- 更新日 : 2024年8月8日
修繕費とは?勘定科目や経費にならない資本的支出の判定方法
事業のために使っている資産の修繕費は毎期の費用で計上します。しかし、修繕の内容によっては、税金を計算するうえで、一時の費用にならないものがあります。一般に修繕費は高額であることから、税金を計算するうえで、一時の費用になるかならないかによって、税金の額に影響します。
ここでは、修繕費が税金計算上の費用と認められるためのポイントについてご紹介します。
目次
修繕費とは?
修繕費とは、会社が経営に必要とする有形固定資産などを修理・改修するために支払った費用のことです。
修繕費には、通常の経営に必要な機能維持や原状回復も含まれます。
会社の経営に必要とされる固定資産の修繕のために支払う金額を指しますが、その費用には部品交換や維持費なども含まれます。自然災害などによって営業に必要な固定資産が毀損した場合、その状況を回復するために必要となった金額も修繕費として管理されます。
また、有形固定資産が物的な損傷を受け、継続して利用できなくなった場合の復旧費用も含めることができます。
ちなみに、修繕費は資本的支出と収益的支出に分けて管理することができます。ただし、修繕に費用をかけることで耐用年数が延びたり、性能が上がることになったりすると資本的支出として分類されます。
なお、修繕費には、外壁の塗り替えやガラスの入れ替え、給水や排水設備の修繕などの費用を含めることができます。経営に必要な機器の保守点検やメンテナンス費用も修繕費の一部です。
修繕費と消耗品費の違いは?
消耗品費とは、新しく消耗品を購入した場合に使う勘定科目です。具体的には、数万円程度のイスや机、パソコンなど、耐用年数が1年未満、取得価額が10万円未満の備品などが消耗品になります。
修繕費と消耗品費の違いは、以前に購入したものを修理したか、新しく購入したかという点です。消耗品の机であっても、以前購入した机を修理した場合は「修繕費」、新しく机を購入した場合は「消耗品費」で処理します。
- 修繕費 …以前に購入したものを修理した場合に使う勘定科目
- 消耗品費 …新しく消耗品を購入した場合に使う勘定科目
会計ソフトによっても表記が異なることがあります。たとえば「マネーフォワード クラウド会計」では「備品・消耗品費」、「マネーフォワード クラウド確定申告」では「消耗品費」の名称で初期設定されています。
勘定科目名やその設定を確認してから、正しく会計処理を行うように注意しましょう。
修繕費の仕訳・勘定科目は?
修繕費の勘定科目には「修繕費」を用います。修繕費は、法人の場合は「販売費及び一般管理費」区分、個人事業主の場合は「(必要)経費」区分の勘定科目になります。
では、具体例を見ていきましょう。
例)工場で使っている機械が故障したので修理業者に修理してもらい、修理代50,000円を現金で支払った。
例)外壁の塗り替え工事を行い、塗装業者に150,000円を普通預金から振込で支払った。
個人事業主の修繕費は確定申告で経費に計上できる?
事業を営むうえで必要な修繕費は、経費に計上できます。
個人事業主の場合は、確定申告で修繕費を経費にします。修繕費は、確定申告で「収支内訳書(白色申告の場合)」または「青色申告決算書」の「修繕費」欄に金額を記載することで必要経費に計上できます。
個人事業主の所得税(法人の場合は法人税)は、収益から費用を引いた残りの部分に対して課税されるものです。つまり、収益が同じであれば、費用が多ければ多いほど税金が少なくなります。
ただし、税金を計算するうえでの収益や費用は、実際の収入や支出とは必ずしも一致しません。修繕費を支払ったという事実は同じであっても、修繕費を税金計算上の費用として計上できるか否かによって、税金の額は大きく左右されます。
修繕費が資産として扱われる場合も
事業用資産の維持管理や修理のために支出される修繕費は、税金計算上の費用として計上することができます。しかし、一定の要件に当てはまる場合は、資産と同じように取り扱うこととされています。
資本的支出とは
修繕費のうち、資産の使用期間を延長させたり、資産の価値を増加させたりするための支出を「資本的支出」といいます。
税金計算上、資本的支出はその年度の費用とするのではなく、減価償却によって複数年にわたって費用に計上します。資産を追加購入した場合と同じように処理すると考えることができます。
修繕費はマイナスからゼロにするためにかかった費用、資本的支出はゼロまたはマイナスからプラスにするためにかかった費用と考えると、わかりやすいのではないかと思います。
工事発注書の件名が「補修工事」や「改修工事」であったとしても、
- 工事することによって価値が増加している
- 工事することによって使用できる期間が延長している
という内容であれば修繕費ではなく固定資産の資本的支出と判断されます。
具体的には次のような場合が資本的支出となります。
- 建物に非常階段を取り付けた
- 建物の用途を変更するために模様替えした
- 機械の部品を特に高性能なものに取り換えた場合に生じる通常の部品との差額
資本的支出の例外
資本的支出であっても、次のようなものは支出した年度の経費にすることができます。
- 1回の金額が20万円に満たない
- おおむね3年以内の周期で修繕が行われている
- 資本的支出か修繕費か不明な修理がある場合、その修理などに支払った金額が60万円未満またはその資産の前期末の取得価額の10%以下
- 法人について、資本的支出か修繕費か不明な修理がある場合は、下記のいずれか少ないほうを修繕費とすれば、その金額は支出年度の経費になる(残額は資本的支出とする)※ただし、毎年継続して同じ処理が必要
- その修理などに支払った金額の30%の額
- 資産の前期末の取得価額の10%の額
修繕費として特に認められるもの
維持管理や修理以外の支出であっても、次のような場合は修繕費とすることができます。
- 建物を移動または解体移築した場合の費用(解体移築は旧資材の70%以上をそのまま利用して同一の規模・同一構造の建物を再建築する場合に限る)
- 機械装置を移設するための費用
- 地盤沈下した土地を原状状態に回復することを目的とする地盛りの費用(取得後すぐの地盛りや土地利用の目的を変更した場合、土地の評価損を計上した場合などは除く)
- 地盤沈下により、建物、機械装置などが浸水したことによる床上げ、地上げまたは移設するための費用(明らかに改良工事である場合を除く)
- 使用している土地の水はけをよくするために行う砂利、砕石などの敷設の費用、および砂利道または砂利路面に砂利、砕石などを補充するための費用
修繕費が資本的支出と判定される条件は?
資本的支出か修繕費か明らかでないものがある場合、次の着眼点によっておおよその判定ができます。
- 20万円未満かどうか
- おおむね3年以内の周期で支出しているかどうか
- 資産の価値を高めるものまたは耐久性を増すものかどうか
- 通常の維持管理のためのものか
- その支出が「60万円未満」か「前期末の取得価額の10%以下」か
- (法人の場合)継続して資本的支出と修繕費を7:3の比で計上しているか
- 実質的に判断して資本的支出にあたるかどうか
資本的支出と支出修繕費の区別は、修繕などの表向きの名称ではなく実質で判定します。修繕費と資本的支出が混在しているなど、高度な判断が必要になる場合は、税理士の助言を得たほうがよいでしょう。
修繕費と資本的支出の判定の具体的な事例集
それでは実際にどのような場合が修繕費となり、どのような場合が資本的支出になるのかを見ていきましょう。
case1:ソフトウェアを法改正アップデートした場合
法改正に対応した内容にしなければ、ソフトウェアとしての機能を果たすことにはならないため、ソフトウェアやプログラムを法改正に応じた機能にアップデートするための費用は、資本的支出ではなく修繕費として判断します。
法改正に対応する以外の拡張機能を追加した場合は修繕費とはならず資本的支出となる点で注意が必要です。
case2:災害の場合
災害によって修理が必要になった場合、原状回復をするために支出した費用は修繕費となるのはもちろんですが、二次災害を回避するなどの目的で耐震性を高めるために行った補強工事は、被災前の効用を維持するために行われるものであると判断されるため、資本的支出には該当せず、修繕費として処理することが認められています。
しかし、被災前の効用を維持しない補強工事等は、資産価値を高めることになり、資本的支出に該当します。
case3:蛍光灯をLEDランプに取り換えた場合
国税庁のホームページによると「従来使用していたものよりも高性能のものに取り換えて資産価値が高まったり耐久性を増したりした場合は、修繕費ではなく資本的支出に該当する」としています。
しかし、LEDランプに替えただけでは建物という固定資産そのものの資産価値が高まったとは言い切れないことから、蛍光灯をLEDランプに替えた場合は資本的支出ではなく修繕費となります。
case4:そもそも少額減価償却資産に該当する場合は消耗品
減価償却資産の中でも10万円未満の資産や使用可能期間が1年未満の資産は「少額減価償却資産」に該当するため、修繕内容が資本的支出に該当したとしても消耗品として経理処理できます。
たとえば、マンションのカーテンを取り替える費用について考えてみましょう。1室あたりの取り替え費用が4万円、マンション1棟の部屋数は200室です。
カーテンを遮光性が高いものに取り替えると、従来よりも価値が増加すると考えられますが、少額減価償却資産に該当する(10万円未満)ため、消耗品費として処理できます。
少額減価償却資産になるかどうかは、1室あたりの取得価額で判断します。1室だけカーテンを取り替える場合でも、全200室のカーテンをすべて取り替える場合でも、全室の取り替え費800万円は消耗品費にできます。
修繕費と資本的支出の判定は慎重に
資産の修繕費は、必ずしもすべてが税金計算上の費用として計上できるわけではありません。
資産価値の向上や、使用年数の延長を目的とした支出は資産の追加とみなされ、一部しか費用に計上できません。修繕費か資本的支出かの判定は難しいケースもあるので、税理士の助言を得ることをおすすめします。
よくある質問
修繕費とは?
会社が経営に必要とする有形固定資産などを修理・改修するために支払った費用のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
修繕費と消耗品費の違いは?
以前に購入したものを修理した場合は修繕費、新しく購入した場合は消耗品費です。詳しくはこちらをご覧ください。
資本的支出とは?
修繕費のうち、資産の使用期間を伸ばしたり、価値を増やしたりするための支出のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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