受け入れられる環境を整えることが企業の義務と言えるでしょう。

関連資料|社宅制度導入時チェックリスト

転勤と社宅手配のポイント

社会情勢や働き方の価値観が大きく変化する中で、転勤や社宅制度のあり方も見直しの時期に来ています。ここでは、2025年9月現在の最新の動向を踏まえ、これからの社宅手配で押さえておきたいポイントを解説します。

働き方の多様化と転勤目的の変化

リモートワークの普及により、必ずしもオフィスに出社する必要がなくなったことで、「転勤」の目的も変わりつつあります。従来の恒久的な拠点異動だけでなく、特定のプロジェクトのための短期異動や、数ヶ月単位での拠点体験といった柔軟な形が増えています。これに伴い、社宅もマンスリーマンションや家具付き物件の需要が高まるなど、より柔軟で多様な選択肢が求められるようになっています。

借り上げ社宅に関連する法改正

経理・労務担当者として、法改正の動向も把握しておく必要があります。

  • インボイス制度:会社が支払う社宅の家賃は、居住用であれば消費税非課税のため、インボイスは不要です。しかし、事務所兼住宅の場合や、駐車場代が別途契約の場合は課税対象となるため、貸主が適格請求書発行事業者かどうかの確認が必要になるケースがあります。
  • 電子帳簿保存法:不動産会社と電子契約で賃貸借契約を結んだ場合、その契約書データは電子データのまま保存しなければなりません。紙に出力して保存することは認められないため、社内のデータ管理体制を整えておく必要があります。

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多様なニーズに応える住宅補助制度

画一的な借り上げ社宅制度だけでなく、より従業員の選択肢を広げる制度も注目されています。例えば、会社が家賃補助を支給し、物件探しや契約は従業員自身が行う「住宅手当制度」や、複数の福利厚生メニューから従業員が好きなものを選べる「カフェテリアプラン」の中に住宅補助を組み込む方法などです。これにより、持ち家の従業員や多様なライフスタイルを持つ従業員にも公平な支援を提供できます。

関連資料|住宅手当 vs 社宅 メリット比較表

円滑な転勤には適切な社宅手配が不可欠

転勤時の社宅手配は、単なる福利厚生ではなく、企業の重要な人事戦略の一つです。そのプロセスは複雑で、担当者の負担は大きいですが、流れを理解し、内製とアウトソーシングのメリットを比較検討することで、自社に合った最適な方法を見つけることができます。特に、転勤命令の正当性や従業員の不利益にならない配慮は、権利の濫用と見なされないためにも不可欠です。就業規則を整備し、トラブルを未然に防ぐ体制を整えましょう。この記事で解説したポイントを参考に、従業員が安心して新しい環境で力を発揮できるような転勤の社宅手配を実現してください。


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